「ぜ―――っ、ぜ―――っ・・・」
「コン!」
「う、うるさい・・・そんなに言うなら自分で歩くでござる!」
「コン!」
「ぐっ・・・だ、駄目でござるっ! 横島先生に乗っかるなんて拙者がゆるさん!」
「くわ〜〜〜〜〜・・・」
「ぐぬぬ・・・こ、これも修行、我慢我慢でござる・・・」
「お―いシロ―、早くしねえと日が暮れるぞ―。」
小さなリュックを背負った横島が前で立ち止まって振り返っている。
「せ、先生―ちょっと待ってくだされ――!」
巨大なリュックを背負っているシロは、リュックを背負い直すと早足に歩き出した。 金色の長く豊かな尻尾を振りながら、狐のタマモは揺れるリュックの上であくびをした。
きつねレポート
道場破りのススメ
「こ、これが妙神山修行場でござるか・・・」
「まあな、俺と美神さんが稽古をつけてもらったところだ。」
「ほわ〜〜〜〜・・・」
「よっし、じゃ行くか。」
歩く横島は鬼門に軽く手を挙げる。
「よおお前ら、久しぶり。」
『おお、久しぶりじゃのう横島。』
『何だお主、また修行に来たのか?』
「俺じゃねえよ、このシロってのがやるんだ。」
「は、初めましてでござる!」
「というわけだから入れてくんないか?」
『何を言うか、ちゃんと決まりどおりに我らと戦ってもらうぞ?』
『では行くぞっ!』
鬼門の両側に立っている首なしの大きな像が動き出す。
「だとさ、じゃあシロ頑張れよ―。」
「せ、拙者1人ででござるかっ!?」
『おりゃ―っ!』
どかあんっ
「わ―――っ!?」
横島はリュックを脇に避けると腰を下ろす。
「は―っ、やれやれよっこいしょ。」
しゅぼっ タマモが人型になる。
「あ―あ、何か乗り物に酔った気分・・・」
「あんなでかい揺れるリュックに乗ってりゃ、まあそうなるだろうな。」
タマモはリュックから水筒を取り出し、横島の隣に座った。
『ほらほらどうしたっ!? そんなことではここでの修行を認めるわけにはいかんなあ!?』
「ぐおのれええええっ!!」
飛び上がったシロが霊波刀を叩き付ける。 かきん
「あら?」
げしっ
「わ――っ!?」
裏拳でシロは吹っ飛ばされた。
「シロ―、適当に早く終わらせろ―。」
「野宿は嫌よ―?」
「だったら手伝って欲しいでござるっ!」
「何言ってんだお前の修行だろうが?」
「横島お弁当食べていい?」
「そうだな、長引きそうだし飯にすっか。 シロ―、先に食ってるから。」
「そ、そんな―!」
『よそ見をするな――っ!!』
『わはは――っ、パワーアップした我らの力、今こそ思い知れ――っ!!』
「ひ―――っ!」
ずこおおおおん・・・
3時間後
「かっ、勝った・・・・勝ったでござる―――!!」
『ぐふう・・・み、見事じゃ・・・』
『み、右ノ・・・・我らも立派に役目を果たせたのう・・・』
『うむ、もう思い残すことはない・・・』
「先生! 見ててくれ・・・!?」
「ぐお〜〜〜すぴ〜〜〜〜・・・」
「・・・く――・・・・・」
「何で2人して寝てるでござるか―――っ!!?」
シロは横島に跳びかかった。
「先生起きるでござる―――っ!!」
がくがくがくっ!
「・・・・・ん・・・?」
「目覚めの散歩っ!」
「はっ!? 怪しい気配!?」
どばきっ
「はぐあっ・・・!」
「・・・って、何だシロか。 終わったんか?」
「うううう・・・先生そんなに散歩が嫌でござるか・・・?」
「うわっ、お前3時間もかかったのか!?」
「拙者頑張ったでござるよ! 誉めてくだされっ!」
「アホか――っ! 時間のかかり過ぎじゃ!」
「ええ〜〜〜!」
「何で美神さんの言ったとおり門の顔狙わないんだよ?」
『なっ・・・』
『何いっ!?』
「拙者そんな卑怯なことはできんでござる。」
『おおおおっ! 今どき何と珍しく真っ直ぐな奴よ!』
『我らはこういう奴を待っていたんだ――! なのに近頃は可愛げのないGSばかり、時間のかかり過ぎなどかまわんっ! さあ、入るのだ―――!!』
ぎぎぎ――・・・
「先生! 拙者認められたでござるよ!?」
「こいつら苦労してんだな―・・・・タマモ、行くぞ。」
「ん―・・・」
「ヨコシマ―――っ!」
「よお。」
パピリオは横島に跳びついた。
「久しぶりでちゅね!」
「元気にしてたか?」
「見ての通りでちゅ!」
「こ、こら何だお前はっ!? 先生から離れるでござるよ!」
「何するでちゅかっ!?」
「止めろってシロ、話したろ? こいつがパピリオだ。」
「え、じゃあ妹・・・?」
「ヨコシマ、何でちゅかこのしつけのなってない犬は?」
ぶちっ
「無礼者――っ!! 切り捨ててくれる――!!」
「こらシロ! お座り!」
「だって先生・・・!」
「や―め―ろ。」
「むう〜〜〜〜・・・」
「べ―だ。」
「きい〜〜〜〜〜〜〜!!」
「変な奴でちゅね・・・・何でちゅかこいつは?」
「俺の弟子で、人狼のシロだ。 今日はこいつが修行しに来たんだ。」
「人狼・・・?」
「犬になるんだ。」
「狼でござる!」
「ほれ。」
横島はシロから精霊石を取り上げた。 ぼふっ
「わっわわん!?」
「―――――!」
「あら横島さん、いらっしゃい。 お久しぶりですね。」
「あ、小竜姫様、こんちは―。 ん、どしたパピリオ?」
「お、おっもしろ―――いっ! パピリオ、こいつ気に入ったでちゅ!」
「わう?」
「小竜姫、こいつ飼っていい?」
「また? しつけはちゃんとするのよ?」
「うん! よし、今日からお前の名前はプチでちゅっ!!」
がちゃ 首輪がはめられた。
「わうわう!?」
「お、おい・・・?」
「修行にいらしたんですよね? さ、こちらにどうぞ。」
「は、はあ・・・」
「トイレは決まった場所でするでちゅよ――プチ? 守らないと、安楽死でちゅ!」
「ぎゃわわ――――んっ!!」
ずるずる
「ところで横島さん、そちらの方は?」
「ああ、タマモです。 今日は・・」
「ああっ! じゃあ今日修行にいらしたのはあなたですね?」
「いやあの・・」
「ねえ、ここに猿がいるって聞いたんだけど?」
「? 老子のことかしら?」
「会わせてくれない?」
「え? でもあなたは初めてここに来たわけですし、修行なら私で十分・・」
「あんたなんかに用はないの。」
カチン
「・・・老子は今ここにはいませ・・」
「猿じじいなら最難関の修行を受ければ会えまちゅよ?」
「わんわんわんわん!」
「うるさいでちゅよプチ!」
どかっ
「ぎゃい〜ん!」
「・・・・・じゃあ、それやれば猿に会わせてもらえるわね?」
「駄目です。」
「・・・・・?」
「あなたはまず別の修行を受けてもらいます。」
「は・・・・?」
「いいですね横島さん?」
「あの〜小竜姫様? タマモは・・」
「勘違いしてるみたいだけど、アタシはあんたなんかに教わることなんて何もないわ。」
「なっ・・・!? じゃあ何しにここに来たんですか!?」
「だから、猿に会いに来たんだってば。」
「どういうことです横島さんっ!!?」
「修行に来たのはこっちです。」
横島は鎖に繋がってる白い犬に精霊石を返した。 ぼふっ
「は、初めまして小竜姫様! 拙者犬塚シロと申します! 今日は修行を受けさせてもらいに来たでござる!」
「あ・・・・そ、そうなんですか・・・?」
「やれやれ・・・」
ぶちっ
「私に無礼な事を言うと・・・・・仏罰が下りますので注意してくださいね!?」
おどけて両手を挙げてため息をつくタマモに、小竜姫は剣を抜き放った。 すかっ
「え・・・!?」
切り裂かれたタマモが消える。
「幻術・・・!?」
「あんた、いいかげんその首輪外したら?」
「取れないんでござるよ―っ!」
小竜姫の後でシロの首を突付いてるタマモがいた。
「そんなっ・・・・私がわからなかったなんて・・・・!」
「すっ・・・」
「どうしたパピリオ?」
「すごいすご―――いっ! ルシオラちゃん見たいでちゅっ!!」
「? ルシオラって誰だっけ・・・?」
「あのっ、名前は何て言うでちゅか?」
「タマモ。」
「じゃあ、タマモちゃんって呼んでいい?」
「いいけど。」
「じゃあ行くでちゅタマモちゃん、私が案内するでちゅよ!」
「そう? 助かるわ。」
「こ、こらパピリオ! そんな勝手に・・・!」
「さあお前も来るでちゅプチ!」
パピリオは鎖を引っ張った。
「ぐわっ、この扱いの差は何でござるか――っ!?」
「ヨコシマ――っ、行きまちゅよ―?」
「おう。」
すたすたすた・・・
「な、何で皆私を無視するのですか・・・? 私管理人なのに・・・」
「こほんっ! では、これよりウルトラスペシャルデンジャラス&ハードコースに入る前のテストを行います。」
「はいはい。」
胴衣に着替えた面々は、荒野の広がる修行場にいた。
「タマモちゃん頑張れ〜!」
「タマモ〜、本気でそんなのやる気でござるか・・・?」
「しょうがないじゃない、ケチな神さんがただじゃ会わせてくんないんだから。」
「・・・聞こえてますよ!?」
「聞こえるように言ったんだけどね。」
「ぐがが・・・っ!!」
「けけけ。」
「タマモ―、あんまり神様をからかうもんじゃねえよ。」
「はいはいわかったわよ。」
「ぐぐぐぐ・・・・・が、我慢我慢・・・・・では、これよりこの2鬼と戦ってもらいます。 ゴーレム! カトラス!」
「ぐおおおおんっ・・・!」
「くきゃ――っ・・・!」
「制限時間は30秒!」
「なっ・・・!? 小竜姫様何か短くなってません!?」
「あ〜ら気のせいですよ? ほほほっ。」
「嫌がらせでちゅね、大人気ない。」
「準備はいいですね? よくなくても始めますよ?」
「ひで―・・・」
「いつでもど―ぞ。」
「始めっ!!」
「ふっ!」
一足飛びでゴーレムに突っ込んだタマモは、繰り出される拳をかいくぐってゴーレムのまたの下を潜り抜けると、長い後の髪を2本引き抜いて念を込める。 金色の髪がまっすぐに伸び、光る槍になる。
「ちっ!」
投げつけられた槍が、振り向く間もないゴーレムの膝関節を後から貫いた。 ばかっ!
「ごああっ・・・!」
関節から足を砕かれ倒れこむゴーレムを飛び越え、カトラスが鎌を振りかざして突っ込んできた。
「くわあああっ!!」
「念っ!」
両手で大きな炎を作り出したタマモはカトラスにそれを投げつけた。 ぼかんっ
「くわおおお・・・・ !?」
炎を突き破ったカトラスの顔にタマモは跳びつき、口の中にCR−117を突っ込んだ。
「はいごめん。」
どんどんっ!
「がっ・・・!」
銃弾はカトラスを貫通して突き抜けた。 ずずんっ・・・
「ふうっ・・・終わったけど、何秒?」
「ご、5.3秒・・・です・・・・」
「す、すげ―・・・」
「タマモ! 銃を使うなんてずるいでござるよっ!」
「何でよ?」
「タマモちゃ――んっ!」
パピリオはタマモに跳びつく。
「すごいでちゅ! かっこよかったでちゅよ!」
「ありがと。」
タマモは小竜姫ににっと笑ってみせる。
「約束は、守ってもらうわよ?」
「むむむ・・・・しかたありません。 パピリオ、案内してあげなさい。」
「行くでちゅタマモちゃん!」
「さて、ではシロちゃん。 あなたの修行を始めますよ?」
「よろしくお願いするでござる!」
「美神さんの手紙にあるように、あなたには美神さんがやったのと同じ修行をやってもらいます。」
「あの〜拙者もタマモと同じのがやりたいでござるが・・・」
「駄目です。」
「タマモのほうがいい修行するなんてずるいでござるっ!」
「・・・・死にたいですか?」
「ひいっ! な、何でもないでござる!」
「シロ、おとなしく言うこと聞いとけ。 小竜姫様管理人として扱われてないことにいらついてるみたいだから。」
「私の言うことが聞けないって言うんですかっ!!?」
「わ、わかりました! で、どうすればいいでござるか!?」
「よろしい。 まずはその魔法陣の上に立ってください。」
「変な柄でござるな・・・」
「そこに立てば、あなたのシャドウが・・・・・・あれ?」
「???」
「あれ? おかしいな・・・」
「あ、ここに銃弾がめり込んでるでござる。」
「こ、壊された・・・・・あんの狐め〜〜〜〜!!」
「まあまあ小竜姫様。」
「横島さん何なんですかあの人はっ!?」
「ただの狐ですって。」
ぶぶんっ
「―――ここがそうなの?」
「そうでちゅよ。 老子が作り出してる空間でちゅ。 実際の世界では1秒と経たずに戻れまちゅからのんびりしてくだちゃい。」
廊下を歩いていく2人は、渡りを通って部屋に入った。
「猿―、老子―、お客さんでちゅよ―。」
「うき?」
「・・・・・」
「ききっ、き――っ!」
「・・・何?」
「ゲームの相手をしろと言ってるみたいでちゅね。」
「ひょっとして、こいつしゃべれない?」
「この空間内じゃ無理でちゅね。」
「・・・・・」
「ういっき―――!」
「・・・・・」
「――――というわけで、シロちゃん。 シャドウが使えないので生身でやってもらいます。」
「了解でござる。」
「まずはこいつが相手です、ゴーレム!」
「ぐおおおおん・・・」
「ようし、タマモに出来て、拙者に出来んはずはない! いくでござるよ!?」
「始めっ!」
「おりゃあああっ!」
霊波刀を振りかざしてシロは跳びあがった。
「だあっ!」
がきっ
「なっ!? 硬い・・・!?」
「ぐおおおおっ!」
ゴーレムは腕をぶんぶん振り回し、シロはぴょんぴょん逃げ回った。
「むう、霊波刀では無理でござるか・・・」
「シロ!」
「先生!?」
「俺が教えた『あれ』をやるんだ!」
「なっ、しかし・・・!」
「眼を攻撃するのがせこくて嫌なんだろ!? だったらやってみろ!」
「わかったでござる!」
シロは着地してゴーレムに向き直った。
「横島さん、『あれ』とは何ですか?」
「ふふふ、俺の得意技、ですかな?」
「そうですか、楽しみですね。」
ゴーレムはシロに突進して来た。
「ごああああああっ!!」
「うおおおおおっ・・・・・・・・戦術的撤退――――!!」
どどどどど・・・・・ シロは180度反転して走り去った。
「なっ・・・何ですかあれは!?」
「俺の得意技です。」
「ごああああっ!!」
地平線の彼方に消えていくシロを追って、ゴーレムもまた見えなくなった。
ぴこぴこっ ちゅどばき〜ん
「ふふふっ、まだまだでちゅねタマモちゃん!?」
「なんのっ! これでどうよ!?」
どかばきっ てろりら〜ん
「ああっしまったでちゅ!」
「き―き―っ!」
テレビの前でゲームを占領しているタマモとパピリオを、老子が後から揺すった。
「うるさい猿でちゅね、あっち行くでちゅ!」
どばきっ
「うきゃ―!?」
ごろごろどか―ん
「猿! そろそろお昼の用意をするでちゅ!」
「うきゃ―うきゃ―!!」
「まったく気の利かない猿で恥ずかしいでちゅ。」
「ま、アタシとしても話せないんなら用はないしね。」
「せっかく邪魔な小竜姫がいないんでちゅから思いっきり遊び倒すでちゅ!!」
「あ、猿―。 アタシお昼はかに玉が食べたい。」
「いいでちゅね〜、ほら猿! 早くするでちゅ!」
「むっき―――!!」
「わはは〜、鬼さんこちらでござる〜。」
「がおおおおんっ!」
ずぼっ ゴーレムの巨体が地面に沈む。
「ぐおっ!?」
「今でござる――!」
ざくざくざくっ・・・!
「ご、ごあっ!?」
霊波刀をスコップ代わりに、シロはゴーレムの落ちた巨大な穴を埋め始めた。 やがて、ゴーレムは地面の下に消えた。
「ふ―、いい汗かいたでござるっ!」
ぺしぺしと埋まった地面を霊波刀で叩く。 横島を運んで飛んできた小竜姫が着地した。
「よくやったぞ、シロ。」
「でへへ―・・・」
「こっ、こんなやり方は・・・」
「まあまあいいじゃないですか小竜姫様。」
「しかしですね・・」
「だいたい正攻法でしか勝っちゃ駄目ってんなら、俺達はGS何かやってらんないでしょう?」
「それはそうですが、ここではそのための力を・・」
「硬いこと言わないで、今日は時間かかりすぎましたし、続きは明日にしましょうよ。」
「まったくもう・・・」
「そう言えばタマモ達遅いでござるな?」
「そ―いや・・・・どうしたんでしょうね?」
「私にも・・・・彼女達は人間じゃありませんし、戻るのは時間がかかるのかもしれませんね。」
「そういうもんですか・・・?」
「さあ・・・・? ではシロちゃん。」
「はい!」
「今からあなたに1つの力を授けます。 いいですか?」
「ぐ〜〜〜〜〜・・・むにゃむにゃ・・・・えへへ〜〜〜・・・タマモちゃ――ん・・・・」
「お疲れさん。」
タマモは暖かい日差しが差し込む縁側で眠ってしまったパピリオに、そっとタオルケットをかけてやった。
「―――っくは〜〜〜・・・」
大きく伸びをする。
「ききっ。」
「ん、何? ゲームならまた後でね。」
「うきっ。」
老子は手にお茶とようかんを載せたお盆を持っていた。
「・・・・・OK。 ご馳走になるわ。」
「ふ〜、ご馳走様。」
「ご馳走様でござる。」
箸を置いた横島とシロはそろって手を合わせた。
「お口に合いましたか?」
「うまかったっすよ。」
「ほんとほんと、タマモ達も食べればいいでござるのに。」
「でも本当に遅いですねえ、もう5時間近く経つのに・・・」
「小竜姫様、ほんとに2人は大丈夫なんすか・・・?」
「あら、やっぱり心配ですか?」
「そりゃ―ま――・・・」
「老子が一緒ですから大丈夫ですよ。 それよりどうです、ゆっくりお風呂に入ってきては?」
「おおっ、いいでござるな! 先生一緒に行くでござる!!」
「えっ!? お2人はそういう仲だったんですか!!?」
「違いますよ〜、シロ、俺はいいから、お前行ってこい。」
「は〜い。 では小竜姫様、一緒にどうでござるか?」
「わかりました、じゃあ行きましょうか。」
「小竜姫様っ! 僕がお背中をお流ししますよっ!?」
「何で小竜姫様となら一緒に入るでござるか―――っ!!?」
「入りませんっ!!」
「あなたの珠の肌を――っ!!」
ばきっ
ずずず――・・・
「ふうっ・・・」
縁側に座ったタマモと老子はお茶をすすっていた。
「おいしいわねこれ。」
「そうじゃろう?」
「何だ、あんたやっぱり話せるんだ。」
「ま、少しぐらいならな。」
横島は庭の見える渡りで月を見上げて座っていた。
「眠れないのですか? 横島さん。」
「小竜姫様・・・・シロは?」
「寝ちゃいました。」
小竜姫が横島の隣に座った。
「シロちゃん、いい子ですね。 あなたの弟子だっていうのも、何となくわかります。」
「ははっ、俺よかずっといいGSになるでしょうから、よろしく頼みますよ。」
「明日には帰れると思いますよ。 あの子は頑張る子ですから。」
「で、俺に何か用ですか? はっ・・・まさか・・・・ついに俺への愛に気付いてくれたんですね〜〜〜〜!!」
「ちょっ、ちょっと!!」
どげしっ
「うごっ・・・!」
「まったくもう!」
「怒んないでくださいよ〜、小竜姫様〜。」
湯飲みを手に、タマモと老子は庭を眺めていた。
「で、話とは何じゃ?」
「あんた長生きなんでしょ?」
ずずず――・・・
「ふう・・・まあのう。」
「アタシの前世・・・・知ってんでしょ・・・?」
「少しはな。」
「そう。」
ずずず―・・・
「それが聞きたくて来たのか?」
「まあね。」
「何が知りたい。」
「いいえ、もういいわ。」
「ほう・・・?」
ずず―・・・
「なぜ心が変わった・・・?」
「この子のおかげ、かな。」
タマモは寝ているパピリオの髪を撫でた。
「もともと、別に知りたいわけじゃないんだ・・・」
「・・・・・」
「ただ、あんたが知ってるかもって美神さんに聞いた時、何となく足が向いただけ。」
「そうか。」
「でも、もう聞かない。」
「わかった。」
ずずず―――・・・
「お主が来てくれたこと、感謝する。」
「・・・は?」
「このパピリオはのう、時々塞ぎ込んでおったのじゃ。」
「ふ―ん。」
「小竜姫も気難しい所があるからのう・・・・・まあ、この子も幼いからなあ・・・」
「アタシより年上だって聞いたけど・・・?」
「お主とは違うんじゃよ。」
「ま、狐だからね。」
「横島が来ると知って、それは楽しみにしておったんじゃ。」
「じゃああいつと遊べばいいでしょうに。」
「だがパピリオはお主に懐いた・・・・違う誰かに心を許せるようになったことで、この子も少し変われるじゃろうて。」
「・・・・そうね。」
「お主もまだ若い・・・・いろいろ経験することじゃな。」
「そりゃど―も。」
「ま、言うまでもないじゃろうがな。」
「ふっ。」
ずずず――・・・
横島と小竜姫は並んで月を見上げていた。
「パピリオは、どうです? どうしてました・・・?」
「毎日文句を言いながら、修行をしてます。」
「元気にやってました・・・?」
「ええ。」
「そうっすか・・・・よかった。」
「成長できるようになったことが、本当に嬉しかったんだと思いますよ。」
「・・・・でしょうね。」
「心配ですか?」
「ここに来たのは、半分はあいつに会うためですからね。 まだろくに話も出来てないのが・・・・何て言うか・・・」
「寂しいですか?」
「ははっ、そうです。」
苦笑する横島に、小竜姫も笑った。
「お兄さんなんですね。」
「ペットですよ、元ね。」
次の日
「先生おはようでござるっ!」
「う〜っす、早いなあ、お前。」
「いい天気でござるよ、散歩に行くでござるっ!」
「嫌じゃ。」
「ええ〜!?」
「こんな険しい山岳ステージ1人で行け!」
「けち―っ!」
ぴこぴこ
「あっはは―――! 修行が足りんでちゅね猿!?」
「むっきゃ――っ!」
「所詮は猿ね。」
「き――!!」
「タマモちゃん今がチャンスでちゅ!」
「OK!」
びこびこっ ちゅど〜ん
「うっきゃ―――っ!!?」
「よっしゃ。」
「やったやった――! さあ猿交代でちゅよ!?」
「きっき――っ!」
「ほらさっさとどくでちゅ!」
べきっ
「きゃきゃっ!?」
「タマモちゃん、今度こそ私の実力を見せてやるでちゅ!」
「ふふん、かかってきなさい!」
横島は誰も座ってない椅子を見つめていた。
「俺も一緒に行きゃ―よかったなあ・・・・・そうすりゃあ、ゆっくり話もできたのになあ・・・・」
はあっとため息をつくと、横島は部屋を出た。
「先生先生っ! 拙者勝ったでござるよ―!」
「おうそうか、よくやったな。」
ひっくり返っているカトラスは岩に押しつぶされていた。
「お見事です、シロちゃん。」
カトラスがすっと消えた。
「では、2つ目の力を授けます。」
「あははは――っ!」
「きっき――っ!!」
「あははははっ!」
穏やかな日差しの差し込む中、3人の笑い声が響いていた。
「えっ!? い、今何と・・・?」
「最後の相手は私がします、と言いました。」
「・・・・・」
シロは腕組みをして考え込んでいたが、すっと顔を上げた。
「小竜姫様、少しの間、先生と2人っきりにしてはもらえませんか?」
「え?」
「シロ・・・!?」
「もし次拙者が負けたら、拙者は霊体も残さずばらばらになってしまうでござろう? その前に先生に話がしておきたいのでござる。」
「・・・・・」
「あんな先生でも、拙者の大事な先生でござるから・・・・」
「あんなとは何だ――!?」
「お願い・・・」
「わかりました。」
ぶぶんっ 小竜姫は空間から出て行った。
「シロ・・・」
「先生・・・先生の唇にキスしてあげたいのでござる。 これが最後かもしれないから・・・」
「シロ・・・・美神さんの真似すんじゃね――っ!!」
べしっ
「ぶはっ!?」
シロの突き出された唇に、横島の投げつけた靴の裏がヒットした。
「むにゃむにゃ〜〜・・・お手・・・・」
「く――・・・・」
「やれやれ、世話の焼ける娘達じゃのう・・・・・ほっといたらいったい何百年遊び倒す気じゃ・・・?」
眠っているパピリオとタマモを見て、老子はどっと座り込んだ。
「・・・・・ということで、よろしいでござるか? 報酬は美神殿の、ということで・・・」
「ふむふむ。」
ぶぶんっ 小竜姫が空間に戻ってきた。
「お話は済みました?」
「うっしゃあっ!!」
「うっしゃあ・・・? 何で横島さんがそんなに気合入ってるんです?」
「あ、いや、何でもないでござるよ。 わははっ。」
「それではシロちゃん、始めましょうか?」
「いいでござるよ。」
「ところで横島さん、この各所に仕込まれている文珠は何ですか?」
「げっ、早くもばれた!?」
「あううう・・・」
「当たり前です! 師弟そろってずるしないでくださいっ!」
「と言うわけだ、シロ。 迷わず成仏しろよ。」
「そ、そんな―っ!」
「では始めます。」
「ちょっ、待って、小竜姫様―――っ!!」
「たりゃ――っ!」
「わ――っ!?」
ぶぶんっ タマモとパピリオは椅子から立ち上がった。
「ふわ――よく遊んだでちゅね。」
「これで1秒なの?」
「う〜んちょっと長居しすぎたみたいでちゅね、1日ほどたってまちゅ。」
「ま、いいけどね。」
「老子がすっかり疲れ切ってまちたからね〜。」
「500年だっけ?」
「正確には548年4ヶ月と、3日でちゅ。」
「何か・・・違う世界に来た感じがするわ。」
「でも楽しかったでちゅね、タマモちゃん。」
「ふっ、そうね。」
『しゃぎゃ―――――っ!!!』
どかああああんっ・・・・
「何あれ・・・?」
「あ、小竜姫が龍になって暴れてるでちゅ。」
「何てことしたんじゃこんボケ――――っ!!」
「だからわざとじゃないって言ってるではござらんか―――っ!!」
『しゃが―――っ!!』
「ひえ―――っ!」
「逃げるでござるよ――!!」
横島とシロは霊波刀で結界の入口をぶち破って外に飛び出た。
「あ、いたいた。 お―い何の騒ぎ?」
「ヨコシマ―、プチ―、どうしたでちゅ?」
「おお2人とも、実はシロが・・」
「拙者のせいじゃないでござるよ〜っ!?」
「やかましい! とにかくこいつが俺の文珠を不発させてああなっちまったんだ!」
『ぐるああああっ!!』
「わ―来た――!?」
「とにかく外に逃げますか?」
「そうでちゅね。」
「ふ、2人とも何でそんな落ち着いてるんだよ!?」
「いや〜もう人生遊び切ったって言うか・・・」
「思い残すことはないでちゅね〜・・・」
「先生来たでござるよ!?」
「と、とにかく急げ―!」
『ぐわお――!!』
ばたんっ 勢いよく門が閉められる。
『な、何いいいいっ!? また逆鱗に触れたのかお前らはあ!?』
「す、すまん・・・」
『どうしてくれるんじゃ〜〜! 死にとうない〜〜〜!!』
『うお〜〜〜んっ!』
「何とかするって!」
「何とかって、どうすんの? 殺るの?」
「こうなった以上、昔の通りにやるしかない!」
「あんたの文珠は?」
「こいつのせいで珠切れ。」
「何でもかんでも拙者のせいにしないで欲しいでござる――っ!!」
「何でもかんでもお前のせいじゃ――っ!」
「で、どうするでちゅ?」
「弓とつると矢がいる。 眉間を討つんだ。」
『パピリオ、お主は弓になれっ!』
「は? うわっ・・・」
ぼふんっ 横島が弓を手に取る。
『むう・・・お主らは肉体を持っておるからのう・・・』
『つると矢はどうしたもんか・・・』
どかんっ!!
『うおっ!?』
『い、いかん! もう破られる!』
「つるはアタシの髪を使えばいいわ。」
タマモは長い後ろ髪を霊波を込めて抜いた。 それを霊波で弓に固定する。
「で、矢は・・・」
シロに視点が集まった。
「えっ・・・!? あの・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
『・・・・・』
『・・・・・』
「・・・矢もアタシの髪で作るわ。」
「・・・そうだな。」
「拙者役立たずでござるか―――っ!!?」
「じゃあ、お前は餌ということで。」
「オ―ノ―――っ!」
『来るぞっ! 準備せいっ!!』
「よし、タマモさがってろ! シロ、そこで突っ立ってろ!!」
「あい〜〜〜〜〜ん!!」
「シロ―、遺言があるなら聞いとくけど?」
「この馬鹿狐―――!!」
「お大事に。」
ずずずんっ 既に結界内の建物は倒壊していた。
『開けるぞっ!!』
ばかんっ
『しゃが―――――っ!!!』
「ひ―――っ!!」
「今だっ!」
ばしゅっ すかっ
「いきなり外したあっ!!?」
「そんな―――っ!?」
『おが―――んっ!』
「わ――っ!」
どごしっ
『がっ・・・』
巨大な猿が龍の頭を棒で殴り落とした。 ずずん・・・・
「た、助かった・・・でござるか・・・・?」
へなへなと座り込むシロの目の前で、猿が縮んだ。
「ふ〜まったく疲れるのう・・・」
どろん 小竜気がたんこぶをつけて元に戻った。
「小竜姫――!?」
パピリオも元に戻って小竜姫に駆け寄った。
「しっかりするでちゅ―っ! 死ぬなら死ぬで、ちゃんと私に全てを引き渡すと一筆書いてくだちゃい〜〜っ!!」
「おいおい・・・」
「う〜〜〜ん・・・はっ、ここはいったい・・・?」
「小竜姫様大丈夫っすか?」
「あああああっ!!? わ、私の妙神山がっ・・・・誰がこんなひどいことを・・・!!?」
「全部小竜姫がやったでちゅよ?」
「こっ、こんな不祥事が天界に知れたら・・・」
「もうばれておるわ。」
「げっ、老子!?」
「小竜姫、今回のことについてゆっくりと話があるぞ?」
「ひい〜〜〜〜〜・・・」
「さあこっちに来るんじゃ!!」
「あっ、そんな老子! お仕置きだけは勘弁してください〜〜〜!!」
ずるずるずる・・・
「・・・・・・・帰るか。」
「・・・・・そうね。」
「あっ! 拙者最後の力を貰ってないでござるっ!」
「はあ? 諦めろ。」
「そんな〜・・・」
「金があれば買えたかもな。」
「お金なんかないでござる〜〜〜!!」
「ほれ帰るぞ、すまんなパピリオ、また来るからな〜!」
「ばいばいヨコシマ――! タマモちゃんまたね――――っ!! ついでにプチ―!」
「拙者はいったい何でござるか〜〜!?」
「何だタマモ、すっかり懐かれたな。」
「まあね。」
「パピリオと何してたんだ?」
「遊んでた。」
「って、向こうにいる間ずっとか!?」
「猿もいたわよ?」
「・・・そっか。」
タマモは振り返って大きく手を振った。
「パピリオ――っ! じゃあね――!!」
手を振るパピリオに見送られ、3人は倒壊した妙神山を背に歩き始めた。
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【次回予告】
横島 「おお姫よ! あなたはなぜ私を拒むのだ!?」
タマモ「何やってんの?」
おキヌ「ごめんなさい、でもわかって。 私はあなたが嫌いなわけではないの。」
タマモ「お―い。」
横島 「私は、わた・・・・もうあかん! 姫―――っ!!」
おキヌ「わわっ!? ちょっと横島さん!!」
美神 「カ―――ット! やめんか!」
タマモ「何なのこれは?」
美神 「お芝居よ、お・し・ば・い。」
タマモ「何でまた。」
美神 「ちょっと頼まれちゃってね。 はいこれ。」
タマモ「何?」
美神 「あんたの台本。 セリフ覚えてね、明日だから。」
タマモ「はあ・・・!?」
シロ 「美神殿〜、拙者ヒロインがやりたいでござる―。」
美神 「色気のないあんたには無理無理。」
シロ 「むう――っ!」
タマモ「と言うより何で横島が主役なの?」
美神 「次回、『プレイ・ア・マン』」
横島 「おキヌちゃ――ん、ぼか――も――っ!!」
おキヌ「よ、横島さん! ここじゃちょっと・・・」
タマモ「何かよくわかんない話になりそう・・・」