「お芝居〜?」 
「そうなんだ。」 
テーブル越しに身を乗り出してくる唐巣に、美神は顔を引きつらせた。 
「私の知人がやっている、児童館の子供達の前でやるんだ。 もちろん、会場はちゃんとしたとこだがね。」 
「・・・・・・で?」 
「人手が足りないんだ。」 
「・・・・・」 
「実は明日に迫ってるんだ。」 
「・・・・」 
「子供達も楽しみにしてるみたいで、ね。」 
「・・・・・・・嫌。」 
「頼むよ美神く――ん!!」 
「嫌ったら嫌っ! ガキは嫌いなのよ!!」 
「ちなみに彼はそれなりにお金持ちでね、きみとは気が合うかもしれないなあ・・・」 
「さあ先生、早速練習よ!! 皆を集めるわっ!!」 
「ありがとう美神君、きっと協力してくれると思ったよ。」 


きつねレポート

 プレイ・ア・マン 


ビ――― ブザーとともに、ステージの幕が上がる。 
『それでは只今より、唐巣作、「西の魔女」を上演いたします。 ナレーションは私、唐巣おじさんがお贈りしますね。』 
ぱちぱちぱちぱちっ・・・・ 
『昔々、とある国に、1人の王子様がいました。』 
「うう〜ん、今日もいい天気ですね―。 何かいいことがありそうな・・・」 
『王子の名前はピート。 早くに両親を亡くした彼は、今やこの国の1番偉い人である。』 
「くっそ〜・・・お前ばっかりいい役やりやがって・・・」 
「横島さん、本番中ですよ・・・?」 
「わ―ってるよ、ピート様! どうでしょう、たまには町に出てみては?」 
『彼の名前は横島君。 王子に仕える1の家来である。』 
「そうですね、では準備をお願いします。」 
「はっ、かしこまりました。」 

暗転 

『王子と横島君は、お忍びで町にやってきました。』 
「活気がありますね。」 
「ピート様の努力のたまものですよ。」 
「りんご〜、りんごはいかがですか〜? 甘くておいしいりんごはいかがですか〜?」 
かごを抱え、町娘の衣装のおキヌが下手から歩いて出てきた。 
「姉ちゃ――んっ! りんごと一緒にあなたのハートも売ってくださ――いっ!!」 
「ちょっ、ちょっと横島さん!? 今は駄目・・・子供達が・・・」 
どよどよ 
「はっ!? いかん・・・・ご、ごほんっ! おいしそうだね、1つくれるかい?」 
「はいどうぞ。」 
「ありがとう。 どうです、ピート様も?」 
「そうですね、頂きます。」 
「ありがとうございま〜す。」 
がりっ 
「おいし・・・うっ・・・!? こ、これは・・・」 
ばたっ 
『あ、あれ? ピート君?』 
「ピ、ピート様!? おいりんご売り! りんごに何か入れたなっ!!?」 
「そ、そんな!? 私は・・」 
「やかましっ! 城まで連行じゃ――っ!」 
「ひ〜〜ん、濡れ衣です〜〜〜!」 
ずるずる・・・ 
『ちょ、ちょっと横島君、そんなことより王子を助けないと・・・』 

暗転 
舞台裏 

「何でピート殿が倒れるでござるか? 台本では先生が・・・」 
「さあ? ともかく何とかするしかないんでない?」 
タマモとシロはのびているピートを隅っこによけた。 

『ごほんっ! さ、さて、お城に戻った横島君は、りんご売りに問い詰めました。』 
「何でピート様を狙ったんだ!? おとなしく白状しろっ!」 
「あ、あの〜え〜と・・・ご、ごめんなさい。 実は怖い魔女に脅されて、父がねずみに変えられてしまったんです。」 
「魔女・・・? それは西の森に住んでる奴か!?」 
「は、はい。 それで父を元に戻したかったらって・・・仕方なく・・・すみません・・・うえええええん・・・」 
「よしよし、怖かったろう。 大丈夫、きみのお父さんも俺が助けてあげるから。」 
「ほ、ほんとですか!?」 
「もちろん、それが僕の務めだからね!」 

舞台裏 

「あんの馬鹿、そりゃ本来ピートのセリフでしょうに、何が『僕』よ。」 
「ねえ美神さん、ピートの食べたりんご、少しだけニンニク臭いわよ?」 
「犯人はあいつか・・・」 
「でしょうね。」 
「あんたにピートに化けてもらってもいいけど・・・」 
「無理でしょ。 アタシも自分の役あるし。」 
「しゃ―ない、アドリブで何とかするか。 横島め―、今に見てなさい!?」 
「それより早くセリフ覚えないと・・・いろいろ変更しないとね。」 

「お―い小僧。」 
「じいさん、今は舞台の上なんだから・・・」 
「気にするな、それよりピートの奴だがのう。」 
『この老人の名はドクター・カオス。 この国1番のお医者さんである。 隣にいるのは助手のマリアである。』 
「わしの診察によるとどうやらりんごにニンニク・・」 
ばきっ 
「ぶっ!?」 
「えっ!? 魔女の呪い!? そりゃ大変だ! 何とかしなくちゃ! ありがとうドクター・カオス! マリア、じいさんは疲れてるみたいだから連れてって。」 
「イエス、横島さん。」 
ずるずるずる・・・ カオスを引きずり、マリアが下手に消えた。 
「よし、俺は今からその魔女に会いに行って来る。 きみはここで待ってるんだ。」 
「いいえ、私も連れてってください。」 
「駄目だ、どんな危険が待ってるかわからないんだぞ?」 
「でも私は・・・・もとはと言えば私のせいですし・・・」 
「しかしだなあ・・・」 
「お願いしますっ! 決して足手まといにはなりませんからっ!!」 
「・・・・・いいのかい?」 
「・・・・はい。」 
「わかった。 きみの名前は?」 
「はい、キヌといいます。」 
「おキヌちゃんだね? 一緒に行こう。」 
「はい!」 
横島が差し出した手を、おキヌはそっと握った。 
「おお――!」 
「ピ――、ピ――!」 
湧き立つ子供ら。 

舞台裏 

「―――はっ!? このままいくと先生とおキヌ殿は・・・!?」 
「めでたしめでたし、じゃないの?」 
「いかんっ! 何とかせねば!」 
「お、今いい感じじゃない?」 
「何ですとおっ!?」 
タマモとシロは袖から舞台を覗き込んだ。 
「へ―、いいムードね。 おキヌちゃんもまんざらでもなさそうだし。」 
「く〜〜〜、今に見てるでござるよ!」 
「あんたも何かする気?」 

「よし、じゃあ西の森の向けて出発だ!」 
「はい!」 
「ちょっと待つでござるっ!」 
「えっ!?」 
シロが上手から現れた。 
「横島先生っ! 拙者をおいて行くとはひどいではござらんか!?」 
「って、何でお前がここに!?」 
「何を言いますか、弟子は常に師と共にあるのでござるよ!」 
「よ、横島さん・・・・え〜と、その〜・・・」 
「あ、ああ・・・え〜とこいつは・・・」 
『せ、説明しよう。 彼女の名前はシロ。 横島君の弟子で、同じくこのお城の家来である。』 
「おいっ、いいのかそんなに変えてっ!?」 
「さあ先生、2人で西の森に行くでござるよ! 町娘、お主はここでおとなしく待ってるでござる。」 
「えっ!? そ、そういうわけには・・・」 
「と、とにかく行こう!」 
『こうして2、あ、いや3人は、西の森へ向けて出発しました・・・はあ〜・・・』 

暗転 
舞台裏 

「シロの奴―、よけいにややこしくしてくれちゃって・・・」 
「あれはヒロインをのっとる気ね。」 
「まあいいわ、ところでタマモ。」 
「わかってる。」 
「まったく、忙しいったらありゃしないのに・・・」 

「西の森まではずいぶんあるな〜・・・」 
「横島さんは、魔女について何かご存知なんですか?」 
「お城の奴はたいてい知ってるよ。 正体はねずみらしいんだけど、お、じゃなくてピート様に憧れてたらしいんだ。 でもその思いが強すぎて、お城の人に怪我を負わせたらしい。 それで追放されたのが、魔女になったってうわさだ。」 
「そうなんですか・・・」 
「どうしたの?」 
「いえ、ちょっと・・・・かわいそうだな―って・・・」 
「・・・やさしいんだ。」 
「えっ!? いえ、そんな私は・・」 
「いいんだよ、俺は、そういう子が好きだな。」 
「あ、はいっ、あのあのっ・・・・ありがとうございます・・・」 
「先生先生っ! 拙者もかわいそうだと思うでござるよ?」 
「お前はいったい何しに来たんだ?」 
「何をおっしゃる、フィアンセではござらんか?」 
「なっ・・・!!?」 
「勝手に変な設定作んな――っ!」 
「照れる必要ないでござらんか?」 
シロは横島の腕に絡みついた。 
「ちょっとシロちゃんっ!?」 
「放さんかコラ――っ!」 
「嫌でござる―っ!」 

舞台裏 

「あんの馬鹿共、何安っぽいメロドラやってんのよ・・・」 
「何にも考えずにべたつけばヒロインと思ってるみたいね・・・」 
「アホらし・・・」 
「ほっとけばいいでしょ、芝居なんて2の次よ。」 
「そうね、ガキ相手はあいつらでいいか。」 
「じゃ、アタシ達は大人の仕事でもしましょうか?」 
「舞台下の結界は?」 
「終わったわ。」 
「OK、さすがねタマモさん?」 
「ど―もど―も。」 
「2人とも、ちょっといいかい?」 
「あ先生、何です?」 
「一瞬だが、見鬼君に反応があったんだ。 もう消えてしまったが・・・」 
「アタシも少し何かを感じたわ、多分この上ね。 どうする?」 
「結界が張り切れてない以上、外に出たのはやるしかないわね。」 
「わかったアタシが行く。」 
「お願い、私ももうすぐ出番だし。」 
「その間に私は裏口の結界を除いて全てを張る。 タマモ君は戻ったら裏口を塞いでくれ。」 
「ん。」 

「いいか? もう2度と悪さをするんじゃないぞ?」 
「うう〜ありがとうございますですじゃ〜・・・・わっしの出番はこれで終わりかのう〜?」 
「すまんな、仕事の合間に。」 
「じゃあわっしは急いで帰りますけえ。」 
タイガーは泣く泣く下手に退散した。 
「さすが先生でござるな。」 
「う―む、何かずいぶん台本とずれてきたが・・・ま、いっか。 これも主役の務めじゃ!」 
「横島さん、とにかく先に進みましょう。」 

会館の上 

「よっこらせ。」 
タマモは広い屋根の上に立ち上がると、辺りに気を配る。 
「何だ誰もいないじゃん。」 
中央に向かって歩き出す。 
『かああ――っ!!』 
「!?」 
ひゅばっ 
「うわっ!?」 
振りかざされた爪が、避けようとバランスを崩したタマモの頬をかすめる。 もつれた足がタマモをひっくり返らせた。 
『うおおおっ!!』 
「ちょっといきなりすぎない!?」 
腕を振り回す男の霊に、タマモは転がって逃げながら立ち上がり後ろに飛び退いた。 

『道中いろんな人たちと出会った2・・・あいや3人は、やがて西の森にたどり着きました。』 
「ようやく着きましたね。」 
「そうだな、話も無事に進行してるし・・・」 
「拙者のおかげでござるな。」 
「お前の『せい』と言うんだ。」 
「あら、誰か森から出てきますよ?」 
白い布の衣装に身を包んだ美神が上手から現れた。 
「あんた達、この森に入る気なの?」 
「ええまあ。」 
「よしたほうがいいわよ? この森は迷いやすいから。」 
「あなたはこの森に詳しいんですか?」 
「ま―ね。」 
「じゃあ案内してくれないかな?」 
「いいわよ? で、いくら出す?」 
「えっ!?」 
「嫌ならいいのよ? 私は関係ないから。」 
「ちょっと美神さん、子供向けの芝居で何てこと言うんすか?」 
「あんたらが言うか!? おかげでこっちは帳尻あわせにてんてこ舞いなのよっ!?」 
「わかりましたよもうっ! お金は後で城に戻ったら払いますから。」 
「オッケー、じゃいらっしゃい。」 

タマモは腰の後に手を伸ばしてCR−117を掴み取る。 ばしっ 
「あっ・・・!?」 
銃口を突きつけるより早く、伸びた霊の腕が拳銃をタマモの腕から弾き飛ばした。 からからんっ・・・ 
『お前も死ね――っ!』 
「冗談っ!」 
勢いよく伸びてくる霊の右手をかわし、爪で切り跳ばす。 ずばっ 
『喰らえ―!』 
「!? しまっ・・・!」 
左腕が伸びてくるのが目に映った。 がしっ 
「がっ・・・!」 
首を掴まれ、そのまま屋根に叩き付けられた。 がんっ 
「いったああ・・・!」 
『ぐるああああっ!!』 
首を掴んだ手を押えて体を起こそうとする。 
「こんのおお・・・!」 
『これをっ!』 
「!?」 
『!?』 
銀色の光を弾き、CR−117がタマモに向かって飛んできた。 
「!」 
『させるか・・』 
ぱしっ タマモは引き金に指をかける。 どきゅうんっ ぶしっ 霊の頭に穴が開く。 
『ぐわああああああ――っ!!?』 
どしゅうううう・・・・ 
「ふは〜〜〜・・・」 
タマモは首をさすりながらへたり込んだ。 
「役者魂は強いわ・・・・ありがと、あんたは・・・」 
タマモは近づいてくる女の子の霊に顔を向けた。 
『彼と同じよ。 ここで死んだ・・・・役者のたまごってとこかな?』 
「ふ―ん・・・」 
『ねえ、今あなた達演劇やってるんでしょ?』 
「まあね。」 
『そのついでに私達を除霊、でしょ?』 
「まあ、ね。」 
『ねえねえ、お願いがあるんだけど・・・?』 
「・・・何?」 

「え? じゃあ美神さんは森の精なんですか?」 
「精と言うか何と言うか、ま、この森そのものってとこね。」 
「じゃあ魔女のこと、何か知ってます?」 
「ええ。 彼女をこの森に住まわせてるのも、私の意思よ。」 
「なぜそんな悪い奴をかくまってるでござるか!?」 
「あの子は強い悲しみを持っていたのよ。 私はそれを紛らわせてあげたかっただけ。」 
美神が止まり、3人も止まった。 
「あんた達の言う魔女はこの先にいるわ。 でもそこは、私も入らないって約束してるの。 だからあんた達だけで行きなさい。」 
「わかりました、いろいろありがとうございます。」 
「ほいじゃあ、そういうことで。」 
美神は下手に立ち去った。 
「よし、じゃあ行くか。」 
「はいっ!」 

暗転 
舞台裏 

「だ―っ、疲れた・・・あっ、タマモ。 次出番よ? いい?」 
「は―い。」 
「?」 
「美神君、こっちも準備だ。」 
「あ、はいはい。」 

「こら――っ! 悪い西の魔女――っ! 出てくるでござるよ――っ!!」 
「おキヌちゃん大丈夫?」 
「は、はい・・・」 
「心配しなくても、きみは俺が守るから。」 
「・・・・はい。」 
「先生〜、拙者怖い〜〜。」 
「んなら帰れっ!」  
「フィアンセに向かってなんと言う・・」 
「やかましいっ!!」 
「騒がしいね〜、いったい何よ・・・?」 
「!?」 
「!?」 
「!?」 
上手から黒いローブをまとったタマモが現れた。 
「お前が西の魔女だな?」 
「ええ・・・そうよ。」 
「この子の親父さんを元に戻せっ! そしてピート様の呪いを解くんだっ!!」 
「・・・・お前か、こいつらを連れて来たのは。」 
「・・・と、父さんを帰してくださいっ!」 
「・・・・・家に帰りなさい。」 
「え・・・?」 
「あなたは役目を果たした・・・・父親は家で待ってる。」 
「え、あの・・・・は、はい・・・?」 
「おキヌちゃん、戻るんだ。」 
「えっ・・・でも・・・」 
「お父さんも心配してるよ、ほら。」 
「はい・・・・あの横島さん・・・」 
「今度会いに行くよ。」 
「・・・・待ってます。」 
おキヌは差し出された横島の手を両手で握ると、ゆっくりと放し、下手に走って消えた。 
「さて、ピート様の呪いを解いてもらおうか?」 
「それは出来ない。」 
「ふざ・・」 
「ふざけるんじゃないでござるよっ!?」 
シロはずずいと舞台の前に出た。 
「振られた腹いせに人を怪我させて挙句に呪いをかけるとは不届き千番!! このゴー・・・じゃなくてこの国1番の家来シロが成敗してくれるわ!!」 
「お、俺のセリフが・・・」 
「さあ、おとなしく呪いを解くでござるっ!!」 
シロはタマモに霊波刀を突きつけた。 
「おお――っ!」 
「わ―かっこいい―!!」 
子供達が湧き立った。 
「ふふん、目立ってる目立ってる。」 
「・・・・彼はアタシを拒んだわ。 アタシが人間じゃないから・・・・だから彼はアタシを追い出した・・・これはその報いよっ! 」 
「じゃあ、お前はやっぱり・・・・ねずみ・・・」 
「言わないでよっ! あんた達には関係ないでしょう!? 帰りなさいっ!!」 
「そうはいかんっ! 実力で解かせてみせるでござるっ!」 
「あれ? そんな設定だっけ・・・?」 
「日頃の恨み、死ね――っ! 女狐―――っ!!」 
「恨みって・・・お、おいシロっ!?」 
「だりゃ――っ!!」 
シロはタマモに跳びかかった。 

舞台裏 

「あ―あ―、もう台本むちゃくちゃね。」 
「シロちゃん目が血走ってる・・・」 
「誰かさんもでれでれしちゃってるし―?」 
「えっ? あの・・・・あはははっ!」 
「やれやれ。」 

「ぐふう・・・お、おのれ〜・・・!」 
倒れたタマモにシロは霊波刀を突きつけた。 
「さあ! ピート様にかけた呪いを解くでござるっ! そうすれば見逃してやるでござるよ、ね、先生!?」 
「え? あ、ああ・・・・」 
『こ〜ろ〜す〜!!』 
「?」 
「何でござるかっ!?」 
客席の上で霊体が現れた。 
『許さんぞ――っ!!』 
「あ、悪霊・・・!?」 
「出たでござるな・・・?」 
『大変だ皆! 早くお札をかざすんだ!』
唐巣が子供達に呼びかけた。 子供らは退魔札をかざす。 
「おのれ魔女め! 客席の子供達を狙うとは卑怯なっ!! 先生いくでござるよ!?」 
「し、しかしこれは多すぎないか・・・?」 
「たあ――っ!!」 
シロは舞台から跳び上がって霊波刀で切りつけた。 ざくっ 
『うぐわあっ!?』 
『お前らも――っ!!』 
「させるかっ!」 
『浄』 
どしゅうううっ 
『げはっ・・・!?』 
「頑張れシロ――!」 
「行け――横島――!!」 
「おおっ!? よおうしっ、見てるでござるよ!!」 
着地したシロは両手で霊波刀を出すと跳び上がり、体を横にくるくる回して2,3鬼の霊を切りつけた。 ずしゃしゃっ 
『ぎゃあああっ!?』 
『ぶはっ!?』 
「いいぞ―!」 
「わ―かっこいい――!!」 
「シロ、お前だけいいかっこはさせんぞ!? いっけ――!」 
横島はハンズオブグローリーを出すと、それを突き伸ばした。 どすっ 
『げはっ!?』 
「うわはは――っ、見たか――!!?」 
タマモは舞台からそれを見ていた。 
「・・・・・皆・・・」 
「横島君、シロ、放れなさい!!」 
「!?」 
「美神殿!?」 
「この森を荒らすものはこの私が許さないわっ!! おとなしくあるべき場所に帰りなさいっ! 吸引っ!!」 
しゅごおおおおお・・・  
『うわああああっ・・・!?』 
『ぎゃあああっ!!』 
全ての霊が吸い込まれた。 
「ふう・・・終わりっと。 2人共ありがとう、おかげで私の森が荒らされずにすんだわ。」 
横島とシロは舞台に飛び乗った。 
「いえ、当然のことをしたまでっすよ。」 
「そうでござる。」 
「じゃ、お礼はあなたで・・・!」 
どげしっ 
「じゃあ私はこれの始末があるから。」 
吸魔護符をひらつかせ、美神は下手に消えた。 
「さて、もう勘弁ならんでござるよ!? この魔女っ!!」 
「く〜〜〜・・・!」 
「往生するでござるっ!!」 
シロが霊波刀を振り下ろした。 がんっ 
「ぶはっ!」 
タマモは崩れ落ちた。 
「わはは―っ、タマモ討ち取ったり――っ!!」 
「魔女だろ? 魔女。」 
「ア・・・アタシはただ・・・・あの人に好かれたかっただけなのに・・・・」 
「だからと言って、人を殺めてはいかんでござるっ!!」 
「あの時もそうだ・・・・アタシが人間じゃないからって・・・信じてたのに・・・」 
「???」 
「人間なんか信じられるものか・・・・皆呪ってやる・・・」 
「え〜い往生際が悪いでござるよっ!」 
「アタシは・・・・ずっと1人だ・・・・」 
「タマモ・・・」 
「アタシが・・・・ねずみだから・・・」 
「? そんなセリフあったでござったか?」 
「・・・・・」 
がくっ 
『・・・・はっ!? あ、え〜と、こうして悪い魔女を退治したピー・・・じゃなくて横島君は、お城に戻ることに・・』 
「魔女がかわいそうだ――っ!!」 
「え?」 
「そうだそうだ―!」 
「魔女は悪くない!」 
『あらら・・・』 
「魔女をいじめるな―!」 
客席から靴が飛んできた。 べしっ 
「ぶはっ?! そ、そんな・・・どうしよう先生・・・?」 
横島はかがむとタマモを抱き起こした。 
「え〜・・・あの、さ・・・・俺じゃあ駄目かな?」 
「え?」 
「・・・・・」 
タマモがゆっくりと目を開いた。 
「俺でよかったら・・・・一緒にいてやる。」 
「えええええっ!!? そんな先生・・・!!」 
「すぐに誰かを信じるなんて出来ないかもしれないけど・・・・それまで、俺もここに残っていいかな?」 
「何で・・・?」 
「いや・・・・何となく・・・」 
「・・・・いいの?」 
「森の精さん、いいだろ!?」 
横島の呼びかけに、美神が再び現れた。 
「いいわよ―。 ただし、滞在費は頂くわよ?」 
「ははっ、いいっすよ。」 
「拙者納得いかんでござる―――っ!!」 
「シロ、お前はおキヌちゃんに伝言頼む。 すぐには行けそうにないからって。」 
「なぜに悪役がヒロイン扱いでござるか――――っ!!?」 
「ナレーション! もういいからまとめちゃいなさい!!」 
『おほんっ! こうして人間を信じることに少し前向きになった魔女は、ピート王子の呪いを解き、横島君という友達を得て、新しい生活を始めました。 その後、西の森の悪い魔女のうわさは、この国からなくなりました。 めでたしめでたし。』 
が―っと幕が下り始めた。 
「こ、これで終わりでござるかっ!? まだ途中のはずなのに・・・」 
ぱちぱちぱちぱちっ!! 
「拙者はヒロインを・・」 
どばきっ 幕が下りきり、拍手喝采が会場に響いた。 

「ま、予定とはだいぶ違ったけど、除霊も芝居も無事にすんでよかったよ。」 
「私は、ギャラさえもらえればそれでいいわ。」 
「ありがとう美神君、助かったよ。」 
「ピートは?」 
「まだニンニクが抜けなくてね・・・・タクシーで帰ったよ。」 
「あらあら。」 
「ところでおキヌちゃんとシロちゃん、元気ないね・・・?」 
「ああ、ヒロインをタマモに取られたって落ちこんでんのよ。」 
「・・・・ま、まあ、内容に関しては私はもう何も言わんよ。」 
「いいんじゃない? それなりに身のある話になったと思うわよ?」 
「それは私の台本では身にならないと・・・・?」 
「さあ〜? どうかしら?」 
「まったく・・・しかしタマモ君、よくあんなアドリブが出来たなあ。」 

会館屋根の上 

すうっ 霊体が体から離れる。 
「・・・・・」 
タマモは閉じていた目を開いた。 
『ありがとう、楽しかったわ。』 
「アタシは楽しくない・・・・あの馬鹿犬、犬の分際でアタシを・・・」 
『ごめんごめん。 でも、プロはそんなことで怒らないわよ?』 
「誰がプロよ。」 
女の子は微笑んだ。 
『・・・・あなたは怒らないわ。 だって、大人だもん。』 
「そんなことはいいわ。 で? あんた、本当に逝けるの?」 
『ええ、ほらっ!』 
くるっと宙返りをして見せる。 
『こんなに体も軽いし。』 
「そ。」 
『皆も、一緒に出来ればよかったんだけどね。』 
「しょうがないでしょ。」 
『・・・そう、ね。』 
「あんたも台本なしでよくやれたわね。」 
『えへへ・・・即興で考えちゃったから、何かヒロインの子に悪いことしちゃったかな?』 
「おキヌちゃんならわかってくれるわよ。」 
『ありがとう・・・・・じゃ、行くね。』 
「待った待った、約束の報酬は?」 
『わかってる。』 
女の子は口に手を持っていくと、手のひらにふっと光る物を作り出した。 
『口開けて。』 
「んあ。」 
ぴんっと弾かれた光が、タマモの口の中に飛び込んだ。 ごっくん 
「あ―あ―・・・お、いい感じかも・・・!?」 
『しばらくは私のくせがあるかもしれないけど、そのうちあなたの物になるわ。』 
「サンキュー。」 
『変わった狐さんね? 歌がうまくなりたいなんて。』 
「狐の体で芝居をするあんたもいい勝負よ。」 
『へへっ、じゃあね。』 
「ええ、じゃあ。」 
女の子の霊は空にくるくると回りながら、踊るように上っていった。 

「ふん、ふふ〜ん、ふ〜ん・・・・」 
「何よタマモ? ご機嫌ね?」 
「ふふん? る―るる―・・・涼しげ〜な〜風〜〜達が〜・・・」 
「持ち去〜った〜私の傘〜〜?」 
「! ・・・やわら〜か〜い〜朝露〜〜と〜・・・」 
「交わし〜た〜〜秘密〜の約束〜〜・・・」 
美神の運転するコブラが、青空の下、風を切って町を駆け抜けていった。 

「ちっくしょ〜!! 何で俺達おいてきぼりなんだよ・・・!?」 
「わ、私は何にもしてないのに〜〜〜!」 
「拙者ヒロインがやりたかっただけなのに〜〜〜!!」 
「元はと言えばお前がよけいなことしたからじゃ―!」 
「先生だってピート殿にニンニク盛ったではござらんかっ!?」 
「何をっ!?」 
「何でござるかっ!?」 
「私本当に何にもしてないのに〜〜〜〜〜!!!」 
沈みかけた日に照らされ、3人はとぼとぼ歩いていった。 

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【次回予告】 
タマモ「次回はこの面子でいってみましょうか?」 
おキヌ「この面子って、私達?」  
西条 「いいんじゃないかい、たまにはこういう組み合わせも。」 
おキヌ「皆普通でよかった〜。」 
タマモ「さらりとすごいこと言うわね。」 
西条 「はっはっは、事実だからね。」 
タマモ「そんなこと言ってると怪我するわよ?」 
おキヌ「えっ!? 何ですかあれは!?」 
西条 「次回の除霊対象か・・・・手強いぞ。」 
タマモ「依頼断る?」 
おキヌ「うううん、私やってみる!」 
西条 「大丈夫かい?」 
おキヌ「たあああああああっ!!」 
タマモ「行っちゃったわよ。」 
西条 「しょうがない、僕らも行こう。」 
タマモ「次回、『ナイト・ワルツ』」 
西条 「まずい、あれはおキヌちゃんでは無理だ!」 
おキヌ「私は、GSになりたいんですっ!!」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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