『今年のベスト8が揃いましたね厄珍さん。 どうですか?』 
『わたしはあの姉ちゃん達が好みあるなあ。』 
『誰があんたの好みを聞きましたか? しかし実力的に言っても、この2名は注目出来ますね。』
ツクモは鞘に収めた刀を抱きながら座っていた。 
『ドラゴンを思わせる骨を被り、圧倒的な剣技を見せる謎の実力者、ツクモ選手っ。 そして槍を操り、華麗な戦いを見せてくれるイギリスからの研修生、コーリング・ブラント選手っ。 今大会の紅2点となりましたね。』 
槍を布で拭いているコーリングは、コートを挟んで向こう側のツクモに顔を上げる。 ツクモもそれを見据えた。 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
『ぜひとも私の店を活用して欲しいあるな。 お嬢さん方っ、安くしとくあるよっ! どかっ、ぴ――――――・・・・』 
『失礼いたしました。 間もなくベスト4を決める試合が始ります。 もうしばらくお待ちください。』 


きつねレポート

 牙と思いの幻影 −ソード・ダンス− 


「おもしろいことになってきたわね〜・・・・」 
ポテチをぱりぱりやりながら、美神は客席から見下ろしていた。 
「そおっすか〜?」 
「あら横島君、シロはどうだった?」 
横島は美神の隣にどかっと腰を下ろした。 
「いじけてましたよ。 なんか饅頭怖いとか意味不明なことしきりに呟いてましたけど・・・・」 
「まんじゅう・・・・? まいいわ。 こっちもベスト8が出揃ったわよ。」 
「ヤシロってのは?」 
横島は美神の手にしているポテチの袋に手を伸ばす。 がさがさ 
「勝ち残ってるわ。 おまけにくじ運がいいみたで、今だまともな奴と当ってないわ。」 
「じゃあ疲れちゃあ・・・・?」 
「ないわね。」 
「はあ―、俺は雪之丞んとこ行き決定だし、ついてねえな〜〜・・・・」 
「いっそ作戦を変えるか・・・・今なら回りを巻き込んでフクロに出来るかも・・・でももう少し様子を見るか・・・・」 
「か〜〜っ、困ったっ!!」 
「うう〜〜んっ、困ったっ!」 
美神と横島は揃って頭をかきむしった。 

「お久しぶり。」 
「きみか・・・」 
ツクモは壁にもたれているハルに歩み寄ってきた。 
「タマモからだいたいのことは聞いたわ。 自分で自分の首をしめるために、わざわざ時間移動したの?」
「それを追ってくるきみも、たいしたものだよ。」 
「仕事がこなせてこそのGSですから。」 
ツクモはハルの隣に並んで壁にもたれた。 
「タマモ怒ってたわよ?」 
「・・・・賞金首に説教かい?」 
「ええ、人生の先輩としてね。」 
「ははは、先輩か。」 
ハルは腕組みをしたまま笑った。 腕に挟んでいる錫杖が揺れ、かしゃかしゃ鳴る。 
「何でまだそんな骨を被っている? この時代に知り合いでもいるのかい?」 
「内緒ですよ?」 
ツクモは背を壁に着けたまますっとハルに体を寄せた。 
「実はいます。」 
「・・・・タマモか?」 
「タマモも、かな。」 
「も? まあいいさ。 しかしそうなると、あの噂は本当だったんだ。」 
「噂?」 
「妖弧とつるんでるすご腕GSがいるって噂さ。 多分、きみとタマモのことだろう?」 
「・・・・・そ、そんな噂があったんだ。」 
「あくまで噂さ。」 
「ここ3年ほど会ってないんだけどな。」 
ツクモはやれやれとため息をついた。 
「で、あなたの目的は?」 
「ヤシロ、あの男だ。」 
ハルが目を向ける先に、背の高い男がいた。 
「やっぱり・・・・それに彼女も、でしょ?」 
ツクモはコーリングに顔を向ける。 
「・・・・彼女はよくわからない。 人造妖怪ではないはずなんだが・・・・・もう人間でもない。」 
「ええ。」 
「気付いていた?」 
「一応。 年季ってやつかな?」 
「お見事。 これは目をつけられた相手が悪かったかな?」 
「あなたが試合という場を借りて目的を果たそうとしているように、私もそのつもりでこんなことしているのよ。 試合で当るまでは、あなたは好きにしていいわ。」 
ツクモは壁から背を離し、歩いていった。 
「感謝します。」 
ハルも壁から背を離し、ツクモに静かに頭をさげた。 

ツクモはタイガーとすれ違った。 
「いつまでそんな格好してるの、タマモ?」 
ツクモが足を止め、タイガーも足を止めた。 
「何のことですかいの―?」 
「そんな格好じゃ戦いにくいでしょうに。」 
「そうでもないんじゃが・・・・ま、お気遣いどうもですじゃ。」 
手を振って歩いていくタイガーを振り返り、ツクモは苦笑した。 

「なんの遊びだ?」 
「失敬な。」 
ハルの隣に、タイガーは腰を下ろした。 
「これでも公になると困る立場ってやつでしてのう、いろいろ苦労があるんじゃ。」 
「・・・・ありがとう。」 
「ふんっ。」 
タイガーの肩にぽんと手を置くハルに、タイガーはその手をぱしっと払った。 
「80年後に帰りなさいよ。 アタシもいるんでしょ? そこに・・・・」 
声だけがタマモに還った。 
「会ったことはないよ。」 
「でも、いる。」 
「僕の知ってるきみは、ここにいるきみだけさ。」 
「・・・・・」 
「ヤシロをやれば、ことは終わると思う。 でも、彼女が何か引っ掛かるんだ。」 
「コーリング・ブラント?」 
「その時は・・・・・頼む。」 
「・・・・・」 
タイガーは立ち上がった。 
「そろそろ行きましょうかのう。 時間ですじゃ。」 
「おう。」 

医務室 

「もう、シロちゃんしっかりしてよ〜〜!」 
「饅頭・・・・饅頭・・・? うふっ、うふふふふ・・・・拙者ごときしょせんはタイガー殿は先生の負けてチビ助にいいようにぶつぶつ・・・・」 
「シロちゃ―ん・・・!」 
おキヌはベッドの上に膝を抱えて座っているシロの背中を擦った。 
「おキヌちゃ〜ん? こっちは大分落ち着いたから〜、会場の方に行ってもいいわよ〜?」 
「えっ、いいんですか!?」 
冥子はおキヌに救急箱を渡した。 
「その代わり〜、あっちでの応急手当を担当してね〜。」 
「はいっ! あ、でも・・・・シロちゃんは・・・」 
「大丈夫よ〜、私に任せて〜。」 
「じゃ、じゃあ、お願いします。」 
おキヌは救急箱を片手に白い帽子を押えて走っていった。 

か―んっ 
『試合開始ですっ!』 
「わあ始っちゃってる・・・・」 
おキヌは会場に入って足を止めた。 
「えっとぉ・・・・・あツクモさんと・・・・雪之丞さんっ!?」 
おキヌの目に、紅い鎧をまとう雪之丞がツクモに飛び掛るのが映った。 

「女だからって手は抜かねえぞっ!?」 
「早っ・・・」 
刀が鞘から抜ききられる前に雪之丞はツクモに迫った。 叩きつけられる拳に刀がべきっと折れる。 もう1つの拳がツクモの腹に伸びるが、手首を手刀で流され、勢いを流したツクモは回転して雪之丞の背中に回りこんだ。 
「ごめんなさいっ!」 
どかっ 
「ぐわっ!?」 
背中を蹴り飛ばされ、雪之丞は結界まで吹っ飛んだ。 ばちばちいっ 
「くっ・・・・野郎〜・・・」 
「野郎じゃないんだけどな。」 
ツクモは身構えながらも隣のコートに目を流した。 今だ動かず睨みあっているハルとヤシロが見える。 
「よそ見すんじゃねえ―――っ!!」 
雪之丞の手から霊波が溢れる。 
「ああっ、もうっ!! めんどくさいっ!!!」 
どばちいっ! 巨大な霊波を殴り飛ばしたツクモは一足飛びで雪之丞に飛び掛った。 
「死ね――っ!」 
繰り出される拳を叩いて下に流す。 
「何っ!?」 
「ふっ!」 
片足を軽く前に振り上げ、それで反動をつけたツクモの反対側の足が雪之丞の顎に飛んだ。 ツクモの体が一瞬宙に浮く。 がごっ 
「んがっ・・・!」 
後によろける雪之丞に、尻餅をついたツクモは素早く立ち上がった。 両手から霊波刀が伸びる。 
「おじさんごめんなさいっ!」 
よろけながらも何とか立っている雪之丞の左脇の下に、連打で重ね合わせるように霊波刀が叩き込まれた。 
「がっ・・・・・あは・・・・」 
どてっ ぱしゅううう・・・・ 魔装術が消え、雪之丞は口をぱくぱくさせ動けなかった。 
「勝負ありっ、勝者ツクモっ!」 
『おっと―、こちらも勝負がつきました1番コート。 ツクモ選手が優勝候補だった伊達雪之丞選手を押えてベスト4入りを果たしましたっ!』 
『こ、これは令子ちゃんクラスの実力あるよ・・・・? 私もちょっと驚きあるなあ・・・』 
『タイガー選手に続き、ツクモ選手が準決勝への駒を進めました。 残すはあと2つですっ!』 
コートから出たツクモはコートの向こう側からVサインをしてくるタイガーにVサインで応えた。 
「ツクモさんっ!」 
「?」 
振り返るツクモは、駆け寄ってくるおキヌを見た。 
「おキヌさん。」 
「ベスト4おめでとうございますっ!」 
「ありがとう。」 
「まさか雪之丞さんに勝っちゃうなんて、ツクモさんやっぱり凄いですね!!」 
「偶然ですよ。」 
「タイガーさんも勝ったし、あとはクロさんかあ・・・」 
ツクモとおキヌは剣と槍を打ち合っているクロとコーリングに目を向けた。 
「・・・・・」 
「あ、でもあのコーリングさん、西条さんの・・・・・・あ、西条さんってのは知り合いの刑事さんなんですけど、その先生のお孫さんらしいんですよ。」 
「そうですか・・・・」 
「どっち応援したらいいかなあ・・・・? う〜〜〜ん・・・・」 
顔をしかめて腕組みをするおキヌに、ツクモは笑った。 

「おいおい雪之丞に勝っちまったっすよ、美神さん・・・」 
「ふ〜む、彼女マジで強いわねえ。」 
最前列の手すりから身を乗り出す横島に、美神は腕組みをして椅子に深く座りなおした。
「や、やっぱ厄珍が言うみたいに美神さんクラスってことっすか・・・?」 
「彼女の霊力がどうこうってよりも、相当な場数を踏んでるんじゃないかしら?」 
「み、見た目より年増ってことですか・・・?」 
「何でそういう言い方しか出来んかなあんたは? どう見積もっても20代前半でしょあれは。 よっぽどの経験を積んでるんじゃないかしら? 多分、あれはそういう強さよ。」 
「経験っすか・・・・」 
「つたない霊力でよくやるわ、彼女は。」 
「え?」 
「私や横島君ほどの霊力はないって言ってるのよ。」 
「うっそ――っ!? だって・・・・ええ―――――っ!!?」 
「うるさいわねえ・・・・そんくらいで騒ぐなっ!」 
「俺より・・・・少ないんすか・・・・?」 
「それよりヤシロよ、あんにゃろうめ、まだ戦わない気?」 
美神は睨みあったまま動かないハルとヤシロのコートに目を落す。 

『残すところ準決勝への席はあと2つっ。 しかし2番コートのヤシロ選手とハル選手、両者見合ったまま動きがありませんっ!』 
『異様な気が充満しているあるな・・・・こりゃどっちか死ぬかもしれんあるよ?』 
『そして4番コートでは犬井クロ選手とコーリング・ブラント選手が激しい打ち合いを展開しておりますっ!』 
『まさに静と動あるな。』 
きんかんっ ぎゃりりいんっ 弾きあう剣と槍に、クロとコーリングは互いに距離を取った。 
「はあっ、はあっ・・・・・」 
肩で息をするクロに、コーリングはひゅんひゅん槍を回してぱしっと脇に挟み、構えた。 
「いい腕ですね。」 
「はんっ、猫っ被りはやめろよ・・・・」 
「失礼な方ですね。」 
「人間は誤魔化せても、俺やハルの目は誤魔化せないぜ?」 
「では? 回りに公表しますか・・・・?」 
ちらっと客席に目をやるコーリングに、クロはちっと舌を打った。 
「そうもいかんだろう、俺がやるさ。」 
「そうそう、それがいいですよ。」 
コーリングの笑顔に、クロはぴくっと眉を動かす。 刀を握る手に力が入った。 
「あんにゃろうの仲間か・・・っ!?」 
「さあ?」 
コートの向こうのハルとヤシロが今だ動かないのを、クロはちらっと見た。 
「・・・その子をどうした・・・っ!?」 
「おいしかったですよ〜、この皮の持ち主・・」 
「貴様――っ!!」 
左手に握られていた錫丞の鞘を投げつけ、クロは突っ込んだ。 
「ふん。」 
ばきゃっ 叩き割られた鞘の破片を回した槍で弾き飛ばし、コーリングは槍を構える。 
「お熱いお方だこと。」 

「・・・・彼は?」 
「人狼の犬井クロさんですじゃ。 横島さんと似てるようじゃがのう。」 
「ふ〜ん。」 
あぐらをかいて座っているタイガーの隣に、ツクモも腰を下ろす。 
「・・・・・ハルを殺らないの?」 
声だけがタマモに戻る 
「試合で殺るのが回りに被害がないかと・・・」 
「はんっ、試合ね〜・・・・あいつの目的は知ってんでしょ?」 
「あのヤシロ、でしょ?」 
「ふん・・・・そういうこと。」 
「うん、そういうこと。」 
「それはプロのGSとして、どうかしら?」 
「・・・・・ふっ・・・・・あははははっ!」 
ツクモは後に引っくり返った。 
「何・・・・?」 
「よっと。」 
足を振り上げ、ツクモは反動で体を起こし座り直した。 
「そう言われたの、何十年ぶりだろう。」 
「・・・・・あんた、いったい歳いくつよ?」 
「うう〜ん・・・・・74、かな?」 
「人間が・・・・・狐を化かそうなんて10年早いわよ?」 
「あっ、やられた。」 
「ん?」 
ツクモの言葉にタイガーは目をコートに戻した。 折れたクロの刀が宙を飛び、がりっと転がった。 
『おお―――っと折れた――っ! 犬井選手の仕込み刀も、こうなっては役に立ちませんっ! コーリング選手チャンスか―!?』 
『お嬢ちゃんやってしまうあるよっ!』 
「あちゃ―、駄目ねあれは。」 
「犬井さんだっけ? 殺されるわよあれは。」 

「ちいっ!」 
折れた剣を両手で握り、クロは2,3歩後ず去った。 
「ここまでですね・・・・」 
「まだまだっ・・・・!」 
「クロっ!!」 
「!? ハル・・・・・」  
ヤシロと見合ったままのハルから、声が響いた。 
「もういい、降参しろっ!」 
「冗談っ・・・!」 
「死んでもくれても僕は嬉しくないっ!」 
「・・・・・!!」 
折れた剣を握るクロの手がすっと下がりかけた。 
「無理ですよ。」 
「!?」 
微笑んだコーリングは槍を振り被った。 
「資格を取ったら、降参は出来ませんからっ!!」 
「くっ・・・!」 
身構えるクロに、コーリングが走りこんできた。 ばきゃんっ! ずずずんっ!!  
「なっ・・・!?」 
「これ・・」 
『な・・』 
『何あるか―――――っ!!?』 
ばりばりばりっ クロとコーリングの間に巨大な霊波刀が割って入った。 溢れる霊波が放電するかのごとく飛び、クロとコーリングは後ず去る。 漢字の破魔という文字が浮び上がるその先には、右手を振り下ろしているツクモがいた。 
「反則負け。 これなら成り立ちますね?」 
ツクモは審判に顔を向けた。 
「しょ、勝負ありっ! 外部からの介入により、犬井選手失格っ! 勝者、コーリング・ブラント選手っ!!」 
どよどよと会場からのどよめきに、ツクモは霊波刀を消した。 
『これは・・・・な、なんとも意外なことになりましたね〜厄珍さん・・・』 
『うう―む、しかしこれで・・・』 
「なお、試合に介入したことにより、ツクモ選手は失格っ! 資格を剥奪しますっ!!」 
ツクモはふっと笑った。 
『ああ―――っとなんということでしょうか!? 皮肉なことです、犬井選手を助けたため、ツクモ選手ここで脱落―――っ!!』 
『かあ――っ、勿体無いあるな〜〜・・・』 
ツクモは座っているタイガーの隣に戻り、腰を下ろした。 
「もうそれ閉まったら? 目立つわよ。」 
「・・・・・」 
タイガーは懐に突っ込んでいた手を出した。 ツクモの目に銀色に銃がちらっと映る。 
「わっしを助けたつもりですかいのう?」 
「まあ、そうかな。」 
「ふん・・・・」 
「ふふっ。」 
笑う2人の元に、クロがとぼとぼ歩いてきた。 

「み、美神さん何すかあれは・・・・? あれでも俺より霊力下なんすかあっ!!?」 
「落ち着けってみっともない。」 
美神は涙と鼻水を垂らして顔を寄せてくる横島を手で押し返した。 
「破魔札を霊波刀に取り込んだのよ、おもしろいことするわ、彼女。 是非家に欲しいわね〜。」 
「ちょっと〜〜・・・!?」 
「ああいうのにヤシロと当って欲しかったわね―――・・・」 
「もういいですっ! 自分で聞いてきますからっ!!」 
「?」 
立ち上がった横島は、だかだか走っていった。 

「すいませんツクモ殿・・・・・その、助けてもらって・・・・」 
「いいですよ、別に資格取りに来たわけではないですから。」 
「このお礼にぜひデートでも―――ぶっ!?」 
クロは客席から飛び降りてきた横島の霊波刀で頭を殴られた。 
「てんめ〜〜〜クロっ! この女は俺んじゃっ!!」 
横島はツクモを抱えてクロにしっしっと足を振った。 
「この・・・・横島〜〜! また俺の恋路をじゃまするか―――っ!!」 
「うるせえっ、こっちはデートの先約ありじゃっ!」 
「何にい〜〜!?」 
「ストップ。」 
ぶぶんっ 
「はれ?」 
「あう・・・」 
霊波刀を首に突きつけられ、横島とクロはぴたっと止まった。 横島の腕からすり抜けたツクモは、両手からすっとそれを消す。 
「2人とも止めてください。 まだやることがあるでしょう?」 
「・・・・はい。」 
「す、すんません・・・」 
クロと横島は揃って頭を下げた。 
「そういう話は後です。」 
ツクモがコートに目をやるので、横島とクロも睨み合いながらもそれにならった。 
「お見事。」 
タイガーがぼそっと呟いた。 

「おい、もういいだろう?」 
「ああ、待たせたな。」 
ヤシロがポケットから手を出したので、ハルも刀を抜いた。 
『両者動きましたっ! いよいよでしょうかあ!?』 
「俺を殺せばお前も死ぬ。 馬鹿だな、お前。」 
「ああ、そうだろう。」 
ハルはす――っと大きく息を吸い込んだ。 
「タマモ―――――っ!! クロっ!!」 
「!?」 
「!?」 
「じゃあなっ!」 
ハルが地を蹴り、ヤシロもまた突っ込んだ。 振り被られた刀が振り下ろされる。 ヤシロの左手の拳が内側から刀の腹を殴り、刀が砕ける。 
「!」 
「!」 
拳と爪が伸びる硬い羽で覆われた。 ぶわっと服を突き破り、黒い翼がハルとヤシロの背から生える。 互いの大きな羽ばたきで、1瞬ハルとヤシロの間に間が生じた。 
「死ねっ!」 
「消えろおっ!!」 
爪と折れた刀が走る。 ずしゃああああっ 振り切られる爪と刀の弧を描くように、赤い線が飛び散る。 
『あ、相討ちあるかぁっ!?』 
『両者互いに入った――――っ!!』 

「タマモ。」 
「?」 
ポケットから丸い珠を取り出したツクモはそれに文字を書き込む。 
「ツ、ツクモさん、それはまさか文じ・・・・」
覗き込んだ横島は目を丸くした。 
「行っていいよ。」 
「・・・・・ありがとう。」 
ツクモは会場の天上目掛けてそれを投げつけた。 
『煙』 
どしゅうううううっ 黒煙が息つく間もなく会場中に広がった。 
『な、何でしょうかこれは・・・・!!?』 
『今のは・・・・まさか文珠っ!?』 
煙が横島やクロをも巻き込んだ。 
「どわっ、いったい何したんすかツクモさんっ!?」 
「ツクモ殿っ・・・!?」 
「・・・・サンキュ。」  
変化を解いたタマモは走り出した。 

結界に阻まれたタマモはCR−117の撃鉄を起こす。 どんどんっ がしゃああんっ 
「ハル―――っ!」 
タマモは手で煙を払いながら歩いた。 足に何かがぶつかる。 
「!? ハルっ!」 
かがんだタマモは腹が横に裂かれたハルを抱き起こした。 
「がはがはっ・・・・や・・あ・・・」 
「喋らないっ!」 
タマモは傷口に手を当て霊波を放つ。 
「よせっ! いいから・・・・」 
「やらせてよっ!」 
「いいさ、上手くいった・・・」 
「!?」 
ハルは膝から下が消えてきていた。 体は粒子のように細かく崩れ、それがゆっくりと体の上の方に進んできていた。 
「これが・・・・消えるってこと・・・?」 
「らしいよ・・・」 
「・・・・ハル・・・」 
「あと・・・頼む・・・・ごはっ!」 
口から血が溢れた。 
「アタシは・・・・・知らない奴がどれだけ死のうと、あんたに生きてて欲しかった。」 
「僕は・・・・この時代できみに会って・・・・このままここで生きていこうとも思った。」
「・・・・・」 
ハルは体が腰まで消えていった。 
「でも・・・・やっぱり・・・・ぶはっ!」 
「いいじゃないそれでっ、時間とか修正とか、そんなの関係ないでしょうがっ!」 
「よくないよ・・・・」 
ハルは手を伸ばし、タマモの涙を指で払った。 
「ハルっ、タマモっ!」 
クロがやってきた。 
「ハ、ハルっ!? これ・・・・」 
「よお・・・・クロ・・・・」 
挙げた腕がぼとっと落ち、切れ目から消え始めた。 
「ハル・・・・」 
「ハル・・・」
「きみらに会えて・・・・・よかったよ・・・」 
「・・・・!」 
消える速度が速くなり、タマモはハルに顔を近づけた。 
「!?」 
唇が重なる刹那、顔がすり抜け、タマモはバランスを崩して床に崩れた。 タマモの顔をすり抜け、細かい粒子が上に上り、散っていった。 
「・・・・・」 
「・・・・ハル・・・!!」 
クロは目と口をぐっと閉め、震える拳を握り締めて天を仰いだ。 

「・・・・・・!!?」 
霊視ゴーグルで黒煙の中を探っていた美神は歩く人影を見つける。 
「コル・・・・・まずいタマモっ!」  
立ち上がった美神は客席に沿って走り出した。 

「!? 煙が晴れる・・・・!?」 
クロは涙を指で払い、崩れこんで動かないタマモの肩を揺さぶった。 
「タマモっ、早く変化しろ!! ばれるぞ、おいタマモっ!!」 
タマモは動かなかった。 
「・・・・・・」 
「タマモっ、お・・・・・・何・・・・!!?」 
クロは煙の中から歩いてくるコーリングに息を飲んだ。 素早くタマモの前に立つ。 
「タマモ起きろっ! タマモっ!!」 
回す槍で煙を払い除けるコーリングに、クロはぐっと身構える。 
「・・・・・・」 
タマモは突っ伏したまま動かなかった。 垂れ下がった髪に顔が隠れる。 びゅんっ 
「ちっ!」 
槍の払い除ける風が届き、クロは顔をしかめながらも拳を握り締めた。 

see you next story

【次回予告】 
タマモ「涼しげ〜な〜風〜〜達が〜持ち去〜った〜私の傘〜〜・・・」 
ツクモ「あ、その歌懐かしい―。」 
タマモ「あんた知ってんの?」 
ツクモ「タマモが時々歌ってたじゃない。」 
タマモ「ふ〜ん・・・・じゃやっぱりあんたそのうちアタシと知り合うんだ。」 
ツクモ「まあ、そうかな。」 
美神 「ちょっとちょっと、次回予告どうすんのよ?」 
おキヌ「GS試験編のクライマックスなんでしょタマモちゃんっ!?」 
横島 「ツクモさん帰っちゃうんすかっ!?」 
シロ 「せ、拙者の出番はもうないでござるかぁっ!?」 
横島 「せめて素顔を〜〜〜っ!!」 
美神 「げっ、あい強いっ!?」 
おキヌ「ヒーリング教えて欲しかったのにな〜・・・」 
シロ 「わお〜〜〜〜んっ!」 
ツクモ「ははっ、賑やかでいいですね。」 
タマモ「次回、『牙と思いの幻影−ツクモからタマモへ−』」 
ツクモ「烏が鳴くからか〜えろっと。」 
タマモ「お疲れさん。」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
[ 第十九話へ ][ 煩悩の部屋に戻る ]