AM01:30 都内 

「くそったれ!!」 
ばぢ・・・っ!! 亜須磨が殴りつけた拳は、見えない結界に弾かれ放電する。 
「なんて無茶苦茶な結界張りやがったんだあの女は・・・!!」 
人気の少なくなった通りに、ショーウインドウのテレビの音声が響く。 
『・・・公共機関のパンクに伴い、各高速道路も渋滞の末、降りて走り出す人さえ現れました。 あ、臨時ニュースです!! 先ほど報告しました自衛隊と在日米軍による地対空ミサイルによる迎撃作戦は・・・・・作戦は、失敗したとありますっ!』 
「・・・・・」 
狐を抱えたままテレビを見ていた亜須磨の頭上を、轟音と共にヘリコプターが通り過ぎていった。 けたたましく鳴るパトカーのサイレンなどに、亜須磨はぐったりしている狐の顔を覗き込んだ。 
「人間の毒・・・・・俺達の毒か・・・・」 
と、かっと見開かれる狐の目と共に、狐の口から霊波が溢れた。 
「何・・・!?」
どしゃあああ・・・・・っ!! 


きつねレポート

 火鳥風月 −5番− 


美神除霊事務所 

「な、なんじゃこりゃ・・・・!?」 
崩れかかっている事務所にたどり着いた横島とシロは慌てて中に入り込んだ。 
「美神さ―――んっ!!」 
「タマモ〜〜〜っ! ひのめ殿もいないでござるか〜〜〜〜っ!?」 
事務室に入った2人は、砕けた壁や窓ガラスの散乱する部屋の立ち尽くした。 
「こ、これは・・・・」 
「狼臭い・・・先生っ、何者かが侵入したみたいでござるっ!」 
「おい人口幽霊1号、いったい何があった!? 美神さんはどうしたんだよ!?」 
横島は天井を見上げる。 
「こら、返事しろっ!」 
がたんっと崩れかかった壁の破片が転がる。 
「おい〜〜〜〜〜〜っ!!」 
「先生変でござる、人口幽霊1号の気配が全く消えているでござるよっ!」 
「なに〜〜っ!? いったいど―すんだよ!?」 
「拙者が聞きたいでござるっ!!」 

ずがんっ!! どごごごごごごご・・・・・・!! 崩れ落ちるサンシャインビルは、巨大な粉塵を上げて沈んでいく。 
『ちっ・・・・とんでもねえ女だな・・・・』 
もうもうと立ち込める砂ぼこりの中、フェイ・ウーはぶわっと霊波を放って埃をかき消した。 と、なくなる煙の中からひのめに呼吸器をあてがう美神の姿を見つける。 
「ごほっごほっ!」 
「ひのめ、しっかりしなさいっ・・・!!」 
涙を流してむせ返すひのめのお腹は赤くにじんでいた。 美神の手に赤い液体が流れてくる。 
(傷が深い・・・・助けれない・・・っ!?)
美神は手に霊波を集中させてひのめに当てる。 
『まずいな時間がねえ・・・・おい美神っ!!』 
「!?」 
怒鳴る狼を美神はきっと睨みつける。 
『時間がねえ! 火の鳥が来ちまったら俺もお前も死ぬ、結界を解いてそのガキを寄越せっ!!』 
「冗談、妖怪ごときの言うことなんか聞けますかって――の! 私を殺したって精霊石100個分の結界、易々と壊せると思わないことね!!」 
『くそったれっ!!』 
がおっと吐き出された霊波が迫り、美神はひのめを庇うように背中をむけた。 どんっ!! 
「がは・・・っ!」 
千切れる赤い髪に、美神は片膝をつく。 
「あ――っ! 姉・・・う―あ―――っ!」 
呼吸器を白く曇らせ手を伸ばすひのめに美神は笑って見せた。 
「大丈夫、ひのめ・・・・・お姉ちゃんが必ず助けてあげるから・・・・・ねっ!!」 
勢いよく立ち上がると同時に美神はフェイ・ウーに精霊石を投げつけた。 
『ちっ!』 
どかああっ!! 閃光が視界を覆い、狼は後に飛び退く。 美神は立ち上がり、ひのめを抱えたまま走り出した。
『逃がすかっ!!』 
狼の吐き出す霊波が閃光になって伸び、美神の足元をえぐる。 ずががん!! 前転して起き上がる美神は振り返りもせず走り続けた。 
『逃げるだと・・・・!? あの美神令子が・・・・・ちっ、余計な手間かけさせやがって!!』 
美神を追い、フェイ・ウーも走り出した。 

日本海上 

「怪我人の回収は他のヘリを使ってっ!! この機は今から東京へ向かわせますっ!!」 
西条を押し込み、続いてヘリに乗り込んだ美智恵はおキヌの手を引っ張りあげる。 
「上昇して、急いで!!」 
じょじょにヘリの高度があがる。 おキヌはリンの遺体が小さくなっていくのを見つめながら、ぐっと目を閉じヘリのドアを閉めた。 
「西条君無線は!? 事務所のほうは!?」 
「駄目です、国防省も混乱してて・・・・事務所も相変らずです。」 
何度も無線に呼びかける西条だが眉間のしわはなくならない。 
「で、でも関東地方に避難勧告はでたんですよね?」 
後席から身を乗り出すおキヌに美智恵は唇を噛み締める。 
「間に合うはずもないわ・・・・・パニックに乗じていくらでも犯罪はできるし、万単位で死人が出てもおかしくない・・・・!!」 
「そんな・・・・」 
「よしんば火の鳥を除霊できても、その後の後始末なんて考えたくもないわ・・・・」 
「美神さん達、大丈夫ですよね・・・・?」 
おキヌの言葉に、美智恵の眉がぴくっと動く。 
「・・・・政府は、ひのめをどこか孤島にでも移動させるつもりだったの・・・・・火の鳥が日本に来ないようにね。 それが駄目ならいっそ殺してしまえとも言われたわ・・・・」 
「そんなっ・・・・それじゃあ、美神さんの時と変わらないじゃないですか・・・・!!」 
「なんとかするとかけあったけど、ひのめを狙ってきたのはそいつらだけじゃなかった・・・・」 
「・・・・どういうことです?」 
と、インカムを外した西条が横から口を挟んだ。 
「アンチ・ゴーストスイーパーというのを知ってるかい?」 
「アンチ・・・・スイーパー・・・・?」 
「実体はよく分からないが、妖怪達が徒党を組み、GSに対する防衛を生業とする一団が存在するんだ。 かなり世界的な組織で、Gメンでも極秘扱いなんだが・・・・」 
「その人達が、ひのめちゃんを・・・・?」 
「正確には、そいつらはタマモちゃんを保護したがってるのよ。」 
美智恵は腕組みをして海の先を見つめる。 
「九尾の狐はいずれ土地に根ざせるほど大きな存在になる・・・・・そういう存在が人間によって減ってきている今、彼らにとってタマモちゃんには死んでもらっちゃ困るのよ。 だからタマモちゃんを保護し、ひのめを代わりに生贄にしようと狙ってきてた・・・・・おかげでこっちも動くに動けず、ひのめを令子に預けるので精一杯だったわ。」 
おキヌはうつむいた。 ネクロマンサーの笛を握る手に力が入る。 
「・・・・火の鳥は、火の力を求めてるんです。 自分の子供が人間の・・・・・私達の毒で死にそうになってて・・・・助けようとしてるんです。」 
「!? 火の鳥と交信できたの・・・・!?」 
美智恵は後席を振り返った。 西条も目を丸くしておキヌを見る。 
「いえ・・・・あちらの思いが、一方的私に流れてきただけで・・・・・」 
「子供・・・・土地神の後継者が死にかけているのか・・・・先生。」 
西条の言葉に美智恵は頷く。 
「恐らく人の開発の手が広がった事・・・・・科学物質が地下に流れ込んだことなどが関連しているんでしょう。 地脈のチャクラの流れを崩し、大地から神様に毒を流し込んだ・・・」 
「私・・・・私、なんとかあの神様と話しがしたいんです!! 隊長さん!!」 
涙を浮かべた目で真っ直ぐ見つめてくるおキヌに、美智恵は目を閉じる。 
(この子が・・・・この子なら、全ての命を結び付けられるかもしれない・・・) 
美智恵はすっと目を開いた。 
「分かったわ、おキヌちゃん。」 
「は、はい!!」 
「どのみち私達にはもう手段がありません。 東京は、あなたが今まで見てきた中で最もつらいものばかりになっているかもしれないけど・・・・」 
「・・・・大丈夫です。 私は・・・・これが私の、ネクロマンサーの仕事ですから。」 
美智恵の顔を真っ直ぐに見返し、おキヌは笑った。 

ぴこっ ぴこっ ぴこっ 
「あらこっち?」 
くるくる回る見鬼君を手に、人通りのなくなった広い道を百合子は歩いていた。 
「しっかしさっきの轟音と砂煙にはまいったわね〜・・・・電話ボックスなんて簡単に吹っ飛んじゃうし、まだ煙も治まってなさそうだしね・・・・」 
立ち止まり、百合子の見上げる先にはまだもうもうと灰色の煙が立ち昇っている。 
「でもって狐ちゃんのいるのはこっち、か・・・」 
手にする見鬼君を見下ろせば、煙に対して東側を指差している。 ため息混じりに百合子は再び歩き出した。 ごごんっ!! 轟音と揺れに百合子は引っくり返って尻餅をつく。 
「なっ・・・・・何よ・・・!?」 
腰を擦りつつ顔を挙げた百合子の目の前を、金色の丸い物体が通り過ぎた。 百合子の目がそれを追うと、どがっとコンクリートの壁にめり込んだそれは破片を吹き飛ばして飛び出てきた。 
「狐・・・・・タマモさんっ!?」 
と、数本の光が空から落ちてくる。 狐はそれをかわしながらも目に百合子の姿を捉えた。 
(ちっ・・・!!) 
たて続けに振ってくる光に、狐はじぐざぐに走りながら百合子から遠ざかった。 
「ま、待って・・・!!」 
9つの長い尾を真っ直ぐに伸ばして狐は走った。 ちらっと空を振り返れば、宙に浮いている亜須磨が手からいくつもの光を放つのが見える。 
「―――っ!!」 
ざわざわっと毛並みが逆立ち、タマモは再び落ちてくる光を避けようと飛び跳ねる。 
「!?」 
狐の尾が長くなるのを亜須磨の目は見ていた。 
「力が戻ってきたのか・・・・? それとも・・・」 
亜須磨の手にあった霊波が消えた一瞬に、狐は飛び上がって亜須磨の目の前まで迫っていた。 ぐばっと開かれた口から牙と炎が顔を出す。 
「しまっ・・」 
ぶしゅ・・・・っ!! 咽元を噛み付かれた亜須磨は、そのまま狐に咥えられたまま落下した。 だんとっと着地すると、狐はそのまま亜須磨を咥え、引きずりながら走り出した。 

「!?」 
『!?』 
ばちちぃ・・・・!! 霊波が反発しあい、美神とフェイ・ウーは互いに飛び退き空を見上げた。 
「来る・・・・」 
『ちっ、タイムアウトか・・・・・』 
悪態をつく狼は前足でアスファルトをえぐった。 と、空から亜須磨を咥えた狐が降ってきた。 
「タマモ!?」 
『てめえ、まだこんなところうろちょろしてやがったのか・・・・!!』 
タマモはぼしゅんっと人型になった。 後の髪の束が踝に届くまで長くなっている。 
「早くひのめを連れて逃げなさいっ!! 鳥はあたしが抑えるからっ・・・!!」 
タマモは亜須磨を狼に投げつけると美神に駆け寄った。 
「あんたはどうするの!?」 
「・・・・別にどうもしない。 いいから行きなさいっ!!」 
「勝手言ってんじゃないわよっ! あんたは私と運命共にしてんだから・・・・!!」 
「うるさいっ! とにかくどっかに行けっ!!」 
怒鳴りあう女2人を見ながら、狼は鼻先で亜須磨を突付く。 
『おい、さっさと立て。』 
「・・・・分かっている。」 
手を首に伸ばし、ヒーリングを当てながら亜須磨はのっそり立ち上がった。 
『時間切れだ・・・・九尾の狐保護は失敗だから、お前はさっさと逃げろ。』 
「お前はどうするんだ。」 
『お前には関係ない・・・・・こっからは俺のプライベートだ。』 
そう言いながら狼は金髪の長くなったタマモの背中を見つめる。 
(ったく・・・・またくだらねえ格好になりやがって・・・・) 
「惚れた弱みか・・・・?」 
『うるせえよっ!!』 
フェイ・ウーが前足を振るが、亜須磨はひょいとそれをかわした。 
『おいタマモ・・・!!』 
振り返るタマモと身構える美神に向かって狼はずかずか歩み寄る。 
「何?」 
『・・・・とにかくその不気味な人間の格好は止めろ。 見ていて吐き気がする。』 
「・・・・サンキュ。」 
タマモはフェイ・ウーに笑ってみせると、頭の髪の1束を根元から爪で切り裂いた。 
「ちょ、タマモ・・・・!?」 
「こいつで身を隠してなさい。 念っ!!」 
美神とひのめに髪を投げつけると、無数の金の髪が美神とひのめを包みだした。 
「止めなさいタマモっ! 私は・・・!!」 
「ごめん、美神さん・・・・」 
髪が球体を模って美神を包み込んだ。 千切れたタマモの髪がずざっと伸び、束は9つに戻る。 
「無闇に力を使うな・・・・っ! 本当に死ぬぞ!!」 
首の血を払って亜須磨はタマモに近づく。 タマモは狼と青髪に顔を向けた。 
「あんた達もあたしの前から消えて。」 
『断る。 今からでもお前を逃がす・・・・どんな手を使ってもな・・・・!!』 
「俺もこの狼と同意見でね・・・・これでも仕事熱心な医者だからな。」 
「・・・・・」 
ざわっとタマモの髪が浮かび上がる。 狼と青髪は身構えた。 
「止めろって言ってるだろう!!」 
『お前・・・・・まさか死ぬ気か・・・・!?』 
「・・・・・あんたらには関係ない・・・・」 
『ふざけんな!! 力付くでも・・』 
どしゅっ!! 
「「『!?』」」 
美神達を包んでいた金の繭から神通棍が突き出た。 四散する金色の膜の中、ひのめを抱えた美神が立ち上がる。 
「勝手に話進めてんじゃないわよ・・・・!!」 
『美神令子・・・・!!』 
「タマモ、あんたも・・・・!!」 
睨み合う4人だったが、空を見上げ、その場を飛び退いたのは同時だった。 空から真っ直ぐに伸びてきた赤い閃光がアスファルトをえぐり、地をえぐった。 地の底が風船のように丸くなり、弾ける。 どごがあああああんんっ!! 
「――――っ!!」 
着地と同時に後ろ周りに転がったタマモは片膝をついて空を見上げた。 髪が大きく揺らめく。 
『くぎゃああああああああああああっ!!』 
空にあった赤い点は一瞬で巨大な体で迫っていた。 羽ばたきもなく真っ直ぐに落ちてくるその炎の塊にタマモは笑っていた。 
「来たか・・・・」 
ずずんっ!! 火の鳥の首が地面に突き刺さった。 周りの建物は吹き飛び、窓ガラスや車は全て弾け飛ばされた。 翼を地に叩きつけ首を抜き去った鳥は、通りを走っていくタマモを見つけて翼を足でビルと道路を砕いて走り出した。 鳥の息づかいが全てに火をつける。 
『くわおおおおおっ!!』 
すぐにタマモに追いついた鳥は嘴を突き出し、その都度飛び退くタマモに何度も道路をえぐった。 タマモはビルのゲートから中に入り込むが、そのまま頭をそこに突っ込んだ鳥は巨体で50階建てのビルを足場から貫き崩す。 ずがががん・・・・!! 
「まずいそフェイっ! 美神のガキよりも狐のほうが餌として大きい・・・・・鳥の奴狐しか見えてねえぞ!!」 
『分かってるっ!』 
瓦礫の中から這い出した亜須磨の言葉に、フェイ・ウーは体を起こそうとしている美神を睨みつけ、一足飛びで美神に近づくとひのめをひったくった。 
「な、あんた・・・・っ!?」 
『こいつは借りるぜっ!!』 
「ふざけるなこの腐れ狼っ!!」 
神通棍を叩き付ける美神から飛び退き、フェイ・ウーは亜須磨の近くに着地する。 
『俺は行く・・・・後は任せるぞ。』 
「せいぜい死ぬなよ。 それからあまり狐を刺激し過ぎるな・・・・・間違って九尾の狐が白くなったら・・・・」 
『分かっている!!』 
反転して狼は走り出した。 
「ひのめ〜〜〜〜っ!!」 
血の流れる肩を押さえて立ち上がる美神の前に、亜須磨はすっと立ち塞がる。 
「諦めろ。」 
「私に指図するなっ!!」 
神通棍を杖に美神は叫ぶが、ぐらっと倒れ込んだ。 亜須磨が美神を抱きとめ、肩にヒーリングをあてがう。 
「肩の骨と肋骨が砕けてる・・・・・数分で死ねる怪我だぞ。」 
「な、何の真似よ・・・・!?」 
亜須磨に寄りかかったままの美神の手から神通棍が落ちる。 
「別に・・・・俺は医者・・・・それだけだ。」 
「冗談でしょ・・・・・? あんた、人間のくせにアンチ・スイーパーなんてやってんの・・・・・?」 
「人間が嫌いなだけだ。」  
言い終わらないうちに亜須磨は美神を突き飛ばした。 尻餅をつく美神は顔をしかめる。 
「お前の助けたのは気まぐれだ。 邪魔をするなら、今度は殺す。」 
見下ろしてくる亜須磨の視線を美神は見上げた。 
「タマモを生かすのも仕事ってわけ・・・・? はん、タマモがあんたらを嫌ってる理由がよくわかるわ・・・・」 
「お前らも同じだって知ってるのか? 俺はあの狐には初めて会ったが、あいつが人間を好いてるとも思えないな。」 
「は・・・・あはははっ、そりゃそうよ!!」 
亜須磨の言葉に美神は笑った。 
「あ、あんな気まぐれ狐・・・・・私より性質が悪いわよ・・・・・」 
美神は立ち上がり、フェイ・ウーが行ってしまったほうへ歩き出す。 
「お前は何故狐に構う?」 
ふらふら歩く美神に亜須磨は目を細くした。 
「はんっ・・・・私はあいつを気にいってるのよ・・・・・ついでに言えば人生に関わる間柄でね・・・・・男にはわかんないでしょうけど・・・・」 
「・・・・・」 
少しの間目を閉じていた亜須磨だが、やがて目を開くと美神の背中にすっと手を向ける。 
「話はわかった・・・・・が、こっちも仕事なんだ。」 
どんっと放たれた霊波に、美神は前のめりに吹き飛ばされた。 
「九尾の狐の友達か・・・・それが、あいつを上手く導いていたのかもな・・・・」 

がががががっ・・・・!! ビルの合間を交互に壁を蹴って屋上に飛び出たタマモ反転して鳥に向き直った。 
「―――っ!」 
一羽ばたきで建物や車が埃のように砕け空に舞い上がった。 弧を描きながら飛んでくる火の鳥に向かってタマモは銃を構える。 目を細め、狙いを火の鳥の目玉に定めた。 どんっ!! ・・・・じゅっ! 
「溶けるっ!?」 
銃弾が光になって消えるのを見た時には、既にタマモの目の前に火の鳥の巨大な顔が近づいていた。 ぐばっと開かれる口に、足場のビルが崩れた事でバランスを崩したタマモは身を小さくする。 と、横合いから飛び込んできた狼がタマモの腕を咥えて火の鳥の前を飛び退く。 
「フェイ!?」 
どがぐしゃあああああ・・・・・!! ビルを2つ頭から砕く鳥は翼を振り回してビルごと地にどがんっと転がり落ちる。 
『何やってやがるっ!』 
「うるさいっ、この汚い口を放しなさいよ馬鹿犬がっ!!」 
『やかましいっ!!!』 
狼はタマモの腕を咥えたままぴょいぴょい建物の天井を走る。 多くの建物が既に火の海に飲み込まれており、フェイ・ウーは燃えている建物を避けるように走った。 
『美神の結界も鳥がぶち壊しちまったが、それだけ力があるってことだ!! 手はあるのかよ!?』 
「そんなもん知るか! あんたはとっととどこへでも行きなさいよ!!」 
『っ!!』 
がっと走る足を止めた狼は、民家の屋根にタマモをどかっと叩き付けた。 
『ふざけんな!! 俺が仕事でお前を助けてるとでも思ってるのかよ・・・・っ!?』 
「・・・・・」 
のっそり体を起こすタマモは髪をかき上げる。 
『誰のガキを孕みやがった!? 人間か!? あのクロっていうちゃちな人狼野郎か!?』 
「アタシが知るかっ! 九尾の狐が子供なんて望むわけがない・・・っ!!」 
『じゃあ誰だっ!? その弱々しいチャクラは、腹ん中にいる死んでるガキに吸い取られたんだろうがっ!!』 
「うるさいうるさいうるさ――――――いっ!!」 
タマモはフェイ・ウーに銃を向けると引き金を引く。 どんどんっ!! 飛び退く狼に、弾のなくなった銃はがちがちシリンダーを回す。 タマモはどがっと銃を屋根に叩き付けた。 
「はあっ、はあっ、はあっ・・・・!!」 
息の荒くなっているタマモはどがっと屋根を蹴りつける。 
『・・・・・』 
「・・・ほっといてよ・・・・」 
『・・・・?』 
「アタシをほっといてよ・・・・・・構わないでよ・・・・・1人にさせてよぉ・・・・・!!」 
『・・・・・・・・・・』 
ぐっと腹を膨らませると、それを咽、口へと移動させた狼は口からどばっと何かを吐き出した。 
「!? ひのめ・・・・!?」 
タマモは唾液でべとべとになったひのめに飛びついて抱えた。 目を閉じているが、口は確かに呼吸をしている。 
『傷口は塞いである・・・・』 
「フェイ・・・・」 
狼の顔を見上げるタマモの目には涙にじんでいた。 狼はそのぎょろっとした目でタマモを見下ろす。 
『・・・・頼む、お前のいつもの姿を見せてくれよ・・・・・そんなまがい物の姿じゃない、本当のお前の姿を・・・・・』 
「・・・・・」 
小さく頷き、タマモはぼしゅっと狐の姿に戻った。 9つの金色の尾を大きく揺らす。 
『・・・・ああ・・・俺はお前に、ずっとその姿でいて欲しかったんだ・・・・・俺が惚れたタマモという狐は、もとの姿が1番美しい・・・・・』 
「・・・・ごめん、フェイ・・・・」 
狐が鼻先を狼に寄せた。 狼はそれに応えるように鼻を擦りつけ、目を閉じた狐と狼は顔を互いに寄せ合う。 
『・・・・・逃げろタマモ、何処までも逃げて生きてくれっ!!』  
言い終わると狼は反転して飛び上がった。 
「ファイっ!? 死ぬわよ止めて―――っ!!」 
建物の上を走っていく狼のずっと先に、瓦礫を宙に吹き飛ばして天を仰ぐ火の鳥の姿が現れたのを狐は見た。 
『ぐわっぎゃ――――――――っ!!』 
広がる炎のチャクラが回りに巨大な火の渦を広げた。 その中に飛び込んで見えなくなる狼は小さく、炎に飲み込まれていくまでタマモは見続けた。 
「・・・・ああ・・・・っ!!」 
ぐっと閉じる目から涙を零し、人型に戻ったタマモはひのめを抱えて立ち上がった。 火の鳥が羽ばたき、こちらに飛んでくる。 
「・・・鳥がぁ・・・・・殺してやる・・・・・・殺してやるっ!!!」 
見開いたタマモの目は血走った。 瞳孔が細くなり、髪が逆立ち波打つ。 視界を広げたタマモは数キロ先の通りをすすだらけで逃げる人影をいくつも見つけた。 目を走らせ、その中に百合子を見つける。 
「ふっ!」 
ぶわんっ!! タマモの体がぶれ、そのぶれは広がってタマモの体を数十にも分けた。 一斉に散らばるタマモ達に、鳥は闇雲に突っ込んだ。 ずががんっと砂ぼこりと共に地が震える。 1人だけひのめを抱えているタマモは逃げている人の集団の中の百合子の前に着地する。 
「タ、タマモさん・・・・っ!?」 
「百合子、この子を持って逃げて。 鳥はこいつを狙ってる・・・お願いっ!!」 
「え、はいっ、でもあなた・・・・」 
口ごもる百合子にタマモはひのめを押し付ける。 
「あんたともっとゆっくり話がしてみたかったわ・・・・・ごめんね百合子。」 
「・・・・タマモ・・・・さん・・・?」 
「じゃね! ひのめをよろしくねっ!!」 
「あ、待って・・・・!」 
踵を返し、タマモは建物の上に飛び上がって走り出した。 
「!? どうなってやがる・・・・・?」 
炎をお札で退けながらも、亜須磨は逃げ惑う何人ものタマモを捕まえようと嘴でつつきまくる巨大な鳥を見た。 と、こちらに走ってくるタマモを見つけ、亜須磨はその前に跳んで立ち塞がる。 
「おいっ、お前が本体か!?」 
「そうよ、どいてっ!」 
「フェイはどうした・・・・!?」 
「・・・・・死んだ。」 
「な・・・に・・・・・?」 
「どいて。」 
自分を押しのけるタマモの腕を亜須磨は掴む。 
「馬鹿野郎っ! あいつの死を無駄にするつもりかよ!!」 
「うるさいっ!! 人間がアタシに指図するなっ!!」 
「このっ、狐って奴は・・・・・!! あいつはお前を愛していたんだぞっ!? その気持ちくらい考えてやれないのか!!」 
胸を突き飛ばされても、亜須磨はタマモの腕を放さず握り締める。 
「あいつも・・・・フェイもクロも、横島も、男は皆九尾の力に魅了されてるだけなのよっ!! 騙されてんのよ・・・・・本気でアタシを好きになってるわけじゃないっ!!」 
「じゃあなんでお前は泣いているっ!? そういう力に関係なく、お前だって誰かにいくらかの想いをよせることができるからじゃないのか!?」 
「―――――っ!!」 
口は開いても、タマモの口から言葉は出なかった。 閉じたり開いたりと口がぱくぱく動く。 
「・・・・お前の腹の子も、お前がその相手を愛したから生まれたんじゃないのか・・・・?」 
「・・・・がう・・・・」 
「?」 
「・・・・違う・・・アタシは誰も愛してなんかない・・・・そんな相手なんか・・・・・アタシは知らない・・・・!!」 
「知らないって・・・」 
亜須磨の手の力がわずかに緩んだ瞬間、タマモはすり抜けて走り出した。 
「おい、狐―――――っ!!」 
ごおおぉぉ・・・っ!! 
「!? 何だ・・・・・!?」 
轟音と突然日の光を遮断したものに、亜須磨は空を見上げた。 
「戦闘機・・・・!? 町をぶっ壊しても鳥だけは仕留めようってのか・・・・っ!?」 

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【次回予告】 
横島 「俺達すっかり蚊帳の外だな―シロ・・・」 
シロ 「そ―でござるな―先生・・・」 
美神 「馬鹿2人はお気楽で羨ましいわ・・・」 
おキヌ「そ―ですね―・・・」 
横島 「ああっ、おキヌちゃんまでそんな余所者扱いっ!?」 
おキヌ「だって横島さん達事情も全然分かってないじゃないですか。」 
横島 「ぐっ・・・」 
美神 「それより何より5話で終わってないわよこの話・・・?」 
シロ 「さてはてこの話の行方や如何に・・・・?」 
横島 「お、俺らに活躍の出番は・・・・!?」 
美神 「次回、『火鳥風月 −6番−』」 
おキヌ「都内は火の海ですけど後始末ど−するんでしょう・・・・?」 
美神 「さあ・・・?」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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