ぽんっ ぽんっ ぽんっ 
「尾花かるかや、萩ききょう〜・・・・七草千草の数よりも〜大事なこの子がねんねする〜〜・・・・」 
かちゃっ 
「お、何それ?」 
「あ、タマモちゃんお帰り―。」
夕日の差し込む部屋で、おキヌは弾んでいたてまりをキャッチする。 ドアを閉めたタマモは目をおキヌの手の中にあるてまりに留めたまま歩み寄った。 
「おもしろい物持ってるわね。」 
「えへへ〜、いいでしょ? サンタクロースのお爺さんに貰ったんだ。」 
「あれって実在すんの?」 
「いるよ〜。 美神さんと横島さんも会ってるんだから。」 


きつねレポート

 てまりのいたずら 


「へ〜。」 
タマモはてまりをぽんぽん跳ねさせてみる。 
「何となく手に馴染みやすいわ。」 
「でしょ〜。 なのにシロちゃんかじっちゃうんだから。」 
「あ―らら。」 
「あ、そろそろお夕飯の準備しなくっちゃ。」 
おキヌはソファーから立ち上がる。 
「ねえ、これちょっと借りててもいい?」 
「いいよ。 あ、そうだ・・」 
「安心して。 シロみたいにかじらない。」 
「あっはは。 そうじゃないよ。 今日は油揚げの新メニューつけるからね。」 
「わおっ。 そりゃ楽しみにしとくわ。」 
「期待しててね。」 
ぱたんっ 
「・・・・・・」 
タマモはてまりを顔に近づけた。 
「・・・・・古そうね。 いい匂いはすんだけど。」 
くはっとあくびをしたタマモは、ソファーにうつ伏せに転がる。 
「まりつき、か・・・」 
指で転がしてみる。 
『・・・・の・・・ちを、どう・・・か・・めに・・・!!』 
「・・・ん?」 
閉じかかったタマモの瞳が開く。 びゅおっ 
「いいっ!?」 
一瞬にして暗闇に放り出されたタマモは、落下していくてまりに手を伸ばしながら自分も暗いどこかへと落ちていった。 

べちゃっ 
「んが・・・っ!!」 
暗闇の中に叩きつけられたタマモは、顔を挙げて鼻を擦る。 
「いって・・・何これは・・・・・? あっ・・・」 
ころころ転がっていくてまりに、タマモは立ち上がってそれに向かって歩いた。 
「よっと。」 
拾い上げて顔を挙げたタマモの目の前は、暗闇ではなく明るい川原の土手に立っていた。 そよ風に金色の髪がなびく。 
「・・・・どこよここ。」 
見上げる先には、淡いピンクの桜が花をちりばめていた。 
「あ―、私のまりっ!」 
「え?」 
声に反応したタマモは、着物を身につけた女の子が駆け寄ってくるのを見た。 
「・・・・・・」 
「あ、お姉ちゃん拾ってくれたの? どうもありがとうっ!」 
「はい、川に落さないようにね。」 
かがんだタマモは女の子にてまりを手渡した。 
「お姉ちゃんどこのくにの人? 村の人じゃないよね? それに着物も見たことないし・・・・」 
「通りすがりのただの化け狐。」 
「ええぇっ!?」 
女の子はまりを抱え込むようにして後ず去った。 今にも泣き出しそうな少女の顔に、タマモは笑った。 
「大丈夫よ、食べたりしないから。」 
「本当・・・・?」 
「ほんとほんと。 お嬢ちゃん、名前は?」 
「・・・・・キヌ。」 
「おキヌちゃんか。 一緒に遊ぼっか?」 
タマモの言葉に少女の顔はぱっと明るくなる。 
「・・・・うんっ! じゃあまりつきしようまりつき!!」 

タマモとおキヌは並び、緑色の草が風でなびく土手に座った。 
「ねえねえ狐さん。 狐さんは本当に狐さんなの?」 
「そうよ?」 
「じゃあ何かに化けたりできるの?」 
「よ〜し、見てなさい?」 
立ち上がったタマモはぽんと飛び上がり、1回転して着地した時は狐の姿になっていた。 
「わ―っ、凄い凄いっ!!」 
おキヌはぱちぱち拍手する。 
「こんっ。」 
ぼしゅんと炎が噴出し、狐が大きな鹿になった。 
「すっごいすっご―――いっ!!」 
おキヌは立ち上がってぴょんぴょん飛び跳ねた。 
「ぴゅ――っ!」 
どろんっと煙に包まれ、鹿が白い白鳥になってばさばさ羽ばたいた。 
「キャ―っキャ――っ!!」 
しゅごっと人型に戻り、タマモはウィンクして仰々しくお辞儀をして見せた。 
「どう?」 
「うんうんっ! いいないいな〜、私も狐さんになりたいよ〜。」 
「それはちょっと無理かな〜。」 
「む〜〜〜っ。」 
「あっはは。」 
頬を膨らますおキヌに、タマモは優しく頭を撫でた。 
「ほら、もう日も暮れるから、お家に帰りなさい。」 
「うん、遊んでくれてありがと狐さん。 またね〜〜!!」 
手を振って走っていくおキヌに、タマモも手を振って応えた。 さわっと風向きが変わり、その強い風に吹かれ、後ろ髪が顔にかかったタマモはそれを手で振り払った。  

景色が変わり、タマモは雪が降りしきる中立っていた。 時折拭き乱れる風に雪が飛び舞っている。 
「・・・・なんだこりゃ?」 
「狐さん・・・・・狐さんだよねっ!?」 
声に振り向いたタマモは、先程よりも少し背の伸びた少女を見る。 蓑と傘に雪を積もらせた少女はざくざくと駆けてきた。 
「私だよっ、2年前に会ったキヌだよ狐さんっ!!」 
「覚えてるよ。 久しぶり、おキヌちゃん。」 
タマモは屈み、おキヌと顔の高さを同じにして微笑んだ。 
「どうしてたのっ!? ちっとも会えないから、もう2度と会えないと思ってたのに・・・」 
おキヌがタマモに抱きついてくる。 タマモは肩や髪の雪を払ってやりながら苦笑する。
「ごめんごめん。 おキヌちゃんは元気にしてた?」 
「うんっ! えへへ―背だってずっと伸びてるもん。」 
「ほんとだ。 そらっ。」 
両手でおキヌを抱きかかえてタマモは立ち上がった。 少女がきゃ―っと歓声を上げる。 
「狐さん、あんまり変わってないね・・・」 
「ま―、狐だから。」 
金髪に手を伸ばすおキヌにタマモは微笑む。 
「ふ―、ここは雪が凄いわ・・・」 
「うん、今年もたくさん降るって、和尚様が言ってた・・・・」 
タマモとおキヌはそびえ立つ高い山の頂きに目をやる。 
「これじゃあ、お父さんやお母さん達もお仕事大変でしょうに。」 
「私、お父さんもお母さんもいないよ。」 
「そうなん?」 
「うん、小さい頃死んじゃって・・・・」 
「ふ―ん。」 
「でも、和尚様や皆がいるから、寂しくなんかないよ。」 
「そっか。」 
「お友達の狐さんもいるしね。」 
おキヌは手を伸ばし、タマモの首筋に抱きついてきた。 
「あんまり狐を信用しない方がいいわよ・・・?」 
「平気だよ。 狐さん、いい人だもん。」 
「人じゃないんだけどね・・・」 
タマモはやさしくおキヌの頭を撫でた。 びゅわっと雪が吹き上がり、タマモはとっさに目を閉じた。 金色の長い髪が上に吹き上げられる。 

ふっと景色が変わり、タマモの両手は空を掴んだ。 まぶしさに目が閉じる。  
「―――っ!」 
そっと目を開いたタマモは、頭上からの日差しに手をかざす。 
「今度はどこ・・・・・?」 
木々の木漏れ日を受けているタマモは、当たりを見回した。 
「山の中・・・・?」 
笹が敷き詰めるように足元に広がっており、タマモは胸まで笹に埋まっていた。 
「・・・・うっ・・・・ううう・・・・!!」 
「?」 
耳をぴくっと動かしたタマモは、両手で笹をがさがさ掻き分けながら起伏する坂を登っていった。 
「うう〜〜・・・・!」 
「・・・・おキヌちゃん?」 
「っ! 誰・・・っ!?」 
鋭い声にタマモは1度足を止め、またゆっくりと進みだした。 
「アタシ、お友達の狐。」 
「き・・・・狐さんっ!?」 
笹の向こうにしゃがみ込んで泣いている少女をタマモは見つけた。 ぐしゃぐしゃの顔になっている少女はタマモの胸に飛び込んだ。 
「わはあ――――ん狐さん〜〜〜〜〜っ!!」 
涙と鼻水を擦りつけてくるおキヌの頭をタマモはやさしくなで上げる。 
「ど―したのこんなところで?」 
「狐さんだっ! 狐さんが来てくれた〜〜〜〜・・・っ!!」 
「よしよし。」 

「そっか、山菜摘みに来てたんだ。」 
おキヌを背中に負ぶい、タマモはがさがさ山を下りていた。 傾きかけた太陽に2人の頬が黄色くなる。 
「うん・・・・でも私ドジだから、足を滑らせちゃって。」 
「あ―やっぱり。」 
(そんなことだろうと思った。) 
タマモは苦笑する。 
「足が痛くて、どこにいるか分からなくて、誰か助けてって、ずっと思ってたんだよ。 そしたら、狐さんが助けに来てくれたんだ!」 
おキヌはタマモの首にまわしている手に力を込めた。 
「おキヌちゃんまだ小さいんだから、1人で山奥まで来るのはやめたほうがいいんでない?」 
「私もう11だよ? 和尚様のお手伝いしなきゃいけないんだから・・・・っ!」 
「そりゃ感心。」 
「私より小さい子はいっぱいいるんだもん。 私が、頑張らなきゃ・・・・」 
「・・・・おキヌちゃん?」 
タマモが首を背中に向けると、金髪にしがみ付いておキヌが眠っているのが見える。 
「・・・・・お疲れ、お姉ちゃん。」 
「く―・・・・・」 
口を開けているおキヌを背負いなおし、タマモはまた歩き出した。 
「お母さん・・・・」 
おキヌの言葉に、タマモの足がぴたっと止まる。 
「お母さん、か・・・・・」 
空を見上げたタマモは、木の枝枝が遮る空の向こうに赤くなりつつある太陽を見た。 刹那、ばさばさっと黒い鳥が一斉に飛び立ち、タマモの視界を黒く覆っていった。 

「――っ!」 
瓦と土塗りの壁がタマモの瞳に移る。 背中にまわしていた腕は空振り、タマモは転びそうになりながらも周りを見渡した。 
「お城・・・・?」 
耳をぴくっと動かしたタマモは、ひょいと飛び上がって塀の上に乗り、さらに飛び上がって木の枝に飛び乗った。 眼前に多くの人だかりが見える。
「早急に妖怪を鎮めよと公儀からの命令だ。 無論わしも民草のためにそうしたいと思う。」 
「しかし――それにはここにいる誰かの手助けが要る。 ――何をするかわもう伝わっておろう。」 
屋敷の中から庭に並ぶ少女達の集団に向かって話す男共を見ながら、タマモはあふっとあくびをおさえて枝に寝そべった。 
「何やってんだか・・・」 
建物の奥からいかつい煌びやかな少女が現れた。 その少女が箱の中から何かを取り出すと、周りの男達は口をあんぐりと開いて驚いている。 そんな様子を眺めながら、タマモはふと、少女達の中にいる1人の後頭に目を留めた。 その少女が男達の前に歩み出る。 
「お・・・おそれながら・・・・! 私が志願いたしますっ!!」
「おおっ!? そ―かっ!! やりたいか!? やってくれるのか!?」 
タマモの目に、男達の前に進み出てきた少女と涙を流して喜ぶサムライ、驚き顔のいかつい煌びやかな少女が映っていた。  
「・・・・で、何の選考会なのこれ?」  

「うおお――っ!!」 
ばきばきと石灯籠を砕き、泣きじゃくる少女をおキヌは優しく撫でていた。
「・・・・さあ姫、もう城にお戻りください。」 
「おキヌ・・・・おキヌ、わらわは・・・・」
「本当に・・・・ありがとうございました・・・」 
「うおおお――んっ!!」 
「姫・・・・」 
泣きながらも何度も振り返りつつ去っていく人影を、おキヌは笑顔で静かに見送った。 
「よ。」 
「あっ・・・・・き、狐さんっ!!」 
おキヌは暗がりから出てきたタマモに駆け寄った。 
「お久しぶりですっ! 相変らずお変わりなく・・・っ!」 
「ええ。 ところで何の騒ぎなの? えらく盛り上がっちゃってるみたいだけど・・・」 
「え・・・・・ご存知ないんですか・・・・?」 
「ご存知ないの。 よかったら教えてくれる・・・?」 
「・・・・・」 
井戸から離れたおキヌが草むらに腰を落とし、タマモも隣に座った。 
「この辺りの山に、死津喪姫という妖怪が住み着いてしまったんです。」 
「誰それ?」 
「とっても怖い妖怪です。 誰も退治できなくて・・・・・江戸から来てくださった導師様のお手伝いに、私がなったんです。」 
「ただのお手伝いに、あんな盛り上がっちゃってる子がわざわざ夜中に会いに来るの?」 
「私・・・・・人身御供になるんです。」 
「!」 
タマモはおキヌの顔に顔を向けた。 
「・・・・死ぬの?」 
「・・・・私には家族はいません。 私の命が、みんなの為になるなら・・・・」 
「ふ―ん・・・・」 
「・・・・本当は・・・・・本当は怖いんです、ちょっとだけ・・・・えへへっ。」 
「・・・・・」 
タマモはそっとおキヌの肩を抱いた。 おキヌの首がタマモの肩によりかかる。 
「よしよし・・・」 
「うっ・・・・わ、私も・・・」 
タマモの胸に顔を埋めたおキヌの目に涙が浮ぶ。 
「ほんとは私も・・・・いっぱいいっぱい生きたかったです・・・・っ!! お友達と笑ったり・・・・大好きな人が出来たり・・・・結婚して、子供にまりつき教えたりしたかった・・・・っ!!」 
おキヌの頬を涙が伝った。 
「・・・・・・」 
「でもっ、誰かがやらなきゃいけないんです・・・・・! こんな私だけど、それで・・・・それで皆の為になるなら・・・・」 
「・・・・・おキヌちゃんなら死んでもいい、なんてことはないわよ・・・・」 
「・・・・狐さん?」 
「あんたも生きたいと思っていい。 それは、絶対間違ってなんかない・・・・」 
「・・・・・」 
タマモの服を掴むおキヌの手に力が入った。 タマモはおキヌ頭を優しく抱いた。 
「・・・あ・・・そうだ・・・・」 
おキヌは立ち上がり、井戸の傍からてまりを持ってきた。 
「・・・・これ、狐さんにさしあげます。」 
「アタシに・・・?」 
「はい、狐さんに貰って欲しいんです。」 
「でも・・・」 
「いつか・・・・狐さんの子供達に、まりつき教えてあげてください。」 
「・・・・・」 
てまりを見つめたタマモはおキヌに目を戻す。 
「逃げたかったら手を貸すわよ?」 
「!」 
おキヌはびくっと顔を挙げた。 が、静かに目を閉じると、首を横に振った。 
「・・・・・できません。」 
「・・・・そう。」 
「これで・・・・お別れですね、狐さん。」 
両手をそろえて立つおキヌはうつむく。 
「・・・・もし・・・・もしも生まれ変れるようなことがあったら・・・・・また狐さんと会いたいです。」 
「・・・・・」 
「家族がいて・・・・友達がいて・・・・・そんな生活が・・・・してみたいです・・・」 
「・・・・大丈夫、きっと・・・・・あんたは、誰よりも幸せになれるわよ。」 
「・・・・・ありがとうございます。」 
「・・・・・」 
涙目で微笑み、おキヌはお辞儀をして暗闇に消えていった。 タマモはてまりを両手で握り締める。 
「・・・・・死津喪・・・ねぇ・・・・」 

狐の姿で、タマモは山の中を駆け回った。 岩を跳び、木々を突っ切り、笹を踏み倒した。 長い九本の尾が通り過ぎた後に、真っ赤な炎が山に火をつけて回った。 
「しゃああああっ!」 
暗闇に炎のラインが幾つも浮かび上がり、それがどんどん広がっていった。 木をなぎ倒し、炎を吹き、暗い山は徐々に燃真っ赤に燃え上がっていく。 
「!?」 
どんどんどんっ 地面から突き出てくる太い根っこを避け、タマモはジグザグに走り抜ける。 
『おのれ何者かいっ!?』 
暗闇に響く声に、タマモはぶっと炎を吐き、それを身にまとってさらに走った。 
「くうぉぉぉ――――っ!」 
山を越えて狐の雄叫びが響き渡る。 膨れ上がった炎の狐は地面から現れた根っこや蛹を食い千切り、さらに山に火をつけ走った。 長く長く伸びた炎の尾が全てをなぎ倒していく。 ぼこっ! 
『貴様・・・・っ! わらわを山ごと焼き払おうと言うのかっ!?』 
目の前に突き出てきた死津喪姫の花を引き裂き、燃え盛る狐は地を蹴り、空を駆け上がった。 
「しゃ―――――っ!!」 
どぱっ 身にまとった炎を吹き飛ばし、暗い空高くで山を振り返る人型タマモは燃え盛る山を睨む。 黒い山に何十匹もの赤い蛇がくねるように、山がばちばちと炎を大きくしていく。 どがっと地面から飛び出す無数の死津喪姫の花が上空のタマモに吼えた。 
『なんだ貴様は・・・・っ!! わらわに歯向かおうと言うのか小狐風情が――――っ!!』 
「・・・・山ごと吹き飛ばすっ!!」 
掴み取ったCR−117から6つの弾丸を取り出し、それを左手に握りこむ。 
「我が息吹を糧となし、その身に宿して強きを極めよっ!!」 
すっと左手が弧を描き、6つの赤い弾が円をかたどって宙に留まる。 その円の中心に、タマモは銃口を構えた。 銃口を中心とし、6つの銃弾が空に赤い魔法陣を描く。 
「・・・・あんたは運がいい。 あたしはまだ生まれてなかったんだからね・・・」 
『おのれ―――――っ!!』 
「吹き飛べ年増――――っ!!」 
かちっ どどどんっ!! 
「つわっ!?」 
反動から空中で引っくり返るタマモを残し、はじけるように赤い6つの閃光が走り、山に突き刺さった。 瞬時にして巨大な赤い魔法陣が山を覆いこむ。 
「弾けろ――っ!」 
回転しながら落ちていくタマモがぐっと左手を握り締めて叫んだ。 山を覆った魔法陣が白い光を溢れさせる。
『が―――――・・・・っ!!』
ずどこおおおおおおおおんっ!! 吹き飛ぶ山々に巻き込まれ、タマモの体も光に飲み込まれていった。 

「・・・・・・」 
タマモはすっと目を開いた。 暗闇に金色の長い髪が散らばっている。 ゆっくりと体を起こしたタマモは髪をかき上げた。 その目にてまりが映る。 
「これは・・・・あんたの記憶の中・・・・?」 
タマモは呟くが、てまりはただタマモの目の前に転がっていた。 
「おキヌちゃんを助けたかったんだ・・・・」 
手を伸ばし、てまりを掴むとタマモはそれを静かに抱きしめた。 
「あの年増女が憎かったの・・・・? それとも・・・・おキヌちゃんが死んで寂しかった・・・・?」 
目を閉じたタマモは、てまりに自分の額を擦りつける。 
「そっか・・・・・口惜しかったんだ・・・・・ アタシがもう少し早く生まれていたらよかったんだけど・・・・」 
額からてまりを離すと、タマモはそれにそっと口付けした。 
「・・・・これで許してよ。」 

「――マモちゃん、タマモちゃんご飯できたよ〜・・・・?」 
「・・・・ん?」 
目を開いたタマモは、上下逆さまになったおキヌの顔を見る。 
「何逆立ちしてんの・・・・?」 
「引っくり返ってるのはタマモちゃん。」 
おキヌの苦笑に、ソファーから頭を落として床に髪を散らばせていたタマモはどたんと転げ落ちた。 
「くっは〜・・・・ああ〜・・・・」 
両手を突き上げるタマモは目を擦る。 
「何時・・・・? 犬は・・・・・?」 
「シロちゃんは美神さんとお仕事遅くなるって。 だから先に夕飯にしちゃおうよ。」 
「ん―・・・」 
腰を叩いて立ち上がるタマモは、ソファーの隅で転がっているてまりを掴み上げた。 
「なかなかいい子ね。」 
「・・・・いい子?」 
差し出されたてまりを受け取るおキヌは眉をひそめた。 
「ええ。 おキヌちゃんが好きみたいよ。」 
「そ、そうかな―・・・・?」 
にこやかな顔のタマモにおキヌは少し赤くなった。 
「大事に使ってあげなさい。」 
「もちろん・・・・・あっ!?」 
「ん?」 
「なんかよだれでべとべとする・・・・・タ〜マ〜モ〜ちゃん〜〜〜・・・っ!?」  
「ふ、不可抗力よ不可抗力っ!! 一緒に遊んであげたでしょ・・・っ!?」 
「何言ってるかわかんないよ。」 
「あ―だから―・・・・・」 
「こら―――っ!!」 
「ちょ、ちょっと待っておキヌちゃんっ!」 
部屋から飛び出て行くタマモに、てまりを胸に抱えたおキヌはそれを追いかけていった。 

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【次回予告】 
タマモ「しっかし東京は空気悪いわ・・・・・土も汚いし、チャクラが澱んでる。」 
横島 「お前な〜・・・・都会に喧嘩売ってんのか?」 
美神 「それとも田舎がすばらしいっての?」 
おキヌ「私の実家はすごくいいところですよ。」 
シロ 「ったく相変らずのひ弱でござるな。 少しは拙者を見習うでござる。」 
タマモ「あんたが毒されすぎてんのよ。」 
シロ 「負け狐の遠吠えは聞かんでござる。」 
タマモ「んなこっちゃ、子供が生めない体になるわよ。」 
横島 「・・・・何の話だよ?」 
おキヌ「タマモちゃん子供欲しいのかな?」 
タマモ「次回、『火鳥風月 −1番−』」 
横島 「な、なんでまた俺のお袋がいるんすか・・・!?」 
美神 「さ、さあ・・・?」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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