GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-3 「巴里館のごく平凡な除霊」

著者:人狼


「……つかれた。」
 横島は帰ってくるなり覇気の全く感じられない様子だった。
「お疲れ横島君。はい、コーヒー。」
「おう愛子か。悪いな。」
 横島は愛子からコーヒーカップを受け取り、一口すすった。
「中々美味いな。」
「おキヌちゃんにわ敵わないわよ。あの人、料理系統に関しては物凄いんだから。」
「美神さんに教えてもらってるのかな?」
「そうかもね。」
 ぴんぽーん!横島と愛子が他愛もない話をしていると、玄関のチャイムが鳴り響いた。人工幽霊に確認すると、その人物はキヌであることが判明した。
「ほら、早速フィアンセが来たわよ。迎えに行ってあげなさい。」
「ちゃかすな!」
 愛子にたしなめられ、顔を真っ赤にしてあからさまに照れまくる横島。愛子はケタケタと笑い転げ、立場が悪くなったように気がした横島はさっさとキヌを出迎えに行った。
  がちゃり。
「…あ、横島さん!」
「お帰り、おキヌちゃん。」
「えへ…ただいま。」
「美神さんは今いないよ。」
 キヌが帰ってくるなり、仲のよさを惜しげもなくおおっぴらに見せる二人。事務所の前の男の通行人達が訝しげな顔でこちらを見ているのにも気付かなかった。
  いつも通り応接間に行くと、愛子が3人分のコーヒーをいれて待っていた。愛顧の表情はそこはかとなくニヤニヤしていた。
「なんだ愛子。俺の顔になんか付いてるか?」
「違うわよ。あなた達ホントに周りの様子が見えないのね。
 事務所の前を通ってた通行人がみんな、イヤ〜な顔してたわよー。」
「マジで…? なんか恥かしいな。」
「今度からは気を付けないと…ねえ、愛子さん。」
「なんで私に振る?」
「まぁいいじゃねえか。あ、そうだ、今日は確かタマモがシロを連れてくるって。」
「え、そうなんですか? タマモちゃん、シロちゃんを見つけたんですね。」
 横島が言うのはこう言うことらしい。
  1年前、つまり横島がキヌにプロポーズした年に、シロはフラれた(???)ショックで事務所を飛び出して行った。事務所の戦力が落ちることを懸念した美神は、タマモに油揚げ1年分を約束しシロを探しに行かせたのだ。
「タマモちゃんの力ならすぐに見つかりそうなのに、何でこんなに時間がかかったのかしら。」
「どーせシロのことだ。人狼の里に逃げ込んでたんだろ。」
『横島さん、タマモさんとシロさんが帰ってきました。』
「あ、人工幽霊か。中に入れといてくれい。」
『分かりました。』
 横島の言ったとおり、事務所の鍵を開けてタマモとシロを中にいれる人工幽霊。
「ただーいまー。」
「お、タマモ、帰ったか。」
「まーね。このバカ犬、人狼の里に逃げ込んじゃって大変だったわ。」
「狼でござる!!」
「人狼の里…」
「横島君が言ったことそのまんまね。」
 帰ってくる早々、頭の構造の単純さを露呈してしまったシロ。そして、帰ってくる早々タマモとケンかを始めるバカ犬、シロ。
「いい加減にしなさい!! うっとおしい!!」
「!?」
 横島、キヌ、愛子が振り向くと、そこには変な紙のようなものをくしゃくしゃにした美神がいた。
「あ、美神さん。帰ったんすか。」
「ええ、まあね。…ったく、GS協会の堅物どもめ。」
「コーヒーです。なにか言われたんですか?」
「いつものことなんだけど、あんまり法外な値段で仕事するなってさ。」
「言われてたんだ…」
「でも、それを無視する美神さんもすごいヒトだな…」
「私はお金が欲しいだけなのに協会の石頭たちは『適正の料金でやらたまえ』ですって!? キィ――! 何様のつもりなのよ!? 大体ねぇ、GS協会なんて言ってるけど………」
 GS協会に逆ギレし、屁理屈を並べ立てた文句を言う美神の脇で資料の整理をする横島とキヌ。愛子は美神と言う人物を改めて見て、ただただ唖然としているばかりだった。
  ……5分後、喋りたいことを喋り気の済んだ美神は、早速今日入っている仕事の振り分けを始めた。いつもの料金で。
「これは私。後のやつはタマモと…悪いけど愛子ちゃん行ってくれない?」
「拙者は!?」
「わ、私、事務なんですけど…」
「そうなのよねぇ。でも、横島君とおキヌちゃんにはエミのとことの共同作戦があるし…」
「エミさんの所と? 珍しいなって言うか、あり得ない気がするんだけど…」
「拙者ー…」
「タマモ、一人でも大丈夫?」
「いつもより油揚げを多くくれるならね。」
「み、美神さん、そろそろいいじゃないですか。シロだって反省してるだろうし…」
 はっとしてシロを見る美神。どうやら無視してたというよりも完全に忘れていたらしい。シロは今にも泣きだしそうな顔をしている。
「あ、忘れてたわ。んじゃ、タマモのサポートにシロね。」
「何で拙者がサポートなんでござるか…」
「シロ〜、今のあんたは横島クンよりも立場が低いんだから、言葉は選んだ方がいいわよ〜?」
「俺はどんな立場だ?」
「了解でござる!! さ、タマモ、早速行くでござるよ!!」
 美神のタダならぬ気配に逆らうのは困難。と判断したシロはタマモを引き連れて逃げるように事務所を後にした。
「私なにか可哀想なこと言ったかしら?」
「言ったと思いますけど…」
「ま、そんなことはどうでもいいから。さっきも言った通り、横島クンとおキヌちゃんはエミの所との共同除霊だから。」
「さっきも言いましたけど、珍しい組み合わせですね。」
「今回の除霊はGS協会からの依頼なの。でも、エミと組むなら死んだ方がマシだからおキヌちゃん、あなた達に頼んだの。」
「あっちもイヤなんだろうな…」
「ま、いいから仕事に行くわよ。二人も準備してこれに書かれてる所に行く!」
「わかりました!」
「横島さん、がんばりましょう!」
 横島達は除霊の準備をして早速現場へ向った。
  横島の持っているのは文珠8個。キヌはネクロマンサーの笛に破魔札数枚である。端からみるととんでもなく軽装であるが、実際は笛と文珠があれば大体の霊は除霊出来る。ある意味事務所最強コンビ、と言う人も少ない。
「たしかここら辺だったはずだけどな…」
「横島さん、あの人達じゃないですか?」
「まさかあの巨体と金髪は…」
「一文字さんとタイガーさんですね。」
 向こうも横島達に気付き手を振った。横島たちが近づいて行くと、その2人はやはり一文字魔理とタイガー寅吉であった。
「よお久しぶり」
 一文字がいつも通り、ボーイッシュな挨拶をする。
「2人とも後2年だな。式には呼んでくれよ!」
「ちょ、ちょっと一文字さん…恥かしいじゃないですか。」
「タイガー、何でエミさんじゃなくてお前等が来てるんだ?」
「それがですノー、エミさんは『令子と組むなら死んだ方がマシ!』とか言ってワシ達をよこしたんでケン。」
「美神さんと同じこといってますね…」
「あ、ああ…」
「そんなことより、さっさと仕事をおっぱじめようぜ!! 初めての除霊でウズウズしてるんだ」
「初めての除霊?」
「アタシもおキヌちゃんも、免許取ったばっかりだから中々実戦をやらせてもらえなかったんだ。おキヌちゃんは、美神さんとこでいろいろやってたみたいだけどさ」
「そんなことないよ。私も一応、バイト扱いだったし…」
「で、ワシが監督者をするならいいって事で来たんですケン。」
  と言う事で、波乱混じりの除霊作業は幕を開けた。現場は大正時代に作られたらしい洋館邸宅で、門のとこには「巴里館」と書かれていた。
「あからさまに怪しいな。」
「霊の気配がビンビン伝わってきますね。なんだか一人、強力な人がいるんですけど。」
「タイガー、精神感応で見てくれないか?」
「了解ですじゃ一文字シャン!」
 タイガーは虎に姿を変え、巴里館に精神感応を当てた。すると、4人の目の前に一匹の魔物が見えた。
「アレは…キマイラの一種ですね。」
「簡単な相手だな。共同作戦なんかいらねぇ気がするが。」
「ま、行くだけ行ってみようぜ。横島、あんまり手を出すなよ。すぐに終わっちまうからな。」
「ああ、頼むぜ。」
 初めての除霊でいつになく張りきる一文字。3人はヤレヤレと言った様子でしかし、何が起こるかわからないので、緊張は解かずにいた。
  中に入るとそこは悪霊達の楽園のような状態で、4人を見つけるなり一気に集まって巨大な霊の塊となり、襲いかかってきた。
「!? こいつら、統率が取れてる!」
「普通はあり得ないんだが…そんなことより除霊だ!!」
「ここは任せて下さい!」
 キヌはそう言うと、ネクロマンサーの笛で霊を操り出した。これは、キヌが一番得意な除霊である。なんせ、これよりも巨大な霊塊を分解したのだから。
「さすがおキヌちゃん。帰ってきた直後ももこういうことしてたな。」
「すげーぜおキヌちゃん! 札無しであんな事出来るなんて!!」
「アハハ…アレしか出来ないから…」
「そんな事ないですケン!! ワッシだったらすぐにのみ混まれて終わりでしたケンね。」
「タイガーだったらそうかも。」
 横島の突っ込みに思わず笑い出す一同。しかし、その笑いも一瞬にして凍り付いた。辺りには何もないはずだった。しかし、なにかがいる。それだけは分かった。
「やっぱ、さっきタイガーの見たキマイラのやつか?」
「いや、それにしては霊力が強すぎる。他になにかがいるんだ。」
「とにかく、行きましょう。」
 キヌの言葉に頷き、4人は洋館の2階へと向って行った。
  洋館二階には予想通り、と言うか見たまんまにキマイラが暴れていた。しかも、さっきの霊波が嘘のような弱さが目立った。
「魔理ちゃん、こいつ倒してみる?」
「いいのか? いきなりキマイラなんて。」
「大丈夫大丈夫。もしもの時は俺達も手伝うから。」
「わかった!」
 一文字は巨大な敵を任された事が嬉しかったらしく、勢い込んでキマイラに向って行った。一文字だけで確実に倒せると読みきっていた横島は、タイガーとキヌにその場を任せ自分は洋館の中を探索しようとした。キマイラのほかに何かがある気がしたのだ。
「まってください、私も行きます。」
「いいよ俺一人で。何かあったらおキヌちゃんに悪いし。」
「気にしないで下さい。私も行きたいだけですから。」
「わかった、じゃ、タイガーこの場は頼んだぜ。」
「合点じゃ。」
 と、言う事で一文字をタイガーに任せ、横島とキヌは洋館の奥へと歩いて行った。
  洋館の中はひどくカビ臭く、じめじめしていて、とんでもなく広かった。
「あれ? この屋敷ってこんな広かったっけ?」
「そんなはずないですよ。だって、外から見たときは事務所よりも小さかったじゃないですか。」
「そうだよなあ。」
 歩きながら首をかしげ、ハッとした表情になったと思うと文珠を取り出した。書かれていた文字は、『探』の1文字。
「『探』…ですか?」
「ああ、これで強い霊波のヤツを感知できると思うんだけど…。」
 そう言いながら横島が『探』の文珠を投げ上げると、文珠は1,2週横島とキヌの周りを飛び回り、そして、洋館の奥へと進んで行った。
  二人が奥へ進んで行くと洋館は徐々に、意思のある家のようにランプが点滅したりドアが急に開閉したりと動きを見せ始めた。
「なんだか、お化け屋敷に入った気分だな。」
「へ、変なこと言わないで下さいよー…ただでさえ霊気が強すぎて意識が飛びそうなんですから」
 ガターーーーン!!!!
「わあああああああああ!?」
「きゃああああああああ!?」
「……な、なんだ、額縁が落ちただけか…」
 ホッと溜息をつき、落ちた額縁を元に戻そうとする横島の目に妙なものが飛び込んできた。
「ん? 小せえけど、餓鬼の一種かな?」
『ジャ マ ヲ ス ル ナ』
「は?」
 その瞬間、横島は反対側の壁まですっ飛ばされた。…前々作からよく飛ばされること…
「こいつ、餓鬼の割りにやけに強いぜ!?」
「横島さん、この妖怪の霊力、さっきのキマイラよりも強いですよ!」
「なんだって…それじゃこいつが今回のおおもとか。」
『ワ レ、ニ ン ゲ ン ヲ メ ッ ス ル ベ キ モ ノ ナ リ。』
「人間を滅する者? 小さいわりに言うじゃねえか。」
「横島さん!」
 おちょくる横島をちょっと怒るキヌ。餓鬼は自分を「ウォー」と名乗り、自分は人間を滅ぼす為に生まれてきたと言うことを、それはそれはご丁寧に説明してくれた。
『マ ズ ハ オ マ エ タ チ カ ラ ダ !』
「死んでたまるか! おキヌちゃん、タイガーと魔理ちゃんを連れて来るんだ!!」
「それじゃ横島さんが…!」
「俺は大丈夫だから! こいつを早いうちに倒さないととんでもないことになる!!」
「わ、わかりました!!」
 横島の言葉に頷き、もと来た道を戻って行くキヌ。それを確認した横島は、文珠を出す準備をして「ウォー」と対峙した。
「こういう感じの妖怪は死体がグロテスク過ぎておキヌちゃんには見せられないからな。」
『ナ ニ ヲ シャ ベ ッ テ イ ル 、モ ウ 、メ ン ド ウ ダ カ ラ シ ネ !』
「だから、死んでたまるかっての!! いい加減、話わかれよ!」
 いい加減腹の立った横島は『剣』の文珠を発動させて、ウォーに飛びかかった。ウォーは返り討ちにしようと自分も飛びかかったが、飛距離が足らずに横島の振り下ろした刃にクリーンヒットした。
「あれ? なんか弱くないか?」
『ワ 、ワ レ ハ 、ニ ン ゲ ン ヲ メ ッ ス ル モ ノ … シ ン デ タ マ ル カ … !』
「やっぱり、霊格が高いとそう簡単に死んでくれはしねえか。」
『コ ロ ス コ ロ ス コ ロ ス コ ロ ス !!!!』
 怒りに目が血走り我を忘れたウォーは、体を奮わせて徐々に本当の姿を現し出した。巨大化したウォーは体長3mくらいあり、真っ黒な筋肉のような体に太くカールした毛が細かく生えていた。
「こ、これが本当のウォーの正体…どうりで誰も手を出さなかったわけだ…」
『コ レ デ ワ レ ガ カ ッ タ モ ト ウ ゼ ン 。デ ハ 、シ ン デ モ ラ ウ !』
「はいはい…。」
 返答するのも面倒になり、一気にぶった切る為に剣に霊力を集中させた。
「いい加減、消えて無くなれ!!」
 容量いっぱいに霊力を集中させた剣を、一気に間合い詰めてきたウォーに振り浴びせる横島。ウォーは、何が起こったのかわからずマヌケな顔をしたまま横島の予想した通り、ヒジョーにグロテスクな姿を残して絶命した。
「やっぱ、おキヌちゃんたちを連れてきてなくてよかった…」
「もう見ちゃってますよ…」
 後ろから声がしてバッと後ろを見ると、そこにはとんでもなく気分の悪そうなキヌと一文字がタイガーに支えられていた。
「あちゃー、見ちまったか…」
「スマンですケン。もうちょい遅く来れば…」
「いや、もういいよ。2人にこれを使えば…」
 横島はそう言いながら『忘』の文珠を2つ出現させ、二人にかざした。
  除霊を追えた4人は反省会を兼ねて魔法料理「魔鈴」で遅めの夕食をとっていた。
「助かりました。横島さんに記憶を消してもらわなかったら今ごろ、こうやってお夕飯食べられませんよ。」
「いやー、それほどでもないよ。」
「いやホントすげーぜ。私なんかキマイラ一匹倒すのに苦労してんのに、横島なんかそれの何倍も強さを持ってる妖怪をすぐに倒すんだから!」
「…そっちですかいノー。」
「私にとってはそっちの方が凄かったんだよ!!」
「ハハハ…」
 普通に誉められ、これ以上ないほどに照れる横島。そこに、言い争いをしながら店に入ってくる二人の客の気配がした。
「何であんたがここにいるのよ! 色情魔は吸血鬼の坊やの所にでもいってれば!?」
「何ですってぇー!? 金しか頭にない守銭奴がっ!!」
「やる気!? 受けて立つわよ!!」
「負けてから泣いて『お許しを』なんて言ったって遅いワケ!!」
 店内でとんでもなく大声でケンカをかます美神とエミ。横島ら4人は恥かしいので『他人のふり』を決め込んで、自分たちの席に額を寄せあった。
「ちょっと、ケンカは店の外でお願いします!」
 ケンカを続ける美神とエミの声の間に、非常に弱々しく聞こえる魔鈴の声がした。
「美神さん、大人気ないッすよ!」
「そうですよ! 回りのお客さんに失礼じゃないですか!」
「この色情魔の黒悪魔…って、あら、横島クンにおキヌちゃん。」
「横島の言う通りですよ社長。社長ともあろう人がこんなトコでケンカするなんて」
「やるならせめて、外でお願いしますケン。」
「ボッタクリの弱者の敵め……あれ、何でおたく等がいるワケ?」
 横島が声をかけたことによってなんとかその場は落着いたようだった。4人は自分達が元いた席に2人を極力離すような形で座らせ、再び話を始めた。と言うよりも美神等への尋問に等しかった。
「で、なんでGS協会からの依頼を押し付けたんでしたっけ?」
「もちろん、『令子(エミ)といっしょに仕事をするのがイヤだったから』に決まってるわよ!」
「んなハモッて言わなくても…」
「知らないわよそんなこと! 私はとにかく、こんな色情魔(守銭奴)とは仕事したくないの!!」
「またハモリましたね…」
「もう笑うしかねぇな。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
 横島が笑うのにつられて笑い出すキヌ、一文字、タイガー。笑ったはいいが、次の日、4人はそれぞれ給料を5分の1から、9分の10までカットされたそうな。

めでたしだね。

次の話には横島とおキヌちゃんが結婚するし。


※この作品は、人狼さんによる C-WWW への投稿作品です。
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