ナルニア支社 

「はい、お電話代わりました。 横島大樹・・・・なんだクロサキ君か、どうしたんだ急に?」 
『横島支社長、家の馬鹿専務がまたよからぬことを企んでいます。』 
「はっはっはっ、専務もこりないねえ。 で、今度は何をしようってんだ?」 
『事体はかなり深刻です。 どうか落ち着いて聞いてください。』 
「ああ聞こう。」 
『カルサック商会がそちらに支社を持っているのをご存知ですね?』 
「ああ、最近家とも急に友好的な態度を取ってきたなあ・・・」 
『やはり・・・・』 
「それが関係あるのか?」 
『ええ、実は・・・・・・』 
「・・・・・・・・何――――――――っ!!?」 


きつねレポート

プロジェクトY


「こんにちは―。」 
百合子は事務所に入ると大きなバックを置いた。 
「お久しぶりです、お母さん。 早かったですね。」 
「こ、こんにちは――。」 
「美神さん、おキヌちゃんも、久しぶりね。 今日は本当にごめんなさい、急に押しかけてしまって。 あら、忠夫は?」 
「彼はまだ学校・・」 
「お母様―――――――!!」 
「わあっ!?」 
「拙者、横島先生の弟子で犬塚シロと申します! 先生とは正しい交際をさせていただいて・・・!」 
どげしっ! 
「まったくこの馬鹿犬は・・・!」
「あっ、そんな美神殿〜っ!?」 
美神はシロから精霊石を取り上げた。 
「おキヌちゃん、ゲートオープン!!」 
「はいっ!」 
「わおわお〜ん!」 
犬型シロを掴んで振り被る美神に、おキヌは窓を開いた。 
「準備完了です!」 
「射出っ!!」 
ぶおんっ 美神はシロを窓から空にほうり投げた。 
「ぎゃわわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・・・」 
キラッ 
「ふう、おキヌちゃん窓閉めといて。」 
「は〜い。」 
ぱたん 
「失礼いたしました。 どうぞ座ってください。」 
「え、ええ・・・・今のは・・・?」
「近所の野良犬ですよ、いや〜最近勝手に入ってきちゃって。」 
「困ったものですよねえ、美神さん。」 
「さ、気にせず座ってください。」 
「は、はあ・・・・」 

「うは―やべえ、早く帰らねえとお袋先に着いちまう!」 
道を走る横島は、空から降ってくる白い物に足を止める。 
「・・・あれ、シロかっ!?」 
「わ、わお〜ん!」 
「はっ、このままでは激突する!!」 
ひょい 
「わふ!?」 
がっしゃ――ん シロはゴミ置き場に突っ込んだ。 
「ふ―、危ないところだった。」 
「わんわんわんわん!!」 
「うわっ、寄るな生ゴミ臭い!」 
「わいい〜〜ん!」 
「だ――っ、泣くなもう! 何だってんだ!?」 
「わんわわん! わおん!」 
「何言ってるかさっぱりわからん。」 
「ぎゃわわ――ん!!」 
「あ―、とにかく早く事務所に行くぞ。」 
「わん!」 

「横島さんがお見合い!!?」 
「ええ。」 
「そんなっ、何でですか!?」 
「まあまあおキヌちゃん。 で、それでなぜ家にいらっしゃるんです?」 
百合子はカップを置くと、ふうっと息を吐いた。 
「実は、これは企業戦略の1つなんです。」 
「?」
「?」 
「カルサック商会はナルニアで鉱山を扱うライバル会社の1つなんですよ。 でも最近、多くの会社が力をつけてきて、張り合っていく上で協力しようという案が出てきたんです。」 
「なるほど。」 
「それで主人を妬む専務がさりげなく忠夫をカルサックの令嬢に紹介したらしいんです。 そうしたら・・・」 
「気に入られちゃったと・・・」 
「はい。」 
「もの好きね〜。」 
「提携すればナルニアでの獲得は一気に上がりますから、社内でも話が盛り上がっちゃって。 でもそうなると、私どももずっとナルニア赴任が決定してしまうようなものなのです。」 
「あなた方の帰国を嫌う者の仕組んだ罠、ですか。」 
「出来ればやんわり断りたいんです。 そこで、どなたかに忠夫の恋人役をやってもらおうと思って、こうして伺ったわけです。」 
ばかんっ 
「その役目、この犬塚シロにお任せあれ!!」 
「・・・・言うと思った。」 
「シロちゃん、早かったわね。」 
「2人ともひどいでござるよ! しかし母上殿、それなら大丈夫でござる! ここに、横島先生の未来の妻が!」 
「誰が未来の妻じゃ! お袋〜、そんくらい自分らでなんとかしろよ〜!」 
「それが出来ないからこうして頼みに来たんじゃない。」 
「ちなみにその相手ってのは?」 
「これが見合い写真。」 
「おおおおおおおおおおおおおっ!!」 
「どれどれ?」 
「うっ・・・綺麗な人ですね・・・・」 
「名前はジェム・カヤマ・スポークス、24歳。 あっちの重役の娘さんで、若きナルニア支社長。」 
「お袋! 見合いの日取りはいつだ!?」 
「何言ってるの! 断るのよ!?」 
「ふざけんな! 俺は今運命を感じた、今から行くぞ――!」 
どばきっ 

「――と、言うわけで誰かに協力してもらいたいの。」 
「お話はわかりました。」 
「恋人のふり、ですね。」 
「でござるな。」 
「で、報酬は?」 
「は?」 
「え? 依頼じゃないの・・・・?」 
「個人的な頼みごと・・・・じゃ駄目?」 
くらっと美神はふらついた。 
「あっ・・・腸が切れそう・・・・」 
「はいはいっ! 拙者、拙者がやるでござる!」 
「そう言えばあなた忠夫の弟子だとかどうとか・・・」 
「はいっ!」 
「・・・・・・」 
「・・・・・な、何でござるか?」 
「いいけど、お子様じゃねえ・・・」 
「が――――ん!!」 
「あ、あのっ、私でよかったら・・・」 
「おキヌちゃん?」 
「・・・・・・」 
「・・・・・駄目ですか?」 
「う〜〜〜〜ん・・・・」 
百合子の目が美神に流れ、美神と目が会う。  
「な、何・・・?」 
「・・・・・ふっ。」 
涙を静かに流して苦悩する百合子に、美神は拳を握り締めた。 
「な、何か失礼ね・・・・!」 
「ま、このさい誰でもいいんですけど、忠夫のことをある程度わかってる方でないとね。 ほら、起きなさい忠夫。」 
「んあ・・・・?」 
「あんたの恋人役なんだから、あんたが決めなさい!」 
「え〜っとお・・・じゃあ・・・・・」 
横島の指が3人をぐるぐるさ迷う。 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「む、無言の圧力が・・・ああやめて〜! そんな目で僕を見ないで〜〜!!」 
かちゃ 
「ただいま―。」 
「タ、タマモ! よし、タマモで行こう!」 
「・・・何が?」 
「そ、そんな先生!!」 
「そんなあ・・・」 
「・・・ま、いんじゃない?」 
「だから何が?」 
「初めまして、タマモさん?」 
「あんた誰?」 
「私は忠夫の母の横島百合子よ、よろしくね。」 
「母親・・・・・横島、あんたに肉親がいたの?」 
「失敬な。」 
「で、何の騒ぎ?」 
「あなたは今から忠夫の恋人よ。」 
「は?」 
「納得いかんでござる!! 拙者と言う者がありながらなんで狐が〜!!」 
「状況がわからないんだけど。」 
「実はだなあ・・・」 

「つまり、アタシに横島の恋人になって見合いを壊せと・・・?」 
「恋人じゃなくて恋人役でござる!」 
「タ、タマモちゃん断ってもいいのよ? 無理にやる必要ないし・・・」 
「そうそう、めんどくさいかもよ?」 
「面白そうね。」 
「え?」 
「では、引き受けてくれるのかしら?」 
「もちろんよ、お母さん。」 
「タ、タマモ・・・?」 
「すっかりなりきってる・・・・」 
「では美神さん、タマモさんをお借りすることでいいかしら?」 
「え? ええ、まあ。 本人がいいみたいですから・・・」 
「じゃあタマモさん、後日改めてお願いしますね。 忠夫、私はいろいろやることあるからしばらく会社に戻るけど、タマモさんと仲良くね?」 
「お、おう。」 
「では皆さん、失礼いたします。」 
ぱたん 
「せ〜ん〜せ〜!!?」 
「な、何だよ・・・?」 
「何で拙者を選んでくれなかったでござるか!?」 
「しょ―がねえだろあの場合!」 
「横島さん・・・」 
「そ、そんな顔しないでよおキヌちゃん・・・」 
「知りません!」 
ばたんっ 
「ああああ待っておキヌちゃん!」 
「横島君?」 
「なっ、なんすか美神さん!?」 
「見合いが終わるまで給料カットね。」 
「そ、そんな―――!!?」 
「先生っ!!」 
「な、何だシロ・・・?」 
「拙者も見合いが破局にならなかったらもう一緒に散歩に行ってあげないでござる!!」 
「あ、それ助かる。」 
「なぜでござるか―――!!?」 
「くっくっくっ。」 
ぎろっ 
「タ〜マ〜モ〜!!」 
「何よ?」 
「今からお前を殺れば、まだ間に合うでござる――――!!」 
飛び掛るシロに、タマモは腰から取り出したCR−117を突きつける。 どきゅうん! 
「うわはっ!?」 
銃弾がシロの髪をかすめ、壁に穴を開けた。 
「と、飛び道具とは卑怯な―!」 
「何で?」 
「タマモ―、壁の修理代だって安かないんだから。」 
「今のはシロのせいでしょ。」 
「じゃあシロ、あんたの小遣いから引いとくから。」 
「がが――――ん!」 
「横島君、いいからもう今日は帰んなさい。」 
「へ〜い。」 
ぱたん 
「くぬ〜〜〜・・・!!」 
「まだやる?」 
「シロ、諦めなさい。 往生際が悪いわよ?」 
「わお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」 

次の日 

「なあタマモ、ちょっと付き合ってくんねえか?」 
「ふわあああっ・・・・・いいけど?」 
「どうした、眠そうだな?」 
「寝ると馬鹿犬が襲ってくんのよ、あんまり寝てない・・・」  
「大丈夫か?」 
「何とか行ける。」 
「ど、どこ行くでござるかっ!?」 
「あ―、うん、ちょっとな。 いいっすか、美神さん?」 
「ま、今日はもう出かける予定もないし。 で、どこにデート行くのかしら?」 
「デートでござるとおっ!?」 
「そうなんですか横島さん・・・・?」 
「やめてくださいよ3人とも、ちょっとタマモに話があるだけっすよ! 今日は、その・・・」 
「・・・・ふ〜ん、わかった。 行ってきなさい。」 
「・・・・行ってらっしゃい。」 
「な、何でござる? 今日は何かあるのでござるか・・・?」 
「じゃ、じゃあ行ってきます。 ほれタマモ。」 
「眠い・・・」 
ぱたん 
「今日は何かの記念日でござるのか?」 
「1周期よ、あの子の・・・」 
「あれから1年ですものね・・・」 
「あの子?」 
「横島君の恋人よ。」 

東京タワーの上 

「・・・・・」 
「どうだ、いい眺めだろ?」 
「そう?」 
オレンジ色の眩しい光に、タマモは目を細める。 
「見せたいものってこれ?」 
「まあ、な。」 
「あんたもずいぶんセンチメンタルね。」 
「はははっ。」 
横島は腰を下ろし、タマモにも座るよう即した。 
「なあ、俺の話・・・・聞いてくれるか?」 
「つまんなかったら寝るわよ?」 
「いいよ。」 

「―――――そんなことがあったでござるか・・・」 
「まあね・・・・横島君のおかげで皆無事だったけど、横島君の戦っていた目的は果たせなかったわ・・・」 
「拙者はあの時、先生の傍にいられなかったんでござるな・・・」 
「シロちゃん・・・・あれは、誰にもどうしようもなかったのよ。」 
「あんたもつらいでしょうけど、その場で何も出来なかった私達はもっと口惜しいのよ。 だから、変な思い込みは止めなさいよ?」 
「・・・・わかってるでござる・・・」 

「・・・・ま、だいたいそんなところだ。 お前の生まれる少し前の話だからな。」 
「・・・・・」 
「タマモ・・・?」 
「・・・・くか―――っ・・・」 
「・・・・あっはははははっ、ほんとに寝てるよ。」 
横島は立ち上がって夕日に向かって伸びをした。 
「ふ――っ・・・・どうだ、ルシオラ? こいつならいいんじゃないか?」 
ポケットから光る物を取り出す。 
『そうね、この人なら・・・』 
「起こすか?」 
『お願い。』 
横島はタマモの肩を揺すった。 
「タマモ、タマモ起きろ。」 
「ん・・・?」 
「もう話は終わったぞ。」 
「ん――・・・いい話だったわ。」 
「嘘付け、聞いてなかったくせに。」 
「アタシはその悪い魔法使いがかわいそうだと思う。」 
「なんの話だよ、マジで寝てたな?」 
「帰るの?」 
「その前にこいつの頼みを聞いてやってくんないか?」 
「・・・・?」 
目をこすって立ち上がるタマモの目に、1人の女性の姿が映った。 
『初めまして、タマモさん。』 
「はい初めまして。 あんたは?」 
『私はルシオラ。』 
「・・・どっかで聞いたような?」 
「こいつは・・・」 
『うふふっ、いいわよヨコシマ。 ねえタマモさん、私のお願い、聞いてくれないかな?』 
「何?」 
『ヨコシマの、この人の子どもの友達になってあげてほしいの。』 
「・・・・はあ?」 
『駄目かしら?』 
「目的がわかんない。」 
『言葉通りの意味よ。 別に無理に好きになってくれる必要もないわ。 ただ、あなたはあなたとして、その子に接してあげてくれればいいの。 仲良くなってくれれば、もっと嬉しいけど。』 
「・・・・つまり好きなように接しろと?」 
『ええ。』 
「だったら別に頼まなくったってそうするわよ。」 
『ほんと!?』
「う、うん。」 
『ほんとにほんとね!?』 
「ほんとにほんとよ。」 
『ありがとう!』 
「・・・・どういたしまして。」 
透けるようなルシオラの笑顔に、タマモはつられて頬を緩めた。 
『さてっと、これで本当に思い残すことはないわ。』 
「よかったな、ルシオラ。」 
『うん。 タマモさんなら、私のことに囚われず、自然に接してくれるわ。』 
「お前もほんと心配性だよ。」 
『だって、嫌なんだもん。 あなたの子が、「私の生まれ変わりだ」っていうふうに見られて生きるなんて。』 
「まあ、俺だってな。」 
『ちゃんと育てるのよ?』 
「わかってる。 ったく、1年かけて増幅させた意識もこれで終わりか。」 
『最初に言ったでしょ? 友達を探したいって。』 
「そうだけどさ、デートくらいしたかったぜ?」 
『贅沢言わないの。』 
「へ―へ―。」 
透けている幽体が、白く光って消え始める。 
『じゃあ、そろそろいかなきゃ。』 
「ああ。」 
『確率は天文学的だから、期待しちゃ駄目よ?』 
「どっちでもいいさ。 俺の子は俺の子さ。 お前はいつか、必ず捕まえる。」 
『出来るかしら?』 
「俺の煩悩パワーを信じなさい!」 
『ふふっ、期待しないで待ってる。』 
「おうよ!」 
『タマモさん。』 
「・・・・・・あっ・・・・タマモでいいわよ。」 
「また寝とったんかい?」 
『じゃあ、タマモ。 約束、お願いね?』 
「はいはい、わかったわよ。」 
『ヨコシマ、ちょっと。』 
「何?」 
ルシオラは横島にそっと耳打ちする。 
『私、彼女がお母さんでもいいわよ?』 
「はっ、あいつはそんな気ねえよ。」 
『ふふっ、そううかしら? ま、いっか。』 
ルシオラはゆっくりオレンジ色に染まる空に上った。 
『じゃあね―――っ!』 
手を元気よく振るルシオラに、横島も手を振る。 
『ヨコシマ―――――ッ! 大好きよ―――――っ!!!』 
「俺もだ――――っ! またなルシオラ―――――!!」 
ルシオラの姿も消え、横島の手にしていた霊体も消えた。 
「よっしゃあっ、帰るかタマモ。 うどんでもおごるぜ?」 
振り返った横島は、鉄柱に寄りかかって寝ているタマモを見つける。 
「く―――・・・・」 
「こいつ、本気でどうでもいいと思ってんな・・・?」 
苦笑する横島は、タマモの寝顔をやさしく撫でた。 

「ただいま――。」 
「うぉおおおおおおおんっ、先生―――っ!!」 
どかっ 
「馬鹿危ねえな! タマモ落しちまうだろ!?」 
寝ているタマモをおぶっている横島にシロはしがみついた。 
「拙者が、拙者が先生の支えになるでござる―――!! だから悲しまないで欲しいでござる―――!! うわああああああああんっ!!」 
「・・・しゃべりましたね、美神さん。」 
「しょうがないでしょ、いずればれるでしょうし。」 
「横島さん、大丈夫ですか?」 
「はあ〜〜〜・・・」 
(ルシオラ、お前はこれを嫌ったんだよな・・・・でも、しょうがないよな。 皆心配してくれてるんだし。 それに・・・) 
横島は背中のタマモを見てふっと笑った。 
「ううう〜、この狐! 先生から離れるでござるよ――!」 
「馬鹿止めろって!」 
「な、何でかばうでござるか!?」 
「うるっさいな、タマモは大事な奴なんだよ!」 
「なっ・・・!」 
「大事な奴・・・!?」 
「でござると・・・・!?」 
「あっ、いや、大事な・・・・友達。 ね!?」 
「ずいぶん仲良しね〜?」 
「いちゃつくならよそでやってもらえます?」 
「ところで、タマモが寝ているのはなぜでござる?」 
「ちょっ、3人とも! 俺は、別にやましい事は何も・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「お、俺帰ります!!」 
どかっ ドアを蹴り飛ばした横島は階段に走った。 
「人工幽霊1号! 全ドアと窓ロック! 逃がすんじゃないわよ!?」 
『了解です。』 
「行くわよ2人とも!?」 
「はい!」 
「了解でござる!」 

がちゃがちゃっ  
「あ、開かない!? 人工幽霊1号、開けてくれよ!?」 
『すいません横島さん。』 
「タ、タマモ起きろ! お前が説明せんと誰も信じてくれん!」 
「くか―――・・・」 
「起きんか―――!?」 
『ところで、もう追いつかれますよ?』 
「げっ!?」 
振り返るとそこには武装した3人がいた。 
「よ〜こ〜し〜ま〜!?」 
「見つけましたよ〜?」 
「逃がさんでござるよ〜〜!?」 
「ま、待て! 話せばわか・・」 
「死ね―――!!」 
「ひ――――――――――――っ!!!」 

2日後  と、あるホテルのレストラン 

「いい忠夫? ちゃんと丁寧にお断りするのよ?」 
「わかってるって、さっさと帰れよ。」 
「口説くんじゃないわよ?」 
「しつこいな―、仕事に戻れ!」 
「まったく・・・じゃあタマモさん、息子のことお願いしますね?」 
「はい、お母さん。」 
百合子がレストランを出て行くと、2人はは〜っと息をついた。 
「あんたの母親も大変ね。」 
「ま、ずっとナルニアにいるつもりもないんだろうしな。」 
「どこか知らないけど・・・」 
「ようおし、いよいよ美女とのご対面だ!」 
「じゃ、アタシ行くから。」 
「へ・・・?」 
「頑張れ。」 
「お、おい何だよ。 お前は・・・え・・・・どゆこと・・・?」 
「だから、邪魔しないから口説けばいいじゃん。」 
「い・・・いいの?」 
「いいんじゃない?」 
「でも、お前・・・・」 
「う〜ん、最初はからかうつもりで引き受けたけど、何か面倒な気がしてきたから。」 
「すっげ―理由だな・・・じゃ、じゃあお言葉に甘えて・・・」 
「そいじゃ―ね―。」 
ハンドバックをくるくる回して出て行くタマモを、横島はネクタイを締め直して見送った。 

その夜 

「タマモさん、本当にありがとうね!」 
「は、はあ・・・」 
百合子はタマモの手を握ってぶんぶん振った。 
「ジェムさん、見合いは別として家の会社と協力していこうって言ってくれたの! もう、私達にとってはいい事尽くしの結果になったわ!」 
「・・・よかったですね。」 
「ええ! このお礼は改めて、必ずさせてもらうわ!」 
「はあ・・・」 
「お袋、タクシー来たぞ?」 
「わかったわ、それじゃあね、タマモさん。 皆さんも、本当にお騒がせいたしました。」 
「じゃあ美神さん、俺見送って来ますから。」 
「ん、行っといで。」 
頭を下げた百合子は、横島と事務所から出て行った。 
「・・・・ま、これで一件落着ね。」 
「そうですね。」 
「拙者どっと疲れたでござる・・・」 
「タマモ、いったい何したのよ?」 
「何にもしてないわよ。」 
「本当? タマモちゃん。」 
「うん。」 
「先生とべたべたしたりしてないでござろうな?」 
「あんたと一緒にしないでよ。」 
「ジェムさんって、どんな人だったの? やっぱり、綺麗な方だった?」 
「さあ・・・?」 
「さあって、あんた会ったんでしょ?」 
「会ってない。」 
「え?」 
「どういうことでござる・・・?」 
「アタシもう寝る―・・・」 
「ちょ、ちょっと待ちなさいタマモ!」 
「ちゃんと説明して!」 
「洗いざらいはくでござる――!」 
「ぐ――――・・・」 
「寝るな――――っ!!」

そのまた次の日の朝 

「ふわ〜〜・・・」 
「おはよ。」 
「お、タマモじゃねえか。」 
登校中の横島を、タマモが塀の上から声をかけた。 
「よっと。」 
塀から飛び降り、横島とタマモは並んで歩いた。 
「振られたんだ?」 
「うるせえな〜。」 
「せっかくお膳立てしてあげたのに。」 
「そりゃすまんかったな。」 
「ま、いきなり飛び掛ったら誰でも怒るわよ。」 
「お前・・・・見てたな?」 
「そこまではね。」 
「こいつは・・・」 
「その後にどうやってまとめたかまでは知らないけど。」 
「はあ? 別に・・・話して飯食っただけさ。」 
「何だ、つまんない。」 
「ほっとけ。」 
「ふはははははっ。」 
「そういや―、愛子がお前のことずいぶん気に入ってたぞ?」 
「は? ああ、この間行ったときか。」 
「何かしたな?」 
「別に―。」 
「何だよ? じゃあ、お前も学校行くか?」 
「う―ん、ま、行ってあげるか。」 
「じゃあ急ごうぜ、授業が始っちまう。」 
「なんならつぶしてあげるわよ?」 
「おっ、いいね〜。 先生とか化かしてくれよ?」 
「その代わり高いわよ?」 
「何だよただでやってくれよ。」 
「い〜や。」 
塀に飛び乗って走りだすタマモに、横島も笑って走りだした。 

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【次回予告】 
タマモ「ねえ、妖怪と人間が、共存できると思う・・・?」 
横島 「お前が今しているのが、共存って言うんじゃないのか?」 
タマモ「じゃあさ、人間を食べることしか出来ない奴らはどう?」 
横島 「でもよお、ピート達だって人間の血を吸わなくても生きてけるじゃねえか。」 
タマモ「人間は何も妥協しないの?」 
横島 「しょうがねえだろ? 人間の方がずっと多いんだし。」 
タマモ「多い方が優先なの? 弱っちいのに?」 
横島 「んなら、話せばなんとかなるんじゃねえか?」 
タマモ「話すねえ・・・」 
横島 「人間にもいろんな奴がいるってわかってもらえれば、共存できるさ。」 
タマモ「それが人間の傲慢じゃないかな?」 
横島 「そうか?」 
タマモ「妖怪だって、いろいろいるのよ。」 
横島 「知ってるさ、タマモみたいな奴とかな。」 
タマモ「そう言うんじゃないんだな―・・・」 
横島 「?」 
タマモ「次回、『回る剣の切っ先』」 
横島 「あいつ・・・・GSを狙ってるのか!?」 
タマモ「アタシは、人間を助ける気なんてないわ。」 


【後書き】 
GS美神のssを書く上で、何と言いましょうか避けて通れないものの1つとして、ルシオラ嬢のことがあると思います。 いえ、十分避けて通れるのですが・・・・・ 数多くの作品で、ルシオラ嬢は涙涙で語られており、私としてはそれがもうかわいそうでなりませんでした。 横島君にいたっては、こちらも涙涙をそれはもうエンドレスに繰り返し、誰か(その作品においてのヒロイン格)に慰めてもらうか、果ては過去に行ってやり直すなんてこともしてしまいます。 私的に1番いいかなあと思うのが、もうずっと先の未来で2人の生まれ変わりが幸せになるという形ですが、それでは今の横島君が何にもなってないですよね。 ルシオラ嬢が生きてるという設定は、本編に逆らってるので除外です。 そんなわけでかねてより書きたかったルシオラ嬢の登場となりました。 無闇やたらと泣かせるのはかわいそうですよ。 この作品中、2人は笑顔でさよならと告げます。 遠い未来でいつか会おうと。 アシュタロスをやっつけるのと未来で会うのとどっちが難しいかって考えると、きっとこの2人はまた会えると信じて別れられると私は思います。 だから、笑顔でさよならできると思います。 もしあなたがこの作品中の2人の別れを「涙を流して悲しく別れた」と思ったのなら、それは私の力不足か、もしくはあなたの頭にルシオラ=涙とインプットされてしまっているかのどちらかです。 後者でしたら、それは偏見です。 ルシオラは、笑って別れられると信じてみてください。 

作品について少し補足いたしますと、横島君は残されたルシオラ嬢の霊体破片にルシオラ嬢の意識を集め(自分の体内から)、1年かけて増幅させます。 そうすることで、声だけならいくらか話が出来るようになりました。 しかし所詮は残りかすの凝縮なので、いつかは消えてしまいます。 そこでルシオラ嬢は横島君に頼みごとをします。 「あなたの子が、私として目に映ることなく接してくれる人が欲しい」、と。 たとえ横島君の子に生まれ変わったとしても、それはもう新しい人生を持った新たな「子」であり、前世という色眼鏡を押し付けられるのを嫌ったルシオラ嬢は、せめて過去に囚われずに接してくれる誰かを求めます。 もし自分の転生でないならなおさらかわいそうですから。 そこで横島君はタマモ嬢に目をつけます。(変な言いかたですね・・・・ちなみにルシオラ嬢と話が出来ることは皆には内緒。 このあたりもルシオラ嬢の願いであり、横島君も同意。)  タマモ嬢にとって、横島君の過去の恋人のうんちくかんちくなどはどうでもいい事であり、だから何だという考えを持っているので、横島君はタマモ嬢にルシオラを会わせます。(
本来なら美神さんあたりもそういう性格なのでしょうが、ルシオラ嬢自身とそれなりに関わり、それなりに横島君に恋心を抱いているかもしれない美神さんでは、ちょっと無理があります・・・) 命日の、記憶に強く印象に残っている場所で、横島君はルシオラ嬢の意識体を最大限に増幅させ、ルシオラ嬢の姿を復元します。 そしてタマモ嬢と約束を交わしたルシオラ嬢は、横島君とまた会おうと約束し、笑顔で消えていきます。 

       ・・・・・・・・・これじゃあ駄目ですか? 

今回の話は一応、笑う話ですよ? そういう話だと思って読んでください。 ルシオラ嬢は、ある意味脇役で、ついでです。 だから、笑って読んでくれたら嬉しいです。 なんとなく話が私の前作の「ひかりシリーズ」につながってるような気もしますが、その辺は気のせいです。 では。 

         ルシオラ嬢が笑顔であれますよう、願いをこめて。  by 狐の尾 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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