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00/ 9/25 覚悟完了

今週の王様の耳はロバの耳:
 「日吉が斬ったのは左足なのに、次のコマで斬れてるのは右足!」
 「日吉が斬ったのは左足なのに、次のコマで斬れてるのは右足!」
 「日吉が斬ったのは左足なのに、次のコマで斬れてるのは右足!」
(地面に掘った穴に向かって大声で)

 というように、制作者側のうっかりミスであることが明白であるシーンをわざわざあげつらうのは良くないですよね!(手遅れ)


 それはともかく、サンデー43号の「MISTER ジパング」は、ついに日吉が「自分が信長に仕えて戦う理由」を明白にしたという点で、かなり大きな意味を持ったエピソードとなりました。
 日吉の心理に関しては、今まで「侍になりたいという野望が降って湧いたようにしか描写されていない」とか「何故、日吉は信長の側に居続けるのかの理由が判らない」とか色々言われ、読者にとってのフラストレーションの種の一つになっていたのは間違いないところだったのですけど、その懸念がついに今回のエピソードで払拭された、と思って良いでしょう。

 特に、上記の「日吉が自らの意思で戦って勝つ」という見開きのコマは、彼が自分の意志を明示化し、かつそれに対する覚悟完了っぷりを演出する、とても格好良いシーンであったと思います。そりゃもう、『覚悟のススメ』ばりに、コマの四隅に極太ゴシックフォントで

戦 士

降 臨

とか

秀 吉

覚 醒

とか

ラ ブ

ひ な

 とか書かれていてもおかしくないカッコ良さ! でしたよね!
 次のコマで斬った足が間違っているところを除けば!(しつこい)


 まぁ、今回の日吉の格好良さの演出に至るまでには、「信長行状改方」編で強制的に信長の付き人にされ、「戦争の猿たち」編では『信長の側にいれば安全だろう』とボケているうちに乱戦に巻き込まれて、ヒナタの意思の介入を受けて命を助けられたはいいけど日吉の闇の人格・ブラック日吉が覚醒する寸前まで追い込まれ、その挙げ句に「継ぐのは誰だ」編(その2)では『ボクは殿の側にいちゃいけないダメな人間なんだ! 助けてよ五右衛門! ボクを叱ってよ!』と緒方恵美ヴォイスが似合いそうな弱気な事言ったり(言ってません)と、かなり長い間に渡ってダメな様子が延々と描かれていました。つまり、読み手側の日吉に対するフラストレーションをあえて溜める方向で話が進んでいた訳です。
 マンガの方がこんな展開をする間、読者の中には、「眠る忍者」編で提示された「日吉が侍になる理由」が明白にならないままここまで話が進んでしまった事に対する疑問があったと思われます(少なくとも、私にはありました)。

 そこに来て今回の「信長に仕える理由」を見付けて覚悟完了した日吉が出てきたのですから、我々読み手が「ああ、やっと日吉が! オレの見たかった日吉がキたよ!」と素直に喜ぶのは当然と言えば当然ですな。巧い話の進め方するなぁと思った次第です。


 普通のマンガだと、話を盛り上げるために「最初に読者にストレスを与える展開をする」→「最後にそのストレスを発散する展開をしてカタルシスを得る」というパターンがよく使われます。
 例えば、「DAN DOH!! Xi」では、読者にストレスを与えるためのストレッサー(ストレス発生因子)として、ダンドーを性の奴隷として闇ルートに流そうとするエロオヤジや、警察権力を一手に握るカマっぽいエロオヤジといった如何にも一目で悪人と判るキャラを登場させ、その上で「あの手この手でダンドーを苦しめる→ダンドーが涙目で耐えて頑張る→ダンドー勝利→読者がカタルシスを得る」、という極めて判りやすい構造の繰り返しでストーリーを進行させています。
 読者は「最後はやっぱりダンドーが勝つに違いない」という事を知りながらも、ついついダンドーを応援してしまうように話ができているのです。

 今回の日吉の描写も基本的にはこれと同様の構造になっていますが、「DAN DOH!! Xi」と違うのは、ストレッサーが「敵キャラ」ではなく「日吉自身」になっていたという点です。
 今回のエピソードの直接の「敵」は松下家乗っ取りを狙う家臣の一人なのですけど、今回の日吉の台詞である『男なら一度や二度は勝負もするさ。他のことは全部踏み付けにしてもね。あいつは今がその時だって決めたんだ。』が示す通り、「DAN DOH!! Xi」のエロオヤジ達のような判りやすい敵としては位置付けられていません。
 更に上に遡れば、今回のお家騒動の間接的な原因は今川義元の(加江を側室に迎えたい、という)エロ言動に行き着きますけど、これも血縁関係による同盟を重視する戦国時代特有のロジックに従えば、(倫理的には問題があるにしろ)それほど理不尽なものではないと考えられます。

 つまり今回の事件は(「DAN DOH!! Xi」のように)善悪がハッキリしたものでは決してなく、加江を誘拐した家臣の側にも、そして加江の意思を尊重して彼女を救い出そうとした日吉の側にも、それなりの大義名分があったと言えます。だからこそ、自分の大義を押し通す為には、よりしっかりとした覚悟というか、自分自身の行動が正しいという明確な意思の表明が必要だったのだ、という事なのでしょう。
 今回のエピソードは、読者のストレッサーとなっていた日吉が自分自身でそれを払拭させ、我々読者に「日吉はスゲエ奴だ」と認識させるのが目的だったのではないか、と思っています。


 ただ、今回の日吉が覚悟完了モードに入る描写があまりに突然で、かつ今までの日吉の行動(「眠る忍者」編で見せた、極力直接交戦を避ける姿勢)と今回の行動とのギャップが激しかったのも確かであり、「いくら何でも唐突じゃないか」と困惑する人が出て来ているのも致し方ないと思います。これを払拭するには、今回提示された日吉の「信長と共に戦う理由」を、今後の展開の中で実証し、彼の意志に一貫性があることを証明して行かなければならないでしょう。
 個人的に、今までの日吉の行動については、彼の行動に一貫性がなかったこともあって今ひとつ腑に落ちないモノがあった(これを、私は「感情移入できないRPGの主人公キャラの行動を見ているような気分」と名付けています)ので、今後の日吉には、ぜひ「俺以上の、誰かのために!」っつう意志に従った行動をして頂きたいです。

 つうか、せっかく彼が「殿に仕えるために侍になるんだ!」と決意し、殿シャドウをまとって突撃すると攻撃力がアップすることが明白になったんですから、次に日吉と信長に再開した暁には、ぜひコマの四隅に極太ゴシックフォントで

ラ ブ

ひ な

 と書かれていても恥ずかしくない程のラブっぷりを発揮して頂きたい! このマンガの真のヒロインは信長である、という事実を忘れるな!
 暦の上ではすっかり秋めいてきた今日この頃ですが、でも日吉と殿のふたりの夏は始まったばかり! なのです!(ホントか)

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