「お久しぶりです―。」 
「あ、いらっしゃい。 早かったのね。」 
部屋に入ってサングラスを外す銀一に、美神はデスクから立ち上がる。 
「あら1人なの? マネージャーさんは・・・?」 
「お忍びってこともありますけど、ちょっと・・・」 
銀一をソファーに勧め、美神も向かい側に座った。 
「まさか、とばっちりを受けた・・・?」 
「怪我はたいしたことなかったんですけど・・・・・新しいマネージャーも探さないといけないんですよ。」 
「売れっ子俳優もたいへんね。 ま、家に来た以上はおまかせくださいな。」 
笑ってウィンクする美神に、銀一の顔はお願いしますと頭を下げた。 


きつねレポート

 キャスト・スタッフ −前編− 


「近畿君じゃないですかっ!?」 
「おキヌちゃん・・・・だったよね? お邪魔してます。」
ドアを開けて入って来たおキヌに、銀一は軽く頭を下げる。  
「ああ―――――っ、近畿剛一でござるっ!!」 
「ぎ、銀ちゃんやないかっ!?」 
「誰?」 
「よう、お邪魔してるで横っち。」 
続いて入って来たシロは目を見開いて驚き、横島も驚き、タマモは目を細めた。 
「皆買出しお疲れさん。 仕事の話があるからてきと―に座って。」 
「ど―したよ銀ちゃん?」 
「ちょっとな。 それよりなんや女の子が増えてないか?」 
「先生先生っ、近畿剛一と知り合いなんでござるかっ!!?」 
「アタシも聞かなきゃ駄目?」 
「まあまあタマモちゃん。」 
「お―――い、とにかく座りなさいって。 話はそれから。」 
美神の声に全員がソファーに座った。 
「んで、どうしたよ銀ちゃん?」 
「その前に聞いてもいいか? そちらのお嬢さん2人は?」 
銀一はシロとタマモに目をやる。 
「は、初めまして拙者犬塚シロといいますっ!! 踊るGS全部見てるでござるよっ!! 大ファンなんでござるっ!!」 
「あ、ありがとう・・・」 
銀一の手を掴んでぶんぶん振りまくるシロに、銀一は身をひきながら笑った。 
「そ、そっちのあなたは?」 
「てゆうか、あんたこそ誰よ?」 
タマモを見る銀一に、タマモは睨み返した。 
「知らんのかこのアホ狐っ、踊るGSの横山役の近畿剛一でござるよっ!!」 
「GSが踊る・・・・?」 
「タマモちゃん、あんまりドラマとか見ないから知らないのかも・・・」 
「か〜〜、情けないっ!!」 
頭を押さえるシロを無視し、横島が口を開く。 
「俺の友達で、俳優やってる銀ちゃんさ。 前に仕事を依頼されたことがあるんだ。」 
「なんとっ、先生は近畿殿とお友達でござったんかっ!?」 
「ま―な。」 
「ふ―んそう。 アタシはタマモ。 ここで厄介になってる者よ。」 
「そうですか、よろしく。」 
(この2人もやっぱ横っちに気があるんかな? 全く相変らずやなぁ・・・) 
タマモに握手しようと差し出した手を叩かれ、銀一は横目で横島を睨んだ。 
「で、今日はどうしたんだ銀ちゃん? また見学に来たんか?」 
「いや、今日は普通に依頼に来たんや。」 
「じゃあ、お仕事・・・?」 
おキヌは美神の顔を見る。 
「ええ。 それも内密の、ね。」 
「「「内密・・・?」」」  
顔つきが真剣になる横島とおキヌとシロに、タマモは目を閉じてうとうとしだした。  
「簡単に言うと、近畿君はオカルトで嫌がらせを受けてるのよ。」 
「そんな、霊能力をそんなふうに使うなんて・・・」 
「けど銀ちゃん、そんならGメンに頼んだほうがいいんじゃないのか?」 
「そ―思ったんやけど、な・・・・・やっぱ信用あるGSに頼んだほうがええと思ってな。」 
「今近畿君、映画の第3弾を収録中でしょ? それの日程がおしてて、撮影を中断して調査してる時間もないの。」 
「ちぇっ、また人気が出んのかよ・・・」 
「すまへんなぁ・・・」 
すねる横島に銀一は笑う。 
「けどけっこう手の込んだ嫌がらせをやられててなぁ・・・・・マジな話、このままやと撮りに影響が出るのも時間の問題なんや。」 
「映画のほうにも変なケチがつくと大変だし、公表せず内密に調査し、対処するって訳。」 
「ぜ―たくな悩み抱えやがって・・・・・俺としてはその犯人に協力したいくらいだな。」 
「もう、横島さんたら。」 
「で、ど―するんでござるか?」 
シロがうずうずしながら美神に詰め寄る。 
「誰かがマネージャーを装って調査するのよ。 早い話がボディーガードね。」 
「ボディーガードぉっ!? 拙者そ―いうのいっぺんやってみたかったっ!!」 
「た―だ―し、犯人に気付かれないようにする必要もあるから、せいぜい1人か2人まで。」 
「「2人・・・」」 
ぐ―ぐ―寝ているタマモの横で、シロとおキヌは同時に呟いた。  
(アイドル売れっ子俳優のボディーガード・・・・これがきっかけで恋が芽生えたらどうしようっ!! いやいや、拙者には先生という人がっ! それにクロ兄もっ! いや〜〜〜〜〜拙者困っちゃうでござる〜〜〜〜〜っ!!) 
(近畿君のボディーガード・・・・・きゃ―きゃ―っ、映画みたいっ!! あ、でも週刊誌でスキャンダルとか言って載せられちゃったらどうしようっ!? きゃ〜〜〜っ、私ってば私ってば・・・・っ!!) 
妄想にふけってだらしなく笑うシロと赤くなっているおキヌの顔に頬を引きつらせながら、美神はこほんっと咳払いをする。 
「で、誰にするかって話なんだけど・・・・・どれだけ時間がかかるかわからない以上、私は今そんなに長期間事務所を空けられないし・・・・近畿君に決めてもらったほうがいいかしらね?」 
「お、俺ですか・・・・? じゃあ、まず横っちと・・・」 
「俺かいっ!?」 
「ええやないか、前のお前の活躍見せてもらったから頼むんや。 横っちなら知らん仲やないし、腕も信用できるしな。」 
「ま、真顔で言うなよ恥ずいなぁ・・・」 
にこやかな顔の銀一に、横島は頬を赤らめ顔を背けた。 
「で、あとは・・・」 
(拙者っ、拙者っ、拙者ぁ〜〜〜〜っ!!) 
(私もやりたいな〜〜〜・・・・) 
「うっ・・・・!」 
シロの異様なオーラとおキヌのお願いオーラに銀一はびくっとなって後ず去った。 
「ど―すんだ銀ちゃん?」 
じと目で睨む横島に、銀一は慌てて口を開けて寝こけているタマモを見た。 
「じゃ、じゃあ彼女に・・・・」 
「意義あり〜っ、拙者のほうが鼻もいいしぷりちぃ―でござるのにっ!!」 
「鼻はともかく後半はかんけ―ねえだろ・・・?」 
立ち上がるシロを横島が押さえる。 
「じゃ決まり、しっかりね横島君。」 
「いいな―タマモちゃん・・・・」 
おキヌは指を咥える。 
「がっこまた休みかよ・・・・・補習が増える・・・」 
「すまんな横っち、美味い飯くらい食わせるから、。」 
立ち上がる銀一に、横島もだらだら立ち上がる。 
「横島君、これ忘れないように持ってきなさい。」 
美神は寝ているタマモの脳天をチョップし、ぼふんっと狐の戻したタマモを横島に投げつけた。 
「いいんすかね本人の知らない間に決まっちゃいましたけど・・・」 
「いいのいいの。」 
「銀ちゃん、ほんとにこいつでいいんか?」 
横島は口から舌を覗かせる狐をぶらぶら振って見せる。 
「それよりこの人狐だったんか? いや〜初めて見たでっ! いろいろ話聞かせてもらいたいわ。」  
「あんま期待しないほういいぞ。」 
おキヌに手渡されたリュックにタマモを詰め込み、横島は苦笑する。 
「くっそ―タマモばっかりずるいでござる・・・」 
「何かあったら連絡しなさい。 呪いをあんま舐めないようね。」 
すねるシロとおキヌの頭をぽんぽん叩き、美神は横島に言う。 
「んじゃ―いっちきま――す。」 
「お2人をお借りします。」 
3人に見送られ、銀一とリュックを背負った横島はドアから出て行った。 

翌日の夜 

「・・・・・」 
目を開いた狐のタマモはソファーの上で首を起こした。 部屋の中は暗く、窓からかすかな光が入ってきていた。 と、ぱっと部屋の明りがつく。 
「?」 
「おう、起きたかタマモ。」 
キッチンからやって来た横島にタマモはぼふっと人型になる。 
「ここどこ?」 
「銀ちゃんのマンション。」 
「って、誰?」 
「昨日会ったろ? 仕事でガード兼、調査に来てんだよ。 さすがに家にはなんにもなさそうだったけどな。」 
横島は見鬼君やお札が散らばっているテーブルからペットボトルを掴む。 
「ひょっとして、アタシもそれに組み込まれてるの?」 
首を擦りながら聞くタマモに、横島は手にしているペットボトルの水を口に含む。 
「ま―な。」 
「いつの間に・・・」 
「お前寝すぎなんだよ。 1日半も寝てんじゃねえっ。」 
「んなのアタシの勝手でしょうが・・・」 
立ち上がったタマモは肩をぐるぐる回す。 
「ったく、しゃ―ないな―・・・・・で、何すりゃいいの?」 
「できるだけ銀ちゃんの仕事場についてって、その周りを調査するしかねえだろ?」 
「ええ〜〜。」 
嫌そうな顔のタマモに、横島は苦笑する。 
「んな顔すんなよ、銀ちゃんがお前を指名したんだ。 文句は銀ちゃんに言え銀ちゃんに。」 
「・・・・わかったそ―する。 そいつはどこ?」 
「あ? 今風呂に入って・・・・っておいちょっと・・・!」 
慌てる横島を無視し、タマモはずかずかバスルームに向かった。 勢いよくバスルームのドアを開ける。 がらっ 
「こら。」 
「ええぇっ!!? ちょっとっ!!」 
びっくりして振り返る裸の銀一に、タマモはじと目で言った。 
「勝手にアタシを選ぶんじゃないわよ。」 
「あっ、あっ、すいませんっ! って、ちょっと待って!!」 
水が飛び跳ねるシャワーを蹴飛ばしながら、銀一は慌ててタオルで前を隠す。 
「うっわ、まじで開けたんかい?」 
やって来た横島は慌てふためいている銀一を笑いながら、タマモの後から顔を見せる。 
「よっ、横っちぃ、その人連れてってくれっ!!」 
「へいへい。 タマモ、人間の男は女に裸見られるとこ―なるんだ覚えとけ。 こっち来いって。」 
「まだ話があるのに・・・」 
「後で、あ―と。」 
「あっ、こら放せ・・・っ!!」 
束ねた髪の1つをぐいぐい引っ張る横島に、タマモの姿はバスルームから遠ざかっていった。 
「な、なんちゅ――女や・・・」 
飛び跳ねるシャワーの水しぶきを浴びながら、銀一はぺたんっと座り込んだ。  

「何でアタシがあんたらのご飯なんか作んなきゃなんないのよっ!?」 
「お前今日1日何もしてね―だろ―がっ!! それぐらいやれっ!!」 
バスタオルで頭を拭きながらリビングに入った銀一は、見事に散らかった室内でいがみ合う横島とタマモを目にした。 
「あの、ちょっと・・・」 
「てんめぇ、ちょっといい女だからって付け上がってんじゃねえぞこらっ!!」 
「脳みそないくせにいばるなっ!」 
横島が投げつけたクッションをタマモは蹴り返す。 それが銀一の顔に直撃した。 
「ぶはっ、お、おい横っち・・・?」 
「だいたい毎回毎回俺よりいいギャラもらいやがって・・・・っ!!」 
「けけけ、口惜しかったらあんたにこれがでっきる〜?」 
ぼふんっとおキヌに化けたタマモは涙目でしなを作って横島を見上げた。 
「よ、横島さん私にそれをぶつけるっていうんですか〜・・・?」 
「うぐっ・・・・お、おキヌちゃんに化けるなんて卑怯だぞ〜〜〜・・・・っ!!」 
置時計を振り上げたままの姿勢で硬直し、横島はぷるぷる震えた。 
「なあ、2人共・・・」 
「隙ありっ!!」 
「べっ!?」 
タマモは床に落ちていたスリッパを横島の顔面にぶつける。 
「こ、こん女狐っ、もうゆるさ――――んっ!!」 
「べ―――だっ。」 
横島は無茶苦茶に霊波刀を振り回し、どろんっと元の姿に戻ったタマモはぴょいぴょい逃げ回った。 
「お、俺の家が・・・・」 
がちゃんっ べきべき〜〜・・・・どすんっ! 振動と共に壊れていく家具や壁に、銀一は青くなりながら立ち尽くしていた。 

3日後 撮影現場の浜辺  

「ふい〜〜〜・・・・」 
椅子に座ったスーツ衣装の銀一は、駆け回るスタッフと、女性スタッフのお尻を追いかけている横島を目にする。 
「なんやどっと疲れるわ・・・」 
丸めた台本で口元を押さえる。 頬を叩かれ引っくり返る横島を鼻で笑いつつ、台本を広げる。 
「ここでも異常はないわね・・・」 
「あ、どうも。」 
黒髪ショートカットの女に化けたタマモの声に、銀一は首をタマモに向ける。 
「あんたが最後に被害にあったのがもう1週間前になるんでしょ?」 
「ええ。 マネージャーが血まみれで車の中で倒れてて・・・」 
「でも外傷はなかった。 車に『映画をやめろっ』って血文字があった。」 
「はい・・・」 
「それから何のアプローチもないってのは・・・・」 
「・・・・・」 
冷たい風に吹かれながら、タマモと銀一は目を細めて照明器具で女性スタッフに殴り飛ばされる横島をぼんやり目にする。 
「敵さん、アタシらを雇ったって気付いたんじゃない・・・?」 
「・・・どうしましょう?」 
「ど―しましょうね―・・・・?」 
タマモはけけけと笑い、顔を強張らせている銀一の背中をべしっと叩いた。  
「ま、それはなんとかするから。 あんたは仕事に集中しときなさい。」 
「・・・・・は、はいっ!!」 
返事と共にばっと立ち上がった銀一に、タマモはにっと笑って見せる。 
「近畿君――っ、そろそろ準備して―――っ!!」 
「あ、は――いっ!!」 
監督に呼ばれ、銀一は台本をテーブルに置いて走っていった。 
「・・・・・踊るGSねぇ――・・・」 
タマモは台本を手にとってしげしげ眺めた。 表紙には、『踊るGSV ―東京で変身せよっ!―』と、書かれている。 
「人間の考えることはわからん・・・」 
言いつつも、ぱらぱら開いたページからタマモの目は放れなかった。 

その4日後 某テレビ局付近、街中の撮影現場。  

「ぐはっ・・・!?」
ゾンビのような着ぐるみを着た役者に殴られた銀一はごろんごろんとアスファルトを転がる。 
「よ、横山君・・・・っ!!」 
同じく額から血を流している女優が、立ち上がろうとする銀一にベルトを押し付ける。 
「お願い・・・・これを使ってっ!」 
「い、嫌だ・・・・それは使えないっ!」 
銀一はよろよろ立ち上がりながら着ぐるみゾンビと対峙する。 スタッフの持っているマイクが銀一と女優に近づく。 
「そのベルトは使っちゃいけないんだ・・・・すみ子さんだってわかってるんだろっ!?」 
「でもこのままじゃ・・・・」 
『くわあああ・・・・っ!!』 
「「っ!?」」 
びくっとなる2りに、着ぐるみがもったいぶってゆっくりと近づいてくる。 
「人工魔装術にも欠点があるのは認めるわ・・・・・でも、私信じてるっ! 横山君になら出来るって・・・・・だから・・・・お願い戦ってっ!!」 
「でもっ・・・」 
『はあっ!!』 
着ぐるみゾンビがばっと2人のほうに手をかざすと、カメラ外のスタッフがかちっとスイッチを押す。 どか――んっ 
「きゃっ!?」 
「すみ子さん・・・・っ!?」 
爆発に吹っ飛ぶ銀一と女優。 転がりながら立ち上がった銀一の手にはベルトがしっかり掴まれていた。 
「すみ子さんっ!?」 
倒れた女優の顔にカメラがアップに近づく。 
「この・・・よくも・・・・っ!!」 
がしっと腰にベルトを巻きつけ、銀一はベルト横左右にあるギアのコードをかたかた入力し、ばばっと腕を振ってポーズをとる。 カメラが近づきそれをアップで撮影する。 
「・・・・・オカルトチェンジっ!!」 
「はいっ、カ――――ット! お疲れさんっ!! 今日はここまで―。」 
「「「「お疲れ様――っす。」」」」
ぞろぞろ片付けを始めるスタッフに、隅で見ていた横島と変化しているタマモは目を細める。 
「ねえ・・・・・踊るGSって、刑事ものじゃなかったの・・・・・・?」 
「俺の記憶が確かなら・・・・確か・・・・」 
「あの変身ポーズは何?」 
「う〜む・・・・いつのまにガキ向けアクションになってしまったんだか・・・・」 
「だいたいベルトで変身なら掛け声は『変身』じゃなかったの?」 
「何でそんなこと知ってるんだお前は? まあ、最近は若い奥様方に人気だとか・・・・・・くっそ〜〜〜っ、また銀ちゃん人気が増えるんかいっ! 今度は若い人妻かよこんちくしょうっ!!」 
「どおどお。」 
握りこぶしに涙を跳ばす横島に、タマモは適当に手を振る、 
「そんなことより、ここでも異常なしね・・・・・やることないと退屈・・・」 
「いや、やることはあるぞ。 とても重要なことだ。」 
「?」 
しゃがんだ横島はリュックに手を突っ込む。 
「そこの女優さ――――んっ!! 今晩俺と素適なディナーを・・・・・ぶっ!?」 
ガイド雑誌を手に女優に大分する横島はカウンターで顔に蹴りを入れられた。 
「おお・・・・さすがはアクション女優・・・」 
タマモは感心してぱちぱち拍手した。 

その次の日 美神除霊事務所 

ぷるるるる ぷるるるる ぷる・・・ 
「は〜い、美神除霊事務・・」 
『あおキヌちゃん? 俺俺。』 
「横島さんっ!?」
受話器をしっかり持ち直すおキヌに、シロがテレビからぎゅばっと首をそちらに向けた。 
「どうですかそっちは!? ちゃんとご飯食べてますっ!?」 
『食べてるよ。 けっこう銀ちゃんもいい生活してるし・・・・ったくさすがは売れっ子だよ。』 
「ふふふ、そうですね。 でも・・」 
「お、おキヌ殿拙者も拙者も拙者もぉ〜〜〜〜〜っ!!」 
「あんっ、ちょっと待ってよシロちゃんってば・・・っ!!」 
しがみ付いて受話器を奪おうとするシロに、おキヌは腕を伸ばして受話器を取られないようにする。 
「ちょっとだけっ、ちょっとだけでいいでござるから〜〜〜〜〜っ!!!」 
「もうちょっと待ってってば〜〜っ!!」 
『お――い、もしも――っし?』 
受話器の向こうから横島の声が響くが、シロとおキヌはもみ合ったまま受話器に口が届かなかった。 
「こらこら何やってんの。」 
部屋に入って来た美神が、デスクの前で押しのけあっている2人から受話器を取り上げる。 
「は―いお電話代わりました美神ですけど・・・?」 
『あ、美神さん俺っす。』 
「なんだ横島君か。」 
美神は受話器に手を伸ばそうとするシロとおキヌの手をしっしと手で払い除ける。 
「調子はどう?」 
『それが手掛かりを全然掴めなくて・・・・・俺らが来てから何も変な事起きてないんすよ。』 
「ふ―む。」 
『タマモが言うには、銀ちゃんが俺らを雇ったことが犯人にばれたんじゃないかって。』 
「ありうるわね。 エミクラスまでとは言わなくても、ターゲットの傍に霊能者がいるかどうかを見極める奴だとすれば・・・・」 
『あの―、そんなの相手にする自信、はっきり言ってないっすよ俺〜?』 
「う―む・・・」 
シロとおキヌの視線を無視し、美神は目を閉じて唸る。 
「・・・・・横島君、ちょっとタマモに代わって。」 
『はあ・・・』 
「調査のほう、上手くいってないんですか?」 
「みたいね。」 
心配そうな顔のおキヌに、美神は苦笑する。 
「だから狐より拙者のほうがいいって言ったんでござるよっ!!」 
「あんたは呪いの類については横島君以下でしょ? だったらいろいろできるタマモのほうが対応は効くわ。」 
「が―――んっ!!」 
頭を抱えるシロを無視し、美神はふ―っと息を漏らす。 
『・・・・・もしもし美神さん?』 
「タマモ、本当に何にも見つけられないの?」 
『ま―ね。 銀一の家ん中も壁の中から時計の中身に至るまで全部ぶっ壊して調べたけど、盗聴器も札もな―んもないわ。』 
「そ、そこまでしたの・・・?」 
『人間がやってんなら、けっこう腕のいい呪い屋ね。』 
「ま―それでも私の敵じゃないけど・・・・・仕掛けてこない以上、お札で警戒するしかないわね・・・」 
『ところで忘れるところだったけど、アタシの知らない間にアタシを仕事に巻き込まないでくれない?』 
「またまたタマモさんってば、なんのかんの言って面白がってるくせに。」 
『勝手に決め付けないの。 まあいいわ。』 
「それよりど―する気?」 
『んん――・・・・・アタシは感知されないように妖気も抑えてるし、雇ったGSが横島だけと思われてるとしたら・・・』 
「横島を解雇するに見せかけて誘い出す・・・・・囮作戦ね。」 
『それで手っ取り早く終わると思うし。』 
「こらこら、早けりゃいいってもんじゃないでしょが。 だいたい映画に出るなって脅しなら、撮影が終わるまであんたらがガードしてりゃそれで済むでしょうに。」 
『押し付けといて文句はいわないっ。』 
「ははっ、はいはい任せたわ。 じゃあよろしくね。」 
言い終わると美神はかちゃんっと受話器を下ろした。 
「「ああ〜〜・・・」」 
「ん、何どうしたの2人共・・・?」 
名残惜しそうに受話器に手を伸ばしかける2人に、美神は首をかしげていた。  

「・・・・・と、言う訳で横島を解雇するに見せかけて敵さんにアプローチしてもらうって作戦はいかが?」 
「囮作戦ですか・・・」 
銀一は腕組みをして唸る。 
「そ―上手くいくか〜?」 
怪訝な顔の横島に、タマモは胸を張る。  
「アタシの作戦にケチつけようっての?」 
「そ―じゃねえけど、お前だけが存在を気付かれてないって話が嘘臭い。」 
へんっと笑う横島に、タマモはソファーの横のリュックから霊視ゴーグルを取り出して横島に投げつけた。  
「それでアタシ見てみなさいよ。」 
「はあ・・・?」 
横島はゴーグルを目に当てる。 
「ん・・・?」 
横島はゴーグルを着けたり外したりしながら何度もタマモを見た。 
「なっ、何でゴーグルすると見えねえんだ・・・・っ!?」 
「だから感知されないように抑えてんだって言ってるのに。」 
「うっわ・・・・・お前そんなこと出来たんか・・・?」 
「これでも追われる身なんでね。 何のためにあんたらと生活してると思ってんのよ?」 
「まさか、見つからない方法を学習してんのか・・・・?」 
「ぴんぽ―ん。」 
にっこり笑うタマモに、横島は頬をつって苦笑する。 
「ほんと・・・・怖い女だよお前・・・」 
「ど―もど―も。」 
笑いあうタマモと横島に、銀一が手を上げる。  
「やりましょうよ、その囮作戦。」  
「やる?」 
「おいおい、いいんか銀ちゃん?」 
「もちろんや。」  
銀一はにっと笑う。  
「待っとるだけやったら犯人に逃げられるしな。 スタッフやマネージャーの仇も取ってやりたい。」 
「危険を冒すのは勇気じゃねえぞ?」 
「何カッコつけてんのよ。 あんたは撮影が終わるまでこのままだらだらした生活続けたいだけでしょ。」 
ぎくっ 
「ま、まっさか〜・・・」 
「横っち〜〜・・・?」 
銀一とタマモに睨まれ、横島はだらだら汗をかく。  
「や、やだな銀ちゃん・・・・・親友を疑うのかい・・・・?」 
「じゃあ、俺の目しっかり見んかい。」 
「うっ・・・・・そ、それよりタマモっ、お前こそ手っ取り早く仕事終わらせたいだけだろがっ!?」 
ぎくっ 
「ま、まっさか〜・・・」 
「じゃあ何で目を逸らす?」 
「ほ―、目を合わせればいいのね? ほれっ!」 
ぼふんっ 顔を鼻も口もない1つ目に変化させたタマモは、巨大な瞳で瞬きしながら横島に顔を寄せる。 
「ほれほれほれっ!」 
「ひ――――っ、そんな巨大な瞳で迫らないで〜〜〜っ!!」 
「あの〜・・・・」 
おずおず手を挙げる銀一。 
「「何?」」 
「俺はやってみようと思うんやけど・・・・」 
「え―やるの――?」 
横島は顔をしかめる。 
「俺を誰やと思っとる? GS横山やで? GSは犯罪者に屈服したりせんのや。 そうですよね?」 
「いや、アタシに言われても・・・・」 
「そ―いう訳で、横っち、お前今からくびな。」 
「って、いきなりかいっ!? ちょっと待てや銀ちゃん落ち着いて考えよう―やっ!! 外は暗いし腹は減るし今から帰れって言うには・・」 
「気にすんな横っち、誰もお前なんか襲いはせんわ。」 
「いや、そ―いう問題じゃなくて・・・」 
「なに、次回に続くのこれ?」 

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【次回予告】 
横島 「ああ〜〜っ、俺のだらだらした平穏な生活が〜〜〜〜っ!!」 
銀一 「おのれは・・・」 
タマモ「さって、敵さんはどうでるかしら?」 
美神 「横島君、あんたは近場で待機よ、わかってる?」 
おキヌ「うう・・・私の出番はないんですか?」 
シロ 「せんせ―――いっ、カムバ―――ックでござる〜〜〜っ!!」 
タマモ「で、今日のスケジュールだけど8スタでレコーディングだとさ。」 
銀一 「ん―、じゃぼちぼち行くか。」 
タマモ「タクシー呼ぶわ。」 
銀一 「サンキュー。」 
横島 「って、何のんきにマネージャーしとんねんっ!?」 
美神 「次回、『キャスト・スタッフ −後編−』」 
タマモ「この世のあらゆる事件は歌で解決できるんだって。」 
横島 「何の話だよ・・・・?」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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