try to remenber


 取り敢えず風呂から上げた横島をバスタオルに包んでベッドに寝かせた。
  キシ
 ベッドが僅かに軋んだ音がした。自分では滅多に鳴らないので、今更だが横島が男だとボンヤリ感じた。
  (ああ。でもしないと駄目ね)
 濡れたままでは風邪を引くと意を決してタオルを取る。暗い露天風呂とは比べくも無い明かりで横島の体が露になった。多少栄養失調気味に細いが、戦士らしく引き締まった体躯に外そうとしても視線釘ずけ。女の自分たちにはありえない直線的な体の稜線は、ハッキリ言ってカルチャーショックですらあった。いや、ショックは無論そちらより・・・・・・・・・・。
  (うわ・・・・たぶん・・・おおきいのよね)
 子供の時にお風呂で見た、多分父親のモノより大きい。思わずのぞき込もうとしたが、理性で押さえて機械的に作業を続けようと思ったが、流石にソコだけはあまり力を入れる理由にもいかずに結果非常に丁寧になった。
  (え え え 何これ???)
 流石に煩悩男?隠す為に上にかぶせたバスタオル越しでも、自らのソレを触っているのは女性の手だと分かったのだろうか?。急に力ずよく立つ(勃○=広辞苑出典)モノに部屋の隅まで後ずさる。
  (わ〜わ〜わ〜)
 すっかりパニックに陥った小竜姫。しばらく部屋の隅で腰を抜かして放心していた。


   (ふ〜ふ〜)
 何とか立ち直った時には横島のモノも元に戻り、何とか再び元気にならないうちに浴衣を着せ、そっと蒲団をかけて何とか一息つく。
 彼女にとっての大仕事を終えて、落ち着くとちょっと?な事が頭をよぎる。
  (あ あんなモノが・・・・・)
 子供の時の学校?で習った、何故か男の子と女の子が別々な場所でやる種類の(体育や家庭科にあらず)の授業内容を思い出す。まあ、所謂オシベとメシベの出てくる授業・・・・・。あれがどこに、どうなるか薄ボンヤリと思いなおす。つまり・・・。
 横島の大きさに比較して自分の秘所を思い浮かべて、服越しにソッと触れて見る。
  (無理よ、絶対!!)
 時折風呂で洗う時でも・・・なのに、とても横島のモノが納まるとは・・・。軽く人差指の尖端が自分の秘所の窄まりに触れた。
  「ふっ・・・・・・あ!!」
 思わず声が漏れた。慌てて横島を見たがまだ気絶していてて安心する。
  (・・・・・いけない、こんな事やってる場合じゃないわよ)
 一人青春の青い苦悩に思い悩む小龍姫であった。




 事情を察したので、お互いバツが悪い。それこそ昔の親同士が決めて、初めて会うのが新婚初夜の寝所の状態とでも言おうか。
  (うぬぬ、この沈黙はキツイな、何か話さねば・・・・)
 こんな時に沈黙に耐えられないのは大体男と決まっている。浮気の問いつめなどで、黙っていればいいのに冗舌になってしまいボロを出してしまうのと同じで、うっかり本音も飛び出した。
  「あははははは。なんか・・・その、俺と、パピリオだけ見られたってのは恥ずかしいな」
  「え!」
  「で、出来ればあの時パピリオが小竜姫さまの服まで脱がせてくれればよかったんすけど」
  「・・」
  「きっと小竜姫さまは体は鍛えられているから、美神さんやオキヌちゃんと違って体育会系の引き締まった体だろうから・・・俺ソッチ系は見たこと無いから奇麗だったろうな。う〜ん。そう考えると非常に 本当に非常に残念だったすね。う〜ん、惜しい事した。是非今度はパピリオと打ち合わせしとこうかな。あはは。風呂には裸で入るんだから、まず服を脱がせてからにしろって。・・・・・・・・あはははははっはははっ」
 沈黙に耐えられなくて、ちょっとオドケテ見せようとする。一応全身煩悩男の自分でも恥ずかしい事があるんすよ!と笑って終わろうと思ったが、返ってきたのは意外な言葉。
  「見たい ですか?」
  「え?」
 予想だにしない問いに唖然と、いや理解さえ出来ない言葉であったかも。
  「見たいですか?・・・・・・・・その。わたしの裸」
  「・・・」
 言葉は出なかったが体は正直。思わずコックリと頷いてしまった。
  「そ そうですね。横島さんのだけ見たのは・・・・やはり・・・・その」
 いいつつ、ベッドとの間を少し取るようにした小竜姫は帯に手を掛けた。
  「え・・」
 信じられぬ光景に、広い部屋に横島の唾を呑む音だけが響いた。
 

  しゅるしゅる
 衣擦れの音がこんなにもエロチックだと改めて知った。よく見るAVでは画面の裸が大事なので疎かにされがちだが、おそるおそる動く指先から聞こえる衣擦れは恐ろしく彼の雄の心をそそった。
  「あ あの・・」
  「え あ はい」
 か細い声に応える横島の声もそれに合わせるように小さいが、鋭敏になった聴覚には十分であった。
  「あの、その、そんなに見つめられると  恥ずかしくて」
  「え あえ あ、そうですか」
 きっと眼を血走らせている筈と居を正そうとする。多少真面目を意識しようと演技が入ったので不思議と下卑た感情は薄れた。それは空気で伝わったらしく彼女の感じていた恥ずかしいという感情は薄れたようだ。
 しかし、それでも彼女にとっては衣服を自らの意志で脱いでいる動作に背中を押してくれる物でも無い。帯を解いて、前を僅かにはだけた所でその手は止まってしまった。
  (駄目っ やっぱり恥ずかしい)

 行き成り小龍姫の手が彫像のように止まって、これには横島も対処に困る。
 見たい。とっても見たい。
 でも几帳面で、真面目な彼女が自分への公正を期すために初めてくれた事なので己が欲望だけで無理強いさせた愚を恥じた。
  (あ あんなに震えてる・・・・ああ、俺はなんて事を〜)
 道着の襟首を掴む、その細くしなやかな手が震えている事に初めて気がついた。
 色々あって、女を悲しませるような行動には体がブレーキをかける。無意識にでもだ。

  「もういいですよ。止めてください」
  「え?」
 真赤に俯いていた彼女は、言葉にハッと息を呑み顔を上げた。
  「すいませんでした。もういいです。服を着てください、小竜姫さま」
  「・・・・・」
 彼女は今度は顔をくゆらせて再び俯いてしまった。

 部屋にえもいえぬ重苦しい空気がのしかかる。
  「そうですよね」
  「・・」
  「あたしみたいに、その、修業しか取り柄の無い女の体なんか、見たくなんかないですよね」
  「へ?」
 間抜けな問いしか返せない。一体何を言おうとしているのか、今の横島には全く分からないのだ。

  「そうですよね。横島さんはもっと女らしい人にしか興味はないですよね。こんな辺ぴな田舎の女なんて・・・」
  「いや、あのね」
 不味い空気だと、一応は覚えがあるので察する。
  「失礼しました」
 駆け出す小竜姫。
  「ちょ ちょっと待ってください」
 呼び止めるが応えない。そのままにドアから外に出ていこうとした。
  (ま まずいぞ 何か知らんが、この事態は)
 ベッドを飛び起きて、殆ど超加速で小竜姫の体を引き留める。
  「ちょ ちょっと待ってください小竜姫さまったら。そんなつもりじゃなくてですね」
 一瞬止まった小さな体を両手で引き留める。
  ふにゃ ふにゃ
  「お!!」
  「あん・・」
 体に回していた手は柔らか物をしっとりと掴んでいた。何も言葉は無く固まる二人。
  (おお なんて柔らかくて、それでいて弾力もあるんじゃ)
 美神程大きくは無いが鍛えられているだけに筋肉によって吊り上げられた乳房は理想を殆ど満たしていた。多分ヌードのポスターで修正をまったく入れなくてもいいだろうと事態を忘れて感想を述べる。大きさも彼の手の平には調度揉むのに適しているようだ。それが証拠に下着と道着越しでありながら、いわゆる手の平に吸い付くようにピッタリしたので、彼の次の行動も男性諸氏にはご理解頂けたであろうか。
  「あ あ あ」
 自分のモノをしっかりと掴まれている感触に、まるで林檎のように顔が染まる。それは横島が事態も忘れて、手の平に動作を加えてきた事で最高潮になった。
 今度は部屋で女の悲鳴と男の悲鳴が続いた。


  「すいません すいません すいません」
 再び流血した横島に平謝りする。
  「い いえ 俺も悪かったすから」
 いいつつ、小竜姫の柔らかなモノを掴んでいた、幸福な感触の残る手の平をニヒヒと幸せそうに眺める。
  パカーン
 投げた小物が再び横島の頭に命中する。

  ぺこぺこぺこ
 条件反射に再び謝る。
  「良かった。いつものあなたらしいですよ」
  「え?」
 今度は小竜姫が呆気に取られた。

  「すいませんでした。小竜姫さまは俺を助けてくれようとしたのに、それを盾に取るようの事を言っちゃって。調子に乗ってました」
  「そんなこと・・」
 促され、面と向き合うのも具合が悪いとベッドにチョコンと座る。
  「でも小竜姫さまも少し悪いんすよ。あんまり俺みたいな奴の言うことを鵜呑みにするんだから。もっと人を疑う事覚えてくださいよ」
 少しキツメの口調に振り向く。
  「で でも」
 しかし反論を許す事はしなかった。絶対自分が悪いとは分かっていたが、この純粋な龍族の女性が心配で堪らなくなったので、非を忘れて諭す。自分の数倍数十倍を生きている筈の女を叱る。
  「でもじゃありません。そうなんですから」
  「そ そうなんですか」
  「ええ。俺だけじゃないと思いますけど、男は小竜姫さまみたいな可愛い女を見れば何とか自分のモノにしたいと思いますよ。それが、真面目で優しい相手ならば、それに付け入る隙はいくらでもありますからね。駄目ですよ。奇麗な女性はそれだけで野獣にとっては格好の獲物なんですから」
  「奇麗 可愛い わたしがですか?」
 シュンとしていたのに、言葉に反応して声を上げる。
  「今更何いってんですか?」
 少し呆れる口調でキツク突き放す。しかし届いてはいないようだ。
  「だって、私はこのかた修業以外は何もやって来なかったんですから。美神さんみたいにお洒落だって、お化粧だって、流行りだって知らないし。横島さんが好きそうな話題だって知らないし、真面目なだけが取り柄だし、それから それから」
  「あのね・・・・」
 あまりの言葉に頭を抱える横島だ。良くある話ではあるが、生まれついての美人や才女と呼ばれる人種は天分により与えられた物なので、戦い勝ち取った物で無いので当人だけが一人相撲状態で、己に自信が無いのは良くある話。戦っても勝ち得なかった者が聞いたら激怒しそうな話だが、こればっかりは仕方がない。神は?誰にも平等では無いのだ。ただし恵まれなかった人種への救済策は彼女を見れば用意されていたと分かるだろう。後から考えれば、思わず無駄で馬鹿な事に悩んでいた事を悔やませようとしていたのだろう。

  「あたし胸だって美神さん程無いし、背だってワルキューレ程高く無いし、髪だってオキヌちゃんたみたいに長くも無いし、それから・・・・・・」
 まだブチブチとベッドのヘッドレストに『の』の字を書いている。
  「だから〜、そんなことに気にしているのは本人だけですって」
  「だって、横島さんも先刻あたしの裸なんて見たくないって・・」
  「うわ〜。アホですかあんた!少しは男の気持ち分かってくださいよ」
 どうして、女と云うのは男の気持ちがこうも分かってくれないかと悶絶したかった。しかしそれは無理だ。男と女は人間?のくくり以外に共通点など欠片も無いのだが、それを彼が理解するのはまだ先かも。

 アホと叫ばれては少しムッとする。
  「どうせわたしはアホですよ。殿方の気持ちだって知らないですよ」
  「だー!。だから、そんなこと言ってるんじゃないつうの。誰が小竜姫様の裸を見たくないっていいました、そればかりか・・」
  「いいです慰めは。ほっといてください。どうせわたしは美人じゃ無いし、体だってボインじゃないし、それにアホです。こんな救いの無い女の裸なんて見たく無いに決まってますわ」
  (う〜ん、まずいな〜)
 すっかり拗ねてしまって、コチラを向こうともしなくなった。こうなると本人申告で真面目なだけに修正は難しいな、と美神を見てきた横島には分かった。表に出る性格は丸っ切り違うが、結構似たもの同士と感じる。
  (これは早めに、多少強引にでもしないと拗れるな)

  グイッ
 小竜姫がベッドに崩れ落ちる。
  「あっ!」
 ソッポを向いていたために強引に手を取られて事に抵抗出来ずに唖然とする。そのままにベッドに引き込まれる。
  「な なに?」
 気がつくと、腰掛けていた横島の膝の上で、先と同じように背後から抱きしめられていた。
  「そんなに云うなら。じゃあ、証拠を見せてあげますよ」
  「え??・・・・・・・・・・・な なにを」
 あまりの事に行動は出来ずにただ放心しただけだ。
  「だから、俺が小竜姫さまの裸を見たがっていたことのね」
  「え?」
  しゅる
 結び直していた腰の帯紐を素早く解く。
  「ちょ ちょっと横島さん」
 慌てる小竜姫だが、構わず横島の手は止まらない。
  「だから、小竜姫さまの裸は俺が見たいと思うほどに魅力的だと実践して見せてあげますから。大人しくしててください」
 言われた言動の真意が分からぬままに、ワタワタと抵抗するが、頭パニックで剣の達人には見えずに殆ど駄々っ子の抵抗しか用を為していない。
  「ままま まま まってください」
 首を盛んに左右に振って、いわゆるいやんいやんなポーズ。
  「駄目です。ちゃんと自分の魅力が男をどんなに狂わせるか見せてあげますからね」
 最後の語尾が下卑た物を含んでいたのを感じて更に慌てた。その感じは殺戮や、他人の苦痛を糧にする堕ちた神魔の感じに似ていたので更に慌てる。
  じたばたじたばた
 羽交い締めされて、剣の達人の戦いには不向きであっても元もと戦闘能力は桁違いの彼女の事。
  「少しお仕置をしてあげますよ」
  「え?」
 右手で文殊を作る。小竜姫の体に密接しているので作るには労は無かった。
  (やっぱあの時の奴がいいだろうな)
 いつ破壊力抜群な肘鉄砲が飛んでくるかも知れないので、メデューサ戦で神にでも利くと分かっている文殊の”縛”を彼女の首筋で発動させた。
  キン
  「あぅ!」
 途端に体が弛緩して、体がだらしなく撓垂れる。
  「な 何をしたのですか?」
  「駄々をコネル悪い女の人にはこれぐらい許されるでしょうから。ちょっと俺の趣味じゃ無いけど縛らせてもらいましたよ」
 縛るとの言葉に反応して思わず眼を剥く。
  「縛る!!。止めてください、お願い」
 眼に見えぬ無数の縄が彼女をがんじがらめに縛っていた。
 必死に抵抗しようとするが、メデューサの事件の時より更に威力を増した文殊の威力は絶大であったのは、もしかして前の辛い修業の賜物であったようだ。

  しゅるしゅる
 か細い力でもあらん限りに抵抗するが、まるで赤子の手を捻るように全く横島の行動を阻害する物ではなかった。暴れる小竜姫に構わず腰の帯紐を抜く。
  (いや!いや!いや!いや〜!!!)
 抵抗しようとするが、背中からの片手と胸元だけで固定されているだけの体は全く動かない。気の弱い女性が痴漢にあって身をちじこませる以外に術が無いのと同じだ。
  「自分で脱ぐのが恥ずかしいんでしょう。だったら俺が脱がしてあげますよ。そしてジックリと見てあげますよ。そうすれば小竜姫さまも俺の言っていることが本当だと分かるでしょうからね」
 既に止めていた帯が無いので道着を手を掛けられて引き下ろされようとしていた。
  「止めて!!」
 精一杯叫ぶが、それすら隣の部屋まで届いたかすら疑問な程に上擦っている。それほどの恐怖。あらゆる戦いでも感じた事の無い恐怖が彼女を包む。それは道着を引き摺り下ろされた時に頂点に達した。
  あっ うわあああああああ
 部屋一杯に彼女慟哭の叫びと、すすり無く嗚咽が響いた。ベッドに座って背後から横島が両手で抱きしめてくる。必死に逃げようとしたが体は相変わらずに自分の意志を撥ね除けるようでまったく反応しない。
  (こんなのいや!!)
 

  カチカチカチカチ
 どれぐらい時間が経ったのか彼女には分からなかった。ただ、部屋の奥に置かれた振子時計だけが無常に時を刻んでいた。
  トクン トクン トクン
 お互いの鼓動がお互いの体を包む。

 小竜姫も横島も先ほどのままに、ベッドに腰掛けたままの横島。その膝の上に小竜姫を抱え込むようにしていただけだ。
  「落ち着きましたか?」
  「・・・・・・」
 彼女の顔はまだ血色を完全には取り戻してはいないが、優しくお腹の辺りに回された横島の手からは暖かい感触が徐々に顔にも伝わってきている。体温だけでは無く、彼女を愛おしむような感情が伴ったような霊波を感じる。
  「もう文殊は解いてますよ」
  「え?」
 確認しようと少し手足を動かす。言う通りに彼女の四肢には自由が戻っている。しかしどうしてだかあんなことがあったというのに、何故か彼の手をふりほどこうという気は起きなかった。
 自分を襲おうとしていた筈なのに。
  「ど どうして・・・」
 何もかも分からなかった。彼女とて、あんな事があったならばこれからどんな事が起こるか知らぬ程に子供では無い。だからこそあらんかぎり必死に抵抗しようとしたのだ。
 それなのに、横島のした事は上着こそ脱がしはしたものの、黙って彼女を背中から抱きしめるだけ。この体制ならば恐らくまだブラジャーは付けているものの胸元すら見えていないだろう。


  「落ち着きました?」
  「え ええ・・・・どうして その」
  「今までの行動が俺の本当の、その先刻の気持ちなんです」
  「・・・」
  「俺は決して小竜姫さまの裸を見く無い理由じゃないです。だから今の狼籍は全部が本当の本心ですよ。軽蔑するでしょう」
  「そ そんな・・・・・・」
 しかし、本当に否定は出来ない。初めて感じる女性としての純粋な恐怖、それが何も無かったとは云えども簡単に拭いされないのが本当の所だ。
  「出来れば信じて欲しい事があるんですよ」
  「な なんですか?」
  「小竜姫さまも知っていると思いますけど、普通人間界なら、今のような後にはどうなるか知っていますか?」
  「え ええ」
 知らぬ理由は無い。それは女性にとっては最大の悲劇なのだから。別段人間界だけの事では無いが、それを知ってか知らずかはともかく自分の世界に当てはめてみたのは彼の優しさだと感じる。
  「俺が途中で止めたのは分かりますね」
  「・・・」
 声は無くコクリとうなずくだけ。無論背中から抱きしめている横島には十分に伝わっている。
  「今のは、俺は小竜姫様が服を脱ぐのを止めたのと同じ理由何ですよ・・・」
  「?」
  「俺は小竜姫さまの体を見たい、とってもね。可愛く恥じらう表情と一緒にね。でも、小竜姫さまの気持ちの方が大事なんですよ。だから小竜姫様が顔から火が出るような思いでまでもは見たく無いと思いました。だから俺は止めたんです。決してあなたの魅力が無いからでは無いんですよ。こんな事は、先刻の風呂場での事故からなし崩しにしていいような事じゃ無い。それに、自分の性だと思い込んでいる小竜姫さまは絶対抵抗出来ないでしょう。俺は女性は好きだけど、抵抗出来無い女に無理強いするのは趣味じゃないすからね」

  「・・・・」
 優しさが痛いほどに伝わって来た。意固地になった女を口だけで説得出来ないのが分かっていたのだと分かった。
 だから彼女を傷つけないようにと、自ら汚れ役に躊躇い無く成る事を厭わないなど、そう行き成り出来る者はいない。口では何とでも言えるが、自分より相手の事をまず考える・・・・・・優しい、本当に優しい。優しすぎる、男の人・・・。
 出会った頃は地に足が付かない頼りない人であったのに、いつのまにか・・・・
・・。
  (あなたは幸せだったのかしら。きっと、そうよね)
 頬を暖かい物が落ちていって、もういない女性に問いたい答えであった。


  (でも・・)
 こんなに大事に、時おりしか会わない自分ですらされているので、いつも身近にいる美神らに嫉妬すら覚えた。
  (今だけはいいわよね)
  「!」
 横島がちょっと体を引き締める。ソッと小竜姫がまだ解くのを忘れ、回していたその手に自分の手を重ねてきたからだ。
  「じゃあ、演技とは云えども、わたし本当に恐かったんですから。だから罪滅ぼしにしばらくこうしていてください。ほらっ、まだ少し震えているんですから」
 横島の手に当てられたその手は不規則に波打っていた。
  「え・・ええ」
 少し強い口調に少し戸惑ったが、直ぐに表情を和らげる。震えているのは過ぎ去った恐怖か、はたまた別の感情か知らなかったが。
  「・・・・・こんな罪滅ぼしなら幾らでも」
 今までは多少てろっと廻していた両手であったが、少し手に力いれて小柄な体を引き寄せる。
 彼女も始め力強い腕にすこし戸惑いの吐息を吐いたが黙って身を任せた。



  「っ!」
 再びどれぐらい経ったのだろうか。背中から不思議な声がした。
  「?。どうしました横島さん」
 優しく抱きしめられているので、紅潮している顔を見せたく無い。視線の端で僅かに表情を見れる程度に振り替える。
  「いや、その〜」
  「?」
 もじもじとしながら、背中を抱きしめていた体の密着を離そうとしていた。
  「どうしたんですか?横島さん」
 心配になって更に振り返ろうと体をよじると、彼女はやっと気がついた。
  「あ!」
 短い悲鳴を上げる。
 彼女のオシリの上あたりから腰にかけて当たる物の存在を・・・・。お風呂の中ではシンナリとした姿、この部屋に運んでからの元気モードを思い浮かべると、今彼女の背中に感じるのはどちらかといえば元気モードであった・・・・・。
  「あ あああ・・・」
 これは小竜姫。言葉が出ないらしい。
  「そ これは そう あのう」
 多分バレテいるとは分かっているが、何とかとぼけようとして、何か嘘を思いつこうと砕心したが思いつく理由などあるわけが無い。だから腰を引きつつ、取り敢えず離れようとしたが。
  ガシッ
 離そうとした手を掴まれる。
  「あの、小竜姫さま・・」
  「どこに行かれるんですか?」
  「え、いや、だって、その〜」
  「罪滅ぼしはまだ終わっていないですよ」
  「え?いや、それは・・・・ちょっと事情が」
 覚悟を決めて、事情を説明しようとしたが、小竜姫がさも可笑しそうな忍び笑いをしていることに気がつく。
  「・・・・本当に襲いますよ」
  「あらっ、わたしが大事だって言ってくれたのは嘘だったのですか?。神に嘘をついたら天罰が当たりますよ」
  「これは嘘じゃな〜い。誘ってるっていうんですよ」
  くすくすくす
  「・・・・小竜姫さま、悪女の素質十分ですよ」
  「うふふ。それは誉め言葉ですか?」
 コロコロとした声。屈託ない、箸が転げたときのような声で笑う。
  「典型がメデューサだから、どう考えるか 痛てえ!!て て てを離してください」
 爪が横島の甲に突き刺さるように握られていた。
  「何か言いましたか?」
  「いえ、別に・・・」
  「じゃあ、もう少しは罪滅ぼししててくださいね」
  「でも、男を罪人にするのは女っていうから両成敗って事にしませんか」
  「駄目です」
  「そうすか」
 軽いため息をつくと可笑しな事に今更ながら気がついた。


  「でも〜」
 お互いに体を寄せ合い、まるで日溜まりのような暖かさと安堵に包まれていたので、思い出したようにつぶやいた横島の言葉も少し眠そうだ。
  「はい?」
  「なんで俺らはこんな事やってるんですかね」
 背中から抱きしめていたが、少し落ち着いたので元に戻る感触に冷静になる。
  「何がですか?何か不都合でも」
 自分でも朱に染まっていたと分かっていた顔の色も納まったので出来る限り振り返って見る。横島の顔は少し疲れているような気がした。
  「その、つまり、いわゆるですね・・・」
  「?」
  「普通はですよ、こんな、つまり、その、こういう風に、その〜、なんつううか・・・」
  「ハッキリおっしゃってください」
  「じゃあいいますけど。まあ、俺と言おうか、まあ男のこんな、元気で無くてもですね、その事を分かっていながら平気で身をお互い寄せるなんて、普通に考えればおかしいですよね」
 発情がありありとお互い理解出来ているのに、お互い気にせずに抱き合っているなどは既に身も心も繋がっているカップル以外にはあまり考えられない。横島と小竜姫はいまだキスもしたこと無いのに、今の二人の間にはまるで長年連れ添った男女のように落ち着いた空気が漂っている。
  「そうですか。私は今更気にしませんけど」
  「気にしてください。まあそれはともかく、それが無いのになんだ俺は小竜姫さまを襲わないのかな?普通ならもう少しは野獣のように振舞うのになあ。先刻だって初めから途中で止めるともりではあったけど、本当に止めれるとは正直思ってなかったんですけど・・・」
 正直に、もしかして本当にあのままに襲うかもしれないと平気でいう横島。しかし小竜姫は心の中でつぶやく。
  (あなたには、もう無理ですよ。あなたは本当に・・・・・)
 しかし心の中でも言葉を呑んだ。

  「そういえばそうですね?以前はあれ程・・・・でしたのに・・。なんでですか?」
 いつも会う度にいまにも悪漢に飛びかかる警察犬のようであったのに、まるで慣らされた小犬のように大人しいのはお互い納得が今更ながらいかない。と演技をして見せる。答えは彼女には分かっていた。
  「ちょっと違うかも知れませんけど」
  「はい」
  「シロを知ってますか?」
  「ええ、この間お会いしましたけど。横島さんのお弟子さんらしいですね。先生に似て腕は立ちそうでしたよ・・」
  「なんか、今のちょっと皮肉入ってませんでしたか」
  「さあ・・・・ふふふ」
 ちょっと小悪魔的な微笑みに少し憮然としてみせる。

  「俺初めて会ったときはアイツの事男の子だと思っていたんすよ」
  「はい」
  「そうして付き合っていたのに、あるとき実は女の子だと分かったんですけど、こうなると俺結構困ったんすよね」
  「?。なんでですか。女の子として扱えばいいじゃないでしょうか。現に女の子なんですから」
  「う〜ん」
 ちょっと考える素振りをした。
  「俺、中々思い込みの激しい方なんで、気持ちの切り替えが難しくて。オキヌちゃんとも幽霊時代が長かったからかな?。何か女の子として扱う気持ちがどうも希薄なんすよね。可愛いし性格もちょっとこの頃美神さん入ってるけど、普通なら美神さんと同じように風呂を覗きそうなんすけど、どうもそんな気が起きないんですよ。確かに可愛いから口説きたいとも思うけどどうにも思い切れなくて。そう考えると、俺にとっても小竜姫さまも同じかもしれないんすよ」
  「わたしと?」
 自分と彼女らが同じ理由?。
  「ええ。俺前ここに来たときは小竜姫さまと結婚しようと思っていたんすけど」
  「え け けけ 結婚ですか?!」
 初耳であった。どこをどうすればそう思えるのかと疑問ながら顔を赤らめる。
  「それが、ずっと一緒に修業していると、ワルキューレじゃないけど異性っていうより仲間っていう気持ちの方が強くなったかも知れないんですよね」
 言葉に少し唖然とした。
  「それは私はもう横島さんにとっては女性では無いと・・・・」
 その事実には唖然とする。女として見てもらえないのは、正直今はショックだ。

  「いえ、それは無いです。そう思えるなら、その、俺のが元気な理由はないと思いますから」
 元気な理由は単純な発情では無いと確信があった。それならば先程の勢いのままに彼女を襲ったであろう。
  「じゃあ・・なんでですか?」
 しかし、自分で言っておきながら横島自身も首を傾げた。
  「さあ?なんででしょう」
  「?・・・・」
 当人が分からぬのに彼女に分かるワケは無い。でも、今はそれでいいと思った。
  「横島さん」
 優しい顔で背中から抱きしめている彼に振り向く。
  「じゃあ、そのうち分かったら知らせてくださいね」
  「え・・・・ええ」
 真近かにみたので少し焦るが、柔らかい表情に後押しされて答える。
  「・・・」
  「・・・」
 照れは消えてお互い見つめあった顔は、彼女の肩口付近に徐々に・・。


  「小竜姫さま〜!!宿題終わったでちゅよ!!」
 行き成り扉が開いて元気な塊が飛び込んできた。
  「わーわーわーわー」
  「きゃーきゃーきゃーきゃー」
 終わったドリル帳を抱えて飛び込んできたパピリオに思い切り慌て、勢い立ち上がった小竜姫がワタワタと両手を振り回す二人であった。
  「なにやってるんでちゅか?」
  「べ 別に・・」
  「な なんでもないのよ」
  「???」
 パピリオの方に何やら言い訳をしながらも、お互い顔を見ないようにしている二人に?なパピリオであった。

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