GS美神 ひかり

第九話   錯綜


PM08:10 横島除霊事務所

「突然お邪魔してしまってすいません。」 
「いえ、お構いなく。 今お茶を入れますからどうぞ座ってください。」 
「はい。」 
愛子はキッチンへ足を進めた。 黒いスーツに少し長めの黒い髪を後で小さくまとめた少年は、窓を閉め、改めて頭を下げた。 後に立つ同じく黒いスーツにサングラスのショートカットの女性に、ヒカリの目が行く。 
「・・・・・」 
「僕はザンス王家第2皇太子のウェイドです。 横島さんにお話があって来ました。 どうか無礼をお許しください。」
「横島は私です、皇太子。」 
ヒカリは軽く手を挙げる。 
「お時間、いただけますか?」 
「・・・・・わかりました。」 

PM08:15 ??? 

瞳を開いたフリノはベッドの上で起き上がった。 
「つっ・・・・」 
左手で右腕を押えようと手を伸ばすが、わずかに触れただけで顔をしかめた。 
「無理はしないほうがいい。」 
顔をしかめたため細くなった目で顔をあげると、ミリアが包帯と救急箱を持って部屋に入ってきた。 
「何日だ・・・?」 
「22日だ、心配するな。」 
ミリアはベッドに救急箱を置くと、ベッドの脇に座った。  
「包帯を替える。」 
「・・・・すまん。」
「ふふっ。」 
「何だよ?」 
「いや。」  
フリノはベッドから足を下ろし、ミリアと並ぶように座った。 
「横島君はどうだった?」 
「ああ、期待以上だ。」 
「趣味に走りすぎるから引き際を間違えたんだろう?」 
「くくくっ。」 
「一応リーダーなんだ。 やることはやってもらいたいんだが?」  
「・・・・・わかってるさ。」 
立ち上がったフリノはミリアの前に立ち、かがんで顔を引き寄せた。 互いの唇が重なる。 
「・・・そういう意味じゃないんだが?」 
「今はこれが仕事だ。」 
「アホ。」 

PM08:18 町田市歩道 

「何だよったく、追い返しやがって。」 
「まあまあ〜、怒っちゃ駄目よ〜涼介君〜。」 
涼介とインダラに乗った冥那は蒸し暑さに汗を流しながら歩いていた。 
「お仕事のことなんだから〜、仕方ないじゃない〜。」 
「俺もやってんだよ、そのお仕事を。」 
「困った子ね〜。」 
「だからそれやめろって。」  
涼介は額の汗をぬぐった。 
「だいたい何で皇太子が単身ヒカリんとこに来るんだ? 普通ないだろ?」 
「な〜に〜? やきもち妬いてるの〜?」 
「ばっ、違う! そうじゃねえ!」 
「つば飛ばさないでよ〜。」 

PM08:20 横島除霊事務所  

「やっぱり、エミさん!」 
「久しぶり。」 
サングラスを取ったエミは軽くウインクをした。 
「何で、どういうことなんです?」 
「転職したの?」 
ヒカリ、タマモの反対側のソファーに座ったウェイドとエミは、カップを置いて口を開いた。 
「ま、いろいろあってザンス王室に雇われてるワケ。」 
「消息不明というのは?」 
「なんか訳あり?」 
「それについては僕から説明します。」 
ヒカリはウェイドに顔を向けた。 
「彼女には呪術の第一人者として、アリマトの調査のために極秘にザンス王国に残ってもらったんです。 表向きは行方不明、ということにして。」 
「調査?」 
「ええ、4年前のアリマトはもうありませんが、その犠牲者のこともあります。 何よりアリマトが一振りしかないという保障はありませんでしたから、王室としては、何とか治療の手段を見つけたかったのです。」 
「で、結論は?」 
タマモが閉じていた瞳をウェイドに向ける。 
「治療法が見つかったの?」 
「残念ながらまだなワケ。」 
タマモの鼻がかすかに動く。 こいつ・・・・・? 
「いくつかの国からも研究者を招いて調査中ですが、まだ・・・」 
「ところで、私に用というのは・・・?」 
「はい、今回あなたをアリマトの兼で雇いましたが、それを断ってもらいたいのです。」 
「!?」 
「は?」 
「今さらですか・・・?」 
愛子がヒカリの後から身を乗り出した。 
「もちろん、今日までのことには感謝しています。 約束の金額もお支払いします。」 
「・・・・・」 
「あなたが必要ないという訳ではありません。 ですが、横島夫妻の子であるあなたに、危険を冒して欲しくないのです。」 
「・・・・・」 
「もし間違って傷を負ったら助かりません。 僕はあなたに・・」  
「あなたはそれを言いに日本に来られたのですか?」 
「は、はい・・・?」 
「嘘ですね。」 
「もちろん他に用件があって来たことは確かですが、半分以上はこのことを言いに来たんです。」 
「・・・・・」 
沈黙が訪れ、互いに相手の目を見やった。 タマモがカップを置いた。 
「あんた、アリマトで切られてるんじゃないの?」 
「!?」
「!」 
目を見開いたウェイドは、すぐに口が閉まらなかった。 
「・・・・・・・ええ、そうです。」 
「あんたはだいぶ弱ってる、それにその手、つくり物でしょ?」 
「・・・・・」 
ウェイドは左手にしかはめていない手袋を外した。 黒いスーツの袖から義手が現れた。 
「!?」 
「これがアリマトの力です。 僕の体もそう長くありません。」 
「ウェイ、話したほうがいいワケ。 見栄を張ってもしょうがないわ。」 
「そうですね・・・・・簡単なことです。 死ぬ前に自分の手でアリマトを破壊したい、それだけです。」 
ヒカリは初めてウェイドに笑った顔を見せた。 
「ん、素直でよろしい。」 
ウェイドも頬が緩み、エミもまた微笑んだ。 ウェイドは義手に手袋をはめた。 
「しかし後継者の方は?」 
「姉がいますから。 婚約者も決まっています。 彼らに任せれば大丈夫です。」 
「若いのにあっさりしてるわね。」 
タマモがやれやれとため息をついた。 
「お母さんは?」 
「母とはよく話をつけました。 僕の好きにさせてもらってます。 日本で行動するにあたって、エミさんに案内を頼みました。」
「ま、そんなわけで久しぶりに日本に帰ってきたワケ。」 
「え?・・・・じゃあ、皇太子捜索願いが出ているのは・・・」 
「無視していいです。 黙っていたからといって、罪になったりはしませんから。」  
「ずいぶん勝手な話じゃないですか。」  
「そうね、あんたも、本当ならこの王子さんを止めるべきじゃないの?」 
「エミさんは僕に脅されて仕方なく同行しているのです。 彼女に非はありません。」  
「そういうことになちゃったワケよ。」  
ヒカリとタマモは互いに顔を見合わせた。 
「わかりました、あなたの思うようにすればいいでしょう。 それで私に何の御用でしょう?」
「会いに来たんですよ、あなたに。」  
ウェイドは改めてヒカリの顔を見つめた。 
「私に・・・」 
「はい。 ずっと、会えるのを楽しみにしていました。」  
ウェイドが立ち上がり、右手を差し出す。 
「ほら、ヒカリ。」 
愛子が後から肩を叩く。 ヒカリも立ち上がり、右手を出した。 テーブル越しにウェイドがその手を握った。 
「あなたのご両親には大変お世話になりました。 そして我が国の為に亡くなったこと、どうか許していただきたい。」 
「2人が望んでやった結果です、どうか気にしないで下さい。 それにもう、こういう挨拶には飽きました。」  
「・・・・・」  
「・・・・・・何か?」 
ウェイドは握った手を引き寄せた。 
「?」 
テーブル越しにヒカリの体を引き寄せその体を受け止めると、ヒカリの唇に自分の唇を重ねた。 
「おお。」 
「ふっ。」 
「うわああ・・・!」 
腕組みをして軽く目を見開くタマモに、瞳を閉じてカップを口に運ぶエミ、そして口元で両手を合わせてぎんぎんに目を見開く愛子がいた。 
「これは兄のシェイナからです。 あなたに1番会いたがっていた。」  
「お兄さん?」 
ウェイドは握っていた手を離した。 
「ええ、でもあなたに会ってわかりました。 やはりあなたには危険な目にあってほしくない。」  
「私はやめませんよ、皇太子。」 
にっと笑うヒカリに、ウェイドもつられた。 
「・・・・・そうですか。」  

PM08:45 町田市某タクシー乗り場

「嫌な予感がする・・・・」 
「な〜に〜?」  
トランプを握った涼介は、その1枚のカードを食い入るように見つめた。 
「何か、何か悪いことが起きる。」 
「ええ〜!? 本当〜!?」 
頬を両手で押えた冥那はおろおろしだした。 
「と言うよりもう起きてしまっている・・・・ああ〜何かすごく悪いことな気がする!」 
「ええ〜〜!? もしかして〜もしかして〜、お母様のアルバムに落書きしたのがばれたのかも〜!?」  
「あああああ・・・何だこの感じは―!?」 
「ひい〜〜ん、どおしよ〜〜〜〜〜〜!?」 

PM08:47 横島除霊事務所 

「これよ! これが青春なのよ! 私が求めていたのはこれなのよ―!」 
両こぶしを握り締めて天を仰ぐ愛子にウェイドは後ずさった。 
「ど、どうしたんですか・・・彼女は・・・・?」
「気にしないでください。」 
「そ、ああいう病気なのよ。」  

7月23日 AM09:52 都庁下日本GS協会本部B2F視聴覚室

「お待たせしました。」 
「!」 
西条、ピートに続いて年配の女性が入り、戸を閉めた。 大きなデスクには、壁側にヒカリ、タマモ、エイムズ、セリナ、涼介が座り、通路側にピート、カオス、マリア、島崎、桐原が座っていた。 
「何で・・・」 
「ヒカリ。」 
つぶやくヒカリをタマモは小声でたしなめた。 
「何であの人がここに来る・・・?」 
西条とその女性が正面に座った。 
「それでは全員そろいましたので、今後のことについて協議を始めます。 あいさつが遅れました。 日本GS協会の監査官代表として今回臨時に職務復帰となった美神美知恵です。」  
「・・・・・」 
「よろしく。」 

AM10:05 成田空港正面玄関 

「く――――っ、やっと着いたか。」  
足元にリュックを置いたシロは両手を天に突き出して大きく伸びをした。 頭上を騒音が飛んでいく。 
「しかし・・・」 
新聞を手に取って広げる。 
「まったくいい度胸してるでござる。」  
けけけとシロは笑った。 

AM10:08 日本GS協会本部B2F視聴覚室 

暗い室内の大きなモニターが映し出された。 白髪の男の写真が2枚、大きく並んで映る。 
「これが今回の首謀者と思われる人物です。」 
機材の横に立った桐原が手元の書類を読み上げる。 
「名前はフリノ・アルフレッド・ティンバー、年齢37。 シーラムの中でもかなり高い位置いる男です。 元ザンス王国ケルマ地区の大学講師で、同時に遺跡の調査チームに参加していました。 当時から戒律を破ることには強く反対していたようです。 シーラムのメンバーとして活動するようになったのは約9年前からで、多くの信者が彼を指示しています。 霊圧もかなり高く、複数の精霊獣を同時に扱います。」   
「結構。」 
証明がつき、明るくなった室内に目が細くなった。 
「おそらく敵の目的は日本側から国際関係を断ち切らせること。 ザンス王国と関わりを持つことでより大きな損害が出るとなれば、一般市民の中からも貿易反対の声が挙がるとふんだのでしょう。」 
「我々もそう思います。」 
美知恵の話にエイムズが口を挟んだ。 
「しかし現時点ではもはやそのような次期は過ぎています。 今や日本とザンス王国は互いに多くの製品を取引しています。 今更貿易がストップしたら経済面で大きな混乱が起きるでしょう。」
「・・・・・」 
ヒカリは黙って美知恵を見つめていた。 見た目は年寄りでも、その霊力に衰えはないわね。 
「日本側はテロに屈する気はないと決定しました。 ザンス側にもその旨協力をお願いしたいのですが。」 
「もとよりそのつもりです、な。」 
「はい、我々も協力は惜しみません。」 
「感謝します、エイムズ君、セリナ大使。」 
3人は互いに微笑む。 
「・・・・・」 

AM11:30 神奈川県川崎市慰霊公園 

波の臭いを嗅ぎながらシロは石畳の道を歩いた。 大きなケヤキの立った芝生で、家族ずれがボールを蹴って遊んでいた。 
「懐かしいな・・・」 
まあ、いいか・・・ 道なりに歩いたシロは、霊園を通り抜けて中央に向かう階段を登った。 小高い丘陵になった広場に出、噴水の中心にある球体の石碑が見えた。 その前で足を止めた。 
「お久しぶりです。」 
噴水の脇に立ったシロは、それを見上げた。 
「横島先生、それに・・」 

PM12:15 日本GS協会本部B2F視聴覚室 

「では以上で本日の協議を終了します。」 
立ち上がった美知恵が退室し、島崎、そして西条がそれに続いたが、出掛けにヒカリに軽く手を振った。 ヒカリもそれに応えた。
「・・・・・」 
「で、これからどうする?」 
「とりあえずお昼にするか。」 
「腹が減ったしのお。」 
「そうね。」 
「俺は遠慮しとくよ。」 
「僕もちょっと・・・」 
涼介とピートが出口に向かう。 
「何、男2人でお出かけ?」 
タマモがにやける。
「ふっ、ちょっとな。」 
「桐原君、行くぞ。」 
「は、はい。」 
3人が出て行くと、カオスが勢いよく立ち上がった。 
「では行くぞ! マリア、お持ち帰りの準備じゃ!」 
「イエス、ドクター・カオス。」 
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」 

PM12:18 日本GS協会本部B2F廊下 

「結局何もわかりませんでしたね。」 
西条は前を歩く美知恵に話し掛けた。 
「うまくかわされたわ。 でももしそうなら、あの子が怪しいわね。」  
「ヒカリ君のことですか・・・?」 
「ええ、1個人のGSを雇うなんて少しおかしいわ。 戦力増強を図りたいのなら私達に要請するのがふつうよ。」  
「確かにそうですが、彼らの言い分はある意味すじが通ってます。 我々ではやはりどうしても行動に制限がかかります。」
「ザンス王国として雇われた者なら多少の無理は許されるから・・・・気に入らないわね。」 
「失礼なやり方だとは思いますが・・・」 
「それにあの子達をGメンの管轄に置くことを拒否してきた。」
「我々は期待されてないんですかね・・・・?」  
「彼らにしてみれば、第一級の呪的危険物を持ち込んだなんて不手際はなんとしても隠し通したいところでしょうからね。 今後の摩擦の影響も考えると、かなりふっかけられることになるわ、ばれたりしたら。 そうなるとこっちのフリーGSを雇うのが手っ取り早いってとこかしら。」 
「しかしいくら優秀でも、ただのGSにそんなことまで期待できるものですか? あいては霊や妖怪とは違うんですよ?」 
「そうね、1GSにそこまで期待するなんてありえない。 何か理由があるわね。」 
「横島君の子だから・・・・でしょうか?」 
「あの子に横島君ほどの力はないわ。 あなたや令子ほどもね。」 
「しかし他に理由が考えられません。」 
「・・・・まあいいわ。 どちらにしろ、今はアリマトの真偽がわからない以上余計なことは考えない方がいいわ。」
「そのことは・・・」 
「まだ上には伏せておくわ。 ただし、見過ごすこともできません。」 
「・・・・・」 
「何か言いたいことでもあるの?」 
「・・・いえ、何も。」 

PM01:45 日本GS協会本部霊動実験室 

「涼介君、準備はいいですか?」
「ああ、いつでもいいぜ。」  
「桐原君、やってくれ。」 
「はい。」 
桐原は指先でコンソールを叩く。 
涼介は目の前に霊気が収束していくのを見つめた。 それはやがて人型をかたどり、その姿をあらわにした。 
「ふっ、・・・・・くうおおおお・・おお・・・お・・おおお!」 
涼介は仁王立ちのままこぶしを握り締め、体を奮い立たせる。 ばしゅっ 鎧が体を覆う。 
「ぐわああっ!」 
額から2本のつのを生やした長髪の鬼が、剣を振りかざして突っ込んできた。 
「はっ!」 
霊波弾を投げつける。 鬼は左手でそれを殴り飛ばした。 どかあああん 粉塵の中から突き出された剣が空を切る。 飛び上がり、ドーム状の天井に体を反転させて足をついていた涼介は鬼に向かって天井を蹴った。 
「くらえ!」
「がああああああっ!」 
どがああああ・・・
涼介の手と鬼の口から吐き出された霊波がぶつかり弾ける。 その爆音が鳴り止まぬ間に、全体重のかかった剣と牙がぶつかる。 どかっ 鬼の腹を蹴って間合いをとる。 着地のする前に鬼が剣を投げたのが見えた。  
「ちっ!」
足が地につくと同時に右腕を振り上げた。 ばきんっ 剣を切り弾いた右手の牙が折れ、飛び散る破片が鎧をかすめる。 
「うがあああっ!」 
鬼の口から閃光が吐き出された。 
「だあああ!」 
左腕から牙を伸ばし、縦にそれを切り裂く。 左右に飛び散ったそれが壁にぶつかる。 どっどおお!「くあああ・・・」 
裂けたような口をさらに広げた鬼は、笑いながら涼介にゆっくり近づいてきた。 立ち上がり、左手の牙を突き出してかまえる。 
「さすが親父の元兄弟弟子ってとこか・・・?」 
鎧の中で、涼介もまた笑っていた。 

PM02:48 ザンス王国大使館 

「エイムズ、あなた本当に大丈夫なの?」 
向かい合って座っていたセリナは、足を組んで書類に目を通しているエイムズに聞いた。 
「言ったろ? 脳にも異常はない、問題ないさ。」 
「ならいいけど・・・」 
「すまなかったな、心配かけて。」  
「あなたが寝てる間にいろいろ押し付けられたわ。」 
「埋め合わせはさせてもらうよ、今回のことがすんだらな。」 
「期待しないで待ってるわ。」 
「ふっ。」 
書類をテーブルに置き、カップに手を伸ばす。 
「ふう・・・・うまい。」 
「どうも。」 
「しかしアリマトが本当に持ち込まれていたとは・・・」 
「そうね、心労がかさむわ。」 
「無差別に切りまわらないことから考えても、やっぱり何らかの制限があるのかな?」 
「所有者に話しかけてくるって言う、あれ?」 
「刀身に刻まれた文字に、何か意味があるかもしれないらしいが・・・」 
「もし本当に契約が結ばれているのなら、アリマトが戒律を破った者を敵と見なしているってことにならない?」 
「精霊はタブーを破ったことに怒りを感じているのか・・・・」 
「そして私達は、異教の戦士を頼る・・・・・昔話の逆ね。」 
「こんなことになるなんて、誰も思わなかったさ。」 
「私達、間違ってるのかしら・・・・?」 
「さあな・・・」 
エイムズは窓の外に目をやった。 

PM03:20 東京都墨田区某ホテル(1205号室 スイートルーム) 

「アリマトは、もともと外敵から僕達を守るために精霊が与えてくれる剣だと言われています。」 
「何度も聞いたワケ。」 
窓辺に立って町を眺めるウェイドは後でソファーにくつろいでいるエミに話しかけた。 
「魔物や異教徒が国を脅かした時、精霊が真に国と民と精霊を思う者にアリマトを貸し与えます。」 
「真にね・・・」 
エミは足を組んで、耳に入れた耳かきを注意深く動かしながら聞いていた。 
「アリマトを持った者はアリマトの声を聞き、全ての悪を切り裂く。」 
「そして切られたものは、必ず死ぬ。」
「はい。」 
「今更何言い出すの?」 
「1つだけ、こんな昔話があります。」 
「?」
「ある時、多くの異国の民がやって来ました。 彼らは戦で自らの国を追われ、ザンス王国に流れてきました。 争いの民だった彼らは、自らの国を作るためにザンスの民を追い出し、新しい国を作ろうとした。」
「はいはい、先が読みやすいワケ。」 
「それに怒った精霊が一人の女性に剣を与えた。 彼女はその剣で争いの民と戦った。 しかし争いの民は光る剣を振るって激しく抵抗した。」 
「光る剣?」 
「彼女は何人もの争いの民の剣を折り、戦った。 そして最後の1人と切り結んだとき、彼女の剣は折れた。」  
「初耳ね・・・・それで?」 
「彼女は死んだが、最後の一人もまた、傷が広がりやがて死んだ。 それで終わりです。」 
「ふ〜ん、私らには聞かされてない伝承があったワケね。 で、話しちゃっていいワケ?」 
「この話はあまり知られてないんです。 ある地区の、小さな村だけに語り継がれているのを、偶然父が聞いたんです。」 
「隠された伝承ってとこなワケね。」 
「エミさん、僕はただ感情のおもむくままに日本に来たのではありません。」 
「あら、そうなの?」
振り返ったウェイドはエミに顔を向けた。 おもむろに右手を差し出す。
「はっ!」 
ぶううんっ 青白い霊波刀が伸びる。 
「!? おたく、それ・・・」
「昔、横島さんに教わりました。」 
「横島に?」
「精霊から授けられしアリマトを折ったのは、おそらく霊波刀です。」 
「!?」 
「どこからどこまで信用できるかはわかりません、悪魔で可能性の1つです。」 
「まさか、ヒカリを選んだのは・・・・」 

PM 03:02 日本GS協会本部霊動実験室 

雪女の口から吐いた吹雪を上に跳んでかわし、髪の毛を引っ掴んだ涼介は、後頭部に手のひらを当てて霊波を放った。 ばがっ! 
「次!」 
頭を吹き飛ばされた雪女が消え、人ほどの大きさのある巨大な蝿男が現れた。 
「ベルゼブル・・・!?」 
振りかざされた爪をかわして体勢を整えようとするが、スピードで遅れ、背後をとられる。 
「ちいっ!」 
「すごいな・・・」
外から見ていたピートはつぶやいた。 
「やっぱり雪之丞君の子だとしか言いようがない。」 
「そうですね・・・私ではとてもあそこまでは・・・・」 
羽を掴んだ涼介は、背中に蹴りを入れた反動でそれを引きちぎった。 桐原もまた息を飲んだ。 
「桐原君、もう少し付き合ってもらえるかな?」 
「え?」 
「次は僕がやる、なんかじっとしてられないんだ。」 
「わかりました。」 
ベルゼブルの顔を殴り飛ばすダークグリーンと黒の鎧に、ピートは思わず体を振るわせた。 負けてられないな。 

PM03:25 横島除霊事務所 

「・・・・・ねえ、ヒカリどうしたの?」 
愛子はソファーにあお向けに寝そべるタマモに歩み寄った。 
「ん、何で?」
「だって夕飯まで寝かしてほしいって・・・」 
「いつものことでしょ。」 
「そうだけど。」 
「嫌いな奴には会いたくないのよ、誰だって。」 
「誰のこと?」 
「さてね・・・・・・・ !?」 
首だけ起こしたタマモは玄関に目を向けた。 
「どうしたの?」 
「お客よ、大飯食らいの。」  
ぴんぽ―ん ぴんぽ―ん 
「あ、本当だ。 ん、大飯食らいって?」  

PM04:10 東京都墨田区某ホテル(1205号室 スイートルーム)

バスローブを着たエミは、頭をタオルで拭きながらバスルームから出てきた。 
「ふう・・・」 
タオルをソファーに投げ、どさっと体を投げ出す。 
「・・・・・」 
「いいんですか?」 
「!」 
うつ伏せのまま瞳を開く。 ウェイドが近づいてくるのが足音でわかる。 
「何が?」 
「せっかく帰ってきたのに、会わないんですか?」 
「いいのよ、それに私もいいおばさんなワケ、こんな姿は見せらんないわ。」 
「十分綺麗だと思いますけど。」 
「子供に誉められてもうれしくないワケ。」 
「じゃあ、子供の前でそんな格好で寝ないでください。」 
「ふふん。」 
ウェイドはソファーに座り、缶ジュースをぷしっと開けた。
「後悔しますよ。」 
「・・・・・」 
「僕はこんなだから、余計にそう思えます。」 
「説得力あるわ、まったく・・・」 
エミは体を起こすと座った。 
「でもね、ウェイ。 私なんかよりヒカリみたいなのと一緒になるのが彼の為なワケ。」 
「横島さんだっていずれ歳をとるから同じじゃないですか?」 
「女心がわかってないわ、あんたは。」 
「・・・・・男ですから。」 

同時刻 日本GS協会本部B3F廊下(エレベーター前)  

「調印式をこの都庁で!?」 
「ええ。」 
スイッチを押した西条はそのままの格好で美知恵を振り返った。 
「しかし、えらく急ですね。」 
「仕方ないわ、手続きがいろいろ面倒だけどこれは私が何とかするから、あなたはエイムズ君達と警備の配置をお願い。」 
「は、はい!」 
「27日は私はここを動けそうにないから、警備の指揮は任せるわ。」 
「マリアの許可は出ますか?」 
「もう取ったわ。 後で書類を取りに来て。」 
「はい。」 

PM04:38 横島除霊事務所  

「そうか、拙者のいない間にそんなことが・・・」 
「まあね。」 
シロはソファーの上であぐらをかいて座っていた。 タマモは足を組んで座り、新聞を読みながら声だけで返事をする。 
「しっかしさすがヒカリ、ザンス王国からじきじきに依頼が来るとは、やっぱり先生が良かったからでござるな。」
「相棒が良いからよ、相棒が。」 
「そおか?」 
「そうよ。」 
愛子がキッチンから顔を出した。 
「シロちゃん、今日どうするの? 夕飯何か食べたいものない?」 
「おお、かたじけないでござる愛子殿。」 
「いいのよ、で?」 
「久しぶりに和食が食いたいでござるな、和食なら何でも。」 
「わかったわ。」 
顔を引っ込める愛子によろしくと手を挙げる。  
「・・・・・で、内緒の依頼は拙者には話せないか。」 
「話せないわ。」 
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・」
「・・・?」
「く〜〜〜〜〜〜〜、ヒカリも立派になったもんだ、拙者鼻が高い!」  
こぶしを握り締めて涙を流すシロに、タマモは愛想笑いで返した。 
「3年ぶりでしょ、見違えるわよ?」 
「そうか・・・・しかし相変らず良く寝るな。 拙者が帰ってきたというのに・・・」 
「散歩狂よかましよ。」  
シロはヒカリの部屋のドアに目をやった。 その部屋の中で、ヒカリは眠っていた。 カーテンを閉じて薄暗くなった部屋に、クーラーの機械音だけが静かに響いていた。 ベッドの上にうつ伏せに投げ出されたヒカリの体は、左の二の腕に包帯が巻かれていた。 そしてその端から、黒ずんだ肌がわずかに覗いていた。 

PM05:00 六道邸(お仕置き部屋) 

「ひ〜〜〜ん、お母様〜許して〜〜〜〜!」 
サンチラにぐるぐる巻きされた冥那は天井からロープで逆さに吊るされていた。 
「えへ〜〜〜んっ血が上ってきた〜〜〜〜〜!」 
車椅子の冥子は下から笑顔で見上げていた。 
「だめですよ〜、今回と言う今回は、絶対許しません〜! マコラ〜!」
マコラは巨大ななすに姿を変えると冥那に飛びついた。 
「きゃ〜〜〜〜! なすは嫌〜!」 
「好き嫌いは駄目よ〜?」 
なすの胴から大きな1つ目と口が開かれた。 
「ナスビイイッ! ナスビイイイイッ!」 
「いっや―――――――!」 
冥子のひざの上には何枚かの写真が握られており、その1枚がひらっと床に落ちた。 若かりし頃の令子に飛びついた冥子の写真だが、2人の顔には無残にも髭が生えていた。 
「そおれまだまだよ〜!」 
「んっきゃ――――!」 

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※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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