gs-mikami gaiden:faut pas rever

著者:西表炬燵山猫


gouten morgen

  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(はあ〜〜〜〜〜)」
 その日の朝、遅くに起きた女は深く疲れたため息をついた。


 白いシーツの海から、上半身だけを覗かせていて、一応シーツの端々で押さえているが,豊かな胸には片手で押さえているシーツ以外に何もまとっていないのがありありと分かる。
 彼女は裸でベッドに寝ていた。
しかしそれは大した問題では無い。
いつも彼女は自室での就寝時にはしているから・・・・・それ自体は全然問題では無い。


 問題なのは・・・・・・・・・・・・・・そこが自分の部屋では無い上・・・・・・隣に寝ている・・・・・・・・・・・・・・ちょっと見知った男まで同じく裸で有った事だ。ベッド下の床を見ると、昨日着ていたらしいスーツが引き裂かれて散乱している。下着までも。同じく男の服もそこかしこに見える。
 そして自分も男も裸・・・・・・・・・・・・・・・・。
  (まいったわね〜)
 初心(うぶ)なネンネじゃあるまいし、それがどんな意味か今更尋ねる馬鹿もいないだろう。

  (え〜っと・・・・・・・でも、どうしたんだっけ・・・)

 頭を抱えたかった。
 覚えていないのだ。
 何故にこんな事態?に陥ったのかを・・・・・・・・・・・・・。


(う〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん)
 もう一度、ため息をつこうとしたが、それは解決にならない。相変わらず前向きな彼女らしく、ため息をつくのは考えなおして腹式呼吸にし、気を入れ直した。
  (えっと・・・・・・昨日は確かに勅命で・・・・・・・・・・・・・)
 まだ体に強烈に残るアルコールを懸命に追い出して、昨夜からの事を思い出し始めた。

in robby

  {こちらはミスターブルー。守備配置完了しました。あとはターゲットが網に入るのを待つだけです}}
 キビキビとした口調の通信が届いた。ミスターブルーとは彼女の弟の今回のコードネームであった。大分士官らしくなってきたと思い、やはり身内であるので逞しくなっていく姿に嬉しくなった。
  {姉上の方の首尾は如何ですか?。いや〜、ここまで長かったけど。これでやっと家に帰れますね。母上も帰ったら美味しいモノを用意しておくって言ってくれてたから楽しみだな〜}
  (・・・・・・・・・・・・・・)
 誉めて損したと思うワルキューレであった。

  (まったく。いつまで経っても子供なんだから)
 任務の時は呼称で呼べと言っているのに、いつまでたってもっているのに改められない。彼女によれば甘えん坊のショウガナイ弟の顔を思い浮かべる。叱責しようと思ったが、今入る場所を思い返して自制する。そして周りをチラと見ながら聞き取れないとは分かっているが携帯を耳に押し当てた。
 携帯とは言っているが、実は人間界の携帯電話に見せてはいるが、その実は魔賊軍の異空間超通信鬼であった。


  「もう、ソッチで何やってるのよ?ちゃんと仕事は終わって待ち人を待ってるのよ」
 まるで、待ち合わせの恋人が遅れてくるのに文句を言うような口調である。内心気恥ずかしくて、逃げ出したいくらいであるが、ここでいつもの軍人口調をする訳にはいかないので、あくまで恋人待ちの人間の女性を演じる。
  {はい。姉上!こちらの立ち周り先は先ほど部下と出口を固めました}
 その言葉にも、あくまで遅れている恋人を待つ女性の演技を続けながらスイッチを切る。まるで甘えるような口調のままに。だから自分が情けなかった。例え任務でもこんな自分にである。
 待ち人来らずに、気落ちした女を演じつつ周りと見る。今日は週末であるのでカップルだらけ。相手の居ない野郎が彼女に声を掛けてくるので、相手待ちを演じなければいけないのであった。そうでもしなければチョンガーな野郎が見逃す筈も無い程に彼女は美人であった。  (くう・・・・・なんで私がこんな馬鹿な人間の女を演じなければいかないのだ)
 普段は任務に文句などもっての他である彼女も、ここに配置させた上官を恨んだ。

bey-side hotel

 そこは東京の湾岸地域にある洒落たホテルのロビーで、彼女はそこの見かけは立派そうだが、その実上っ張りだけのソファーに腰掛けていた。
 別段私的に誰かと待ち合わせているとかの事情で無いのは先ほどの通信でもわかるであろうが、彼女にとって今居心地の悪い以外の場所に陣取るのは魔族軍の秘密任務であった。

 上官から秘密理に託された任務は、魔界で手配中の麻薬のバイヤーの逮捕。随分と用心深い相手であるので、長い内偵捜査でやっとこのホテルで客と待ち合わせの情報が入った。
 ここで取り取り逃がすと、再び潜伏されると今度はいつチャンスがあると分からないので、彼女も慎重にならざるを得なかった。そうなると未だに居心地が好いとは言えない人間界に常駐しなくてはならないので、逃がす訳にはいかないので気負いを入れなおす。これまで追っての前任者を数多く血祭りにしている程の腕の持ち主の上に、あまり人の事も言えないが人間にみならず同族ですら屁とも思わず盾に出来る奴であるので、平静を装ってはいるが緊張は押し隠せないのであった。

 弟とその部下は、もう一つの立ちまわり先であろうアジト付近に待機させていた。逃げ足の速い星(犯人)を捕獲するには最適な捕獲結界を用意しながらである。
 普通なら問答無用に力で実力行使をする彼女だが、手配中の奴は魔族軍を相手に逃げ回っているだけにそれなりに力もあり、ここで立ちまわりをやらかしては人間にどれだけ死人が出るか分からない。
 本来は彼女もアジトの方で待っているが、少しでも不審に思うとアッサリと踵を返す用心深いので、彼女はシーカー(尾行人)の任に当たっていた。
 人だかりの中でも待ち合わせは売人同士の定石で、もし尾行があれば人ごみにまみれて逃げようとしているのだ。  彼女は尾行のプロであるので、どんな人ごみであろうと見失わない自身もあった。それに万が一の為に発信機を取りつける事も視野に入れていた。 

under-ground

   (来た!!)
 退屈そうに、携帯でインターネットをやっている素振りを続けているところにターゲットが現れる。手配書から顔を変えこそいるが、変装の訓練を受けている彼女はアッサリと見破った。見破ったのは変装を見破ったからだけでは無い。彼女は別の物を感じたのだ。
  (つ 強い)
 今まで追手を血祭りに上げてきたのが痛いほど感じた。恐らく彼女の今まで相手にしてきた敵の中でも相当に手強いと思われた。
 確かに外見は如何にも気の弱そうな人間を装っているが、狡猾そうな瞳に物腰は隠しようが無い。一言で人間界風に言えば蛇のような男。生まれつき頭も容姿も優れていたが、使う方向を間違えたためにそれに則して顔が変わったタイプである。彼女の嫌いなタイプであるので、顔には出さないが唾を吐きたい気持ちになった。唾を吐きたいのはもう一つ事情があった。男は同じ魔族のバシタ(愛人)を連れていたが、その女がパターンで下品を絵に書いたような女であったのだ。近頃流行りの?ゴージャス馬鹿姉妹の長女のような・・・・・・・・・・・・・。
 そんな女がいかにもゾッコンとばかりに連れ添っている。周りも喧騒に引いているが、エアヘッドらしく気にした様子は無い。それでも、自分だけは幸せそうにしていた。


 呆れつつも、例えどんなモノであっても色恋には違いないと思ったのでボンヤリと考えてみる。
  (私なら・・・・)
 普段なら考えたりしない話題であるが、愛だの恋だのに盲従する馬鹿な女を演じていたこともあって思考が進む。恋人を待っている女一応演じているので、自分は一体誰を待っているのかと考えてみる。
  (・・・・・・・・・・・・)
 しばし考えて・・・・・・・・・・・彼女は行き成り両手をワタワタと振り回した。頭の中の待ち人の想像を打ち消すようにだ。   (な  なんでアイツが)
 まず顔を赤く、直ぐに蒼に変えた。
  (わ わたしは)
 心で悲鳴を上げる。
  (私はあんな物好きと一緒じゃな〜い)

has show

 騒ぎの喧騒を多少悟られて、声を掛けようかどうしようかと鼓舞していた野郎達の腰が引けている所に、同じような女を連れた相手のバイヤーが現れた。
 歓談?が二言三言あって出かけそうな素振りに、彼女は先回りしてエントランスに向おうとする。しかし、四人は外では無くエレベーターに乗りこんだ。
  「つう」
 思わず苦虫の混じった息を吐く。直ぐにアジトに向うと思っていたのだが、どうやら女連れであったのでクラブにでも行くつもりだと思われる。流石に同じエレベーターを使うわけにも行かないが、別のエレベーターではどこの階で降りたのか分からない。スーツ姿の女が息せきり階段を駆け上がるという人に見せられない姿でエレベーターを追った。

  ぜ〜ぜ〜ぜ〜
 30階の、目星の通りのクラブに追いついた時には流石に冷静沈着の彼女らしく肩で息をする。普段ならば30階程度の階段マラソンならば世界最速のエレベーターには負けないが、途中で人に出会う度に、スーツ姿の女が階段を息を切らせて駆け上がるなどという痴態を見られたく無いので、目線を気にしてゆっくり歩いた分のツケでキツカッタのだ。やはり人間相手であっても世間体を気にするのであった。


  (まいったな)
 クラブの前で途方に暮れる。どうみても女一人で入る種類の店では無かった。一人で入れば注目を浴びる事この上無いので、この先の尾行が出来なくなるであろう。
テッキリとすぐに弟達の待つアジトに向うと思っていたので、こちらに配置していたのが自分一人でいたのが悔やまれる。
  (さて、どうするかな)
 弟達は今捕縛結界の用意で忙しい筈。ならば、どうするのかと悩む。仕方無しにロビーでナンパ目当ての野郎を急場の恋人に調達する事にした。魔族のプライドが許さないが、任務が第一であるので苦渋の決断をして階下へのボタンを押す。流石にもう階段は辛いらしい。

meet again

  チーン
 上がって来たエレベーターが開いた。この階で降りたカップルが通り過ぎたが、このエレベーターはまだ上に行くようなので視線を外していると、
  「あれっ」
  「ん?」
 素っ頓狂な声がしたので振り返と、そこには人間界では数少ない顔見知りが間抜けな顔で乗っていた。
  「ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・何やってるんだ、お前」
 それはお互いだと言う空気が流れた。
  「そ そんな格好で・・・・・・・・こんな所で・・・」
 予期しなかった再会にとり繕う言葉は素っ頓狂で間抜けであった。
  「ワルキュ・・・・・・・・・いや、その格好だと春桐さんか・・・・・・・・・・・・」
 皮肉っぽい笑顔を浮かべる。
  「・・・・・・・・どうしました?ま〜た〜、罪の無い少年の夢を壊そうとしてるの?春桐さん」
 似合わない口調で軽口を口にした。
  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいよ。ワルキューレで」
 ちょっとぶっくれる。再び人間の姿で居られる所を見られて恥ずかしいのもあるが。
  「そうなの。どう見ても、いつぞや、純な少年の夢を砕いた春桐さんにしかみえないけどな〜〜〜」
 そういって再び皮肉っぽく笑う。どうやら例の事件の折、騙された恨みを、ちょいと皮肉を込めて言っているのが分かっているからだ。
  「自分でいうな。それにお前のどこが純な少年なんだ」
 久しぶりに会った悪友のように笑いあった。


  「それにしてもお前こそどうしたのだ?その格好は」
 己の衣装と姿に言及がいかないようにと、相手の方に話を振る。
  「ん?変かな。一応見たてて貰ったんだけど」
 普段は着たきり雀のようにデニムの上下であるのに、相変わらずにバンダナだけは外さないくせにカジュアルな格好に身を包んでいた。まるで・・・・・。
  「馬子にも衣装って所だな。どこかのお誕生日会にでも呼ばれたのか?」
 魔族っぽい笑みで皮肉を返してやる。


 似合わない衣装の事情は、本当にこのホテルで開かれているお誕生日会に呼ばれていたからだと言う。誰の?と聞くと知り合いの大金持ちのパーティを最上階でやっているらしい。彼女は面識無かったが、そのお嬢様もスイーパーであるらしい。なので、他の知り合いのスイーパー・・・・・・・・あの連中まで殆ど揃っていると言う。
  「・・・・・・・・・・・・・・」
 頭痛が・・・・・気の性で無く、確信にも似た予感がした。何やらトラブルの前兆のお約束に、この任務に暗雲が立ち込めるのを感じずにはいられなかった。

entrance

  「ああ。夕方から始まったって?もう良い時間(夜)じゃないか」 
 彼女も来ないとのお誘いに、面識無いからと断ろうとしたが、もう皆大分回っているから(酒が)大丈夫だと言う。どれぐらい回っているのかと、始まった時間を聞いて時計を見るが大分経っている。
  「お前は何をやっていたんだ。遅刻か?。そう言えば、私が事務所に潜りこんでいたときも遅れてきていたな。時間も守れない奴は女に愛想をつかされるぞ。もう少し生活態度をだな・・・・・・・・」
 遅刻に慌てて飛び込んできた時の事を思い出して叱責しようと思ったが、
  「あはははははは」
 分かり安く笑って誤魔化そうとするのが見え見えだ。まるで年上のおネエ様タイプの女教師のような態度で、小言を言おうとするワルキューレであった。しかし、どうやら遅刻では無いらしい。ちゃんと他の連中と一度は会場があるペントハウスのある屋上まで上がったらしい。が、故あって再び会場に上がる事になったらしい。

  「・・・・・・・・・・・・・・なんだ、その故ってのは」
 何やら言いにくそうな様子を感じ取った。任務の途中でもあっても、やはり女性であるので他人の不幸は蜜の味系の予感に好奇心は隠さず、興味を惹かれて問いただす。
  ピューピューピュー
 わざとらしく、空々しい口笛を吹いて誤魔化そうとする。夜に口笛を吹くなと、殴られて キャウンキャウンと何処かの誰かのように鳴いて、笑いを取ろうとする。
しかし、それで有耶無耶になる相手では無かった。
  「言っておくが・・・・・・・・・・・・」
 バッグの中から拳銃を覗かせて、ヤサシク 優しく やさし〜〜〜〜〜く尋ねる。無論使う訳は無いが、案外本気にしているようなので内心笑う。


 ちゃんと遅刻も無く会場には来たらしい。そこまでは良かった。が、ドレスアップしているので・・・・・多分一言ぐらいはお世辞の欲しかったであろう、事務所の女達をほっておいて会場の美人コンパニオンを口説いているのが見つかって・・・・・・・・・・・・・・・・70階から突き落とされたらしい。
  「なんで生きてるんだ。お前は」
 頭を抱えつつ、思わず「こいつ空飛べてのか」と聞こうとしたが、当の本人はそんな自分の超人的な生命力の探求には興味が無いらしい。再び死地?へと向うと告げる。
  「心臓に杭打たれるぞ、その内に・・・・・・・・・・」
 馬事東風だとは分かっているが止めてみたが、その気は更々無いようだ。なんでも、その美人コンパニオンと上手いことデートの約束まで取り付けて、後は連絡先を聞くだけであったと悔しがる。


 じゃあと片手を上げて、閉まるドアに乗り込もうとしているので、自分がここにいることは内緒だと事情を簡単に説明した。今追っているのは何人もの追ってを返り討ちにしてきたような凶悪犯であると脅しもかけておくのも忘れずに念を押した。
 頭に浮かぶ因業女が金にならない事に首を突っ込むとは思えないが、取りあえず用心するのは過去の経験からありありと分かっていた。あの女なら何か理由をつけて金儲けを画策して、事態をややこしくするかもしれない・・・・・・・。


 送り出した後「しまった。折角だからアイツにでも頼めば好かったのに」と、クラブに潜入に急場のパートナーを探しているのを思い出し悔やむ。
 アイツもいつもの格好なら問題あるが、今の格好ならば中に潜入するには打って付けであったのに悔しがる。それにアイツなら殺しても死にそうにないから、いざとなれば自分の盾にも出来ると思いながら・・・・。
  「まあいいか。アイツに何かあったら、あの女に七代祟られそうだからな」
 仕方無しに、最初の予定通りにロビーまで降りようと、下に向うエレベーターに乗りこもうとしたら・・・・・・・又同じ顔があった。
  「どうしたんだ?美人コンパニオンの所に行くんじゃ無かったのか」
  「くううう」
 血の涙を流していた。

 戻って、聞きそびれたコンパニオンの連絡先を聞こうと再び会場に入ろうとしたが、出入り口を警備に阻まれたらしい。どうやら女達の逆鱗に触れた事で出入り禁止になったとのことだ。
  「だから付き合うぜ?さっきのエスコート役を」
 先ほど頼んでおけばと悔やんだ仕事の協力を頼むと快諾してくれた。バイト代は奮発すると言ったが、交換条件はコンパニオンの代わりのデート。
 事件が終わったら、殴る相手に苦笑いをかみ殺し微笑んだ。 


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