「ねえ美神殿〜〜〜〜っ、ねえねえねえねえっ!!」 
「だ――っ、うるっさいっ! 駄目ったら駄目っ!」 
美神は足にしがみつくシロをぶんぶん振り回した。 
「ケチ――っ!」 
「ケチとかいう問題じゃないでしょうがっ!」 
「金の亡者っ!」 
「何ですってこのクソ犬っ!? そこになおれっ!!」 
じゃきんっ 
「きゃいんっ!」 
「朝から元気ね・・・」 
ぶんぶん振り回される神通棍からばたばた逃げるシロに、タマモは苦笑した。 


きつねレポート

 持てる者持てない物 


「じゃ、私は仕事に行くから。 タマモ、出かけるんなら戸締りしといてよ?」 
「ん。」 
「シロ、とにかく焦らないことよ。 今日は頭冷やしなさい。」 
「うぃ〜〜っすでござる〜・・・・・」 
「じゃあね。」 
だらだらと敬礼するシロに、美神は苦笑した。 ぱたんっ 
「は〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・」 
「何、そんなに1人で仕事がしたいの?」 
「ん――、まあ――――。」 
クッションを抱えて床を転がるシロを、タマモはつま先でつっつく。 
「資格ないんでしょ? いいの?」 
「美神殿の許可があれば何とかなるんでござるがな――。」
「ふ〜ん。」 
「あと1週間・・・・」 
「何が?」 
「お前には関係ないでござる。」 
「まあそうね。」 
タマモはけけけと笑い、ポケットから封筒を取り出す。 
「迷える子犬ちゃん、仕事やらせてあげようか?」 
「はあ・・・?」 
シロはごろんと転がり、タマモに顔を向ける。 
「ここにまだ美神さんの知らない依頼が1件、あったりするんだな〜。」 
「何とっ!?」 
シロはがばっと飛び起き、タマモから封筒をひったくった。 
「やる?」 
「やるやるっ! やるでござ・・・・・・・・・いや駄目でござる。 やっぱり美神殿の許可なしには・・・・」  
「じゃ止めれば?」 
「あう〜、しかし・・・・・いやいや・・・・・・でも・・・・・・・いやいや・・・・・やっぱり・・・・・いやいや・・・・・それでも・・・・・いやいや・・・・・」 
「早く決めて。」 

その日の午後 某避暑地 

「神隠し・・・?」 
「はい。」 
「それはまた・・・・随分とわかりやすい表現でござるなあ・・・」 
シロは向かい合って座る老人に苦笑いをした。 
「笑い事ではありませんっ、家族の方や我々地元の旅行組合には深刻な問題なんですっ!!」 
「し、失礼しました・・・!」 
シロはきちっと椅子に座り直した。 
「それで、どのような状況なのでござるか?」 
「もう3週間ほど前になりましょうか・・・・・・住民が1人、また1人と行方不明になってしまうようになりました。」 
「ふんふん。」 
シロはらんらんと目を輝かせた。 
「みな、ここから少し離れた山の神社に向かった者達ばかりなのです。」 
「神社・・・・?」 
「ええ、この地方の習わしで、山に山菜などを取りに行く者は必ずそこで山の神様に挨拶するんです。 まあ、最近ではそれをするのも年寄りばかりなんですけど。 山菜を取りに行くこと事体、若い者はあまりやりませんしね・・・・」 
「ふんふん。」 
「それでも、観光に来てくださった方々をお連れしたりする時などは、ちゃんとやってるんですけど・・・・」 
「どちらにしろ、その神社を調べる必要はあるでござるな・・・・」 
シロはにやつきながら口元を押える。 
「で、警察には?」 
「もちろん届け出ましたよ。 しかしその方達も・・・・」 
「帰らぬ、と・・・?」 
「はい。」 
「・・・・・・・わかりました、直ちに調査して、解決してみせます。」 
「よろしくお願いします。」 
「ご心配なく、このGS(志望)犬塚シロにお任せをっ!!」 

「神社ね〜・・・・」 
「どう思う?」 
シロとタマモは笹をがさがさ掻き分け、枝をばきばき折りながら道無き道を進んでいた。 
「どうって、そりゃ〜何かあるんでしょうが。」 
「何かって何でござるよ。」 
「それを調べるのが仕事でしょ。」 
「ああ〜ついに拙者の初陣でござるなぁ、どんな相手か楽しみっ!」 
「はいはい。」 
ぴょんぴょん跳び上がるシロに、タマモは苦笑する。 

「これか・・・?」 
「でしょうね。」 
シロとタマモはくすんだ赤色の鳥居を潜る。 かやぶきの崩れかかった社に、2人は足を止めた。 
「近道成功っと。」 
「で、どうするの?」 
タマモは腕組みをして鳥居にもたれる。 シロは賽銭箱の前に仁王立ちになり、大きく息を吸い込んだ。 
「やい―――っ、行方不明の人達を還すでござる――――っ!! さもないと、このGS犬塚シロが成敗してくれる―――――っ!!」 
静かな山に、シロの怒鳴り声が木霊した。 
「・・・・・・・・・」 
「・・・・・・・・・」 
「・・・・・・・」 
「・・・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・」 
「・・・・」 
「・・・・・・・・・・・・・?」 
「ふあ・・・・」 
首をかしげるシロに、タマモは大口であくびをした。 
「な、何故誰も出て込んでござるか・・・・!?」 
「あんた何考えてたの・・・・?」 
「何って、『おのれちょこざいな―!』とか、『お前ごときに俺は倒せんわ―!』とか言って出てきた奴が、あの手この手で拙者を苦しめようとして、それを拙者の強靭な精神力と人狼の誇りと正義の・・・・・って、何を寝ようとしてるでござるっ!!?」 
「んあ・・・?」 
「人の話を聞けっ!」 
「いや、あんまりにもつまんない話だったんで・・・・」 
「何がつまらんでござるかっ!?」 
「唾を飛ばすんじゃないわよ。 ドラマチックな戦いがしたいだけなら、諦めて帰ったら?」 
「ちぇっ、初陣は劇的って決まってるでござるに・・・・・」 
「安いドラマの見すぎ。」 
「はあ〜・・・・・地味に渋く調査するでござるか〜・・・・・」 
シロはよれよれと鳥居にしがみついた。 

だいたい4時間後 夕方  

「な、何故でござる・・・・!? 何にも見つけられんでござるっ・・・・!!」 
「・・・・・」 
頭を掻き毟るシロに、タマモは地図に目を落す。 
「きい――――っ、拙者の華やかな初陣が〜〜〜っ!!」 
「どうすんの? そろそろおキヌちゃんが家に帰ってくる時間だし、美神さんにばれるのも時間の問題だけど・・・・?」 
「おんが〜〜〜〜〜っ!!!」 
シロはアカマツの木を両手で掴んでおでこをがんがん叩き付けた。 めきめきめき〜・・・・・ばったん!! 
「こ、このままのこのこ帰ったりしたら・・・・・」 
「美神事務所の面目丸つぶれね。 勝手に依頼を受けたんだし、世にも恐ろしいお仕置きが・・・・」 
「あう〜・・・・・」 
シロはぺたんと座り込んだ。  
「し、しかしこのまま調査に時間がかかれば・・・・・」 
「どっちにしろばれるわね。」 
「わい〜〜〜〜〜〜んっ!!」 
「泣いてる暇はないんでない?」 
「ん、待てよ? ここで仮に拙者が怒られ、事務所を追い出されたとして・・・・」 

<シロ妄想>  

「シロの奴・・・・・いったいどこに・・・・」 
横島は夜の町の人込みを駆けずり回っていた。 
「ん?」 
「マッチ買ってくだされ、マッチを・・・・あっ!」 
「邪魔だ、ねえちゃん。」 
ぼろぼろの服のシロは男に突き飛ばされ道端に倒れこんだ。 バスケットのマッチが散らばる。 
「シロっ、シロじゃないかっ!!」 
「よ、横島先生っ!?」 
横島が駆け寄り、シロを抱き起こす。 
「い、いや人違いでござる・・・・行ってくだされ・・・・」 
「さんざん探したんだぞ? さあ、一緒に帰ろう・・・!」 
ごほごほせきを押えるシロに、横島はそっとジージャンを羽織らせる。 
「せ、拙者、先生にはさんざん迷惑をかけたでござる。 こんな拙者が、今さら先生のもとへなど・・・・」 
「何言ってるんだ、これからもずっと傍にいてやるよ・・・・」 
「う、うう〜〜・・・・横島先生〜・・・」 
ぼろぼろ涙を流すシロは、横島の胸に飛び込んだ。 
「拙者は馬鹿でござったっ! 先生の愛に気付かなかったなんて〜〜〜〜〜っ!!!」 
「だがお前はもう気付いたんだ、もう馬鹿じゃないさ〜〜〜〜っ!」 

「こ、これだ。 これでいこうっ!!」 
滝のごとく涙を流してにやけるシロに、タマモは頬をひくつかせた。 
「お―い、帰って来いよ〜・・・・」 

ぴぷぽぽぴぷぱぱぺぺぱっ 
『・・・るる ぷるるるる ぷるるるる ぷる・・・もしもし、シロ? おキヌちゃん?』 
「あ、私です美神さん。」 
おキヌは受話器を持ち直した。 
『何、今仕事中なんだけど・・・・・・だ〜〜〜っ、あんたらちょっとむこう行ってなさいっ!! どかばきっ おんげ〜〜〜〜!?』 
「っ!? す、すいませんっ! もしかして除霊中ですかっ!?」 
『まあね〜。 で?』 
「あ、えっと・・・・シロちゃんとタマモちゃん知りません? 家にいなくて・・・」 
『さあ? タマモはともかくシロが餌の時間を忘れるとは考え難いわね〜・・・・』 
「ですよねぇ・・・・・何かあったんでしょうか?」 
『んん〜・・・・ま〜・・・・・その内帰って来るでしょ。 普通の犬でも3日も飼えば恩を忘れないって言うし、義理にうるさい子だしね。』 
「そういう問題かなぁ・・・・?」 
『とにかく、もうちょっと待ってみなさい。 私もこれが終わったら帰るから。』 
「わかりました。」 
『吸印っ!! ぎゃ〜〜〜〜・・・・ しゅぼんっ おっしゃ終了〜〜っと。 おキヌちゃんビール冷やしといてね〜。』 
「はいっ、じゃあ今日の夕飯は一緒ですね。 準備しておきますっ!」 

依頼現地 某食堂 

ずずずずず―――・・・・・ 
「ぷはっ。」 
ごと タマモはどんぶりに箸を置き、合掌する。 
「ご馳走様っ、お会計お願い。」 
「はいよ〜、きつねうどんだったね。 560円になりま〜す。」 
タマモはレジのカウンターにじゃらっとお金を置く。 
「おいしかったわ。 いい穴場だった。」 
「そうかい? ならまた来て頂戴ね。」 
「ええ。」 
女将の笑顔にタマモは笑い返し、がらっと外に出た。 
「ふ〜、食べた食べた。」 
タマモは深く息を吐き、夜空にそびえる真っ黒な山々を見上げた。 
「さって、あの馬鹿はどうしてますかね。」 

さらに数時間後 深夜 某お宿  

「たっだ〜いまでござる〜・・・・・」 
部屋に入ったシロは畳にごろんと転がった。 
「あ―、お帰り―。」 
「つ、疲れたでござる〜・・・・・」 
「はい、補給補給。」 
タマモはうつ伏せのシロを仰向けに転がし、口に黒い塊を押し込んだ。 
「んぐっ!? ぶはっ・・・!! なんでござるかこれはっ!!?」 
「イモリの黒焼き。」 
「んなもん食えるか――っ!!」 
「偏食娘。 早死にするわよ?」 
「大きなお世話でござるっ!!」 
シロはぺっぺと吐き出す。 
「で、進展はあったの・・・・?」 
「・・・・・」 
シロはタマモの差し出す湯飲みを受け取り、お茶をすする。 
「山菜取りのコースや穴場も行ってみたし、人の通り道は全部辿ってみた・・・・・・・ぜんっぜん駄目だ。 何にもわからんでござる。 見鬼君も霊視ゴーグルも使ってみたでござるが・・・・」 
「そう。」 
タマモは自分もお茶をすする。 
「・・・・・・」 
「・・・・で、どうすんの?」 
「・・・・・・」 
シロはあぐらをかいて座る。 
「・・・・明日もう1度調べるでござる。」 
「そう。」 
ぐっと握り締めた拳を見つめるシロに、タマモは頬を緩めた。 
「・・・・なあ、タマモ。」 
「ん?」 
シロはタマモに対してきちっと体を向ける。 
「何で拙者に手を貸すでござる?」 
「別に貸してないでしょうが? あんたが1人でやんのよ?」  
「何で依頼を拙者に教えたのかと聞いているでござる。 美神殿に内緒にまでして・・・」 
タマモは笑った。 
「さ―ね―・・・・アタシにはGSなんて出来ないことだから、たまには後押ししてあげたくなったのかもね。」 
「タマモ・・・・・」 
「な――んてね。 もっとも、なりたかないけど。」 
「なってもいいではござらんかっ!? お前なら・・」 
「だからなりたかないって。」 
詰め寄るシロに、タマモはあふっとあくびをする。 
「妖怪退治とか幽霊騒ぎとか、押し付けられるのはめんどくさいのよ。」 
「・・・・・・」 
タマモは敷いてある布団に這って進み、もそもそと潜り込んだ。 
「タマモっ。」  
「ん―・・・?」 
「もしっ、もしお前が九尾の狐でなくただの狐だったら・・・・・GSになろうと思ったでござるか?」 
「ん〜・・・・・いや、それはないでしょ。」 
「そっ・・・か。」 
「あんたは・・・?」 
「ん?」 
「あんたは何でGSになりたい・・・・?」  
「・・・・・・」 
シロは噛み合わせた両手に目を落す。 
「・・・・拙者達人狼は長いこと人間とは溝があったでござる。 拙者がGSになって、人間社会で役に立てれば、人狼は受け入れられると思うのでござる。」 
「ふ〜ん、立派なこって。」 
「多分、ピート殿と同じでござるよ。」 
「人間のご機嫌取りも大変ね。」 
「お前みたいに変化が自在なら、そういう苦労もないかもしれんでござるがな。 でも拙者は、それとは関係なくGSになりたいでござる。」 
「何で?」 
「好きになったんでござるよ。 GSって仕事が。」 
「ふんっ、いいんじゃない?」 
「おうっ!」 
シロはにっと笑った。 
「さっさと寝なさい。 アタシは手伝わないからね。」 
「わかってるでござる。」 

翌日 

「ふんふんふんふん・・・・」 
地べたに這いつくばるシロは、転がる石や草を放り投げながら山道を進んだ。 
「むう〜・・・・」 
シロは腰をぽんぽん叩きながら立ち上がる。 
「おかしい・・・・・本当に何もみつからないとは・・・・・・」 
シロは緩やかな山道を見上げる。 
「普通に行方不明になったにしろ、何か痕跡があってもいいでござろうに。」 
「どお? 順調・・・・?」 
「そうは見えんでござろう・・・・?」 
後から登ってくるタマモに、シロは振り返らず応える。 
「ほい。」 
「ん?」 
タマモはシロにビニール袋を押し付ける。 
「お昼ご飯。」 
「・・・・・・お前が・・・・拙者に・・・?」 
「料金は2倍にまけてあげる。」 
「ぐっ、足元見くさってっ!!」 
「けけけっ。」 

「シロ〜? いや、俺も知らんな―。」 
「そうですか・・・・・いったいどこ行っちゃったんでしょ美神さん?」 
おキヌはぱちぱち爪を切る美神に顔を寄せる。 
「変なことしてなきゃいいけど・・・・・ま、餌代はういて助かるけどね〜。」 
「ちょっと美神さんっ!?」 
「俺も散歩行かなくてすむな〜、1週間ぐらい帰って来なくていいな、うん。」 
「もうっ、横島さんまで・・・・!!」 
「冗談だって冗談。 あいつなら大丈夫だろ、多分。」 
「そうかな〜? タマモちゃんならともかく、シロちゃんまだ子供だし・・・・」 
「ま、もうちっと待ってみれば?」 
美神はふっと爪先に息を吹きかける。 
「でも〜・・・・」 
「大丈夫よ。 シロもペット用の生命保険に入ってるし、問題ないって。」 
「・・・・それって何かおかしくないですか・・・?」 

で、次の日  

「おんのれ〜〜〜っ!! いったいどうしたらいいんでござるか〜〜〜っ!? どちくしょ―――――っ!!」 
シロは両手に霊波刀を出してばきばきヒノキをなぎ倒した。 ずずんっ ばったん 
「はあっ、はあっ・・・・・」 
シロは倒れた幹をさらに蹴飛ばした。 
「く〜〜〜っ、このままでは本当にマッチ売りのシロになってしまうでござるっ!! しかしそれはそれで横島先生と・・・・・・・いやいやいやいやっ、ここで引き返すわけにはいかんでござるっ!!」 
べしべし両手で頬を叩き、シロはあお―んと吼えた。 

「・・・・・平和ね。」 
「・・・・・平和だな〜。」 
「平和ですね。」 
美神と横島とおキヌは静かにお茶をすすった。 
「ふうっ・・・・・よし、じゃあ仕事に行くわよ横島君、おキヌちゃん。」 
「「はいっ。」」 
美神が立ち上がり、横島とおキヌもすっくと立ち上がった。 

また次の日 

「おばちゃん、いつもの。」 
「はいよ、きつねうどんね。」 
タマモはカウンターに座ってコップの水をすする。 
「あんた毎日来てくれるけど、長期旅行かなんかなのかい?」 
「まあ、そうかな。」 
カウンターに肘をつくタマモは、窓から見える山に目をやった。 
「最近犬がよく吼えてるけど、山に野良犬でも住み着いたのかしら?」 
「さあ?」 
「もうすぐ旅行シーズンだからね―、お客さん達に噛み付いたりしなきゃいいけど・・・」 
「・・・・大丈夫でしょ。」 
タマモは笑った。 

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん・・・・ 
「ふい〜〜・・・っ、終わった終わった―。」 
生徒達が立ち上がる中、横島は椅子にぐったりもたれかかった。 
「お疲れ様。」 
愛子が横島の机にばんとバケツを置く。 
「なんだ〜?」 
「掃除よ。 この間私が代わってあげたんだから、今日やっていきなさい。」 
「わ―ったわ―った。 掃除でも何でもやるよ。」 
横島は立ち上がってバケツを担ぐ。 
「あら、珍しく素直ね?」 
「最近よけいな体力造りがないんでな。 ちっとばかし体力が余ってるだけさ。」 
「GSのこと・・・?」 
「ん〜〜ちょっと違うけど、まあ似たようなもんかな?」 
「ふ―ん。」 
「うっし、じゃあ学生らしく掃除すっか。」 
「そうだ、横島君タマモちゃん元気してる? 最近学校にも来ないし・・・・」 
「あいつは来ないのが普通だろ? そういや最近事務所にもいねえなぁ・・・・ま、今度お前が会いたがってたって言っとくって。」 
「うん、お願いね。」 

さらに2日後 

「・・・・・・・」  
シロはぼろぼろの神社の前で座り込んでいた。 地面を見据えた瞳が細まる。 
「・・・・やってみるか・・・・?」 
立ち上がったシロは背にしていた社に向き直り、ぱんぱんと手を叩いた。 ゆっくりお辞儀をしたシロは、深呼吸をして歩き出した。 
「・・・・・」 
くだり、登り、シロは延々と山道を歩いた。 
「・・・ん?」 
びゅわんっ 
「なっ・・・!?」 
突如空間が裂かれ、シロはその中に吸い込まれた。 
「ちいっ!」 
ごろんと転がったシロは素早く立ち上がり身構える。 
「なっ・・・・この人達は・・・!?」 
十数人の人々が白い球体の中に浮んでいるのがシロの瞳に映る。 
「・・・・・・後ろ・・・うおっ!?」 
白い霊圧に弾かれ、シロは再び転がるもすぐ立ち上がる。 
「・・・・・あなたは・・・」 
白く浮ぶ光に、シロは1歩足を踏み出した。 
「あなたが・・・・・この土地の神様なのでござるな・・・・・?」 
かすかに膨らみ、縮み、それを繰り返す光に、シロはまた1歩歩み寄る。 
「わかるんです・・・・・あの神社には、誰も祭られてなかった・・・・・・あなたはここにいるのに、誰もそのことに気付かなくなった・・・・・・だから寂しくて、この人達を連れてきてしまったんでござろう・・・?」 
白い光がゆっくりシロに近づいてきた。 
「ここに来れる条件はあの神社に挨拶をした者だけ・・・・・この土地の古い習慣でござるらしいが・・・・・もともとはあなただったんでござろう?」 
シロは白い光に手を伸ばし、かざす。 
「拙者と共に参りましょう。 土地の者には拙者が伝えます。 あなたの家を、再建して差し上げます。」 
きいぃぃぃぃぃぃぃんっ 溢れる白い光に、シロは目を細めた。 

「そうだったのですか・・・・・」 
向かい合って座る組合の老人に、シロはずずっとお茶をすすった。 
「恐らく、神社の建て替えを行う際、正式な手続きを踏まなかったのでしょう。 形だけは再建されても、神様事態は置き去りにされてしまった。 神様はずっと寂しかったのでござろうな。」 
「何と言うことか・・・・何百年も昔のことかもしれないとは言え、私達はずっとそれを知らずに・・・・」 
「見つかった人達には何も以上はありません。 神様もそれほど怒ってないと思うでござるよ。」 
「すぐに昔の社を探してみます。」 
「それがいいでござるよ。」 
「ありがとうございました犬塚さん。 美神事務所の方に来ていただけて、本当に良かったです。」 
がしっと手を握られ、シロは苦笑した。 
「い、いや〜・・・・あっはっはっ! このぐらい当然でござるよ。」 

「か〜〜〜〜〜〜〜っ、終わった終わった―――っ!!」 
日の当る外に出たシロは大きく空を仰いだ。 
「ほ―、な―にが終わったのかしら?」 
「げっ!? 美神殿・・・・・っ!!」 
コブラにもたれて睨んでいる美神と、助手席から手を振るおキヌにシロは真っ青になる。 
「ゆ〜〜っくり説明してもらいましょうか?」 
「いやっ、その〜・・・・・お叱りは後でゆっくり受けるということで、もう少しだけさいなら―――――――っ!!」 
「待たんか――――っ!!」 
きしゅるるっ ぶわわんっ!! 砂ぼこりを巻き上げ走り去るシロに、コブラが後を追って走り出した。 

「ちぇっ、あの犬のお嬢ちゃん・・・・・・余計なことしてくれちゃって・・・・」 
高いヒノキの天辺付近の枝に立つ女は目を細める。 長く縛った赤毛が風になびく。 
「しっかしまさか令子ちゃんの関係者とはな〜・・・・・ ん? おっと・・・」 
女は木に身を寄せ枝と葉に身を隠す。 足元の地に金色の髪が現れた。 
「・・・・・・」 
「・・・・・・」 
ゆっくりと辺りを見回すタマモに、女は目を細めて睨む。 
「・・・・・・・由宇・・・・?」 
「―――っ!?」 
女は身を固くした。 
「・・・・・・」 
「・・・・・・」 
顔を挙げることなく歩き去るタマモに、女はふはっと息を吐き、胸を撫で下ろした。 
「あ〜〜っ、びっくりした。 何であの子までここにいるかな・・・?」 
木々の隙間に見える金色の髪に、女はため息交じりに笑った。 

そして、その2日後 

「お久しぶりです。 母上、父上。」 
シロは墓の前に立ち、目を閉じて手を合わせた。 そしてすっと目を開く。 
「拙者は相変らずでござるよ。 この間はGS試験に落ちてしまったでござる。」 
シロはにひひと笑った。 
「でも、来年また受けてみようと思ってます。 先生や美神殿にあこがれるだけでしたが、今は自分の意思でGSを目指すでござるっ!」 
シロはしゃがみ、墓の前に茶色い封筒を置く。 
「拙者が始めて稼いだお金でござる。 ちょっといんちきもしましたが、美神殿も今回に限り許してくれました。 どうしても母上の命日に届けたかったんでござる、2人も許してくだされ・・・・」 
立ち上がるシロ。 
「友人がいんちきに手を貸してくれました。 変な奴でござるが、いい女でござるよ。」
シロはポケットからハガキを取り出す。 
「それから新しい友人も出来ました。 コルと言います。 拙者が引き分けた相手でござるが、やさしい子でござるよ。 来年また一緒に受けようって、約束しました。 これはイギリスから。 コルももう1度ゆっくり勉強し直すって、そう言ってきました。 拙者は心のどこかで焦ってたのかもしれんでござる。 でも、また拙者も、美神殿のところで勉強してきます。 見ていてくだされ。」 
シロはハガキに目を落とした。 

『Dear シロちゃん  
 お元気ですか? 試験からもう1ヶ月経ったけど、元気にしてます? お互い落ち込んでる暇はないよね。 こういう時こそ焦っちゃ駄目だよ。 な〜んてね、これは私の先生の受け売りです。 私も頑張るよ。 来年も日本に試験に行くから、今度は一緒に合格しようね。 時間が出来たら会いに行くよ。 シロちゃんも良かったらイギリスに来てね。 じゃあまた、会える日を楽しみにしてます。 
                            from コーリング 』

  see you next story  

【次回予告】 
横島 「おい、さり気に何か変な伏線を残して終わってないか? ありゃ誰だよ?」 
タマモ「気にしないの。」 
横島 「しかしな〜・・・」 
タマモ「さて、次回は久しぶりにハードボイルドにいってみましょうか?」 
横島 「何だそりゃ?」 
シロ 「ふっ、また拙者の活躍でござるか。」 
タマモ「追われますは深紅の十字架。 その身につけるは1人の少女。」 
横島 「何美人かっ!」 
タマモ「迫りし追っ手に助っ人参上。 タイムリミットは15時間?」 
シロ 「おおっ、燃える設定でござるっ!!」 
タマモ「って、あんた出番ないわよ?」 
シロ 「何―――っ!?」 
横島 「ふっ、お前は大人しく留守番してろシロ。」 
シロ 「あう〜ん・・・!!」 
タマモ「次回、『紅いクルス』」 
横島 「おっしゃ、活躍するぞタマモっ!!」 
タマモ「てか、あんたも出番なし。」 
横島 「何―――――っ!!?」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
[ 第22話へ ][ 煩悩の部屋に戻る ]