GS美神 ひかり

第十一話   来日


7月27日 AM11:35 成田空港 

ぎゅおおおおおおおっ・・・・ 旅客機とそれを囲むように飛んでいた4機の戦闘機が滑走路に降り、止まった。 
「・・・・・」 
タマモは空を見上げた。 陸自のヘリが何機か旋回しており、それが頭上を通り過ぎた。 
「タマモ君!」 
「わかってる。」 
西条にせかされ、タマモはピート、そしてシロや多くの日本のSPとタラップに向かって早足に歩いた。 
「来るかしら?」 
「来ないに越したことはありませんが・・・」 
タラップの下まで来ると、ハッチが開き、黒いスーツのSPに続いてキャラットが手をかざして姿を見せた。 

AM11:37 横島除霊事務所 

『・・あ、今、今キャラット女王陛下が出ていらっしゃいました。 SPに続いて今、女王陛下がタラップをゆっくりと下りてきます。』 
愛子は本体に座ってTVを見ていた。 タラップを下りきったキャラットの近くにタマモの頭が見えた。 
「ついに来ちゃったか・・・」 
リモコンを持つ右手が汗ばんだ。 

AM11:39  千葉県某大学病院特別病棟302号室  

『・・ット女王陛下が日本を訪れるのは実に1年ぶりとなります。 今回の調印式を向かえ、テロリストに屈することなくやって来れたのは・・』 
かおりはベットの雪之丞の手を握った。 
「今回で全てが終わってくれればいいんだけど・・」 
「そうだな。」 
雪之丞は管だらけの手に力を込め、かおりの手を握り返した。 
「くっそう・・・体が動けば・・・!」 
「あの子がやってくれるわ、私達の子だもの。」 

AM11:41 白井総合病院1F待合室 

『・・本SPの警備の中、今、今女王陛下が車に乗り込みました。 上空のヘリコプターがそれを護衛するように、ゆっくりとついて行きます。』 
患者や医者達がTVの前に陣取っている後ろから、小鳩もまた白衣のポケットに手を突っ込んだままTVを見ていた。 
「大丈夫そうやな。」 
貧は小鳩の肩をぽんと叩いた。 
「そうね。」 
小鳩は呟くようにこたえた。 
「ヒカリはどないや?」 
「・・・まだ寝てる、起こしちゃ駄目よ? 体力が回復してないんだから。」 
「わかっとるわかっとる。」 

AM11:46 白井総合病院703号室(個室) 

白いシーツをかぶって寝ていたヒカリはごろっと寝返りを打った。 
「・・んにゃ・・・タマモ、ご飯またきつねうどん・・・?」 

AM11:52 成田空港 

キャラットを始め、ザンス関係者が全ていなくなってから、タマモはふっとため息をついた。 
「お前は行かなくていいのか?」 
シロが横から歩み寄った。 
「あんたこそ。」 
ICPOのスーツを着たシロは腰に手を当てて笑った。 
「多分、今連中は来ない、そんな気がする。」 
「そう、ね。」
回りはばたばたと後片付けをする人々が行き交っていた。 残っていたザンスSPと話をしている涼介が、忙しく走り回っているのが見えた。 こちらに気付いて、軽く手を挙げてきた。 
「アタシは一旦帰るけど、あんたはどうすんの?」 
涼介に手を挙げてこたえながらタマモは聞いた。 
「拙者は本部に戻らないとならない。」 
「大変ね。」 
「お前が変なんでござるよ、何でそんなにのんびりできるんだ? いったいお前らの仕事は何なんだ?」 
「犬の頭じゃ理解できない複雑な仕事かもね。」 
「狼、だ。 まあいい、それよりヒカリは大丈夫か?」 
「だだの検査よ、心配することじゃないわ。」  
「まあ、そうなんでござるが・・・」 
「・・・・・」 
タマモはシロを残し、歩き始めた。 

(回想 白井総合病院屋上) 

「最後?」 
「ええ・・・」 
柵に手をかけて遠くに目をやる小鳩の言葉に、タマモは同じ言葉で聞き返した。 
「今回の手術が最後、これ以上は内臓も皮膚や筋肉も持たないわ。」 
「そう。」 
「・・・・・精霊石の効果があるからまだ十分持つと思うけど、次はもう・・・・もう、仕事ができる状態には戻れないと思う・・・」 
「寝たきりになるってこと?」 
「うん。」 
「・・・・・」 
「食事も制限がかかるから、時々点滴も必要になるわ。 左腕は・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・ごめんなさい・・・」 
震える小鳩の肩を、タマモはそっと抱いた。 
「私は・・・結局誰も助けられない・・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・」 
「あんた泣いてばっかりね。 そんなこっちゃ、福の神も逃げてくわよ・・・?」 
涙を流す小鳩に、タマモはゆっくり背中を撫でてやった。 
(回想終了) 

「・・マモ、おいタマモ?」 
「あ・・・何・・?」 
シロに呼び止められ、タマモは振り返った。 
「何ぼけっとしてるでござる。」 
「別に、お昼は何かな―と思って。」 
「相変らず食い気が多いな。」 
「あんたが言うか? で何?」 
「ヒカリを頼む。 何の仕事か知らんが、お前がついているなら大丈夫だと信じている。」 
「ま、アタシはあんたより強いけど、あの子はもう一人前よ。 子供扱いはしないほうがいいわ。」 
「まだ20前だろ・・・? それにお前の方が強いと言うのは聞き捨てならんでござる!」 
「事実を受け止められないようじゃ、プロとは言えないわね。」 
「お前と違って拙者は常に修行してるでござる! お前は修行のしゅの字も・・」 
「あ――、もううるさい! さっさと仕事に戻れ馬鹿犬!」 
「あ――、そうするでござる! このぐうたら狐!」 
「・・・・ふっ。」 
「・・・・けっ。」 
互いににやついた2人は並んで出口に向かった。 

PM00:23 某廃墟前(旧小笠原エミGSオフィス)  

「寂れちゃったわね・・・」 
エミは見上げるように、自分のかつての事務所を前に立っていた。 
「タイガーがいて、あいつが女の子を連れ込んで、令子と馬鹿やって・・・」 
壁を覆い尽くすように広がったつたと葉に、エミはわずかに苦笑いをしながら中に入っていった。 
「もう、戻ってくるつもりはなかったけど・・・」 
誇りで白くなったデスクにバックを置くと、エミはゆっくり深呼吸をした。 
「もう一度、私と仕事をしてもらうワケ!」 
口紅を取り出したエミは、しゅっと頬にラインを引いた。 

PM01:19 横島除霊事務所 

「ただいま―。」 
リビングに入ったタマモはテレビの前で本体に座っている愛子に近づいた。 
「愛子、お昼は?」 
「あ、テーブルに作ってある。」 
「いつまで見てんの? 食べたらヒカリを回収に行くから、早く食べよ。」
「うん、もうちょっと・・・」 
TVから目をそらさない愛子に、タマモはその手からリモコンをもぎ取った。 ぷつっ 
「アタシ昨日からまともに食べてないんだから。」 
「はいはい。」 

PM01:46 都庁下日本GS協会本部第1作戦司令室 

「只今戻りました。」 
中央に陣取った美知恵に、西条とピート、シロは敬礼した。 
「ご苦労様、何事もなかったようね。」  
「ええ、助かりましたよ。」 
「しかし隊長、なぜ連中は仕掛けて来なかったんでしょう?」 
「拙者も不思議に思います、変な言い方ですが、チャンスだったと思います。」 
「さあね。 何かの作戦か、それとももう余裕がないのかしら。」 
「あっちも消耗しているってことですか?」 
「何にせよ、来ないに越したことはないわ。 こっちも切り札がまだ使えないから。」 
「どうなんですか、グングニルとマリアは。」 
「ドクター・カオスを中心に急ピッチで修理してるわ、調印式には間に合うはずです。」 
「やっぱり・・・使うんですか?」 
「ピート君!」 
「あ、すいません・・・」 
「・・・西条君、ピート君、2人は今から上の式典会場の防犯カメラのチェックに行ってもらいます。 霊視レンズの調整、及びレベルEまでのボーダーラインを全てCまで上げるように!」 
「了解!」 
かっとかかとを鳴らし、2人は出て行った。 
「しかし本当にここでやるとは・・・一般人も今や立ち入り禁止でござろう?」 
「仕方ないわ、それよりあなたには緊急の特別任務があります。」 
「特別・・・!? 拙者まるで映画の主人公のようになってきたでござる!」 
「はいはい、ならしくじらないでね。 主人公さん?」 
「了解、でござる!」 

PM02:01 ザンス王国大使館 

「お疲れ様です、キャラット様。」 
「いえ、たいしたことありません。 それより彼女の方は?」 
キャラットはいすに座って足を休めながらエイムズに顔を向けた。 
「彼女は、今晩にもこちらに来てもらうことになっています。 今は少しでもお休みください。 今回のスケジュールはかなり詰まってますから。」 
「そうさせてもらいます。」 
「陛下、こちらへ。」 
セリナがドアを開けたので、キャラットは立ち上がった。 

PM02:38 ??? 

「どうした?」 
窓から外を眺めているミリアにフリノは声をかけた。 
「いや・・・」 
「テルか?」 
「・・・・・ああ。」 
「・・・・・」 
フリノはミリアに並んで窓から空を見上げた。 
「あいつなりに考えがあったんだろ。」 
「・・・・・」 
「2日後だ、そんな調子じゃ無駄死にするぞ。」 
「・・・・・」 

PM07:18 ザンス王国大使館  

「よく来てくださいました。」 
部屋に入ったヒカリとタマモにキャラットは立ち上がった。 
「お忙しい中すみません。」 
「初めまして、ミス・ヒカリ、ミス・タマモ。」 
「・・・・アタシはついでよ、気にしないで。」 
「タマモ。」 
「かまいません、どうぞお入りください。」 
キャラットのいる部屋にはヒカリ、タマモと3人しかおらず、2人はキャラットに座るよう勧められた。 
「今回のことについては、本当に感謝しています。」 
「まだ何もしていません、ね、タマモ?」 
「まあね。」 
「・・・・・ウェイドが迷惑をかけました。」 
「彼は一生懸命でした・・・・頑張ってましたよ。」 
「・・・ありがとう。」 
「・・・・・」 
「あの子のことはこのまま誰にも言わないでおいてください。」 
「わかりました。」 
キャラットはじっとヒカリを見つめた。 
「・・・・・?」 
「よく似てらっしゃる、お母様に。」 
「やっぱり、似てますか?」 
「ええ。」 
キャラットはにっこり笑って見せた。 
「時間もあまり割けません、取り急ぎ本題に入ります。」 
「はい。」
「・・・・・」 
「アリマトへの霊波刀による効果の方はどうでしたか?」 
「かなり硬いですね。 普通の霊波刀ではまず無理です。」 
「そうですか・・・」 
「相手の霊力が弱まった時を狙えば上手くいくかもしれませんが、まずそんな機会はないですね。」 
「では、あんな昔話に期待すべきではないと・・・?」 
「いえ、何とかします。 私の剣は、まだ1度も切り結んでませんから。」 
「例の破魔札を使った、霊波刀ですか?」 
「はい。 多分いけると思います。」 
ヒカリはキャラットに笑顔を返した。 
「・・・・・頼みます。」 
「あ、すいません。 ちょっとお手洗い。」 
「ふふっ、どうぞ。」 
ヒカリは立ち上がると急ぎ足で部屋を出た。 
「・・・・・不思議な子ですね。」 
「そう? 普通よあれぐらい。」 
タマモはテーブルに頬杖をついて目を細めた。 
「あの子の笑顔は人を安心させます、お母様と同じですね。」 
「そうかもね、性格はちょっと違うけど。」 
「少しあなたに似てますね。」 
「けけけ。」 

同時刻 都庁内調印式予定会場 

「思い出さないか、西条。」 
「ん?」 
エイムズと西条はいすに座って一息ついていた。 
「昔、俺達の国でこうやって式場の警備の準備をしたよな。」 
「ああ、そうだな。 もう、10年も前のことだが。」 
「あれから一緒に仕事をするようになった。」 
「お前は相変らず一人身だがな。」 
「・・・・ほっとけ。」
「ははは。」 
「・・・・・あいつもいたんだよな。」 
「・・・・もう言うな。 誰のせいでもない、あれは・・・・どうしようもなかったんだ。」 
「いっそ、何もかも夢だったらって、時々思うんだ。」 
「そうもいかないだろ、僕達がやり残したことは、僕達で終わらせないとな。」 
「そうだな、大人の務めだな。」 
「全部終わったら、ゆっくり酒でも飲もう。」 
「・・・いいな。 楽しみだ。」 

PM07:22 ザンス王国大使館(2F女子トイレ)

「っぐ・・がはっ・・・」 
白い洗面台が赤くべっとりした液体で染まった。 
「げほげほっ・・・」 
お腹を押さえていたヒカリは入り口が開いたのにびくっと振り返った。 
「タ・・・マモ・・・・?」 
「生きてる?」 
「何とか。」 
すぐさま洗面台に顔を戻したヒカリの口から大量の血がこぼれるように流れた。 
「血を吐くのって、けっこうのどが痛いわ・・・」 
「・・・・・」 
「気付いてる? 私の霊力が上がってきてるの・・・・・?」 
「やっぱりそうなんだ。」 
「うん・・・あれかな? ローソクのなんとやらってやつ。」 
「最後は良く燃えるってか・・・?」 
「上手くやれば10回ぐらいは剣が出せると思う。」 
「そして消えるつもり・・・?」 
「冗談。 足りなくなったローソクは下から継ぎ足すだけよ。」  
「丈夫なこって・・・」 
「はははっ・・・・ぐっ・・・くはっ!」 
タマモはヒカリの背中をさすってやった。 
「ヒカリ、頑張ろう。」 
「・・・・・うん。」 

PM09:50 外務大臣宅 

「これか?」 
「はい、恐らくシーラムでしょう。」 
桜井に案内された家の、東西南北に張られた呪い返しの札が焼き焦げたようになっているのをシロは息を飲んで見た。 
「かなり強力な呪いだな。」 
「テロ対策として、政府の要人の家にはレベル6の結界が張ってあるんですが・・・」 
「で、大臣殿はどうなんだ?」 
「命に別状はありませんが、念のため、白井総合病院で検査をしています。 明日、一番で事情聴取をお願いしてあります。」 
「式典に間に合うのか?」 
「何とかするそうです。」 
「家族とかは・・・?」 
「近くのホテルに泊まるそうです、秘書や他の方もここにはいません。」 
「ふん。」 
シロは柱に貼られた焼けた札の残りを指でそっと撫でた。 
「・・・この犯人を突き止めろって言われてもな―。」 
「どうですか?」 
「やるだけやってみるさ、狐よりは拙者のほうがいくらかましでござるからな。 上手くすれば、シーラムのアジトがわかるかも・・・」 
「タマモさん・・・ですか・・・・」 
「どうした?」 
「あ、いえ・・・」 
「何だ? 狐に惚れてるでござるか・・・?」 
「いえっ、ちょっ、し、仕事しましょう、犬塚さん! 時間もないですからっ!」 

同時刻 佐山ベーカリー 

「いらっしゃいませ―。」 
「あれっ? ヒカリさん!」 
「何だピートさん。」 
店内で店長と話をしているヒカリを見つけ、ピートはカウンターに歩み寄った。 
「何だピートか。」 
奥のテーブルでパンをかじっていたタマモはよっと手を挙げた。 
「パンを買いに来てくれたんですか?」 
「うん、この間きみが西条さんにくれたのを頂いたんだけど、おいしかったから。」 
「ありがとうございます。」 
店長の佐山はカウンター越しに頭を下げた。 
「ピートさん、こちらがいつも話してる夕ちゃんのお父さん。 店長、こちらが・・」 
「いつも話してくれるお兄ちゃん、だろ?」 
「お兄ちゃん・・・!?」 
「む、昔の話ですよ! 今は尊敬する先輩で、商売敵です!」 
「またまた〜、照れることないでしょうに。」 
佐山はひじでヒカリを突っついた。 
「あっ・・・じゃ、じゃあ、これとこれとそれを3つお願いします。」 
「はい、じゃあ、あちらで座ってお待ちください。」  
ヒカリとピートはタマモと同じテーブルに座った。 黙々とパンを食べるタマモに、2人は黙って座っていた。 
「・・・・・あっ、そういえばヒカリさん、傷の具合はどうですか?」 
「あ、はい、もう大丈夫です。」
「そ、そうですか、よかった、でも、あんまり無茶、しないで下さいね。」
「あ、ありがとう・・・・ございます・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・」 
「・・・」 
「何固まってんのよ。」 
「あ、いや・・・」 
「別に固まってなんかないわよ。」 
コーヒーをすすりながらタマモが2人を上目使いに見た。 
「ピートも共優柔不断なところは横島に似てきたわね。」 
「そ、そおですか・・・?」 
「そんなんだから、彼女も苦労するのよ。」 
「・・・誰のことです・・・・・?」 
「・・・・・」 
「・・・・わかってるでしょ。」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 

PM10:29 日本GS協会本部第1作戦司令室 

「・・・そう、わかったわ。」 
美知恵は受話器を右手から左手に持ち替え、いすにもたれ直した。 
「もうしばらく捜査を続けてちょうだい。」 
「・・・しかし、この調子では明後日の式典に間に合いませんよ。」 
「明後日、29日の午前5時までそのまま捜査を続けなさい。 その後は桜井君達に任せてあなたは会場の警備に移ってもらいます。」 
「了解でござる。」 
かちゃ・・・ 美知恵は額に指をついてため息をついた。 さあて、どうでるかしら・・・あちらさんとこちらさんは・・・・ 

PM10:46 横島除霊事務所 

プルルルル、プルル・・ 
「はい、横島除霊・・ヒカリ!? 今どこ・・・・・・うん、そっか、わかった、いいよ、無理はしないで。 ・・・・・・・・大丈夫、頑張ってね・・・・・・・わかった、ちゃんと用意しとくから・・・・・・はいはい、じゃあね。」 

7月28日 AM07:18 ザンス大使館 

「わかりましたか?」 
朝日が差し込む窓を背に、セリナはパソコンに向かっていた。 
「ええ、ほとんどのデータが吹っ飛んじゃってたからあんまり細かいことはわからなかったけど・・・」
キーボードを叩くセリナの後から、ヒカリはあくびをこらえながらモニターを見ていた。 
「ほら、これ。」 
「・・・・・ふ―ん、父さんが白髪の人の知り合いだったとは思わなかった。」  
「こういうのは知り合いと言えるのかしら?」 
「どっちでもいいんですけどね。」 
「あなたのお父さんのことを狙ってたみたいね・・・・・しかし戦うこと叶わず横島さんは死亡。」 
「そのとばっちりが私に来たわけですか。」 
「そういうことになるかしら。」 
「・・・・・でもこれは考えようによってはチャンスですね。」 
「チャンス?」 
「シーラムは私達が考えてる以上にアリマトにこだわってないのかもしれません、アリマトを悪魔で戦力の1つとして考えているのなら・・・」 
「あなたが囮になるの?」 
「そう上手く行けばいいですけど・・・・」  
「・・・・あなたの仕事はアリマトの破壊よ、他には目もくれなくていいし、誰も守る必要はないわ。 証拠の処理は私達がやります。」  
「頼みます、正直、そんな余裕をくれる相手じゃありませんから・・・」 
「お腹のほうは大丈夫?」 
「ノー・プロブレム、です。」 

AM07:27 ??? 

フリノと5人のシーラムのメンバーは朝食を済ませ、準備を整えた。 
「行くか・・・・」 
フリノが立ち上がり、5人も各々に立ち上がった。 
「ミリア、ジャン、オックス、キム、クラップ。」 
一人一人顔を見る。 
「これで最後だ。 俺達は常に精霊と共にある。 無駄死にはするな。 そしてチャンスがあれば、上手く生き延びろ。」 
「了解。」 
「わかってるって。」 
「フリノさんこそ、しっかり頼みますよ。」 
「アリマトがあるんだ、大丈夫さ、なあ?」 
「あとは例の癖がなければ問題ないでしょ。」 
フリノは苦笑いを返す。 

AM07:44 ザンス王国大使館 

「よお。」 
「ああ・・・おはよう。」 
入り口に向かって階段を下りたヒカリは涼介と鉢合わせた。 そのまま2人は入り口に向かった。 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・大丈夫か?」 
「何が・・・?」 
「顔色、あんまりよくないぜ。」 
「ちょっと寝不足なだけよ、伊達君こそ寝てないんじゃない?」 
「・・・・なあ・・」
「何?」 
「いつからだっけか・・・お前が『伊達君』って呼ぶようになったの・・」 
「・・・・さあ・・? もう、忘れちゃったわ。」 
「何だよ・・・それ・・・・」 
「・・・・・用はそれだけ?」 
「・・・・・冥那が心配してたぞ、連絡がつかないからって。」 
「ごめん、携帯ないんだ。 代わりによろしく言っといて。」 
「・・・・・自分でしろ。」 
「・・・・・これが終わったらさ、一度、雪之丞おじさんのお見舞いに行こうと思うんだけど、いい?」 
「・・・・好きにしろよ、お袋も喜ぶし・・・」 
「ありがと、じゃあ、行くね。」 
「お、おう。」 

AM08:33 白井総合病院第1病棟5F廊下 

「シロさん! 桜井!」 
階段を上がりきったピートは、奥から歩いてくる2人に駆け寄った。 
「ピート殿。」 
「ピートさん。」 
「どうでしたか?」 
「大臣殿は体に異常はないでござる、ただ、どうも何かに憑かれているような感じがある。」 
「それはやはり呪いですか?」 
「わからん、今のところ影響はないが、いつどんなことが起こるか・・・」 
シロはSPの立っている病室の入り口を振り返った。 
「ピートさん、式典内の対呪結界の強化を要請しますか?」 
「どうかな、今のでも十分なものは張ってある。 これ以上は・・・それに時間も人手もない。」  
「大臣殿を欠席させることはできんのだろう? 本人にできる限りの呪符を持たせるしかないのでは・・・?」 
「・・・・・シロさん、現場の検証のほうは?」  
「手掛かりなし。 かなりのやり手でござるよ、エミ殿クラスの呪術者か美神殿がいればわかるかもしれんが・・・・・いや、今はそんなこと言っても仕方ないな・・・」 
「・・・・シロさん、もう一度現場まで来てくれませんか?」 
「かまわんが、どうする気でござる?」 
「僕だって、少しは呪術に関して勉強してきたんです。 何もできないかもしれませんが・・・・やれることはやっておきたい。」 
「ふっ、いつになく熱いな。 わかった、すぐ行こう。」 
3人は足早に階段を下りた。 
「桜井、現場の資料と、わかったことを全部教えてくれ!」 
「はい!」 

AM10:22 都庁屋上ヘリポート 

「物理的攻撃は無理だが、霊的なものは全て防げるはずだ。」 
エイムズ、ヒカリにタマモはヘリポートに張られた巨大な結界札の上で見取り図を広げていた。 
「結論から言うと、式典は何があっても中止するつもりはないらしい。 その覚悟でこっちも警備しなくちゃならんが・・・」 
「この付近は?」 
タマモが回りの景色に目をやる。 
「すでに昨日から半径1キロは住民の避難に入ってもらっている。 まあ、しょうがないさ。」 
「でもおじさん、会場内部に精霊獣を持ち込まれたらどうするの?」 
「俺達ザンスSPは2手に分かれるんだ、何名かは会場内にも待機させる。」 
「例のワニ頭については何かわかったの?」 
「そうそう、あの白髪の人が一気に何鬼もワニを出してくるときついんですよ。」 
「俺が思うに、他の国の技術が混じった奴だな、それは。」 
「国家機密を売ったってこと?」 
「どうかな? やつらがそこまでするとは思えない。 1番可能性のあるのは、どこかの日本企業か研究者と繋がりを持ったってとこかな。」 
「敵と・・・?」 
「利用したんだろ、そいつらは金に目がくらんだか何かでいいように使われたか、わかっててやったか、ま、推測だがな。」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「2人共そう深く考えるなよ、悪魔で俺の推測でしかないから。」 
「・・・は? ・・・あ、いやそんなことはどうでもいいんですけど・・・」 
「問題は何鬼まで白髪が扱えるのかってことよね・・・」 
「あ、そ、そうかい・・・・?」 
彼女の子と言えばそうだが、中身はやっぱりこの子だな。 同じように頭をひねるヒカリとタマモに、エイムズはやさしく笑った。 

PM01:03 日本GS協会本部第1作戦司令室 

「ふい〜。」 
ぷしっ 扉が開き、カオスは額の汗をぬぐいながら美知恵の前にやってきた。 
「終わったぞい。」 
「ご苦労様です。」 
「例の銃の方も何とか使えるようにした。 バッテリーはマリアなら一度に3つは持ち運べるが、残りは地下で充電中じゃ。 明日までにもう1つはできるじゃろう。」 
「テストは無理ですね、しかたありません。」 
「リミッターを調節しといたから暴発したりはもうせんじゃろう、バッテリー1つで3、4回は撃てる、十分だと思うが・・・?」 
「十分ですよ、カオスさん。 ゆっくり休んでください。」 
「そうさせてもらおう、それよりまずは飯じゃな。」 

PM03:52 外務大臣宅(玄関前) 

「ああ――――!」 
「どうしました!?」 
「犬塚さん!?」 
「拙者病院に八房を忘れてきた! すっかり忘れていたでござる!」 
「仕方ないですね、シロさんはもう行ってください。 刀を回収したらそのまま都庁へ。」 
「いやしかし、拙者は明日の5時までは・・・」 
「いいですよ、後は僕が引き継ぎます。」  
「う―ん・・・」 
「僕も式典が始る前には戻ります、行ってください。」 
「・・・・すまん。」 
くるっと反転すると、シロは走り去った。 
「いいんですか?」 
「いいさ、それより呪場探知機はどうだ?」 
「もう少しで照合終わります。」 

PM06:44 白井総合病院 

「いや―、しまったしまった。」 
階段を駆け上がるシロは小鳩の宿直室に急いだ。 扉に手をかけるが鍵がかかっている。 
「む、誰もおらんでござるか?」 
開こうとする手に思わず力が入った。 ばきっ 
「あ・・・・・・・・非常時でござるからな、経費で落そう。」
部屋に入って扉を閉めると、机に立てかけてある刀を手に取った。 
「これじゃ泥棒と変わらんな、ついでに何か持ってくか?」 
刀を担いでけけけと笑う。 机の上にあるカルテにふと目が留まる。   
「・・・・カルテ・・・・・ヒカリは小鳩殿が担当したんだよな・・・・・」 
シロは外に気を配ると、静かに素早く部屋を出た。 
「・・・・・・診察室は・・・こっちか。」 
再び階段を駆け上がり、廊下を走る。 
「ちょっと! 廊下は走らないで・・・!」 
「すまん!」 
看護婦にぶつかりそうになりながらも診察室に飛び込む。 がらっ 
「・・・・・」 
よし。 扉を閉めると、小鳩の机を引っ掻き回した。 
「・・・・!?」 
1つのカルテを手にしたシロは確かめるように何度もそれに目を通した。 
「・・・・・・・・・狐め!」 
がらっ 
「誰だ!?」 
「シ、シロちゃん・・・!?」 
小鳩は振り返ったシロの目に、背中に冷たいものを感じた。  

同時刻 外務大臣宅 

ピートは静かに現場に立っていた。 この感じ・・・・ 焼け残った札にそっと指を当てる。 
「・・・・・」
「ピートさん、ピートさんの出したサンプルとの照合結果、かなり類似してますよ。」 
「・・・・そうか・・」 
まさか・・・・・でもこれは・・・ 

同時刻 都庁内調印式予定会場 

「おじさん、じゃあ、私達1度戻ります。」 
「わかった、なるべく早く戻ってくれよ。」 
「とりあえず内部のことはわかったから。 それに私の仕事に場所は関係ありませんよ、それのあるところが、私の仕事場です。」 
「・・・できればついていてやりたいが、俺はここから離れることはできない。」 
「大丈夫、行こう、タマモ。」 
「了解。」 
エイムズにブイサインを残し、ヒカリとタマモはエレベーターに走った。 

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※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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