gs mikami gaiden:great mothers strike-back

著者:西表炬燵山猫


  「本当に娘さんの令子さんには、うちの愚息がお世話になっております」
  「いえいえ、それはウチの至らない娘こそ、息子さんには並々ならぬ程にお世話になっておるんですよ」
 美神の事務所に集って、通りいっぺんの差し障りの無い挨拶をするのは横島と美神の母。令子には挨拶したことはあるが、母親がいたと聞いたのでどうしても挨拶したいと、久しぶりの帰国のついで横島に着いてきていた。

  「本当に立派なお子さんらで羨ましいわ〜。それにしてもウチの冥子は・・」
 季節の挨拶に来た六道の母も同じように円卓に腰掛けて、相変わらずのほほんとしながらお茶をすする。
  「ひどーい!お母様」
 いつも迷惑をかけているので、お茶菓子を持たされた冥子が文句を云うが、現在その母達を刺激しないよう、静かに傍観している美神の頭のばん創膏を作ったのは彼女の式神なのでは説得力は無い。面倒な依頼を浮けてしまい、いつもの如く美神を頼り、ついで暴走したのだ。無論傷に塩の危惧から冥子の式神も呼ばない。

 横島も美神と同じ気持ちで三人の言動を見守っていた。決して望んで来てもらった理由では無いので当たり前であろう。
  (まあ、傍迷惑な母親連中)
 力は強いが母娘共に無責任な美神組、騒動を起こしても他人に下駄を預ける事しか頭に無い六道母娘組。そして、確かに責任能力では真人間ではあるが、彼にとってはひたすら恐い百合子。正論で武装しているだけに非常に恐いし、下手すると戦闘能力も父大樹を凌駕しているのでは横島以上かも。これだけ揃えば、きっとアシュタロス戦の勇士連中が揃っても形無しであろう。
 ひたすら表面的な挨拶も終わり、今度はオバサンが集まればな井戸端会議に様相を変えていた。
 誰かがお若いと世辞を言えば、衣服に化粧品に料理に旦那の悪口とあまり聞きたくは無い話がエンドレスで続きそうだ。付き合うのは疲れるだけと、美神は横島の持ち込んだもう一つの難問に話を移した。


 彼女のデスクには横島の作った数個の玉が置かれていた。ひとつヒョイと掴んで見る。無論文殊であるのだが、いつも一文字の漢字が浮かんでいる筈なのに、それに浮かび上がった文字は彼らに見慣れた文字には見えなかった。それが何の意味なのか作った本人も美神にもサッパリ分からない。そんな文字が三個の文殊全てに浮かんでいた。
  「いったいどうしてこんな文字が浮かんだの?」
 それに浮かんでいたのは文字だか、何かの紋章だか分からないような物であった。
  「昔読んだサンスクリット語の原形の辞書に似たような物があったけどね」
  「サンスクリットですか?」
 横島が聞き慣れぬ言葉に頭をひねる。
  「ガンダーラ様式にも見えるし、ヘブライ語の源流のようにも見えるし、お札に書かれた陰陽字の一種にも見えるしね」
 傍らの辞書を片手に唸る美神。頭を掻きむしり辞書を投げる。
  「つまり、この文字が何なのか分からないって事すね」
  「んん〜。まあ、ありていに言えばそう言う事。やっぱり西条さん待ちってとこね。オカルトGメンのマザーコンピューターなら何かわかるでしょうからね」
 流石に事が文殊の事なので大事を取ってオカルトGメンに照会を頼んでいた。コスモプロセッサー程まで危なくは無いが、つかいようによってはドラ○モンの四次元ポケット並みに、使いようによっては危ないので美智江の口添えもあって西条が調べている。

  「ふ〜ん。確かに拙者も初めての文字でござるな」
  「あんたは文字すら見たことないでしょう」
  ドターン バカーン
 タマモの挑発にシロも乗り部屋の隅で始めたが、誰も気にした様子は無い。

  「横島さん。朝起きたらこれを握りしめていたんですか」
 オキヌも一つ手にとって見る。彼女の納める神道系にも無いようだ。
  「ああ、物凄い悪夢を見てね。思わず起き上がるとこれが手にあったんだ」
  「悪夢?!」
  「ああ、凄い悪夢だったんだ」
 凄いと言われてもビジョンに欠けるので頭をひねる二人。
  「どんな夢だったの?横島君。もしかしてそれに関係あるかもしれないから、もっとコンクリート(具体的)に話なさい」
  「え!!い いや それは」
  「「??」」
 行き成り口ごもった様子に怪訝な美神とオキヌ。


  「奇麗な玉ね。なにこれ?令子ちゃん」
 井戸端会議は小休止らしく冥子の母が文殊を手に取る。どうやら文殊を見るのは初めてであるらしく、オキヌが説明をかって出る。百合子も一つ手に取って見る。
  「悪夢を見てたって事はあんたの昨日に何かあったんじゃないの。どうせまた女の子の事でも考えていたんでしょうけど。奇麗な女の子を見たんで、いつかのスカリのように惚れ薬系統の文殊を思い浮かんでいたんじゃ無いの」
 オキヌもその言葉に反応して視線を絡める。またヘリから吊るされては叶わないとばかりに、ビクッと居を正す横島。
  「ああ。そう云えば昨日あんた泣いてたわよね」
 百合子がニヤニヤしながら引き継ぐ。
  「へ?泣いて・・・・」
 美神が馬鹿口を広げて聞き直す。

  「この子ったら可笑しいのよ。昨日テレビのバラエティ番組見ながら泣いてるんだから」
  「テレビのバラエティ番組で・・・・泣く?」
 笑いすぎて涙が零れた塩梅ではないようだ。
  「ほらっ、昔のアイドルを追いかけるって奴よ。なんて言ったかしら・・」
  「ああ、それなら見ました。確か天理真理とか、壁ちえみとかが出てくる番組ですよね。確かタイトルは『あのアイドルは今』だったかしら」
 オキヌが昨日の新聞を引っ張り出し美神に渡す。
  「何この番組?」
 昨日は金勘定で忙しくてファンであるのに銀の番組すら見損なったのを思い返した。
  「確か、昔のアイドルが今はどうなっているかって追っかける番組でしたよ」
  「ああ いまは番組ね(今あの人は、の前と後ろをくっつけた追っかけ番組)」
  「おかしいのよ、それを見て泣いてるの『あの真理ちゃんが』とか『あのちえみちゃんが』とか泣いていて『時間は何とも残酷なんだー、俺は刻の涙を見た』って近所迷惑かえりみずに叫んでいたのよ。おかしいでしょう」
 ジト目で我が子を哀れむ母であった。

  「だって、だってお袋。あの奇麗で可愛かったアイドルが、まさかあんなに無惨な姿になるなんて。あれのお陰でおれはあんな悪夢を・・・・・・」
 グヌヌと上を向いて涙が零れないようにしている。男の子にとっては、憧れたアイドルは永久に奇麗なままにいてほしい。それが幻想であったと分かっていても、憧れだった女の子が単なるオバサンに成り下がった姿など見たくない。それを昨今では暴露して夢を壊す番組が多すぎる。
  「鳴々!!思いでは美しいままに・・・・・」
  「なるほど『宇宙戦○ヤマト』がブレイクした時に『森○』の声優の『ピー(検閲)』がテレビに顔を出したら『○雪』のイメージが壊れてヤ○トファンが減ったのと同じですね」
  バキッ
 オキヌを殴る美神。
  「ええい!!危ないネタをサラッと言うんじゃ無い。幾ら恐いもの無しのあたしでも恐いわ。これより上の数行は無かった物として話を戻すわよ。いいわね作者あ〜」

        主役権限の閑話休題で、話戻します。

  「ふ〜ん!その番組見たんで悪い夢見たって、一体どんな夢だったの」
  「そ それは・・・」
 美神の問いに再び黙り込む。額に垂れた汗を目敏く見つける美神が襟首を掴む。答えたのは再び百合子。
  「朝食の準備しててビックリしたわよ。この子ったら突然立ち上がって『美神さんが〜、美神さんが〜〜〜〜』」
  「え?あたしが??」
  「そうなのよ、行き成り叫んだの『年増からババアになった〜』ってね」


  「成程。じゃああんたは普段からあたしを年増だと思っていて。そのナンタラって元アイドルが年食ったのと同じように、人の肖像権をトコトン無視して、裸にひん剥いて抱きつこうとしら、森高の歌みたくあたしがオバサンになった夢を見て飛び起きたってワケね」
  「・・・」
 横島は答えなかった、いや答えられなかったとう言うべきであろう。彼は事務所の床に沈んでいたのだ、無論血の池の中で。今回は二度目だし、女性に夢想するには失礼だと分かっているので母も止めない。
  「あたしの夢を勝手に見るなあ!!人の肖像権を守れっていったでしょうが」
 再びキツイ突っ込みであるが、流石に死者に鞭打つのはなんなので美智江が止める。

  「ふ〜ん、その時に横島君の手元から出てきたのがこの文殊なの」
 全部で三つあった文殊はまだ冥子の母と百合子が繁々と見つめているので最後の一個を手に取る。
  「もしかして悪夢を取り込んだような物だったら大変ね。ナイトメアの一種かもしれないし。これ使っちゃ駄目よ令子」
 うなずく美神。彼女とて、鬼が出るか蛇が出るか分からないような物は初めから使う気は無い。
  「それで西条君からの連絡はまだ無いの」
  「うん、待ってるんだけど」
 本部の電算室に別の用で向かっていたので、そろそろ帰ってきてくれる時間であった。

  「でも、あたし達も知らないような言語体系なのに、なんでこの馬鹿が知っていたのかしらね」
 ハイヒールのつま先で転がる横島をつつく。
  「ん〜。まあ別に横島君自身が知っている必要は無いんじゃないかしらね。もしかしてあんたの出会った以前の前世、その前世あたりで使っていた言語かもよ。もしかしてあたし達が見慣れていないのは、案外その前世でも霊能に関係した職種におもねていたんで、その秘術関係に類していた印なんで一般には流布していないかもよ」
  「前の前世?それも霊能者?」
  「現世も、一つ前の前世も霊力に富んだ人物だったならばその前もやはり別体系の霊能を持っていたとしても不思議では無いでしょう。今の時代でもGSの知識は部外秘が原則なんだから、昔ならば殆ど秘密で今の時代に伝わっていなくても不思議じゃないわね。それが夢という無意識かの中で現れたのかもね」
  「確かもね・・・・」
 不機嫌にそう答える。自分は幾ら遡ってもメフィストまでなのに、横島はさらに過去があるのが不遜なのだ。もしかしなくとも、そこで別の女に粉かけていると考えていたと考えると踏んでいるハイヒールに力も籠もる。それを見てクススと笑う美智江。


  「まあ取り敢えずキチンと分かるまでちゃんと保管して、念を込めたりしちゃ・・・・」
 美智江の言葉に頷く令子であったが、その言葉に被さる言葉が・・・。それは横島と六道の母が座る机の方から。
  「これどうやって使うの冥子」
  「あのね、お母様、百合子さん。これは握ってね、念を込めるとね」
 二人に懇切丁寧に発動の仕方を教える冥子だ。
  ダオターン バアターン
 お約束!派手にひっ転ける美神母娘にオキヌ。
  「だあー!!あんた今の話聞いて無かったの〜〜〜〜〜」
  「へえ〜だってえ〜」
 問いつめる美神にオロオロする冥子。彼女としては母と百合子の問いに答えただけなのに、美神に怒られるのは理不尽で不条理であった。パニクリ冥子が起こしたのは当然暴走式神達。
 式神の漏れた霊気が合図のように、二人の持っていた文殊が白い光を放ち発動した。

  「横島さん!!」
  「六道さん!!」
  「お袋〜!!」
 二人の姿は閃光の中に消えていった。



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