Dr strenglove
「なるほど・・」
「なるほどって、なんでそれで横島さんが女にならねばならんのじゃ」
ピートは合槌を打ったが、まだタイガーは納得いかないらしい。
「多分その霊達は美神さんに自分たちの苦しみを味あわせたくて男になる、つまり性別変換の呪いをかけたんだろう。それを、美神さんの盾になった横島さんが受けたんで・・」
「ああ、美神さんもそういってた」
「で、元に戻す方法は」
「美神さんが今必死に探してくれてる」
「ああ、それはよかったですね。美神さんの事だから、後始末は自己責任でとかいいそうだから・・」
「しかし案外良い人じゃのう、ちゃんと戻してくれるなんて。霊達の指摘も当っていないじゃないですかいのう・・・・・」
「いや、女の体だとロクに力仕事も出来ないし、殴るワケにもいかなくて、腹が立った時のストレス解消出来ないからって、絶対早く治してやるって。だから感謝しろだって」
「「・・・」」
「それは止めろ横島!!」
「え?うっ!!おわ、なんだ?お前ら」
いつのまにか周りを取り囲んでいたクラスメイトの男子ら。その異様な迫力に3人共に目を剥き、貞操の危機を女の勘で感じた体が自然に引いた。
「折角クラスに美少女が増えたのだ、それもとびっきりの、今までいなかったチョットきつめの猫系美少女が・・・・・」
「はあ?」
マネケな答えを返すだけしか出来ない。唖然とする横島。
「そうだ!!確かに可愛い女もいいが、単に可愛いだけならアイドルを見ても事足りるかもしれん。が、チョット生意気そうなイケイケ系、鞭で叩いてくれそうなお姉さん系の同級生の女の子にどれだけ憧れたか ううう」
「何も血の涙流して泣く事でも無いだろう」
母親の意外な評価に、息子の彼が知らない過去を想像して危惧する。確かに女王様タイプであるとは知っているが、それを実践されていたら身内としては困る。
(しかし、昨日までの俺はこんなのと一緒だったのか?)
昨日までこの連中と同じであったかと思うと、己の過去ながら複雑に情けなかった。
「ええい、お前は今まで美神さんがいたからいいだろうが、俺たちの学校にはいなかったんだぞ、それをお前は学校終われば毎日会えるなんて・・・・何度貴様を羨んで、枕を濡らした事か・・・分かるか横島!!」
「わ わかった 分かった 分かったから、頼む手を離してくれ」
激昂して胸倉を掴まれ、味噌汁臭い息を吹きかけられて慌てる。
ブチッ
「あらっ!」
力一杯掴まれ振り回されたのでYシャツのボタンが弾け、第二ボタンまで胸元が明け放たれた。
「・・・・・」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜
クラス全員の視線が、現れた上半分の膨らみに注がれ、荒い鼻息が周りの温度を3度以上上がったであろう程に熱くなった。
「・・・」
一応美神の数年前のお下がりを付けていたが、それに隠されていてもその膨らみは大きかった。オキヌがかなり不機嫌になった程に。未だにあまり見慣れていない、己の膨らみにしばし見取れる。確かに女体は好きだが、これは己の体であるし、己の母の昔に瓜二つなので確かに見てはみたが、あまり興奮するようなタイプでは無かった。
未だに母の体と認識して以上それをマジマジと見るほどの変態では無い。その点彼は不思議な程に常識人であった。それが、本当に常識人かどうかは各人の判断によるが。動物でも虫でも普段の行動や姿格好が派手な奴に限って、案外と実生活は地味なのがパターンなのだ。パンクロッカー、舞台を下りれば裸電球の四畳半のパターンと同じだ。
「よよよ 横島 さあ つ 次のじゅぎょうは体育だから、早く着替えに行こう。心配するな!俺達の男の友情は不滅だからな。例えお前の体が女であっても、俺達は同じ更衣室でも全く気にしないぞ」
「そそそ そうだ 早く行こうではないか」
「お おお お前まだ慣れていないだろから、着替えは俺らが手伝ってやろう」
その、まるでゾンビかバイオハザーゾのような男子生徒の姿に横島は。
「・・・き・・」
黄色い絶叫が、今度は朝の学校に響いた。
ドタドタドタ
「何があったんだ」
悲鳴を聞きつけ、やってきた他クラス生徒の目には、叩きのめされて白目を向いている男子生徒の中で、手から霊波の刀を構え、怯えるように索敵を続けるガクラン姿の女性の姿であった。
「何もタイガーまで・・」
ただ一人、紳士らしく目を背けていたので難を逃れたピートが窘めようとした。多分一番ダメージの多いまま、床に血を流しながら転がっているタイガーを横目に見た。
「はあ!はあ!はあ!こ こいつが い 一番 あぶ ない けけ気配が し した・・」
ほとんどシドロモドロ。よっぽど恐かったらしい。どうやら女生としての意識が目覚めようとさえしているかも。
「確かに・・」
これにはピートも納得した。横島がやらなければピート自身が止めようと思っていた。
(俺、やっぱいつもこんな事やってたのか・・・)
いつも自分がやっている事だが、殴られる理由が分かった様な気が分かった。おまけに彼は心は男なので、それ以上であっただろう。まあ、ホモに言い寄られるノーマルの気分で、女性以上に嫌悪寒は深い。
「横島君・・・」
「え?」
すわ、又敵かと思ったが、その声は女性あって霊波刀は引っ込める。見るとクラスの女子らが、まるで取り囲むように自分を睨んでいた。
「悪いな 俺のせいでこんなドタバタにまきこんじまって」
自分が女子の中であまり評判が良くないのは分かっている。言い訳や、責任転嫁をしようと言い争っても分が悪いし、それに本物の女子に口で勝てるワケは無いので黙って頭を下げた。
「・・」
言い訳に砕心しないその態度は潔くさえ写ったようで、女子からも感嘆の声が上がったので成功!とホッとしたが、事態は別の方向に向かっている事に気がついていなかった。
「素敵!!」
「は?」
意外な答えに、今一度女子らを見直す。その瞳はある種の感情を称えていた。
(なんか見たことねえか、この目は・・)
見たことあるような気が・・・・。確かオキヌの同級生で、似たような視線を美神に向けていた、六道女学院霊能科の女学生の顔を思い返した。・・・・つまり。
「今までこの学校にいなかったから、黙ってたけど。あたし達本当は横島君みたいな、背が高くて、奇麗な長い黒髪で、男なんかよりずっと強いお姉様タイプに憧れていたの」
「うん、そう。確かに男の横島君はきらいだけど、女性ならばあたし達を積極的に禁断の世界へ誘ってくれそうで・・・」
「それに男子なんかよりずーっと強いし」
「ちょ ちょ ちょっと待て!!」
何やら得体の知れない恐怖は職業病では無い。完全にそこに存在していた。
「お お おちついてだな」
ドモリながら、後ずさろうとしたが囲まれていたので逃げ場が無い。前述の通りに彼はノーマルなのだ。男として、女は好きだ、しかし男の心に男は一番嫌だが、女の体に女も・・。
「お姉様と呼んでいいですか」
「げっ!」
その時予鈴がなった。
「さあ横島くん!!じゃなくて、今日から横島お姉様は女更衣室ですから、いきましょうか」
「女同士ですもん、お互い体もゆっくり見せっこしましょうね」
「ずるい、横島お姉様はあたしの」
「いや!!俺は今日は欠席・・」
確かに見せてくれるのはありがたいが、あまりの異様な雰囲気に腰が引けてパニくる。一刻も早く逃げて、美神が元に戻してくれる日まで部屋で蒲団をかぶって眠って過ごしたい。
しかも先の男子と違って霊波刀で撃滅するわけにもいかないので、まるで気弱な女性が痴漢にあったように身を固くする以外に方法が無かった。この時点で文殊で(眠)とかを使うという方法も、パニック状態では地平の彼方に消えていた。
「ピピピピピ ピート〜!!た 助けてくれ〜」
ズルズルと更衣室に引き摺られていく横島に「僕も女性に手を出すわけには」とのフェミニストの言葉をやっぱり横島は好きになれなかった。何故なら、今はその言葉が死の宣告と同じであった。この際自身の事は忘れて叫んだ、いつかの美神の台詞に似ていた。
「この学校!!男も女もこんなんしかいないのかよー」
バタンと閉められた女子更衣室から、悲痛な叫びが響いていた。
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