Nexstage-gaiden :coldsick[ah!my dragon-goddess]
liearary work : iky
part 2/4


Homesickness

   く〜〜〜〜〜〜 きゅうううううううん
 煤惚けた天井を見上げながら、辞任の挨拶とそれに伴うであろう雇い主の罵詈雑言への対処を考えていても、腹の虫は事情を鑑みてはくれずに食事を催促してくる。
  「ああ〜〜。ガキの頃のお袋が作ってくれたネギ韮卵カユが懐かしいぜ」
 地球の反対側にいるお袋さんが作りに来てくれるワケが無いが、無性に食べたくなった。
  (普通に風邪引いて、ここまで寝込んだのは小学生の時以来だよな)
 タマモに騙されて肺炎同然であった時も、一応良心の呵責から狐の万能薬で綺麗サッパリ治った。今はあの時よりはるかに申告だ。

 医者に懸かる事も風邪薬も無く、ここまでこじらせると流石に普段は成るべく会いたくは無いが、風邪で寝込んでいるので弱気になっていたと自分でも分った。やはり結局は薄情な他人よりも肉親の情に縋り付きたい。
  「会いたいな〜」
 強がりは鳴りを潜めて心情が自然に口をつく。男は強がれと親父に言われて育ったので、ギャグに逃げる事はあっても寂しいなんて感情は封印していたがやはり体が弱ると弱音も出る。
  「お袋もこんな気持ちだったのかな?」
 いずれ自分の元を離れるので、居られる時に居たいと言っていたのを思い出す。こんな寂しい思いをしているのかと思うと、自分が始めて感じて痛感した。肉親と離れるとは痛みでは無くて身に染みる辛さであると分った。

  「………………」
 その辛さを自分達より感じているであろう二人を思い出す。会おうと思えば会える恵まれた自分なぞ寂しがる資格など無い。会いたくても逢えないのだから、彼女等は。
  (逢いたいな………………二人に)
 魔界の戻った次女に逢うのはワルキューレとかに協力を頼まねばならないだろうが、三女なら妙神に行けばまた会える。いつか六道女学校での騒ぎ[筆者前作a senior admiration girl参照]の時の誓いを果たしていない事を思い出す。思い付いたら直ぐにと行きたかったのだが、食費に事欠く生活では今だ果たせなかった。しかし何とかしても会いに行きたい。自分が行って何が出来るワケでは無いが………………………………。返って迷惑をかけるかもしれないが、それでも会いたい。
 二人は、特にベスパは認めてくれないであろうが、自分は二人の兄でもあるのだ。無論法律も正式な婚姻関係の介在もないが、彼女等の姉と結ばれた以上は自分は義理でも兄だ。思い込みであることは百も承知だ。小津安二郎監督の”東京物語”って例もあるし・・・・・(無くなった息子の嫁さんと、両親の交流を描いた、血の繋がりよりも心の繋がりを描いた名作。瞠目して見て欲しい)。

 肉親の事を気遣うのに何の制約も受ける必要は無いと、意を決してベスパにも会いに行く事を決めた。
  「でも、やっぱ殴られるかもな…………………………」
 野望も恋も大事なヒトも失った恨みは深そうだから頭は痛かった。でも多分 恐らく 希望的に 殺される事は無いだろう……………と星に願った。
 願いつつ、ちょっと背中の古傷が痛んだ。

face reality

  ぎゅう ぐるるるるる 
 などと感傷に浸っても現実は去ってはくれない。いくら感傷に浸っても現実からの逃避は出来ないのだ(笑)。
  「何か食い物食わんと会いに行く前に死ぬな・・・・・・・・・・まだ何かあったかな?」
 脇のテーブルに二日前の夜食った”タマモ”の買い置きの赤いキツネとドンベエの開きカップを見た。あまりの空腹に絶えきれずに手を付けてしまった。”タマモ”の買い置きのカップ麺を。
  「あ〜〜〜あ。バレたら又3倍たかられそうだな」
 いつもなら用も無いのにやって来る二匹の顔が浮かぶ。
  「あああ。こんな時なら普段五月蝿い(うるさい)シロとかタマモでも、あのレズ妖精でもいいのにな〜〜〜」
 シロならいつもなにがし手には食い物を持っているので奪う事も出来るし、タマモも誰かのように鬼では無いし、レズ妖精も同じだ。来てくれれば死地からの脱出には手を貸してくれるであろう。

 何故かこの頃は住み着いている実家(事務所の屋根裏部屋)のハナレに成りつつあるこのアパート。どう見ても広さも、冷暖房完備であるので快適な筈なのに、何が気に入っているにか知らないが二人+数匹は用の無いのに(散歩を除いても)やってきていた。時折帰るのが面倒だとそのまま泊まる事もある。タマモによるとこの頃事務所の居心地が悪いらしい。「横島のせいだぞ」と気楽な男のヤモメ暮らしにキャピキャピ小ギャルズ(この頃スッカリタマモもシロ化していた)は邪魔だと文句を言ったら逆ギレで怒られた。「なんで?」聞くとこの頃自分がバイトを休むのが原因と言う。美神のみならずにオキヌも不機嫌の責任を相手構わずに当たり散らしているとの事だ。「逆パンチドランカーだな。あのヒト(女)ら」と、他人への攻撃でしか自己の正当性を確かめられない逆たこ八郎女の事を嘆息した。

   Wazzzzzzzzzzzzzzz Swaaaaaaaaaaaa Dizzzzzzzzzzzzzzz
 と何故かアメコミに喧騒の擬音が流れてくるのは、外泊許可を得る電話口の向こうの美神とオキヌの怒号であった。受話器から離れていても二人の怒号が”ギャン ギャン ギャン”と五月蝿く漏れ聞こえてくる。一応嫁入り前の若い娘が独身男の部屋に泊まるなんてお母さん許しませんってパターンであろう。大儀的に。
 タマモは電話の向こうに言いたい事だけは言ったと無視して電話をおいた。電話の向こうはどうやら横島が都の青少年育成条例(淫行)に引っかかるような悪さをするのでは無いかと疑っているらしい。まるで才能が無いヤツが描いた屑同人誌のような展開をだろう。
  「ばからしい。あの二人もオカシナ同人誌でも読んでいるんじゃないだろうな。サークル○○○とか、スタジオ△△△とかのやつを」
 有明ビ○グサイトで盆暮れに大挙して訪れる馬鹿相手に、同じ内容なのにキャラだけ変えたら飽きもせずに性懲りも無く、何故か多数売れている種類の、それのロリコンver本のような展開を疑う二人(あ〜長い説明台詞)の下らぬ勘ぐりを一笑する。
  [ちなみに上の文章は筆者も耳が痛い]

 確かに横島にとっては人狼も妖狐も守備範囲には違いない(いや、むしろど真ん中ストレートかも?)が、年齢と中身はパーペキな暴投だ。どちらも外見精々中坊に成りたてだし、中身はそれよりかなり下であろう。幾らか分別ついているタマモにしても、ただ今真っ盛りの第2反抗期であるから[#注壱]それからしても中身も大体しれているだろう。
 お泊りの時に横島から借りた寝間着に着替える時も、見ている前で行き成り脱ぎ始め「だあ!お前等。少しは恥らいを持てっての」と逆に嗜める事もしばしばであったぐらいだ。
 「なんで恥かしいんでござろうか?」「さあ?」「あ・・・・・・・・あのね」こんな会話がしばしばであった。相手が恥らいやらをもっていないのでは赤ん坊と同じだ。大体男は高校生ぐらい頃は大方年上が好みであるので、全く今の二人は範疇では無い。その件に関しては前述の同人誌に出てくるように有り体に破綻した宮○学のお仲間のような変態では無かったので、邪な気持ちが生まれ無かった。

 ギャグ漫画の主人公の定番で、突飛な行動がいささか突出した面ばかりがクローズアップされるが、良く読めば分るように横島はもしかして主要キャストの中では一番の常識人であったかもしれない。それを証拠に軽率な行動が許される場面と許されない場面をチャント心得ている。まあ、多分に無意識ではあっても、邪魔⇒暗殺 などと安易に他人の命を奪うような行動を取る西条などよりは余程分を弁えているであった。

 ただしそれでも健康な男の子。多分に寝乱れてアラレモナイ姿を見せ付けられるのは(多分シロだけだろうが)目の毒だ。理性もあるが、流石に一緒の部屋だと具合が悪いので、二人の居場所はいつも押し入れの中。
  『むぎゅう』
  『せまいでござる』
 押し込められて「か弱い乙女二人を押入れに監禁するなんて、まるで○○○○のような鬼畜だな」とタマモが危ない人名を出して文句を言っていたが、まあ元々の種族的な本能では穴倉居住が基本な二人なので大人しく中で就寝していた。
 シロの奴はガキなので狭い所が好きな事もあるし、この間は昔のアニメでも見たらしく「まるで○○ちゃんのようでござるな。じゃあ先生はダーリンでござるか?」とワケの分らない事を言い出し、おまけに「ではタマモはジャリ○○でピッタリでござるな。同じように火を吹くし。あはははははは、可笑しいでござる」「・・・・・・・(ピキッ)」

  ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 次の瞬間横島の部屋は業火に包まれた。
 どうやらタマモが配役を非常に嫌がったらしい。
 空も飛べば、こまっしゃくれているとか、ネタが尽きたのでトラブルメーカーが欲しくて出演した etc etcと妙に当たっているだけに(笑)。

 後日、一応は電話口では承諾しても、事務所に赴くと女二人は疑っているように出社と同時に皮肉とギロ目には事欠かない。
 まあ後3年ぐらい経って胸とお尻に肉が付いて、社会常識の勉強で転入している六道女学院中等科[#注弐]の制服が高等科になって、保健体育でメシベとオシベの話にクラスメイトと黄色い声を上げるくらいになれば、自分もその時は二十歳越えているから、東京都の淫行条例に抵触するスリリングで危険な香も合間って、何とか守備範囲に………………………………と冗談全部か半分で笑ったら冷たい目が四つと、固い物体が二つ飛んできた。
 しかし以前のギャグ漫画定番のように大人しくボケっと座して血反吐を吐いて昏倒するようなパターンには成らなかった。大体いつか西条の放った弾丸を剣で跳ね返す身体能力があるのに、今更女の細腕で投げられたモノ(前者秒速100メートル以上 後者20メートル以下)を避けれぬワケも無い。
 苦も無く避けた横島に女二人は何故避けると問う。激高&意表を付かれた二人を馬鹿を見るように冷たく見る横島。「軽い冗談と軽口で二人に怒られる覚えは無い」と逆に論理の矛を素気無く言い放つ。
  「え・・・・・」×2
 当然の対応に呆気に取られる二人。一貫している論理に二人は押し黙った。
 横島の表情には、以前のように二人に邪な思いを抱いている故に、他の女性の事が合った時の浮気が見つかったような後ろめたさなど微塵も無かった。

  「・・・・」
  「・・」
 元からお互いには恋人でも夫妻でも無ければ、男女を匂わす関係など何も無い。嫉妬をぶつける事事態が現実に促したならば馬鹿げた行動だと今更ながら思い知った。それは当然次の答えに到達した。
 もう胸の中に、多分以前は自分に向いていただろう”心”は無い・・・・・・・・・。それを貰ったのが自分ではないと。

campus dispute

 今時珍しいスイッチ紐が垂れた蛍光灯を見る。その紐は先日寝ている時に消すのに便利だと包装紙の紅いリボンで継ぎ足していた。それが隙間風にユラユラと揺れている。見たような気がしたので思い出すと、学校の女子にいつも紅いリボンでポニーテールにしている女子がいた。以前はピートの追っかけをやっていたが、この頃はトンとその姿が見えなくなった。その女子ばかりで無くて、今まで表現力に劣った原作者が人気者を表現する為の取って付けたマンガのような追っかけはいなくなった。ちょっと熱もあって呆けた頭のシノプス細胞は普段とは違う道を迂回して、あまり考えもしない考えが湧いてきた。
  (そう言えばアイツ等がよくやってくるようになった時期は学校で女達と、よ〜く話すようになったのと同じだったかな?)

 この頃は先の運気はともかく 何故か、学校の女子に休みの折によく話しかけられるようになったように感じる。今までであったなら用事でも合った時以外は殆どお喋りなぞしなかった。主に、多少美神やエミのような皮肉やチクリと来る物が言葉の端々に混じったような内容だが、どうも自分が不機嫌になるのを楽しんでいる節があって、女ってのはどうして男を口撃するのが好きなんだと思う。
 そう思えるようになったのは美神らで慣れたからだ。女ってのはとかく口では自分が優位に立てないと怒る。逆に言えば言い負かされていれば大概嬉しそうに笑っているモノだと、女性に虐げられるフリをするのが美神相手で慣れていたのでそうしてやっているので大概同級生らは上機嫌で、箸が転げたようにコロコロと笑っている。しかも美神のようにタチの悪い意地悪な笑みではないので、以前同じような目にあった時のように腹を立てる事も少なくはなった。
 そんな光景を見て「横島さんの何がいいんですかいの〜」と指を咥えるタイガーがいた。「いや、当たり前じゃないかな」と云うピートの意見を何とも言いがたい表情で聞き流す。どうやらタイガーらも、クラスの女子らに囲まれて歓談(女子限定)の状況は”女子にモテテイル”と思っているらしい。
 立場の違いは見解の相違を生むらしい。横島の見解は違って”からかい”又は”イジメ”や”逆セクハラ”なのだが。

  「ああ。ピート。こいつ等の話相手はお前の担当だろう。替われよ」
 タイガーと離れた所からクスクス笑っているピートに助けを求めるがニヤニヤ笑っているばかりだ。一言「本当にもてますねえ。横島さんは」と皮肉っぽく笑った。彼にソグワヌさも楽しそうな悪戯っぽい魔族のような笑みで。
「この状況のどこがもててるんじゃ。こいつ等俺を苛めて喜んでいるだけじゃないか。ドッカの性悪女のように。あんな女が世の中に増えたら事じゃ。お前ちゃんと教育しろよ」と責任転嫁に泣きが入る。
 その背中で楽しそうに笑うクラスの女子らだが、ピートの”もてますね〜”と言う言葉に少し頬を染める女子が居た事を気がついたのはピートだけであった。
  《まったく。危機に際しては物凄く鋭いくせに………………………………女性の事はとことん鈍いんだから。美神さん達も苦労するワケだなあ》
 その時にピートは意地悪して教えなかった。「横島さんも昔はやったんじゃないですか?好きな子にはワザと意地悪するって事を」とは・・・・・・・・。それは男の特権では無くて、女子も結構気になる男の子には意地悪をするものだ。そして今横島に意地悪をしている女子等も間違い無くそうであった。しかしピートは普段の博愛主義者らしく無く、今横島を喜ばせるような事実は教えてあげなかった。
 今横島と頬染めるのは押さえて歓談?している女性らは以前は自分の追っかけ?の女子らであったので、実はその〜内心、ちょっと人気を取られて口惜しいのだ。まあ女性が自分から興味を移すって事は始めての事では無い。大体外見や仕種で興味を引かれはするが、美人は三日見れば飽きる言われるように長続きする魅力では無い。女子も成長すれば何時までもジャ○ーズ事務所系馬鹿タレントに騙される馬鹿ばかりでは無い。
 まあ、それを公衆の面前で言わなかったのは横島にとっても助かった事もあった。女子を取られて歯痒い思いをしているのはピートだけでは無かったのだから。

 本人は別段何とも思っていないが、クラスの野郎共の視線は美神の魅力で酷い目にあっているのを知っているので口だけ暖かい?慰めの言葉をかけてくれていたモノから、呪いの言葉に視線も刺す様な痛いようになった。
 ピートなら………………………………認めたく無いが自分達より
 少し 
   チョット
       心持ち”美男子”で
               ”勉強家”で”真面目”
 で納得出来るが、同類たる横島が楽しそうに歓談(野郎達ビュー)しているのは許せ無いらしい。いつかのように”裏切り者”と云う恨みの篭った文字が踊る(横島の)持ち物。
 野郎達が黄色い声で笑っている女子の中に横島を見て、握った拳に爪が食い込んでいるチョット前には女子らの攻撃で泣きが入った横島があった事など知らないのだ。しかし、冷たい敵意の野郎共に説明しても誰も耳を貸してくれないので身悶えするのであった。

sail across the sky

   コンコン
 別段タマモが鳴いているわけでも無く、無機質に乾いた音。夕方になって風向きが変わったので、どうやら入り口ドアの窓ガラスが窓のサッシを叩いているようだ。
  「・・・・・・・・・・・・・・」
 いつもの事だと、ガラスティンパニーだと思って布団を被り直す。

   トントン
 今度は木材が何かに当たった音。けして上野動物園の白黒熊の名では無い様だ。
 外壁の立て付けが悪くなって、外壁同士が風に揺れて当たるようになって久しいが、大家は修繕費費用をケチって直してくれない。まあ誰一人共用費をまともに出していないのだから文句も言えないが・・・。

  Knock Knock Knock
  「・・・・・・・・・・・ん?」
 今度はアメコミのノック音が分り易く響いた。どうやら先程からの規則正しい木音がノックと分った。
  (誰だろ?お袋だったらいいな。離婚でもいいから・・・・・・)
 いつ事務所を辞めてもいいと思えば三食あり付ける百合子との生活の方がなんぼかましだ。特に極限的な空腹状態ならば尚更興味も無くなった色香よりは食事。前回は母の赴任先で、あわやNYへ連れて行かれそうになって嫌がったが、NYなら阪神時代からファンであったプリンス(新庄)がいるメッツの試合が見れるから今度は大人しく着いて行こうと決めた。
 ………………が。
  「うあ〜〜〜〜〜〜〜(欠伸)。うん。折角寝付けたのに誰じゃい」
 淡い期待は所詮夢想だと分っている。1回目のノックからして数分で、母百合子なら怒鳴り声とドアを蹴破った音が届いていたはずなのだから。

  「ふぁ〜い」
 寒いのでガメラが背負う甲羅のように布団を背負ったまま、ノロノロと来客の来たらしい玄関に行こうと障子に手を掛けると………………………………
  「どこに行くんだ。お前は?」
  「?あれっ」
 訪問者の声は背後から………………………………。
  「え?」
 声のした方は向かおうとした玄関でなく背中から…………。ボロアパートの二階であるのは周知に通りで、一軒家で無いのだから勝手口などあったかなと思いながらも振り向くと
  「どわぁ!!」
 振り向いた窓のガラス戸の向こうには………………………………見知った女性らが宙に浮かんでいた。しかも、多分鍵がしまっていたので引き千切って開いた窓をお手玉のように弄びながら………………………………。
  「ななななな………………………………」
 まるで鏡の中から現れた女神のような人影に思わず飛びのいて、引き摺っていた布団を踏んでしまい、襖に背中からズターンと派手に引っくり返る横島であった。

handsome-visitor

  「すいませんね、横島さん。大丈夫ですか?」
 浮かんでいた一人。妙神山の管理人である小竜姫が薄汚れた座布団に正座でチョコンと納まって、三つ指ついて深深(ふかぶか)と頭を下げる。窓から失礼した彼女等を見た横島は驚き後ろに倒れて炬燵に頭をブツケテしまった。まあ、行き成り二階の窓に美女に美少女が飛んでいれば今更であっても驚かない方がおかしかっただろう。ちなみに小竜姫はいつもの道着で無くて、美神に着せられたいつぞやのミニスカ系統ではあるが、若干大人しめのスパッツに大きめのジャケットで勝手に「これはこれで清純なアイドルのチョット冒険気味の控えめな色っぽさみたいでグー」と評論するオスギ…………………………じゃない横島であった。…………………………それはピー子じゃないかな??。

  「あ いえ こちらこそ どうも ははは」
 痛む頭を押さえながら、母の押し込みの甲斐もあって礼には礼でパジャマ姿のまま膝突き合わせたままに深深と三つ指かくもというように返す。当人真面目だが傍から見ては間抜けであった。「見合いじゃないんだから」と脇から白々しい声が飛ぶ。
  「!」
  「?」
  「・・・・・・・・」×2
  くすくすくす 
  あ ははははは
 お互い上げた顔は気まづさに思わず苦笑する。

  「謝る事はいらんぞ小竜姫。何度もノックしたのに出てこない横島が悪いのだ」
 隣で、コチラは座布団に片膝を立てた………………………………見舞いというより借金の取り立てに来たように迫力のある女性がいた。魔族士官にして、今はデタントの影響で妙神山魔族出張所の支社長を務めているワルキューレである。先ほどの野次もそうであるように、何故か機嫌が悪い。どうやら自分を無視され、二人の世界を見せられてて腹の座り所が悪いるらしい。普段は長女的性格で体面を気にしなくては成らないので、自分に演技を課して任務任務と言ってはいるが結構甘えんぼであるので[faut pas rever参照]無視されて機嫌が悪いらしい。

  「でも、横島さんお休みになっていたんですから仕方ないんじゃない。それに私達が連絡も無しに来たんだから」
 相変わらずに暖かい慈愛に溢れたお言葉は何処かの女神様のようだ。
  「連絡したくとも電話も止められていて付かなかったのだから我等の性では無いでは無い。大体たるんどるから風邪などひくのだ。もう少し背筋張ってチャント生きていけば疾病(しっぺい=病気)から逃げ出すに決まっている。折角魔族神族の長からの依頼であるから、用があって参ったのに何たる体たらくだ。もう少し選ばれた者としての自覚をだな」
 コチラも相変わらず自他共に厳しいワルキューレのお言葉に………………………………頭が下がるより先に、頭が痛いのは病気の性だけではない横島であった。
 どこの世界にノックしても出てこないからと云って窓からだと侵入がし易いからと空を飛んで入って来て、締まっているからと鍵を引き千切って入ってくる見舞い客が
 ………………………………………………………………いたのだから性が無いが。

 今一度二人に格好を見てみる。
 小竜姫はいつもの服装[コギャル風ミニスカタイプ]であったが、ワルキューレも外見はいつぞや事務所に潜入の為に変装した時に着ていた系統だ。違うのは今回はそれのズボン仕様である。
 どうやら横島が風邪を引いているほどに冷え込む時節でもあるので、流石に冷えは女性の大敵なのでタイトスカートは辛かったのだろう。柄は縦線で見様によっては中身の迫力も合間って、ヤクザのクラブのやり手マネージャーで支払いでゴネルと怖そうなお姉さんタイプに見えない事も無い。
  (しかし、おしいな〜〜)
 折角立膝立てているならせめてズボンではくて、スカートであったら嬉しいと願う 切に。後気に成った外見は面倒くさいのか?格好だけは人間になっているが、顔色や魔族特有の文様はそのままでスクリーントーンの71番・・・・・・じゃなくて、元から血液の色が紫色であるので冷たい外から幾らかは暖かい室内に入って来たので毛細血管が開いたので青黒い肌色だ。
  (魔族の格好のままだと、シャワーを浴びて出てきた時にバスローブから覗く肢体がホンノリ桜色って展開は望めんな。是非逆さクラゲでお馴染みのアイマイ宿では人間に化けるように頼むことにしよう)
 と日記には書いておこう、と勝手に決める。
 まだ、そこまで考える関係か、お前は。

 何故か妙に噛み合わない3人の前にスルッっと障子が向こうから開き、残った一人。ヒャクメが盆の上に湯呑に白湯のようなモノを入れて来てくれた。彼女はエアのブルゾンとダンガリーパンツで快活そうな格好。どうやら天界での格好もそうであるようにパンツが好きらしい。そういえばいつも雷魚の鱗文様のような服装もそうであるし、プライベートではタマにはスカートが見たいと思った。
 本来なら自分で買って上げて、着せて、その後は部屋で脱がす………………………………というパターンに思いを馳せる。だからまだ早いだろう、そんな事まで考えるには。
 3人三様の格好で、再び勝手に「どれにしようか悩むな〜」と思う。選んでどうにかなるとは思っていないが、絵に描いた餅でも悩んで見せる夢見る少年?であった ←[嘘付け この野郎!!]。

  「でも以外ですね。まさか横島さんが風邪ぐらいで伏せるなんて」
 開口一番の言葉がソレ。どうも全身の瞳は疑念を持っているようだし、多岐に懐疑的でもあるようだ。まるで女性を部屋に呼ぶ為に仮病を使って引っ張り込みそしてムフフ あへあへ いやんいやん、なんて70年代のブルーフィルム(アダルト映画)のようなパターンではないかというように疑っている。
  「それは本当だな」
 意見に賛成のワルキューレ。
  「言われて見れば・・・・・・・・・」
 頷く小竜姫で、二人もその意見には賛成らしい。どう殺したって死なない横島が風邪ぐらい寝込むのは信じられないと言った風情に「俺だって一応は人間ですから風邪ぐらいはひきますよ。まあ確かに普通じゃないですけどね」と文句を言うと、三人が顔突き合せながら訝しげな三白眼で横島の顔をジーーーと見て
 ……………首を力無く”フッ”とため息混じりに振った。

  「・・・・・・・・・・・・・」
 一体自分はなんだと思われているんだと思った。
 確かに百メートル下のコンクリートに落ちた事もあるし、ストラトフィア(成層圏)から自由落下で落ちて大気圏での空気との摩擦熱で耐熱タイルも貼っていないのに1200℃の大気摩擦があったのに炭化も無く助かったし、まあそのほかモロモロ思い当たる事はあるが………………………………。
 風邪じゃなければ何だと言うと「狂犬病」「ジステンパー」「ヒラリアとかじゃないのか」と言う三人。全て犬科の病気だ。
  「あ あのね……………俺はシロとかタマモの奴じゃないんですよ」
 男は狼なのよ〜♪とピンクレディが歌ったように自分も確かに狼である自負はあるが、病気まで掛かって堪るかと反論する。自分は狼でも狐でも、ましてやシロが嫌がる定番クスグリパターンの犬でも無いと。

  「あらっ。でも昔から男は狼って人間界では言うんだって私は聞きましたよ。違うんですか?。だから満月の夜にはシロさんの逆に人間の男の人は狼になるって聞きましたけど」
  「あ!それはあたしも聞いた事あるわ。突然羊の顔していても心の中は狼だって。特におくり狼ってのが危ないって。」
  「私も聞いた事あるな。おくり狼ってどんな意味であったのだろうか?。郵便で狼が贈られてくるって意味なのか?。生き物を荷物のように送るのは関心せんな」
  「・・・・・・・・・・」
 三人が非常に・・・人間界ではズレタ事を話始めた。
 無論人間界にいないのだから、人間の習慣に疎くても仕方は無いが、”狼”やら”送り狼”の意味をそんなにズレテ理解しているなんて「漫画じゃないんだから」と、思わず頭が痛くなったが、これはチャ〜ンス。正しい知識を教えるって親切を笠に着る事が出来るではないか・・・・・・と。

  「分りました。三人の後学の為に、俺が責任を持って狼の意味を教えて上げましょう」
 使命感に背中に萌えあがる紅蓮の炎を背負った。瞳は星飛遊馬のように萌えあがり・・いや燃え上がりスクっ立ちあがると思いきりいつぞやの「神と人間の〜〜〜」のパターンに「魔族と人間〜〜」のパターンも加味して三人に飛びかかる。
 と、
  ジャキ シャキン 
 次の瞬間にいつぞやの落としパターンのパンチとキックでは無くて、腹にヒタッと切っ先鋭い神剣が当てられ、黒光りする銃口が眉間にピタッと当てられていた。しかも後1歩踏み込んでいたなら間違い無く切っ先は腹に刺さっていたような剣圧を感じる。
  「あ あ あ」
 殴ってオトシってパターンの筈が行き成り生命の危機に全身に冷や汗が吹出す。

  「赤頭巾ちゃんを食べ様とした狼は退治されたんだよねあ。小竜姫」
 どこに隠してあったんだと言うような大型拳銃の撃鉄に手を掛け笑うワルキューレ。そのエミは いや笑みはいわゆる闘争と破壊衝動を満足出来て嬉しいと言うような顔。
  「ええ、悪い狼さんはお腹を裂いて石を詰めて井戸に落ちてもらいましょうか クスッ」
 小竜姫もキャラクターに合わない怪しい笑みを浮かべていた。慈愛の微笑みでは無く、ワルキューレの専売を奪っているような悪女のような微笑である。

  「あああああ。あの〜〜、そんな危険物はお見舞いには持ってこない方がいいと思いますけど。普通は鉢植え以外のお花とか千羽鶴とか、果物の詰め合わせじゃないんですか。ダンビラに鉛弾は遠慮していんすけど あはは はっ」
 乾いた笑いが部屋に虚しく響いた。しかし乗っては来てくれなかったので語るに落ちて言葉を失う。
  「あはははははは・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ダラダラと冷や汗と虚しい笑いが垂れる中、良く見れば二人の背後のヒャクメはクスクスとさもオモシロそうに笑っていた。とても緊迫した場面での笑顔では無かった。
  「え・・・・・・・・・・・」
 剣と銃口も向こうの二人も狼狽して泣きの入った横島を見て笑っていた。ニヤニヤと、全て折り込み済みの行動の横島に可笑しくて堪らないらしい。始めからカラカイの為の誘いの言葉にまんまと引っかかったと言うワケらしい。クラスの女子が自分を担いで虐めるように。何故自分の周りの女連中は皆自分に対する態度が同じなんだと思った。母に事務所の女らに、クラスの女らに目の前の女達も・・・・・。

  「赤頭巾ちゃんを襲ったような狼なら撃つ。さあ横島。お前はなんだ?」
 笑いながらのワルキューレの最後通告。もうお互いの腹の内は分っているといった雰囲気が漂っていた。後は横島が泣きを入れる姿が見たいだけなのだ。
  「に 人間です」
 ここでまだ狼なんて言った日には相手が相手だけに本当に腹を裂かれるかもしれない。何しろ神族も魔族も、自分に不実を働いた男を殺し、その生き胆を食うって習慣が昔はあったと聞いた事ある。まだ男女関係は無いが、親愛の情でサービスされても嬉しく無い。
  「よろしい。ふふふ」
  「良かったですね・・・・・・・・・・・よ こ し ま さ ん 」
 二人がエモノ(武器)を元に戻しながら、かついだ(騙した)獲物(この場合横島)を罠にハメテしてやったりと怪しく微笑んでいた。

  「・・・・・・・」
 その三人の姿に言葉を失うが、文句の1つも言いたくて口を開こうとしたが辞めた。声にしたら、再び腹を裂かれそうな事になりかねないので腹の中だけでつぶやく。
  (何が神様じゃあ。ワルキューレだけじゃなくて、3人共魔物じゃないか〜)
 男が狼なら、やっぱり女はそれ以上に怖い魔物だ。上手く騙してやろうなんて出来るワケも無い。騙そうとしていた男を逆に手玉にとっては悦にいる魔物な。
 それは神様でも同じなんだと、また一つ人生の辛い勉強をしてしまった横島であった。

to be continued


#注壱 第二次反抗期

 [大体女子では9〜10歳ぐらいだそうだ。人間ではだが。そう言えば人狼とか人狐の加齢レートってどれぐらいなんだろう?犬とか猫は平均して人間の4〜5倍で成長・老化する。じゃあ二人の今の年齢2〜3歳か?。じゃあ残された人生・犬生も10年ぐらい?。随分早く逝くんだな〜【注中注】まあ種族的宿命を他種族がとやかく言うことでは無いが………………………………]

【注中注:本来の姿は恒温動物の哺乳類の獣体系だと仮定。体温維持の為に生命活動が活発ならば、多大な活性酸素による老化から類推。分り易くいえば人間とモルモット。寿命は約人間で60年、モルモットで約1年。これは体温維持に不向きな小柄な体で恒温維持をしなければならない為に心臓そのほかが非常に多大な運動をしなけれならない為】

#注弐 六道女学園

 [二人は元々の人間社会の社会勉強の為に事務所にいたのは周知。しかし事務所の古参二人だけでは参考にならないと[世間的には二人ともイタイ所多数あり]美知恵の良心で六道につてで入れている。本当は中身を考えると初等科だと(シロは幼稚科?)美知恵らも思っていたが、二人がゴネタので中等科に相成った。色々堅気の生徒らと軋轢もあるようであるが、それは又いずれかの機会で語られるかも?胡遡]



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