GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-5「初夏のシロ捜索隊・出発編」
著者:人狼
ある日の美神除霊事務所。その日の日中は仕事も無いので珍しく、美神、横島、キヌ、愛子の四人がペチャクチャと世間話に花を咲かせていた。
「いやー、ホントに暇ですねー。」
「ま、日中は安い仕事しかないからね。その上今日は300万円以下の依頼ばっかだからね。」
「300万以下って…大した額な気もしますけど…」
「私、今まで妖怪をやってる中で一度も見たこと無いわ!」
「おキヌちゃん、愛子、美神さんの常識は俺達の非常識だからな。」
美神のいう事に半ば呆れながら顔を見合わせるキヌと愛子に、溜息をつきながらフォロー(?)を入れる横島。しかし、自分のことを変に言われ、この女が黙っているわけが無かった。
「横島ク〜ン、今すぐ殺して欲しい?」
「え、あ、いやっ、なんのことだか僕にはさっぱり!」
「ま、まーまー…」
ちょうどそこに「天の助け」か「地獄の便り」か一本の電話がはいって来た。しかし、美神も横島もキヌも電話に出れる状況ではなかったので、いつも通り愛子が出た。
「はい、美神除霊事務所ですが。」
『私。タマモよ。』
「あ、タマモちゃん!」
愛子の喜声に、ピタリと動きを止める美神以下3人。愛子の会話は続く。
「今何処にいるの? シロちゃん捕まえた?」
『今はM県の山奥。ザオウとか言う山の中にいるわ。シロはザオウの中に逃げ込んでった。』
「そうなの。一人で大丈夫なの?」
『う〜ん、ちょっとキツイかも。二人くらい増援に来てくれると助かる。』
「わかった、美神さんに話して見るから30分後にもっかい電話かけてみて。」
『りょーかい』
そこまで話してタマモは電話を切った。
「…だ、そうです。」
「は?」
愛子は早く主旨を伝えようと焦りすぎて、肝心な主旨を言い忘れていた。これには美神はもちろん、横島、キヌも唖然とするばかりだった。
「……つまり、シロが蔵王の山奥に逃げ込んだから、捕まえるのに手助けが欲しいってことね。」
「はい、そういうことです。」
「全くシロのやつ、なに考えてやがるんだ…自分の思い通りに行かないからってそこまで逃げるこたぁねえだろ。」
「ホント、仕事のいい迷惑だわ。」
相変わらず、シロに対してはボロクソに言いまくる美神と横島。
「そこまで言わなくても…。ところで、誰が増援に行くんです?」
「あ、そうだわ。んー、横島クンとおキヌちゃんお願い。」
「私達ですか?」
「嫌なの?」
「いえ、そーでは無くて、今日の夜の仕事は私と忠夫さんも幾つかあったと思うんですけど」
「ああ、いいわよそれくらい。私がやっとくから。」
「分かりました。それじゃあ今から準備してきます!」
心なしか言葉が弾んでいるように見えるキヌ。横島も後を追い準備に取りかかろうとすると、美神が横島を呼びとめた。
「なんすか?」
「あのね、今、蔵王には確か「S−」ランクの妖怪が一匹潜んでたはずだから…」
「倒して賞金を貰って来いと?」
「ばか、そんなこと言わないわよ。ただ、おキヌちゃんをしっかり守って来いってこと。」
「分かってますよ。何があってもおキヌちゃんは守りますから。」
「分かればよし。さっさとバカ犬を捕まえに行って来なさい。」
「はい!」
勢いよく返事をして部屋を出て行く横島。愛子は横島が出ていった頃を見計らって美神に話掛けた。
「美神さん、横島クンたら顔つきがいつもと違ってましたね。」
「そりゃ、もうアイツだって22よ。大人の顔つきになってもおかしかないわ。」
「そうじゃなくて、美神さんがおキヌちゃんを守って来いって行った時ですよ。横島クン、物凄く真剣な顔で「おキヌちゃんを守る」って言ったじゃないですか。」
「ま、横島クンはあれで真面目な性格だからね。」
「あら、よく理解していらっしゃること。」
「う、うるさいわね。」
愛子に上手く乗せられて恥ずかしい思いをした美神。その恥かしさを紛らわす為に脇にあった資料を見る美神。しかし、ある資料を見た瞬間、美神の顔からサーッと血の気が引いていった。
「あー! 蔵王にいる妖怪、一匹じゃなくて3匹だった!」
「それって、ヤバいんじゃないですか…?」
「ヒジョーにヤバイわ。」
「どーするんですか!」
「…ま、なんとかなるでしょ。」
「ざ、残酷…」
何事も無かったかのようにコーヒーを啜りながら次の資料を見る美神。愛子はその時点では美神が横島とキヌを信頼しているのかどうかが全くわからなかった。
PLLL...PLLL...忘れていた頃に事務所の電話がなった。
「はい、美神除霊事務所。」
『タマモだけど、誰が来てくれるの?』
「あ、タマモちゃん。今、おキヌちゃんと横島クンがそっちに行く準備をしてるわ。」
『あの二人か…わかった、S駅で待ってるって言っておいて。』
「わかった、今すぐ伝えとくわ。」
『それじゃ、駅で待ってる。』
それだけ言うとタマモは一方的に電話を切った。愛子も受話器を置くと急いで横島とキヌの部屋へ向かって行った。
「横島クン、おキヌちゃん、タマモちゃんはS駅で待ってるって。」
「S駅か。新幹線ですぐだな。」
「すぐと言っても3時間くらいですけどね。」
「ま、14時発の仙台行きに乗れば17時には着くな。」
「そーね。ま、がんばってらっしゃい。」
愛子が出ていった後、何気なく時計に目をやる二人。その時計の針は「13:45」を指していた。
「…………」
「…………」
「ヤバイな…」
「そんな呑気に言ってる場合じゃないですよ! これじゃホントに乗り遅れちゃいますよ!」
「あ、そうだった! 早くここを出んと…」
「横島クン、おキヌちゃん、早く車に乗りなさい!」
「あ、美神さんの声。」
「美神さんが駅まで送ってくれるみたいだな。」
美神の声を聞き、急いでガレージに向かう横島夫妻。ガレージでは美神のコブラが今発進せんとする勢いでエンジンを吹かしていた。
「二人とも、荷物と一緒に乗った?」
「はい!」
「毎度毎度言うけど落ちても拾わないからね!」
横島とキヌが乗ったのを確認し一気にアクセルを吹かす美神。その勢いは3秒で130[km/h]に到達するほどだったらしい(愛子談)。キヌも横島も振り落とされないように必死に車にへばりついていた。
「まったく、この子達はいっつもマイペースなんだから。」
美神は横島達に気付かれない程度の声で呟いた。
「ふう。一時はどうなるかと思ったよ。」
仙台経由八戸行きの「は○て」に乗った横島は、座席に越しを下ろしながら溜息をついた。
「ホントですね。でも、美神さんが送ってくれたので助かりましたね。」
「そうだな。それにしても腹が減った。」
「昼からなにも食べてないですものね。で、お弁当作ってきました。はい、忠夫さんの分。」
「あ、ありがとう。」
一段落ついたところでキヌの用意した弁当を食べる横島夫妻。
「おキヌちゃんの作る料理はいつも上手いな。」
「そんな…私は美神さんに教わっただけですから…」
「そんな謙遜すんなって。おキヌちゃんはもともと料理が上手かったじゃないか。」
「あ、ありがとうございます…」
夫に手放しで誉められ、顔を真っ赤にするキヌ。
「はや○」が仙台に着くまでの2時間半、二人は蔵王の妖怪についていろいろ対策を立てていた。横島はキヌに妖怪のことを黙っているつもりだったが、さすがにキヌは先に蔵王の事をいろいろ調べていたらしい。
「つまり、その「S−」ランクのヤロウはシロが逃げ込んだらしい所の反対側にいるわけだな。」
「そーですね。でも、シロちゃんは行動範囲が広いですからね。」
「もしかしたら、迷い込んでそっち側に行ってるかも知れないってか。」
「もう、行かない事を祈るだけですね。」
「…確率は恐ろしく低いがな。」
一瞬黙る横島とキヌ。二人とも、シロの無鉄砲な動き方にはホトホト困っているほどだ。そのシロが追ってから逃げ込んで黙っているとも思えない。増してや、シロの一番好きな山岳ステージだ。
「もし、妖怪と出会っちゃったらどうします?」
「そりゃ、倒すしかないだろ。」
「でも、今日は大した装備はないですよ。」
「ああ、それなら文珠が確か6個ぐらいあったかな。」
「じゃ、大丈夫ですね。」
明るく横島に言うキヌ。横島は頷きながら心の中で「シロを犠牲にしても…おキヌちゃんだけは死んでも守る」と決心していた。しかしこのあと、横島、キヌ、タマモ、シロの四人は蔵王に潜む強力妖怪と対峙してしまうことなど、誰も知らない…と思う。