GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-12 「新たなる命の始まり」
著者 : 人狼
「……あ。」
タマモの声に、リビングでくつろいでいた横島たちは声の主の方を見た。
「どーしたの?」
ユウコがタマモにとっつきながら聞いてみる。
「あっついからくっつくな。」
「で、どーしたんだ?」
「…大したことじゃないんだけど、そろそろGS試験の日だなーって。」
冒頭の声の理由が判明した一同は「ああ。」と納得の相槌を打った。
「そー言えば忠雄さん、今度のGS試験っていつでしたっけ?」
「えーっと確か…」
「今度の日曜日。美神さんの紹介状付きの受験票にそーかいてた。」
「今度の日曜か…練習はしてるのか?」
横島の言う「練習」の意味がわからなくて怪訝な顔をするタマモ。それはキヌやユウコにしても同様であった。
「横島さん、練習って何の練習ですか!? 二人で必殺技の練習でも…!?」
「ちがうよ。その逆で『出力を抑える』練習さ。」
「出力?」
意味がわからない、とでも言いたげに横島のいった言葉を繰り返した。
「出力を…ですか?」
「おキヌちゃん、タマモは一応、政府に追われてる身だろ。」
「!…ああ、そういうことですか。」
キヌは合点いったようだが、タマモとユウコはいまだ理解できていなかった。
「横島、どういうことなの?」
「タマモ、お前は大分前に政府の連中に殺されかけたろ。」
「正確にいえば政府に雇われた美神さんの助手だった横島に、ね。」
「そーだったの!!」
「う…まあ、いいか。それで、あるとこから聞いた話だけど、政府はどこからかのタレコミでお前が生きてることを知ったらしい。」
一瞬、その場の空気が完全に凍りついた。当の本人であるタマモは大して驚いちゃいなかったが。
「やっぱり。人間がそんな簡単に諦めるとは思った無かったし。」
「幸い、あちらさんのほうはタマモの人間形体の姿は知らないらしいから…」
「あー、大体わかった。並みのGSくらいの出力で試験に挑めと。」
「すっごぉい! タマモ、そんなことできるの!?」
「あたりまえでしょ。私くらいのだったら簡単にできるわ。横島みたいな力任せの奴と一緒にしないで。」
タマモに痛いところを突かれて反論も出来ず隅っこでいじける横島。その間、ユウコはタマモにねだりにねだってお茶を入れてもらい、キヌはいじけている横島を静かに慰めていた。
…と、その時。
「…うっ!」
キヌはうめいたと思うと、そのまま床に座り込み、大きくなっている腹を抑えた。
「どーした!? おキヌちゃん!」
「おなかが…」
横島の尋常ではない大声に、タマモとユウコも走ってやってきた。
「なにかあったの!?」
「おキヌちゃんがおなかを抱えて座り込んだんだ!」
明らかにうろたえている横島。タマモも何が起きて、何をしていいのかさっぱり分からず、その場に固まっていた。
「横島さん、救急車を呼ぶか車を用意してください。」
状況を打開したのはユウコの一声だった。横島はユウコに言われたとおり車を出すため急いでガレージへ向かった。
「タマモ! おっきいタオル数枚準備して!」
「わ、わかった。」
「おキヌさん、大丈夫ですか!?」
「あ、ありがとう、ユウコちゃん…。」
タマモがタオルケットを引っ張り出し、二人でキヌを抱えて横島がエンジンをかけて準備しているガレージへ向かった。
横島が運転席、タマモが助手席、キヌが後部座席に横になり、ユウコがキヌの頭をひざに乗せるような形で座り車は出発した。
「おキヌちゃん、陣痛のほうは!?」
「大分楽になってきました。忠夫さん、私は大丈夫ですから安全運転でお願いします。」
横島はキヌの言うとおりに、車の速度を規制速度まで落とした。
「しっかし、ユウコちゃんが一番冷静だったのには驚いたな。」
「ホント。でも、そのおかげでなんとかなったわ。助かった。」
「そんなぁ〜。照れるじゃないですか〜。」
先ほどの冷静な態度とはうってかわって、いつもの調子のいい調子の戻っている。
「でも、今になって考えてみると、なんでユウコちゃんはあそこであんなにも冷静でいられたんだろ。」
「そ、それは…」
「忠夫さん、ユウコちゃんが困ってるじゃ無いですか。」
「…まぁ、ユウコちゃんのおかげで惨事にならなくてすんだんだし、いいか。」
なんとなく釈然としないが、今は一刻も早くキヌを病院に連れて行くことが先なので、横島はこれ以上ユウコを追求しないことにした。
キヌは無事、病院に運ばれいつでも出産できる体勢が整った。
「ふぅ〜。やっと落ち着いた…。」
「お疲れ様です。…すみません、忠夫さんを慌てさせてしまって。」
「気にすること無いよ。困ったときはお互いさま。…って言うより、夫婦なんだからそんなことを考えること無いよ。」
横島は締めていたネクタイを緩め、はははと笑いながら言った。
コンコン。病室のドアをノックする音が聞こえ、ユウコが戸を開けると、そこには…
「み、美神さん!」
「横島! こー言うことがあったらすぐに私に連絡しなさい!」
「すんません! って、美神さんが何でここにいるンすか?」
「私が連絡したの。」
今度は缶コーヒーを人数分買ってきたタマモが言った。するとその後ろから美紙除霊事務所の面々や小笠原GHOSTOFFISのタイガーとエミ、一文字、他にも六道冥子、唐巣神父、ピート、西条、カオス、マリアなどなじみの面々がゾロゾロと部屋に入ってきた。
「…タマモ。」
「…なに?」
「お前、連絡してくれたのはありがたいんだが、何人に連絡したんだ?」
「確か…美神さんだけだっただったんだけど…」
この場にいるメンバーの色が濃すぎるために、いつもはなんでもスパッと言い切るタマモも言葉に切れが無かった。
しかし、タマモが美神以外に連絡していないとなると…
「美神さん、全員に連絡したんですか?」
「そーよ。だっていっぱいいたほーがいいじゃん。」
「…完全に開き直ってるよ…。」
「あら〜? このかわいい子はだ〜れ?」
冥子が隅っこで初めて見たインパクトが強すぎる人たちを見て固まっているユウコを見つけた。
「そのこは、うちの事務所で住み込みで働いてもらってる左沢…」
「西野ユウコです!」
横島の言葉をさえぎり、苗字のところだけ偽名を使った。
「西野ユウコ…ねえ。横島、おたくのところバイトを雇うような金があるワケ?」
「いえ、ユウコちゃんは、バイト料なしでうちに住み込みで働いてもらってるんです。」
「見たところ、霊力が有りそうには見えないから、事務専門ってところね。」
ユウコの霊力の力量を一瞬で見極め、美神が言った。ユウコは未だに緊張が解けきっていないのか、声が出てこず頭を刻々と頷かせただけだった。
「忠夫さん、なんか凄いですね…」
「ああ…この威圧感は一般人ならすぐに逃げ出すぜ…」
「そうじゃないですよ。美神さんの一声でこんなに人が集まるまとまりの良さですよ。」
「まとまりがあるようには思えんが…」
確かに一見すればさっぱりまとまりがないようにも見えるが、まぁ、前におきた事件の数々を見れば特に仲が悪いわけではないだろう。
そこにちょうど、冥子を振り切って美神たちのなかを抜け出してきたユウコが現れた。
「よぉ。どーだ、このメンツは。」
「い、インパクトが強すぎるよ、これは…。」
「元気ねぇな。やっぱこのメンツのプレッシャーは堪えるか。」
ユウコは横島のからかいには応えず、深い深い溜息をはきながらキヌのベッドの横の椅子に座った。
「はぁ〜。横島さんとおキヌさんの話し聞いて覚悟してたつもりだったけど…」
「やっぱり大変?」
「うん。それよりおキヌさん、おなかの方は大丈夫?」
「そうね、今は陣痛が……いたっ…!」
今まで穏やかだったキヌの声が一変して険しくなり、腹を抑えた。
「は、破水…したみたい…」
「なにぃ!?」
一同は一斉にキヌの方を見て、そして一斉にうろたえだした。
「ユウコちゃん、ナースコールは!?」
横島はさっきの事務所でのことでもう落ち着いたのだろうか。意外としっかりしていた。
「もうしました! 横島さんとタマモは美神さんたちを落ち着かせて!」
「わかった! …美神さん落ち着いて! あ、国防省に連絡するな!!」
横島とタマモが必死に抑えてるうちに、ナースコールを受けた看護師と医者が到着し、手早く分娩室へと搬送されていった。
「あーもう! なんで隊長を呼ばないんだよ!」
「しょーがないじゃん! 電話したら美神さんしかいなかったんだから!」
「横島さん、タマモ、おキヌさんが運ばれたから、そこの人たちはほっといて分娩室に!!」
ユウコの言葉どおり、未だギャアギャア騒いでいる美神らを完全に放置し、分娩室へと急いだ。
「おキヌちゃん、がんばれ!」
「うう…あああ!」
「横島さん、頑張ってください! もう頭が出て来てますよ!!」
分娩室内ではキヌの苦しそうな声と、それを必死で励ます横島と医師たちの姿があった。外では、ユウコとタマモ、美神たちがキヌと横島の子供の第一声が聞こえてくるのをひたすら待っていた。
「おキヌちゃん、大丈夫かな…」
タマモが心配そうな声で言う。
「タマモ、あのおキヌちゃんよ? 浮気性の横島クンの浮気をぱったり止めさせたあの子なら大丈夫よ。それに、横島クンだってやるときはやるやつだしね。」
タマモを勇気付ける美神の言葉は、自分の一番弟子である二人を信頼しきっている様子が手にとるようにわかった。
「横島さん! もーちょっとですよ! あとすこし!! きばってください!!」
「うううう!」
「おキヌちゃん!」
おぎゃあああ!!
その瞬間、本当に瞬間的ではあるが時間が止まった。
「おキヌちゃん…ご苦労様。」
「た…忠夫さん…」
キヌの額の汗をぬぐってやった横島の耳に、分娩室の外からものすごい歓声が上がった。どうやら、美神たちもそうとうまっていたらしい。
「かわいい女の子ですよ。よかったですね、ご苦労様です。」
赤ん坊をとりだした産婦医がキヌにねぎらいの言葉をかける。
「ありがとうございます…」
「おキヌちゃん、今はゆっくり休みな。」
「はい。」
数日後。
「こんにちは。」
「おキヌちゃん! 遊び来たよ〜!」
「あらユウコちゃんにタマモちゃん、いらっしゃい。今日はどうしたの?」
「実はね〜…あ、これは本人から聞いたほうがいいか。よこしまさ〜ん。」
ユウコに呼ばれると同時に、たくさんの荷物を持った横島がやってきた。
「お前ら! 少しくらい荷物を持つ気になったらどうだ!?」
「忠夫さん、ここは病院ですよ。」
「あ。ごめんごめん(お前らあとで覚えてろ)」
「今日は何かあるみたいじゃないですか。なんですか?」
椅子に座った横島にキヌが早速聞いてきた。
「なんだ、ユウコちゃんが言ったんじゃないのか。…今日はな、こいつの名前を考えてきたんだよ。」
「名前ですか?」
キヌが横で幸せそうに眠っている赤ん坊を見つめながら言った。
「そ。おキヌちゃんも考えてるんだろ?」
「はい。」
「だからさ、俺の考えた名前とおキヌちゃんの決めた名前のどちらかで決めようと思って。」
そう言って横島はポケットから一枚の紙を取り出した。
紙には達筆とはいえない汚い筆字で『朝日』とかかれていた。
「朝日ちゃん…ですか。」
「そ。山から昇ってくる朝日ってまっすぐな光できれいだろ? その朝日みたいに真っ直ぐで心の綺麗な人に成って欲しいなって思ってこの名前を。」
「いい名前の由来ですね。実は…」
そう言いながらキヌが横の棚から出した紙に書いてあった名前は…
「朝日…?」
「そうです。由来は違うんですが、こういう綺麗な名前がいいなぁって。」
「なんだ、相談する必要なんて無かったんだ。よし、お前の名前が決まったぜ。」
「忠夫さん、お父さんって言うよりも、やんちゃなお兄さんって感じですね。」
キヌと横島は互いにしばらく見つめ合った後、どちらからともなく笑い出した。
「この二人、ほんっとに息が合ってるというか何というか…」
「永遠のバカップル?」
「そうね。私らも赤ちゃんをみにいこっか。」
タマモとユウコが二人のところに行き、朝日を見てかわいいと見とれていた。
この日、横島の事務所に新たな家族が増えたのだった。