GS美神 NEW事件ファイルシリーズ
FILE-13 「雌雄を決するとき!」
著者 : 人狼
横島GS事務所に家族が増えて1年。子育ての忙しかった横島達もようやく余裕が生まれ、一年の遅れを経てタマモは試験を受けることとなった。
「タマモ、受験票持ったか?」
「持った。」
「ターマモ〜、頑張れよー!」
「ウルサイ。」
横島の質問にもユウコの応援にも一言で返すタマモ。表情と口調だけではタマモの感情は読めないが、今朝5時半に起きてきたことを考えれば、相当気合は言っているのは間違いない。
「そー言えばおキヌちゃんは?」
「おキヌちゃんは、あさひの健康診断が終わってから来るって。多分2次選考までにはくるだろ。」
「横島さんは行かなくて良かったんですか?」
「それが、俺もタマモはしっかりしてるからユウコちゃんを預けても大丈夫だって言ったんだけどさ、『忠夫さんはタマモちゃんに付いていてあげてください。』ってさ。」
横島が言うと、ユウコはキヌのモノマネで爆笑しながら、私がタマモの面倒見るの! と怒ると言う、器用なことをやってのけていたが、タマモはタマモで、少しだけ、ホッとしたような顔をしていた。
「貧弱狐め、ようやくきたでござるか!!」
ござる調のでかい声。横島とタマモは一瞬で声の主を特定した。
「…シロか。久しぶりだな。」
「せ、先生! ご無沙汰してるでござる!!」
「せんせい?」
横島が「先生」と呼ばれたわけがわからず、ユウコは首をかしげながら横島に聞いた。
「アイツは一応だが、俺の弟子ってことになってる。」
「なんとなく言い方が気に入らないでござるが…ま、そのとーりでござる! タマモ、今日は決勝で待ってるでござるよ!!」
「いい加減静かにしろ。」
「あうっ!?」
後ろからやってきた美神にド突かれ、シロは前につんのめった。後ろから愛子、雪之丞、弓の美神GS事務所の面々もやってくる。
「美神さん! お久しぶりです。」
「おキヌちゃんの出産以来ね。で、おキヌちゃんは?」
「今日はあさひの健康診断で。俺も行こうと言ったんすけど…。」
「そこまで言えばわかるわ。あんたとおキヌちゃんのことだし。」
さすが何年も一緒にいると違うな、と横島は素直に感じた。そこでちょうど、場内アナウンスが、1次試験が始まることを伝えた。タマモとシロは両所長に見送られ、会場へ向かった。
「シロ、だいぶ緊張してましたね。」
「そっちのタマモもね。」
「2人ともわかったんですか!?」
横島と美神が、互いの弟子の状態を見抜いたのにユウコはとても驚いていた。会場ではすでに試験が始まっているらしく、複数の霊波が感じられた。
「うぅ、なかさっきからゾワゾワするんですけど。」
ユウコが突然、両の二の腕をさすりながら言った。
「なんてことはないわ。人には少なからず霊感があって、強めの霊波には鳥肌とか金縛りとか言う感じで反応するの。ユウコちゃんのも多分それよ。」
「なぁ〜んだ。アタシにも霊感があるのかと思った。」
「どーかわかんないわよ、ここにいる横島クンだって、最初は全く霊波感じられなかったんだから。」
「へぇ〜。」
「そーだったのか!? じゃあ、あの時俺に引き分けたのは偶然だったのか!!」
雪之丞があまりのショックに石化し、ユウコが横島をオドロキの眼差しで見ていると、そこにあさひの健康診断を終えたキヌがやってきた。キヌの明るい顔を見て、あさひが無事健康であったことがわかった。
「おキヌちゃん、早かったね。いま、1次試験が始まったばかりだよ。」
「あさちゃんは健康そのものでした。美神さんたちもお久しぶりです。」
「久しぶり。あ、言うの忘れてたけど、去年うちに入った弓ちゃんと雪之丞。」
「氷室さん、お久しぶりね。この子があさひちゃんかぁ。かわいい。」
「みんな、そろそろ観客席に行くわよ」
美神の言葉に全員賛成し、試験を余裕で通過したタマモとシロも加わって総勢9人は観客席の真ん中下段あたりを陣取った。
「ところでよ、雪之丞。」
「なんだよ。」
横島がGS試験当時は弱かったと知った途端ぶっきらぼうになったのを無視し、話を続けた。
「お前、弓さんと付き合ってどんくらいになるよ?」
「ぶっ!! な、なにを!?」
「照れんなって、みんな知ってることなんだし。そろそろ結婚か?」
横島が話していくうちにどんどん「ユデダコ」状態になっていく雪之丞。そこに雪之丞の助け舟のようにキヌがやってきた。
「忠夫さん、雪之丞さん、そろそろ2次試験始まりますよ。」
「ああ、わかった。行くぜ、雪之丞。」
雪之丞が放心状態になっているのを知っていながら、敢えて声をかけていく横島。明らかにからかって楽しんでいる。
ユウコが(ヒマなので)美神たちの代わりに、発表されたトーナメント表を見ると、タマモとシロはすでに注目株になっているらしく、見事に決勝戦で当たることとなった。
第一試合、タマモの名前が呼ばれると、タマモは横島に言った。
「横島、神通棍ある?」
「神通棍? あるにはあるが、狐火は使わないのか?」
「決勝まで霊力を残しておくから。」
前日まで「資格取れたら次はテキトウに負ける」とか言った割にはホンネでは優勝してみたいらしい。
横島が一応の為に準備していた神通棍を受け取ると、タマモはヒラリとスタンドから下へ飛び降りた。
カーン! 第一試合のゴングがなった。
「忠夫さんの予想通り、アッサリと資格取っちゃいましたね、二人とも。」
「まぁね。第一、あの二人は霊力のケタが俺たちよりも2つくらい違うし。」
横島とキヌが話している通り、タマモとシロは2回戦突破して資格をとり、それどころか、シロに至ってはGS試験最速の決勝進出を決めた。時間にして1試合平均5.6秒。
試合展開を見ていた美神、横島両所長は人狼と妖狐こ潜在能力を改めて思い知らされた。ちなみに、当の本人達は
「決勝の為に少し走ってくるでござる!」
とどこかへ行ったり、ユウコと一緒に食堂で昼食を取っていたりする。
「お昼、作ってきてあげればよかったですね。」
キヌが少し残念そうに言った。
「しょーがないさ。おキヌちゃんだって忙しかったわけだしさ。」
「でも…。」
「そーゆー心配は、あさひが大きくなってからにしろよ。」
「…そーですね。あさちゃん、早く大きくなって私達に心配させてね。」
「ハイハイ、ゴチソーさま。」
ボッ!!
美神の一言でキヌと横島の顔が見る見るうちに、と言うよりも一瞬で真っ赤になった。そこで丁度、タマモ、ユウコの2人と、汗だくのシロがが帰ってきた。
「そろそろ決勝が始まるから、二人とも、下に行きなさい。」
美神の言葉どおり、下へ向かうタマモとシロ。しかし、タマモがクルリと向きを変え、横島のもとへきた。
「横島、これ返しとく。」
「神通棍…いいのか、次の試合。」
「神通棍なんかじゃ私の霊力を受け止めきれないし、一つ試してみたいことがあるのよ。」
「決勝で試すって…凄い余裕だな。」
「とーぜん。私があんな馬鹿犬に負けるわけ無いでしょ。」
タマモはいつもの不敵な笑いを横島に投げかけ、 一回戦同様、スタンドから華麗に飛び降りていった。
『さあ、いよいよGS試験も大詰め、決勝戦です! 今回はなんと、人狼対妖狐! まさに因縁の対決です!』
会場の実況が興奮気味の声で叫ぶ。
「ねぇ横島クン、なんでタマモのことを妖狐ってバラしちゃってんの?」
「いや、タマモが『どーせ、役人が見てるわけ無いんだし』って、書いちゃったんすよ。」
「ここの試験官自身は役人なんだけどね…まぁいいわ。問題が振りかかんのはあんたのとこなんだし。」
美神はそう言うと、再び闘技場へ目を戻した。下のほうは丁度ゴングが鳴ったところだった。だが次の瞬間、会場はタマモの右手に釘付けとなった。
「ほ、炎の霊波刀…?」
タマモの右手に光っているのは、横島やシロのものとは違う、炎で包まれて真っ赤になった霊波刀だった。
「さすがタマモね。霊波で手が焼けるのを防ぎながら刀の形を維持してる。」
「でも、そーなると霊波の消耗が激しくなりますね…あ、だから神通棍をつかって。」
驚いていたのは当然、美神たちだけではなかった。
「タマモお前…それは…」
「私も横島みたいな接近戦用の武器が欲しくてね。狐火と霊波のコラボレーションてヤツよ。」
「へっ、中々なもんでござる。ならば拙者も本気で行くでござる!!」
バッ!!
シロが勢い良くタマモに飛び掛る。「ギィン!!」という渇いた音が場内に響き渡り、次の瞬間には2人とも結界の両端へ飛んでいた。
「チィッ! タマモのヤツ、パワーの足りない分を火の力でカバーしてやがる!!」
「さすがにパワーだけは馬鹿みたいにあるみたいね。…ここはひとつ…」
ボウッ!! タマモが狐火を火球にして放った。その数、なんと千を越えた。
「アォォォォォォン!!!!」
今度はシロがその火球を霊波のこもった遠吠えで打ち消す。
「どーしたでござる。そんな小手先の攻撃、拙者には効かぬぞ。」
「知ってる。ただやってみただけ(まいったな…今の狐火に霊力ほとんど込めちゃったから、良くてあと霊は刀一撃分しかない…)」
「ぐぬっ…(まずい…今の遠吠えで予想以上に霊力を喰ってしまった…)キツネめ! 次の一撃で雌雄を決してやるでござる!!」
「望むところ!」
今度は2人同時に結界の端から飛び出し、中央で勢い良くぶつかり合った。その瞬間、霊力の違いに耐え切れなくなった結界が霧散し、会場全体が全くの視界ゼロとなってしまった。
「ぐわっ!?」
「きゃあ!!」
「なにこれ!? こんなことはじめてよ!!」
「二人とも、大丈夫なんですか!?」
美神たちのほうも一気になにも見えなくなった。
3分ほどして霧が晴れると、徐々に闘技場の様子もうかがえるようになってきた。美神たちから見える煙越しの人影は2つ。つまり、タマモとシロのどちらかしか立っていないことになる。美神、横島、キヌ、ユウコ、弓、雪之丞がそれぞれ目を凝らすと、だんだんとシルエットがはっきりし、とうとう誰だかがわかるようになった。
「あれは…タマモ!!」
「シロは…あ、あんなところまで…」
美神がシロを見つけたところは、決勝戦のときにシロが入ってきた扉の所だった。どうやらタマモは残った霊力を一気に放出して、シロを外へすっ飛ばしたようだ。
「みんな、行こう。」
「ターマモー!!」
横島たちがタマモの所へ行くと同時に、タマモのからだが崩れ落ち、横島に支えられる形になった。
「タマモちゃん!?」
「…大丈夫、寝てるだけみたいだ。でも、相当霊力を消耗してるから、3日はこのままだな。」
「そうだ、シロちゃんは!?」
「アイツは大丈夫だ。ほら、もう起きて雪之丞に八つ当たりしてる。」
横島の言うとおり、シロは起き上がって早々「キツネごときいぃ!!」と言いながら、雪之丞を殴りまくっていた。
「お疲れ様、タマモちゃん。」
「それじゃあ、帰ろうか。俺たちの事務所に。」
「そうですね。でも、表彰式は…」
「タマモが出れるわけ無いし、ユウコちゃん、代わりで出てくれるか?」
「はい!」
表彰式は恙無く終わり、美神たちと別れた横島GS事務所のメンバーは横島の運転するフレンディで事務所兼自宅へと帰っていった。
「ん…。」
「あ、タマモ。おはよ!」
「タマモちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だけど…ここは?」
タマモが目をこすりながら言う。だが、相当疲弊しきっているため、起きることは出来無そうだ。
「車の中よ。今、事務所に帰ってるところ。」
「そう…で、試合はどーなったの?」
「これを見なっさーい!」
ユウコが「ババン!」と効果音がつきそうな勢いで見せた物は、優勝カップと賞状。タマモは表情ひとつ変えずに受け取ったが、優勝カップを見ているその顔は、どこか嬉しそうだった。
「さ、タマモ。お前は霊力使い果たしちゃったから、3日は動けないだろ。しっかり休んで、修行はそれからだ。」
「わかってるわ。」
「おまえにゃいろいろ聞きたいことはあるが、全部休んでからだ。ゆっくり寝ろ。」
「…わかった。」
横島の言うとおりタマモは横になり、再び深い眠りについた。その寝顔を見ていたユウコとあさひも、いつの間にか誘われるように眠ってしまった。
「…ちぇ、3人ともいい気なもんだ。」
「いいじゃないですか。ユウコちゃんだって今日は頑張ったんですから。」
「そーだな。でもとにかく、タマモにはこれまで以上に頑張ってもらわないとな。」
「そーですね」
キヌが振り向くと、そこには純真無垢な表情で眠るタマモとユウコの表情があった。