GS美神 ひかり

第五話   追撃


PM11:37 ????

「あんたって人は!」  
「テル! よせ・・」  
がきっ   
「テル!」  
「やめてください!」  
「やめろ!」  
ちゃいんっ! 力負けしたテノマールは振り払われた勢いで後ろに跳んだ。 アリマトを握った右手が震える。 白髪の男は刀身の長い霊刀を額の上でかまえた。  
「!? フリノさん!?」  
「2人ともやめろ!」 
全員が一斉にテノマールとフリノに銃を向ける。  
「・・・・・そんなもの撃ったらどうなるかわかってんだろ?」  
「剣を引いてください!」 
「あっちに言ってくれ。」  
「テル!」  
「・・・・・・・・」  
「どうしたんだ!? 何でこうなるんだよ・・・!?」  
「テル・・・」 
青い瞳は白髪の男から目をそらすことなく口を開いた。  
「あんたがくれた精霊石・・・ありゃ何だ?」  
「ああ?」 
「何だよあの爆発は!? ありゃコクーンだろ!? 自爆ってどういうことなんだ!?」
「情報が漏れないようにするため・・」  
「ふざけんな! 俺に一言の相談もなしでか!?」  
「テル、落ち着いて・・」 
「来んな!」
アリマトの光る切っ先を向けられ、ミリアの足が止まる。  
「だからなのか・・・?」 
「?」   
「・・・若いやつばっかりだったのは、死んでもいい未熟者だからなのか!?」  
「・・・皆、全て承知の上でのことだ。」  
!!!!! 食いしばった歯が見えるほどに、テノマールはフリノを睨んだ。  
「・・俺は・・・・」  
「お前の言いたいことはわかる。 だが4年前のこと・・・忘れたわけではないだろ!」  
「・・・・・」  
「・・・・・」  
「・・・・・」   
テノマールはアリマトを鞘に収めると、くるりと背を向け歩き出した。   
「・・・・行くのか?」  
「!? テル!」  
右手を軽く上げると、テノマールは出て行った。 ミリアが後を追った。   
「いいんですか? 行かせて?」  
「仕方ないさ。 無理に止めようとしたって、こちらの被害が増えるだけだ。 それに俺達が目指すものは同じだ。 邪魔はしないさ。」  
「しかしアリマトは・・・」  
「あれはあいつのもんさ。 ま、こっちの予定も変えなきゃならんが。」   
フリノは霊刀を収めると、ふっとため息をついた。  

7月20日 AM00:38 横島除霊事務所  

「!」  
この感じ・・・ ヒカリはベッドから下りると、窓を開ける。 いつもと変わらぬ眺め、暗闇に浮かぶいろんな光が目に映る。  
「・・・・・」  
ヒカリは手早く身支度をすると、リュックを背負い、ヘルメットとキーを持って部屋を出た。   
「お出かけ?」  
「うん。」  
「はいこれ。」  
愛子はグラスを差し出した。 
「何?」  
「愛子さん特製ミックスジュース。」  
ヘルメットを受け取り、ヒカリがそれを飲み終わるのを愛子は黙って待った。  
「ふう、ありがと。」 
愛子はグラスを受け取った。
「忘れ物はない?」 
「大丈夫。」  
座ってブーツの紐を縛る。  
「何かすることある?」   
「んーと、帰ってきたらご飯が食べたい。」  
「ふふ、わかった。」  
ヒカリは立ち上がった。  
「じゃ、行ってきます。」  
愛子はヘルメットを渡す。  
「行ってらっしゃい。」  
ドアが静かに閉められた。   

同時刻(注:日本時間) チベット某山頂付近  

「・・・・・」  
女が座禅を組んで空を見上げていた。 妨げるものが何もないそこは、冷たい風が直接吹き付けられ、縛った髪が振り回される。 瞳を閉じ、星の海から暗い何かを見る。      
「じゃまするよ。」  
背後から声がした。 女は振り返らず、首を正面に戻して再び瞳を開いた。  
「どうも。」  
声の主は隣に座った。 
「久しぶりだね。」  
「はい。」  
「最近降りてこなかったじゃないか。 子供たちは会いたがってたよ。」  
「申し訳ない。」  
老婆が長いキセルを取り出し、火をつけた時、横目に一瞬顔が見える。  
「お変わりないようで。」  
「ふん、あんたと違って、私らは毎日働いてんだよ。」 
「ふっ。」  
タバコの煙が鼻に届く。 久しぶりのその臭いに、女の顔がわずかにほころぶ。  
「・・・・・あんたの国、大変なことになってるよ。」  
「何か?」  
「シーラムとかいうザンス王国のテロがまたやりだしたよ。」  
「!?」  
女は老婆の顔を見た。 老婆はふうっと煙を吐く。  
「名古屋とかいうとこで100人ぐらい死んでるよ。 それでも被害を防げたほうだと。 行方不明者もその倍はいる。」 
「・・・くそっ!」 
女は立ち上がった。  
「帰るのかい?」  
「はい。」  
自分の体よりも大きなリュックを担ぐと、女は歩き出した。 老婆も後に続く。  
「寂しくなるね。」  
「また会いに来ます。」  
「あんたならいい嫁になってくれると思ったのに。」   
「・・・・・」  
「ま、しょうがないさ。」  
石につまづきそうになる。 後に続いていた老婆はそれを軽く横に蹴り飛ばした。  
「本当に感謝してます、キジナどの。」  
「こっちのせりふだよ。」   
女の足が止まる。 
「?」  
老婆も止まった。 
「・・・・・」 
「・・・・・」  
女の白い髪がなびくのを、老婆は黙って見た。 
「・・・・・」  
リュックごしに背中を押す。  
「早く行け、シロ!」  
「・・・はい!」  
白い髪が走っていくのを、老婆は静かに見送った。

AM01:30 愛知県警警察病院307号室(個室)   

カーテンの開かれた窓は、わずかな星の光を室内に取り込んでいた。 呼吸器を着け、額から顔の左半分を包帯で巻いたエイムズは、静かな病室に響く単調に繰り返す音の中、ただ静かにベットに横たわっていた。 シーツの上に出された左腕には点滴がつけられていた、が、その指には精霊石の指輪が、かすかな光を漏らしていた。  

AM01:48 山梨県大月市(国道20号線)  

緩やかなカーブを通り抜け、傾けていた体を立て直す。 アクセルを戻すと同時にクラッチレバーを握る。 即座に左足がチェンジペダルを蹴り上げるとギアをトップにいれ、右手がアクセルを回す。 ぐわんっ 加速をかけ、遠ざかる気配を確かめる。 誰も居ない道路だが、大型トラックは何台も走っている。 ヒカリもすでに3台ほど追い抜いていた。    
「?」  
ヒカリはウインカーをだすとAX−1を端に寄せ、自販機の前に停車した。 バイクを降りヘルメットを取ると、通り過ぎるトラックに髪が舞い上がる。 リュックから見鬼君を取り出し、土台の箱からコードを引っ張り出す。 その先の吸盤を額につけ、目を閉じる。   
「こっち、こっち、こっち、・・・」  
タンクに取り付けてある磁石と見鬼君の指を見比べ、道路マップを広げる。 
「どこまで行くのよ。」  
携帯を取り出す。 ぴっ ぴっぷっぱっ トルルルル、トルル・・ 
「はい、クーニです。」  
「横島です。」  
「今どこですか?」   
「えーとっ、20号線の大月市です。 山梨県の。」  
「えーはい、わかります。」   
ヒカリは携帯を肩で挟みながら見鬼君とマップを詰め込み、リュックを背負った。  
「そのまま20号を進んでください。」  
「わかりました。」  
「あっちもおそらく車か何かです。また連絡します。」  
ぴっ バイクにまたがりヘルメットをかぶる。 追いつけるかしら・・・? きしゅるるる ぶわんっ 黒いAX−1は再び20号を走り出した。 

AM01:53 東京都八王子市(国道16号線)   

「20号線にはすぐに出れるな?」  
「はい、でも、高速使わないんですか?」 
「そんなののったら相手に合わせて走れないだろ。」  
「そうですが、このペースでは・・・」  
「敵が止まったら精霊獣で一気に行く。 とにかく、アリマトをどうにかするまでICPOに気付かれるわけにはいかないんだ。」
「・・・・・ねえクーニさん。 彼女、どんな感じです?」  
運転している男は聞いた。  
「ミス・横島か?」  
「私は会ったことがありません。」  
「俺もないよ。」  
「日本人なのにアリマトの気配を感じるなんて、やっぱり相当すごいんでしょうか?」  
「ほんとかどうかわからんさ。」  
クーニは背もたれを倒して目をつぶった。  

AM03:46 長野県諏訪市(諏訪湖南東)   

近い・・・ 気配をたどり、ジグザグに道を走る。 どっ、どっどっどっ、どどっ・・・ 限界ね・・・ エンジンが止まり、ヒカリはAX−1を止めた。 右に諏訪湖が見える。  
「ご苦労様。」   
ぽんっとタンクを叩くと、ヘルメットを脱ぎ、バイクを降りる。 キーをかけ、ヒカリは歩き出した。 気配に動く感じはない。 月は出ていなかったが、暗い水面に町の光が映っていた。 諏訪湖に沿って歩道を歩く。 左手に家はない。 公園かしら?    
「!」  
人影を見つけ、ヒカリは街路樹に見を寄せる。 反対車線に車も止まっている。 あれか・・・ 100メートルってとこかしら・・・ リュックを下ろし、拳銃を取り出す。 左手が携帯のボタンを押す。    
「・・・・・・・横島です。」
「どうですか?」   
「諏訪湖です。 人が車から降りてます。」  
「アリマトは?」  
「車の中だと思いますが・・・1人しかいないみたいです。」  
「・・・妙ですね。」   
「そう思います。」  
「そのまま我々が行くまで待ってください。」  
「そのつもり・・」   
人影が動いた。 どかっ! 木に何かが突き刺ささる。  
「ばれた! 早く!」  
がんっ! ヒカリは右に跳び、携帯を捨て人影に発砲した。  
「つ!」  飛んできた何かが右腕をかすめる。 ごとっ 人影は道路に飛び出し、車に乗り込んだ。 ヒカリは拳銃を拾い、車に向かって走りながら両手でかまえた。 がんっがんっがんっがんっがんっ! どごおおおんっ! とっさに両手で顔を覆うも、ヒカリは尻餅をついた。 手をどけると、黄色い炎が空に伸び、その中に車の輪郭が黒く見えた。    
「・・・・・・・・ !?」  
車道で、人がゆっくりと立ち上がるのが目に入る。 こちらを見た。 日本人・・・? いえ、あれは・・・ 溶けかかった顔が引き剥がされた。 !?・・・・・あの人は・・・ ヒカリも立ち上がった。 炎の光で互いの顔が黄色くなる。   
「・・・お前か・・・・なぜわかった?」  
「アリマトを渡しなさい!」  
ヒカリは銃を捨て、破魔札をかまえた。 テノマールは足元のアリマトを拾い上げる。  
「そうか・・・ お前、こいつを感じ取れるんだな?」  
「其の札に封じられし者よ、我が剣に宿りて我が力となれ! 念!」  
ばしゅっ! 破魔札を突き破るようにヒカリの霊波刀現れる。 青白い剣に破魔の文字が浮かび上がる。   
「ふーーーー。」  
大きく息を吐き、ヒカリは男に向かって歩き出した。 ばりばりっ 収束しきれない霊力が顔や体にさわる。   
「ヒカリ、横島・・・か・・・・」   
「・・・・・」   
「あんたと1度、ゆっくり話がしてみたかったな・・・・」  
「・・・・え?」  
足が止まる。 テノマールが右手を突き出した瞬間、視界が真っ白になりヒカリは身構えた。   
「・・・・・ あっ!」  
光が消えた時、湖の遥か上空を精霊獣が飛んでいき、その後を2鬼の精霊獣が追っていった。  
「なんなの・・・? あの人・・・」  
精霊獣が暗闇に消えた時には、ヒカリの剣は消えていた。    

AM06:11 ザンス王国大使館  

朝日が差し込む窓を開け、セリナは右手を額にかざして青空を見上げた。  
「・・・わかったわ。 あなたはこちらに戻ってください。」   
「でも・・」  
「2人の捜索は他の者にやってもらいます。」   
「アリマトを追わなくてもいいのですか?」  
「あなたのような人はごくまれにいるのです。 まさか日本にもいらっしゃるとは思いませんでしたが・・・」  
「だったら・・」  
「あなたの事がわかった以上、敵もカモフラージュするはずです。 ・・・戻ってください。」  
「・・・・・わかりました。」   
ぴっ かちゃ セリナはデスクに手をつき、うつむいたまま目を閉じた。 こんこんっ 
「?・・・どうぞ。」   
「失礼します。」   
かちゃっ  
「涼介さん・・・何ですか? こんなに早くに?」   
「・・・・・お聞きしたいことがあります。」  
「?」   

AM07:12 諏訪市某ガソリンスタンド    

「はあ。」  
ヒカリは座って諏訪湖を眺めていた。 日の光が、白か黄色かわからない色で波の1つ1つを映し出す。 まぶしさに、ヒカリの目は細くなっていた。  
「お客さん、レギュラー満タン、入りましたよ。」  
「はい。」  
ヒカリは立ち上がろうとした。  
「!?」   
両腕で腹を押えると、ヒカリはうずくまった。 目を開いていられず、足が体を支えきれずに転がった。   
「! どうしたんですか? お客さん、大丈夫ですか?」  
駆け寄った店員が揺り動かす。  
「・・・・・何とか。」  
「何とかったって・・・救急車、呼びますよ?」   
「駄目!」   
歯を食いしばり、何とか右目を開くと、かがみこんだ店員の肩に手をかけて立ち上がった。 
「すいません、ちょっとトイレお借りしてよろしいですか?」  
「いいですけど・・・あなた・・・・」  
立ち上がった店員はヒカリの顔を覗き込んだ。 ヒカリは店員の黒い瞳と目が会うと、口を横いっぱいに引っ張って笑った。 腹を押える腕に力が入る。    
「大丈夫ですから。」    

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