どかっ
「うわっと!?」
シロは足元に突き刺さるマリアの腕を飛んでかわす。
「今じゃっ!」
マントを広げたカオスの胸の魔法陣から霊圧が飛んできた。 ばちばちっ
「ぎゃんっ!」
『おお―っと犬塚選手まともに喰らってしまった――っ! マリアの腕とカオス選手の霊波攻撃に防戦一方でしたが、ここにきてついに直撃しましたっ!!』
『無闇に飛び上がるからあるよ。』
どてっ シロはうつ伏せに転がった。
「おい、もういいかげんに降参しとけ。」
「っく・・・・先生・・・!?」
客席に目をやるシロ。
「ぐっ! 先生も美神殿も拙者を見ててはくれんでござるか・・・・くっそ〜〜〜〜!!!」
『おおっと犬塚選手立ち上がった―っ!』
『血の涙を流しているように見えるのは私だけあるか・・・?』
きつねレポート
牙と思いの幻影 −フィーリング・ハート−
医務室
「おキヌちゃ〜ん、なんだか怪我人が増えてきたから〜、あっちの部屋の方をお願いしていいかしら〜?」
「あ、はい。 じゃあ行ってきます。」
「よろしくね〜。 さあショウトラ〜、どんどんヒーリングよ〜。」
『ばうっ!』
おキヌは冥子から包帯の箱を受け取り、医務室を出た。
「あれっ、カオスさんっ!?」
「お、おう・・・・仕事か?」
ストレッチャーでがらがら運ばれてきたカオスと共に、おキヌは隣の部屋に入った。
「大丈夫ですか?」
「いや〜犬の嬢ちゃんにずいぶんやられてしまったわい。」
「相手シロちゃんだったんですか!?」
「うむ・・・・く〜〜〜っ、あそこでマリアのバッテリーさえ切れなければっ!! 電気代をケチったばっかりに・・・!!」
「ほら血が出ちゃいますから、じっとしてくださいよ。 すぐヒーリングしますからっ!」
「ハル。」
「おう。」
クロは壁にもたれているハルに駆け寄った。
「ん、何だ? あの骨の女が気になるのか?」
「いや、ちょっとな。」
「浮気はいかんな―? タマモに言いつけるぞ?」
「なっ、だから僕達は・・・!!」
「そう言うんじゃないわ。」
「おわっと!?」
タマモが観客席から飛び降りてきた。
「あの骨の女が何か関係ありそうね。」
「そうなのかハル?」
「・・・・・・」
腕組みをして眼をつぶるハルは顔をアップに近づけるタマモとクロにため息をついた。
「あ―、わかったよ・・・・きみらには負けた。 話すよ。」
「よっしゃ。」
「へいっ!」
タマモとクロは笑ってパンと互いの手を握った。
「もう1試合目もほとんど終わりだね。」
「そうね〜。」
美神と西条はボールペンをくるくるもてあそんで紙にチェックをする。 ぴるるるる、ぴるるるる、ぴる・・
「もしもしエミ? 何かわかったの?」
『こら令子っ! タイガーちゃんと勝ってるじゃないのよっ!?』
「な〜んだ知ってるの?」
『嫌がらせすんじゃないわよこの忙しい時にっ!』
「あ――、わかったわかった。 で、何?」
『ったく、まあいいわ。 それなりの怪しい候補を見つけたワケ。 多分間違いないわよ?』
「西条さん、めぼしいのが見つかったそうよ。」
「ちょと貸してくれ。」
美神は西条に携帯を渡す。
「エミ君、確かなのかい?」
『今から戻るわ。 詳しくは令子の事務所で。』
「わかった。」
ぴっ
「戻ろう令子ちゃん。」
「そうね。 あとはザコっぽいし。」
西条に続き、美神も立ち上がる。
「横島君・・・・・は、まあ、いいか。」
「あいつはいざって時にこき使うわ。」
客席の通路を女を追いかけて走り回る横島と、その後を泣きながら追いかけるシロを背に、美神と西条は出口に足を向けた。
「あっと・・・」
がちゃがちゃあんっ
「いった〜・・・・」
廊下に座り込んだおキヌは、血の出る指先を咥えながらはさみや包帯をトレイに乗せる。 おキヌの目に包帯を掴み上げる手が映る。
「あ・・・・あなたは。」
トレイを掴み、ドラゴンの骨を被った髪の長い女が包帯やらをひょいひょい拾い上げるのを、おキヌはぽかんと口を開けて見ていた。
「大丈夫ですか?」
「あ・・・・は、はい。 ありがとうございます。」
ツクモの差し出した手を取り、おキヌは立ち上がった。
「候補生の方ですか? 私氷室キヌって言います。」
「・・・・・」
「あの〜・・・?」
黙っておキヌを見つめてくるツクモに、おキヌは骨の仮面の目の穴から見えるツクモの瞳を見つめる。
「あの―・・・・えっと・・・」
「あ、ごめんなさい。 私は受験生のツクモと言う者です。」
「ツクモさんですか? いい名前ですね。 私のことはおキヌって呼んでください。 友達もそうやって呼んでくれますから。」
「ありがとうおキヌさん。 あ、手貸してください。」
「え?」
トレイを積み上げられた荷の上に置き、ツクモはおキヌが咥えている指の手を手に取り、指先にもう片方の手をすっとかざした。
「あ・・・・」
すっと血が止まった。
「すごいっ! ツクモさんもヒーリング出来るんですね!」
「ええ、母から受け継ぎました。」
「すごいな〜、私じゃこんなに綺麗に治せませんよ。」
おキヌは指先を撫でたり動かしたりした。
「まだお仕事ですか?」
「はい、私六道女学院の生徒なんですけど、お手伝いで救護班に参加してるんです。」
「そうなんですか。 よかったら、手伝わせてくれませんか?」
「あ、駄目ですよ。 ツクモさんは明日も試合があるんじゃないですか? 今日はゆっくり休まないと。」
「大丈夫です。 夜までまだ暇ですから。」
「いけませんよ。 ちゃんと明日に備えてください。」
おキヌはトレイを手に取った。
「ありがとうツクモさん。 でも私、ツクモさんには万全で明日に臨んで欲しいですから。」
「・・・・わかりました。 では私はこれで。」
軽く頭を下げるツクモは廊下を歩き出した。
「ツクモさん!」
振り返るツクモはおキヌの笑顔を目にする。
「頑張ってくださいねっ!!」
「はい。」
「よかったら、こんどゆっくりお話しましょうね!!」
「・・・・・はいっ!」
歩いてくツクモの後の姿に、おキヌは手を振った。
「ツクモさんか〜。 でも何で骨なんか被ってるのかなあ・・・・? 綺麗な人みたいなのに・・・」
近場の喫茶店
タマモとクロはハルに向かい合うように座っていた。
「結論から言うと、僕は未来から来た、人間に作られた烏なんだ。」
「は、未来から?」
「・・・・はあ? 作られた――?」
タマモとクロはコーヒーカップから口を離す。
「あんたそんなこと出来るの?」
「出来ないさ、僕はね。」
「じゃあ、どうやって来たんだよ?」
「その辺はいい、問題はそこじゃない。」
「だがなあ・・・・それに何だよ作られたって?」
「クロ、まずは話を聞いてから・・・・・続けてハル。」
「ああ。 人造の妖怪を作り出している人間がこの時代にいる。 僕はそれを潰しに来た。」
「歴史改ざん?」
「いや・・・・・むしろ僕は修正に来たんだ。」
「?」
「?」
「今から80年後の時代では、人造妖怪がそれなりに普及しているんだ。 兵器としても、除霊の手段としてもね。」
「ふ―ん。 あんたもそういうのなの?」
「まあな。 でもやっぱり僕はそれが気に入らない。 扱いも最悪だし、犠牲者が妖怪にも人間にも多い。 そもそも人造の妖怪を作るになんてことに至ったのは、この時代に逆行した奴の仕業なんだ。」
「じゃあ、本当なら人造のってのはあるはずのないことなのか。」
「そうだ。」
「未来の人間がこの時代に来たのを追ってきたの?」
「まあ、な。」
「ん? それとこのGS試験と何の関係があるのよ?」
「実験体がテストを目的として出場してるんだ。 それを見つけて潰さないといけない。」
「ひょっとして、あのドラゴンみたいな骨を被ってた女?」
「何っ!? あの美人がかっ!?」
「・・・・あれは追っ手さ。」
ハルは窓の外に目をやった。
「追っ手って・・・・未来からの?」
「僕は賞金がかけられているんだ。 彼女は未来のGSさ。」
「ぶっ! おま・・・・何したんだよ・・・・?」
クロは噴き出したコーヒーをぬぐう。
「いろいろやるにはやったが・・・・・今では僕ら人造妖怪は危険だってことで処分される対象なんだ。」
「そう・・・・なのか・・・・」
「ふ〜ん、時間移動までして追ってくる女、か・・・・・・随分おもてになって。」
「追っ手のことはとりあえずいい。 とにかく僕の追ってた奴は処理したが、既にある企業と手を結んで研究は進んでいた。」
「人造妖怪ってのが作られたの?」
「ああ。 会社の資料や関わった奴、そういうのはほぼ処理したが、問題の実験体は既にいなかった。」
「隠されたのか?」
「いや・・・・」
上目使いのクロに、ハルは目を閉じる。
「僕が研究所らしき所に踏み込んだ時、既に何者かが争った形跡があった。」
「どういうこと?」
「実験体が自分の意思で逃げ出したんだと思う。」
「・・・・」
「・・・・」
「そいつに繁殖能力があるのか、どれだけ知能があるかはわからないが、まだ歴史は修正されてない。」
「・・・・何でわかるのよ?」
タマモはコーヒーのスプーンをくるくる回す。
「わかるさ、僕がまだここにいる。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「残っていた資料とかから考えても、奴はGS試験に出ている可能性が高い。」
「なぜ?」
「自分の実力とか知りたいと思うだろうしな。 何より戦うのが好きなようだから。」
「確証はないんでしょ?」
「まあな、だが自信はある。」
「何で?」
「僕もそうすると思うからさ。」
「同じ人造妖怪だから?」
「そういうことだ。」
タマモは回していたスプーンをかちゃんと落とした。
「それらしい奴は見つけた。 出来れば試合という場を借りて処理したい。 でないと逃げられるし、回りの被害も大きい。」
「あんたが人間の心配するんだ?」
うすら笑うタマモに、ハルは苦笑する。
「それより追っ手の・・・・ツクモだったか名前は? どうすんだよ?」
クロが砂糖の袋を指で弄びながらハルにそれを投げる。
「この人間の姿の僕には、彼女はまだ気付いてない。 騙し通せればいいんだが・・・」
「・・・・話はわかった。 手伝わせてもらうぜ、ハル。」
「すまん。」
「もっと早くに話せよな。」
クロがテーブルの上に肘ごとだした手を、ハルはぱしっと握った。
「・・・・・」
タマモがすっと立ち上がる。
「・・・・タマモ・・・」
「おいタマモ?」
「アタシはお断りよ。」
見下ろしてくるタマモの目を、ハルは真っ直ぐ見上げる。
「自殺志望者なんてね。 見損なったわ。」
「おいっ、そういう言い方・・・」
「クロ、いいから。」
立ち上がろうとするクロを、ハルが制止した。
「改ざんされたものは、直したいんだ。」
「それはあんたが気に入らないからでしょ? あんたが気に入るように改ざんされたものでも、あんたは同じように元に戻そうとするのかしら?」
「・・・・・」
「ゲームじゃないのよ? リセットしようなんて考えが気に入らない。」
「・・・・・」
「自分のいた時で、自分の出来ることする。 それが出来ないような弱虫に、もう用はないわ。」
タマモは出口にすっと歩き出した。
「おいタマモっ!?」
「クロ。」
からんからん・・・・ 勢いよく開けられたドアがゆっくりと閉まった。
「ありがとうございました〜。」
「あいつは・・・・」
どかっと座り込むクロに、ハルは窓の外に目をやった。
「タマモの言ってることは正しいよ。 僕はただの弱虫だ。」
「ハル・・・」
「確かに僕らのせいで悲しい思いをした奴らも多い。 でも、助かった奴らも多いんだ。」
「・・・・・」
「人造妖怪を消すことが、いいか悪いかなんて・・・・・本当は誰にもわからないんだろうな・・・」
「俺だって、本当はお前が消えちまうことに、協力はしたくねえんだぞ?」
「すまない・・・・・やるからには本気だ。 クロ、力を貸してくれっ。」
「お、おう!」
真っ直ぐ目を見てくるハルに、クロはたじろぎながらも声を強くして笑った。
夜 美神除霊事務所
「ど―せ、ど―せ拙者なんか〜・・・・・・しくしくしく・・・」
「物陰で泣くんじゃないわようっとおしい・・・」
隅っこで泣いているシロに、美神はクッションを投げつける。
「いいのかい美神君、シロ君は・・・?」
「横島君、あんた散歩でもしてらっしゃい。」
「え〜?」
「さあ行くでござるよ先生―――っ!!」
「また嘘泣きかい・・・」
「さあさあさあっ!!」
横島の腕を掴んだシロはスキップしてドアに向かう。
「じゃあ行ってきますでござる―――っ!」
ばたんっ
「・・・・さ、うるさいのは消えたわ。 で、どこまで話してたっけ?」
美神は西条、エミ、唐巣、ピートの座るテーブルに顔を戻す。
「エミ君、どこの誰なんだ怪しいのは?」
「まあ待ちなさい。」
エミは椅子にぐっと座り込む。
「候補生の名前はヤシロ。 本名かどうかはわからないわ。 ザンス王国とのオカルトアイテムの貿易中継をしてる会社の1つの社員みたいね。 ティルコット社っていうの、聞いたことない?」
「何・・・・?」
「西条さん知ってるの?」
「コルの父親の会社だ・・・」
「え? あのお嬢ちゃんの?」
「それなら私も聞いたことがある。」
唐巣はテーブルで腕を組んだ。
「確か先月だか、呪的アイテムでいざこざがあったところじゃないかな?」
「ええ、それも僕が担当したやつです。 しかしあの程度のことならよくあることです。 オカルトの条例も、曖昧なところが多いですからね。」
「まあそれは置いとくとして話を続けると、一般には公表されてないけど何らかの実験中に事故がおきたらしいわ。」
「何らかってなによ?」
「わかんないから何らかなんでしょうが? おたく脳みそついてるワケ?」
「何ですって・・・・!?」
美神とエミががたんと立ち上がる。 ばちばちばちっ
「やめてくださいよ2人共・・・」
「わかったわピート。」
「このアマ・・・・」
「ま、まあまあ。」
立ち上がった西条は美神とエミの肩を押えて座らせた。
「続けてくれエミ君。」
「ふん。 そのさい職員が何人か行方不明になってるわ。 多分もう生きちゃいないでしょうけど。」
「それで?」
「2、3日前にも会社に侵入した奴がいるらしいわ。」
「誰が?」
「さあね・・・・・そもそもヤシロなんて奴を知ってる社員はいないみたいなのよ、ピート?」
「ええ、僕が会社の本社の方に潜入して調べてみたんですが、どうも架空の社員ですね。 それにヤシロという男の責任者に会ってみたんですが、なんだか操られてるみたいでした。」
「ティルコット社には生物実験をしているなんてうわさもある、怪しむには十分すぎると私も思うよ。」
唐巣はずり落ちかけた眼鏡を上げる。
「どうやら間違いなさそうね。 そのヤシロって奴の尻尾を掴めばいいんでしょ西条さん。」
「・・・・・・」
「西条さん?」
「あ、ごめん。 何・・・・?」
「・・・・・コルちゃんのこと?」
「ああ。 もしかしたら、彼女も無関係ではないのかもしれない・・・・」
「・・・・・とにかく明日よ。 場合によっては試合中の会場に殴りこむことになるから、皆しっかり準備しておいてね。」
「ええ。」
「仕事はきっちりこなすワケ。」
「では明日。」
5人は立ち上がって顔を見合わせた。
「はあ〜っ・・・・」
「何だどうした?」
ため息をついて歩くシロの後姿を見ながら、横島はあくびを押えて声をかけた。
「何でもないでござる・・・・・」
「そうか。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「ちょっと先生っ!?」
「は? 何だ?」
「弟子が落ち込んでるのに何か慰めの言葉はないんでござるかっ!?」
「え!? だって何でもないって言うから・・・」
「それでも気を使うのが師匠の役目でござろうがっ!!」
「だったらそう言えこの馬鹿っ!」
「―――っ!? 先生今日の拙者の試合見てなかったくせにっ!!」
「ばっ、見てたさちゃんと。 いい戦いぶりだったぞ?」
「嘘つきっ!!」
「嘘じゃねって! あんな強そうな男に・・・」
「カオス殿でござるよ拙者の相手はっ!!」
「あれ・・・・?」
「ぎゃ――――――――っ!」
「!?」
「何だ・・・?」
「行ってみるでござる!」
「お、おい・・・」
走り出すシロに、横島は続いた。
ぶし――っ
「なっ!?」
「げげっ!?」
血を噴き出す女を頭からかじっている黒い影に、2人は思わず後ず去る。
「お、おのれ化け物――っ!」
「おい待てって・・」
シロは霊波刀を出して突っ込んだ。 ばきっ
「ぎゃんっ!」
「シロっ!」
蹴り飛ばされて飛んで来るシロを横島がキャッチする。
『くきゃ―――っ!』
「ひ――っ!」
影が翼を広げて飛び掛ってくる。 どかあんっ
『ぶぎゃっ!?』
「――!?」
吹き飛ばされた黒い影がアスファルトに転がる。
「な、何だ・・・?」
シロを抱える横島と影の間に、白い骨を被った女が立った。
「あ、あんたは・・・・って、何じゃありゃあっ?!」
街灯に照らし出され、黒い羽にくちばしを尖らせる男が立ち上がった。
「か、烏天狗・・・・?」
「下がって。」
「え、あ・・・・は、はいっ!」
身構えるツクモの声に、横島は1歩づつ後退しだした。
『き――っ!』
「はっ!!」
ぶぶんっ 横島はツクモの手から伸びる青白い光を目にする。
「霊波刀!?」
ぎんっ ばきゃっ 爪と霊波刀が弾きあい、飛び上がった烏天狗はそのまま暗い空に吸い込まれていった。
「・・・・・・逃げた。」
「あ、あの〜・・・」
霊波刀を消したツクモは倒れている女に駆け寄った。
「・・・・間に合うかな。」
横島はシロを引っ張ってかがんでいるツクモに近寄った。
「?」
淡い光がツクモの手から溢れ、女の頭の穴のような傷がみるみるなくなっていくのを見る。
「ヒーリング・・・・・すげえ・・・おキヌちゃんの比じゃねえや・・・」
すっと光が止み、ツクモは横島を振り返った。
「文珠を1ついただけませんか?」
「え? あ、はい。」
ぱしゅっ 横島からそれを受け取り、ツクモはそれを女の頭に叩き付けた。
『忘』
「よし。」
ツクモは女電柱にもたれさせた。
「数分で目が覚めますから、めんどうになる前にここを離れましょう。」
「はあ・・・」
ツクモは歩きながら、隣の横島に寄った。
「シロさんを。」
「え? あ、忘れてた。」
横島はシロの顔をぺちぺち叩く。
「おいシロ? おい?」
「気を失ってるだけですね。」
「シロ、散歩。」
「散歩ぉっ!?」
「よし起きたな。」
「あれ・・・・・・は、先生奴は!?」
シロは飛び上がって辺りを見回す。
「もういねえよ、大丈夫だ。」
「・・・・すごい、先生が追っ払ったでござるかっ!?」
「俺じゃねえよ、この・・・・・あれ?」
横島は首を振り、歩き去ろうとするツクモを見つけた。
「ちょ、ちょっと待って・・・!」
「先生?」
横島とシロはツクモまで走っていった。
「ま、待ってくださいっ!!」
「・・・・・」
2人はツクモの前に立ちふさがった。
「さっきはどうも助かりました。 ほれシロっ。」
「せ、拙者犬塚シロと言います! 助けていただいてありがとうございますっ!!」
シロはぺこっと頭を下げた。
「ただいま〜。」
「おキヌちゃんお疲れ―、たいへんねこんな時間まで。」
「これも実習ですから。」
ソファーに腰を下ろすおキヌに、美神はお茶を渡した。
「また直ぐ戻らなきゃいけないんでしょ?」
「はい、お風呂と着替えを取りに戻っただけですから。」
「ま、無理しないようにね。」
「はい。」
おキヌはごくっとお茶を飲み干した。
「ぷは〜・・・・・そうだ美神さんっ! 今日素敵な人にあったんですよ?」
「何? 芸能人でも見学に来てた?」
「違いますよ―。 受験生の人なんですけど、ツクモさんって言うんです。」
「受験生・・・・どんな?」
「なんか、角を生やした骨を被ってる女の人ですよ。」
(・・・・あいつか。)
「それで?」
「すごいんですよ? ツクモさんもヒーリングが出来るんです。 見てくださいこの指。」
おキヌは美神に指を見せた。
「怪我しちゃったんですけど、ツクモさんが治してくれたんです。 綺麗に治ってるでしょ?」
「ふ〜ん・・・・」
「ツクモさん明日合格出来るといいな〜・・・・私も卒業したら、ツクモさんみたいになれるかなあ・・・?」
「ずいぶんご執心ね? そんなに仲良くなったわけ?」
「え? ・・・・・あ、そう言われると・・・ちょっと話しただけだけど・・・」
「何?」
「あ・・・でもっ、いい人ですよ。」
「あんたがそう言うんなら、信じるわ。」
「はいっ!」
微笑む美神に、おキヌも笑った。
「しかしツクモさんすごい腕ですね〜、シロとは大違いだ。」
「ぐっ・・・!」
「そんなことないですよ、私の霊力なんてたかがしれてますから。」
「そんなことないですって。 俺は今日のツクモさんの試合見てましたよ? すごかったな〜。」
「せ、拙者のは見てなかったのに・・・」
横島は並んで歩くツクモの前に回った。
「そうだ、試験が終わったら俺達んとこに来ません? 俺が手取り足取り教えますよぉ?」
「ちょっと先生!?」
ツクモの手を握る横島にシロが後から飛びつく。
「だ〜っ! 放せボケっ!」
「浮気はいかんでござるっ!!」
「何が浮気じゃっ!」
「あはははは・・・・・ん?」
ツクモは足を止めた。
「あれ? どしました?」
「ツクモ殿・・・?」
「すいません。 私はここで失礼します。」
「ええ〜? そこらでお茶でもしましょうよ。」
「ありがとう。 でも、明日もありますから。 シロさんも、早く帰って明日に備えてください。」
「は、はいっ! 先生帰るでござる。」
「おう。 じゃあツクモさん、明日試験が終わったらぜひデートをっ!!」
「せ〜ん〜せ〜!?」
「わっ、噛むなって・・・・・じゃあツクモさん。 明日。」
「ええ。」
「いで――っ!! いって―ってシロっ!」
「がるるるるっ!」
走り去る横島とシロを、ツクモは笑って見送った。 じゃかっ 街灯を弾く銃口がツクモの後頭部に突きつけられた。
「余裕ね。 ツクモ、さん?」
「そんなことないわよ。」
両手を挙げたツクモはゆっくりと後に体を向けた。 金髪の女が銃を突きつけているのが視界に入る。
「この時代に来るのだって結構苦労したんだから。」
「それはご苦労様。 どう、アタシとお茶でも?」
目を細めるタマモに、ツクモは笑った。
「こういうナンパもありかな?」
タマモは骨の穴から覗けるツクモの瞳を見つめた。
某ホテルの1室
ぷるるるる、ぷるるるる、ぷるるる・・
「はい?」
『コルちゃんかい? 僕だ、西条だよ。』
「お兄ちゃん! どうしたんですか?」
『いや、1次試合突破おめでとうって、言いたくてね。』
「見ててくれたんですか? 嬉しいな。」
『もちろんさ。 明日も頑張れよ。』
「はいっ!!」
『・・・・コルちゃん・・・』
「何です?」
『あ、いや・・・・それだけだ。 ゆっくり休んでくれ。』
「ありがとうございます。」
『お休み。』
「お休みなさい。」
かちゃん・・・
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【次回予告】
美神 「な〜んかごちゃごちゃしてきたわね―。」
おキヌ「大丈夫ですよ。 きっと何もかもうまくいきますって。」
タマモ「世の中そんなに甘か―ないわよ。」
横島 「うお―っ、ツクモさ――んっ!」
クロ 「てめ横島っ! あれは俺が先に目をつけたんだっ!!」
シロ 「ちょっと!! だから拙者の応援はっ!?」
雪之丞「おい横島、荷造りすんだか?」
シロ 「きい――っ! だから先生は拙者と・・・」
西条 「コルちゃん・・・・きみは・・・」
クロ 「烏だと・・・・まさか・・」
エミ 「タイガーっ!! 令子んとこの犬なんかに負けんじゃないわよっ!?」
シロ 「くっそ〜〜!! なぜ拙者に活躍の場がないでござるかっ!?」
美神 「あんたらうるさいっ!!」
タマモ「次回、『牙と思いの幻影 −ウィメン・ワーク−』」
おキヌ「ねえタマモちゃん、ツクモさんは味方なのかなあ?」
タマモ「さあ? ったく、どいつもこいつも・・・・っ!!」