「クロ兄上が・・・?」
「ええ、長老の手紙で、そのうちここに顔出しに来るらしいわよ?」
「そうでござるか〜!」
シロの頬がでれっと緩んだ。
「あ、シロちゃん嬉しそう。」
「そんなことないでござるよ〜。」
「誰なんだそれ?」
「拙者の兄上でござるよ。 血は繋がってないでござるが、ずっと仲良しだったでござるよ―。」
「は―ん。」
「拙者が子供の頃に修行のため村を出て行ってしまったんでござるが、懐かしいでござるな〜。」
「シロちゃんクロさんが好きなんだ?」
「大好きでござるっ! あっ、でも大丈夫。 拙者は先生のものでござるよ〜。」
「へ―へ―。」
「ちょっとシロちゃんっ!? くっつきすぎっ!」
「やれやれ。」
きつねレポート
尾も黒い話
「初めまして、犬井クロと言います。」
ジーパンに皮ジャンの黒髪ちょんまげが頭を下げた。
「ようこそ、GSの美神よ。」
美神が差し出した手を、クロは両手で握り返した。
「私、氷室キヌです。」
「横島忠夫だ。」
「よろしく。」
順々に握手をし、クロはシロに目を向けた。
「大きくなったな、シロ。」
「ク、クククロ兄こそっ・・・・り、立派になられて・・・!」
「な〜に緊張してんだよ?」
クロはシロの頭をわしゃわしゃ撫でた。
「あ、兄上〜・・・」
「お前一気に成長しすぎだぞ? もっと子供時代楽しめばよかったろうに。」
「拙者後悔はしてないでござる。 素敵な仲間に会えたでござるからな。」
「・・・・・そうか。」
クロは美神達に目を向けた。
「犬飼のことは、長老から聞いた。 シロの親父に代わって礼を言う。 ありがとう。」
「別にね、こっちも仕事だったから。」
「しかし、美神殿がこんなに美しい方だったとは。」
「・・・何?」
「ク、クロ兄・・・?」
美神に歩み寄ったクロはぎゅっと手を握った。
「ぜひお礼を兼ねて今夜食事でもっ!!」
「はあ?」
「待たんかコラっ!」
「何だよ?」
「その女は俺んだっ!!」
「何ぬかす―!!」
ばきっ
「あうっ!」
「じゃあおキヌ殿、どう今夜?」
「わ、私ですかあ・・・!?」
「こら―、こっちも俺んじゃ―!!」
「ちょっと待て、何でどっちもお前のなんだ?」
「やかましいっ! 挨拶すんだんならとっとと帰れっ!」
「何いっ!?」
ばちばちっ 横島とクロの視線がぶつかった。
「横島とかいったな?」
「あんだよ?」
「シロが世話になったのは感謝するが、俺の恋路の邪魔すんじゃねえ・・・・!!」
「手前こそ、シロの兄だかなんだか知らんが、俺の女に手え出すんじゃねえ・・・・!!」
「面に出ろ・・・!」
「おうよっ!」
男2人がすかすかドアに向かった。
「ちょ、ちょっと2人共っ!?」
ばたんっ
「美神さ〜ん!」
「ほっとけば? 死にゃあしないわよ、多分。」
「シロちゃんも、止めなくていいの!?」
「あああっ! 先生と兄上が拙者を巡って争ってしまうなんて・・・・っ!!」
「・・・それ違うと思う。」
「そんなことより。」
美神はクロが壁に立てかけていった錫杖を手に取る。
「シロ、これに見覚えはない?」
「え? ・・・・・・・・・あ。」
「話ぐらいは聞いとかないとね。」
「み、美神さんっ! 横島さんとクロさんいませんよっ!?」
窓から顔を出したおキヌが振り返った。
「デートにでも行ったんじゃない?」
「ええっ!?」
「そんな〜、拙者を置いてどこに・・・」
「そこのお姉さま〜〜僕と一緒にお茶でもっ・・・・・!!」
「寄るな変態っ!」
どばきっ
「お嬢さん、俺と今夜ディナーでも・・・・!!」
「おまわりさ〜ん、痴漢よ――!!」
「なっ、違〜〜うっ!」
「いかん、ここは逃げるぞクロっ!」
「お、おう!」
横島とクロはダッシュでその場を走り去った。
どっかの公園
「ひ―っ、ひ―っ、ふ〜〜・・・・疲れた。」
「ほれ。」
「お、サンキュ。」
クロの投げてよこした缶ジュースを、横島はキャッチした。
「全然駄目じゃねえかよ、このちょんまげ。」
「お互い様だろ?」
「ふっ、はっはっはっはっ。」
「はははっ。」
クロは横島の座っているベンチの隣に腰を下ろした。
「さっきはすまなかったな、シロの先生に失礼だったか?」
「いいっていいって、俺も悪かったし。」
「・・・・・うん、こうして見ると、お前なかなかいい男じゃないか。」
「いやいや、クロさんには及びませんよ?」
「ははっ、まったく・・・・」
「ふははははっ。」
ベンチに深々と座り、横島は空を見る。
「そうだ、1つ聞いといていいか?」
「何だ〜?」
「お前シロのこと好きなのか?」
「ぶ―――っ!!」
横島は噴き出した。
「うわっ、きったねえな〜〜。」
「手前が変なこと言うからじゃっ!」
「んで、どうなんだ?」
「俺としてはもうちっと成長して欲しいところだな〜。」
「だろうな〜、それは俺も賛成だ。」
「お、気が合うねえ。」
「長老から話を聞いた時、正直あそこまで大きくなってるとは思ってなかったけどな〜、何て言うか、中途半端って言うか。」
「見た目も中身もガキだしな。」
「俺としては美神殿かよくておキヌ殿までは欲しいな〜〜。」
「ちょっと待て、あれは俺んだ。」
「は―いはい、わかったわかった。」
その夜
「ご馳走様、おいしかったよ。」
「お粗末さまです。」
食器を片付けるおキヌは、クロの前にお茶を置いた。
「いいねえ横島、こんなうまい飯しょっちゅう食えるんだろ?」
「へへ―ん、羨ましいだろ?」
「俺もここで働きて―。」
「そんな、誉めすぎですよ。」
お盆に食器を載せ、おキヌはテーブルを離れた。
「クロ兄、何かずいぶん先生と仲良くなったでござるな?」
「そうか?」
「クロとは何か気が合ったっつうか・・・」
「類は友を呼ぶって奴ね。」
美神は笑って湯のみを口に運んだ。
「じゃあそろそろ聞かせてもらいましょうか?」
「? 何のことでござる?」
「美神さん?」
戻って来たおキヌが座ると、美神はクロに顔を向けた。
「手紙に書いてあったことじゃよくわからないわ、クロ。」
「話すさ。」
4人の視線がクロに集まった。
「まずは、そうだな、今度のGS試験のことから話すか。」
「拙者がやるやつでござるか?」
「ああ、それを俺も受けようと思っている。」
「本当でござるかっ!? そりゃ楽しみでござるっ!」
「まあ落ち着け。 俺の修行仲間がGS試験を受けるんだ、俺は付き合いでやるだけさ。」
「ええ〜!?」
「クロさんならいいGSになれると思うけどなあ。」
「ど―も。」
「2人共話の腰を折らない、それで?」
美神はテーブルに肘を着く。
「そいつが・・・・何て言うか、厄介事抱えてるらしくって・・・・それを手伝いたいと思ってる。」
「厄介事ねえ〜。」
「その報告だ。 妖怪だから、下手に除霊とか食らわないようにしときたいし、当日前にあんたに話しとくべきだと思ってな。 見に来るんだろ、GS試験?」
「ま―ね。 じゃこっちも聞いていいかしら?」
「彼女なら募集してるぞ、いつでも言ってくれ。」
「クロっ! 手前〜!」
「はははっ。」
「誰がんな事聞いた? 聞きたいのはあれよ。」
美神は壁に立てかけられている錫杖をくいと指差す。
「前にキリコって鬼が持ってたのと同じ仕込み刀ね。 あんた知り合いなんじゃないの?」
「ああ。」
「クロ兄っ!?」
「クロ・・・」
「やっぱり。」
「・・・俺達は修行中に知り合って、同じ師匠の元で学んだんだ。」
「キリコは私達が除霊したわよ?」
「・・・・仕方ないさ、そのことでどうこう言うつもりはない。 ・・・・友人が迷惑をかけたか・・・・すまない。」
「・・・・・」
「すんだことはいいさ。 あいつもその辺は考えてただろうし。」
「クロ兄・・・」
「そんな顔すんなって、よし、この話はもう終わり。 いいだろ美神殿?」
「ええ。」
「シロ、んなことよりお前落ちんなよ? 恥ずかしいから。」
「なっ! 拙者は常日頃から先生と鍛えてるんでござるよっ!? クロ兄にだって負けんでござるっ!!」
「あの散歩のことかよ・・・!?」
「そりゃ楽しみだ。 せいぜい遊んでもらおうか?」
「ぬうううっ! よ〜〜〜し負けんでござるよっ!!」
「2人共頑張ってくださいね。」
さらに深夜
ワインを片手にチーズを摘みながら、美神とクロは話していた。
「そっか、あんたアルテミスと合体したんだ、見てみたかったなあ・・・」
「冗談、あんなめんどくさい事もうお断りよ。」
「はははっ。」
美神がくいっとグラスを空けたので、クロはビンを掴んでワインを注いでやった。
「・・・・ねえ、あんた達のこと、もうちょっと聞かせなさいよ。」
緩んだ瞳で美神はクロを見つめた。
「別におもしろいことなんかねえさ。 んなことより、俺はあんたのことが知りたいね〜。」
「んなこと明日おキヌちゃんかシロにでも聞きなさい。 ほら話せ。」
「別に・・・・・今まで勝手気ままに修行してた野郎共が、一緒にじじいに教わったってだけだよ。」
「じじいは?」
「ははははははっ! 老衰でくたばっちまってやんの。」
「酔っ払うな、まだ早いわよ?」
美神はチーズを摘んで口に放り込む。
「ん―――・・・・んでキリコの村が焼き払われたって聞いて・・・・・あいつも死んだんだっけ? あっはっはっはっ、馬鹿だよな〜ったく〜。」
「ん―・・・・んで?」
「あ―何だっけ・・・・? だいたいハルもいいかげん話せってんだよな〜〜、親友に対して失礼だっ!」
クロはがんとテーブルを叩いた。
「ハル・・・? それがGS試験受けるって奴?」
「試験・・・・何じゃそりゃあ・・・・?」
「ちょっとクロ? しっかり話しなさい。」
「うい〜〜〜・・・・」
がちゃん テーブルに突っ伏したクロははふ〜っとあくびをした。
「ったくだらしない男ね。」
「ん〜〜〜〜・・・・ハルもタマモ・・・・俺を何だと・・・・」
「!? タマモ・・・・?」
「ぐ〜〜〜〜・・・・」
「・・・・・ま、いいか。」
美神はグラスを空け、ビンを掴んでワインをとくとく注いだ
翌日
「てんめえ―、クロっ! 何でお前がここで寝てんだよっ!?」
「知るか、朝起きたらここだったんだ!」
「こん裏切りもん―――っ!」
「うるせ―、知るか――――っ!」
横島に飛び掛られたクロは、じゅうたんを転がって取っ組み合った。
「朝っぱらからうるさい男共ね〜・・・」
半開きの目を擦りながら、美神は大きくあくびをした。
「がが―――んっ!! じゃあクロ兄はタマモと知り合いだったでござるかあっ!!?」
「何でがが―んなんだよ? 知ってちゃいけないのか?」
「い、いえそういうわけでは・・・・」
「シロちゃんやきもち?」
「ちっ、違うでござるっ!」
シロはぷいと顔を背けた。
「そういやおキヌ殿、タマモここにいないのか?」
「タマモちゃんいつどこに行くか全然言わないから・・・・そのうち帰ってくると思いますけど・・・」
「あ―、いいよいいよ。 特に用はないから。」
「でも驚きました、クロさんとタマモちゃんが知り合いだったなんて。 タマモちゃんそういうことあんまり話さないから。」
「ふんっ! 狐のことなんかど―でもいいでござるっ!」
「すねんなって。」
クロは笑った。 かちゃっ
「クロ、こっちは準備出来たわよ?」
「どうも、んじゃなシロ。 GS試験で会おうな。」
「い、行っちゃうでござるのか?」
「そんな顔すんなよ、また来るから。 おキヌ殿、今度はデートしような。」
「えっ? あの、あの〜・・・」
「こらクロっ!」
ドアの向こうから横島が顔を出した。
「はははっ、じゃあな。」
「タマモの居場所〜? 心当たりあるぞ。」
「そうか?」
美神の運転する車は、信号が青くなったのと同時に走り出した。
「多分、俺の学校じゃないかなあ? 愛子がんなこと言ってたような気がする。」
「クロ、寄ってみる?」
美神は助手席のクロにちらっと目をやる。
「お願い出来るかな?」
「オッケー。」
横島の学校
ぴんぽんぱんぴんぽんぱんぴんぽんぱんぴんぽんぱん・・・・
「・・こ―の空に―飛べ― 雨―に流され―ず― 風―に飛ばされず――― 黒い雲の――壁ま―でも―― 飛び越え―て―ゆけ―― 青い空を目指して― あなたの―笑顔と共に―― 」
ぴんぽぱぱんっ
「ん〜いいんじゃない? もう1つ音下げてみる?」
愛子はピアノの鍵盤から指を放した。
「う〜ん何か違うのよね〜。」
「今回はこのぐらいにしといたら? 焦ってうまくはなれないわよ。」
「ん―・・・」
ぱちぱちぱち
「?」
がらっとドアが開き、クロが音楽室に入ってきた。
「あんたにそんな趣味があったとはねえ。」
「なんだクロか、久しぶり。」
「え? 誰?」
「初めましてお嬢さん、俺は犬井クロという旅の者です。 ところで今晩一緒に食事でもどうです?」
「えっ? あ、タ、タマモちゃ〜ん・・・!」
クロに手を握られた愛子は頬を赤くしてタマモに顔を向けた。
「なんだまだそんなことやってんの?」
「悪いかよ?」
「いや、別に。」
「あ、あの〜〜〜・・・・?」
「愛子、ちょっと外しててくれる?」
「う、うん。」
手を振りほどいた愛子は、古い机をかかえたそそくさ走りさった。
「何か用?」
「いや、顔を見に来ただけさ。」
タマモはピアノにもたれかかり、クロは椅子に腰掛けた。
「・・・・ハルは? 一緒じゃないの?」
「今はどこにいるかはしらない。」
「そう。」
「今度のGS試験に、あいつ出るつもりらしい。」
「!? ・・・・何で?」
「わからない。 教えてくれないんだ。」
「・・・・・」
「俺も出てみる。 ハルが何をするつもりかは知らないが、あいつの力になりたいんだ。」
「・・・・・」
タマモは窓の外に目をやった。 クロはそんなタマモに目を向ける。
「試験になれば会えるさ。」
「・・・・・別に。」
「ま、伝えることは伝えたから。」
クロは立ち上がった。
「ったく、こんないい男を無視して烏になびかなくてもいいだろうに。」
タマモはけけけと笑った。
「んなんじゃないわ、アタシらは。」
「・・・・だろうな。 だからよけいに羨ましかったりするが・・・・あいつは、俺よりもあんたを信頼してるからな。」
覗き込むように見てくるクロに、タマモはふっと笑って目を閉じた。
「事務所には?」
「行った。 いい女だな、美神殿。」
「まあね。 口説いた?」
「はっ、攻略には時間かかりそうだ。」
「ふふふっ。」
「じゃ、行くわ。」
「ん。」
クロはリュックを背負ってくるりと背を向けた。
「あ―、早かったわねクロ。 もういいの?」
「タマモいたろ?」
「ああ。」
校門の外で待っていた美神と横島は、クロが車に乗ると走り出した。
「あんたがタマモと知り合いだったとはね〜、世の中狭いわ。」
「まあ、そんなもんだろ。」
「おい、まさかお前タマモにまで手―出してんじゃねえだろうなあっ!?」
「何だよあれもお前のだって―のか?」
「当たり前じゃっ!」
横島が後から体を乗り出してきた。
「いいかげんにしときなさいこの見境なし。」
苦笑いをする美神の横で、クロは腕組みをした。
「横島―、タマモは駄目だな〜、ハルが気に入ってたから。」
「ハルう?」
「って、あんたとGS試験受けるっていう、友達?」
「ああ。」
「何言ってやがるっ! 俺の女に手―出す奴は許さんっ!」
「いつからあんたのになったのよ・・・?」
「んじゃあ、せいぜい頑張れ。」
クロは苦笑した。
「ああああ・・・・クロ兄があんなに立派になってるなんて・・・・・いやいかん、拙者は先生一筋と心に決めたのにっ・・・・・ああでもクロ兄もかっこいい―っ!! 先生とクロ兄っ、どっちか1人に決めるなんて拙者には出来―――んっ!! 拙者はいったいどうすればいいでござるか〜〜〜〜〜っ!!!」
「シロちゃん、妄想もそのくらいにしといたら・・・・?」
『聞こえてないようですよ。』
「・・・・お洗濯でもしよっと。 人工幽霊1号、お天気はいいかな?」
『いい天気ですよ、洗濯日和です。』
「そっか。」
頭をかきむしって叫ぶシロを残し、おキヌはぱたぱた廊下を走っていった。
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【次回予告】
横島 「お、何つけてんだタマモ?」
タマモ「これ? さっき買ってきたんだ。」
横島 「へえ〜綺麗だな、銀なのかその鈴?」
タマモ「みたいよ?」
シロ 「むむっ!? 先生っ! 拙者も何か欲しいでござるっ!!」
横島 「散歩用の首輪があるだろが?」
シロ 「そんなんじゃ嫌でござる――っ!!」
横島 「でもそんな小さいの1個じゃちょっとさみしかないか?」
タマモ「そこがいいんじゃない。」
シロ 「へえ〜んおキヌ殿〜〜〜〜〜!」
おキヌ「よしよし、泣かない泣かない。」
横島 「ふ〜む、よくよく見るといいなあそれ。 似合ってる。」
タマモ「ふふんっ、いいでしょ?」
おキヌ「うう〜・・・・美神さ〜ん・・・!」
美神 「何やってんだか・・・」
横島 「次回、『サイレント・ベル』」
タマモ「わが息吹を糧となし、その身に宿して強きを極めよっ!!」
美神 「何熱くなってんの?」
タマモ「いっけ――っ!」