〈GSM Mission To Heaven〉
Long eternal time
――私は永い時が欲しい――

著者:ロックンロール


Prologue――序章――

「お前の名はメフィスト……メフィスト・フェレス……解ったな……我が娘よ」
 声は朗々と闇の中に響く。そして、その声の主は部屋から去った。
 彼はその声を黙って、聞いていた。最早数百年を生きた……この声の下で。彼自身が生まれたときもそうであったように、今、彼の主の手によって、新しい兄弟、姉妹が生まれるのを見届ける。これが彼の仕事だ……そう、生まれた瞬間からの。
 それについて疑問に思ったことはない。当然だ。魔族として生まれたからには、そのことは、きわめて自然なことであった。だから彼はただ、自分が行うべくして在る、自分の発生理由となる役割を果たせばよい。そう思っていた。
 この美しい魔族にはどのような役割が与えられるのだろう。彼は思った。存在理由は、その魔族自身の行動に顕著に表れる。この魔族の運命は生まれた瞬間に与えられた命令によって決まるのだ。
 待つことは苦痛ではない。慣れたことだった。この魔族が目覚めるまでは、彼は何百年でも待ち続けなければならない。実際に過去、そのような事もあった。
 しかし今回は違ったようだ。
 美しい魔族はゆっくりとその切れ長の瞼を挙げる。そして、そのまままっすぐに彼を見つめた。そして、言う。
「お前は誰? 私を造ったのはお前か?」
 彼は答えた。その瞳を見つめながら、一言一言はっきりと。
「お前の名はメフィスト・フェレス。そしてお前を造ったのは、上級魔族アシュタロス様だ。アシュタロス様は先程眠りについた。それ故、今はお前に与えられる命令を言うことは出来ぬ。お前はこれから、京の街に行き、菅原道真の命により動け。アシュタロス様がお目覚めになる日まで……」
 美しい魔族――メフィスト・フェレスは目を閉じ、一息すった後で、言い放った。
「ヤだ」
 ……………………………………………………………………………………………………………
 唖然とする――というより、自己アイデンティティーの崩壊を起こしている――彼の横を通り過ぎ、メフィスト・フェレスはつかつかと去っていく。
「せっかく造られたんだし、まあ感謝はしてるけど……自分の生き方は悪いけど自分で決めたいの。ごめんね」
 その辺りで彼はようやく我に返った。そう、その様なこと……させる訳にはいかないのだ。
「どこに行こうというのだ……メフィスト・フェレス! 反逆者に与えられるものは完全なる消滅しかないのだぞ……!」
「しつっこいわねー、私の生き方なんだから私が自分で決めたっていいじゃない」
「しつこいのはお前だ、メフィスト・フェレス! 魔族の生き方はそうではない! 断じて違うっ……! 創造者の命により生きる。それが我々魔族の生き方。それが分かっているのか!? メフィスト・フェレス!」
「生まれたばかりでそんなこと分かるわけないじゃない」
「ならば素直により多くの経験をつんだものの意見は聞き入れるべきだと思うがな。メフィスト・フェレス。お前には経験がないのだ」
「じゃあ、あなたは自分が正しいと思ってる?」
「無論だ」
「質問その2。あなたは今楽しい?」
「……楽しい、だと?」
「と言うより、生まれてから今まで、楽しいことなんかあった?」
 考え込む。自分が生まれてから今までのことを思い起こしてみる。くる日もくる日も、この暗い部屋で今と同じ事をして過ごしてきた。その作業に感情の入り込む余地はない。
 楽しい。そういう概念など考えたこともなかった。
 考え込む。『楽しい』これは一体どういうことなのか? 無論、知識としては、彼はその言葉の意味を知っている。
 いや、知っているはずだった。しかし解らない。経験はこのような分野では全く役に立たない。
 むしろ、自分よりは造られたばかりのメフィスト・フェレスの方がこのような分野においては自然に知っているものなのかも知れない。
 そう結論付け、とりあえず目先の問題を片付けるために――無論メフィスト・フェレスを止めなければならない――意識を現在に戻す。しかし…………
「なっ………………!」
 メフィスト・フェレスは消えていた。どうやら、彼が考え込んでいる間に逃げたものらしい。
 そこには1枚の紙片が落ちていた。
『がんばって答えを見つけてね(ハート) メフィスト』
 ……自分に宛てた物らしい。
 彼は気持ちが不用意に緩んでいくのを感じていた。自分はこれから主の手によりこの世から消されるに違いないというのに……これもあの女魔族の影響だろうか?
「メフィスト……か」
 何故か、彼には、彼女がこれから魔族の常識を変える存在になっていくのが見えるような気がした。そしてその後に思ったこと。それは…………
「魔族には時間はまだある。次の世で会えるのを楽しみにしているぞ……メフィスト」
 そのときの彼にはまだ分からなかった。
しかし…………それは愛というものなのだ。

 時は移る。
――メフィスト……私は今、確かに生きているぞ。お前のおかげかもしれない。お前はどこにいる? もう逃がしはせん。私はお前を愛しているのだ――

――To be continued――


※この作品は、ロックンロールさんによる C-WWW への投稿作品です。
[ 続きへ ][ 煩悩の部屋に戻る ]