告白。

著者:hazuki


12月25日ことクリスマスと呼ばれる日。

そこは美神の私室の前である。
どきどきどきどき。
「うううううううう」
となにやら胸を右手で抑え奇声を発している野郎が一人。
ちなみに顔は火をつけたように真っ赤であり、かちかちに全身がこわばっておりまるで自分の身体ではないような(と実際そんなことはありえないのだが)錯覚に陥っている。
喉はからからで上手く声は出ないし、心臓がばくばくうるさいし、顔は熱いのに手足が冷たい。
(……どないせいっちゅんやああ)
これが野郎こと横島忠夫18歳(笑)の偽りない本心だった。
ことの発端は数時間前になる。
横島は今春めでたく(なんとか留年もせず)高校を卒業した。
そして大学にゆく頭も意思もなかったので卒業後もなんだかんだいいつつ美神の元で働いていた(ちなみにまだバイトだったりする)
そして卒業して初めてのクリスマスの日ー。
(……といっても夜遅くまで仕事であったのでその時までクリスマスなんてことにきづかなっかたのだが……)
横島は町じゅうに溢れるクリスマスソングに耳を傾けつつ仕事の帰り道を一人寂しく歩いていた
さっきまでの仕事で体のふしぶしが痛む
疲れた目にネオンの光が眩しい。
「まったくクリスマスなんざ、キリスト教徒だけがひっそりと祝ってりゃいいのによ」
とやら
「まったくカップルばっかでうっとうしいんじゃ」
とかどう贔屓目に聞いてももてない男のひがみにしか聞こえない事をぶちぶちと言っている。
……寂しくというのは語弊があるかもしれない。
と横島がやたらにぎやか(?)に一人歩いていると……
(ん?)
横島の視界に美神の姿が入ったー。
いや美神といえども出歩く事はあるだろうしだからどうした?
と聞かれても困るのだが。
ただ問題なのは、その華やかなイルミネーションに彩られたいかにもカップル専用の店の一つにいた事で、しかも男連れだったのだ。
男は20代前半だろうか?
多分180はあると思われる長身に標準をはるかに越えた容姿。
手触りの良さそうな(=値段が高そうな)黒のコートを嫌味なく着こなしている。
一方美神はいつもは下ろしている髪をアップにしており真紅のドレスに身を包んでいた。
二人は仲睦ましげに腕を組み何事か楽しそうに話している。
美神は若干表情に強張った所が見えるがその男のほうは子供のように瞳をきらきらさせている。
それは一対の絵のようで、周りのカップルからは羨望の視線を注がれていた。
ちなみに今日は恋人たちの聖夜ークリスマスである。
(!!)
瞬間、横島の頭の中では瞬時にして、美神と謎のきざ野郎のこの後のデートコースがシュミレートされた。
そしてもちろん最期に到達すると思われる場所は……。

ぶちんっ
と横島の血管が2・3本切れた。
途端かあああっと頭に血が上る!
足が勝手に動いていた。
と同時にばんっとその店のドアを開く!
店員が何事だっ!と言った感じで横島を見るが知った事ではない。
というか横島の鬼のような形相を見て言葉をかける事ができなかったという理由もあるだろうが。
ずかずかずかずかっ
と効果音が付きそうな勢いで進み美神と謎のきざ野郎(さっきの男)の所へ付く
視界に入るのは自分より遥かに面のいい男である
がしっ
そして憎しみをこめて胸倉をつかもうとした瞬間

があああんっ
と横島にはよおくなじみのある鉄拳が横島を床へと沈めた。
いわずもがな美神の拳である。
そして床へと沈んだ美神の第一声が
「あんた何でここに居るの?」
である。
打ち倒しておきながら何言ってるんだと言いたい所だが多分横島をぶちのめすのは美神にとって条件反射みたいなものだろう。
常人では一時間は気を失ったままであろう衝撃だが、横島は「いてて」と呟くだけでなんなく立ち上がる。
「美神さんこそっなんでこんなところにいるんですかっ。しかも今日は仕事っていってたじゃないですかっ」
と横島は殴られた頭をさすりつつ噛み付くように問い詰める。
「あんたには関係ないでしょっ!」
とたんに美神は首まで赤くなり怒ったように怒鳴りつけた。
……。
……。
「……やっぱ……」

と青ざめた顔で横島。
「やっぱその気障やろーとめくるめく一夜(笑)をすごすんじゃー!!」
と叫び男の胸倉をつかんだ。
「え?」
と美神
「いいかっあのちちも、ふとももも、俺がどんだけ苦労して眺めてるとおもうんじゃああもう本当なら2・3回どころか十回以上死にそうになりながらそんでもめったなことでは触れない貴重品なんやぞおおっ!お前みたいななんでもありそうなもてもて野郎にあのねーちゃんと一夜を過ごす権利なんぞないんやああああ」
血の涙を流し鬼のような形相でさけぶ横島。
……………周りにいるギャラリーはおもいっきし引いている
「いや、僕と令子はそんな関係じゃないって」
と胸倉をつかまれながれ至近距離で血の涙を流している横島に苦笑しながら男。
………この状態で苦笑できるのはけっこう大物だろう。
「れいこだとっ!何人の女気安く呼んどんじゃー」
と更に横島。
「だれがおのれの女じゃあっ!」
がああああんんっ
美神の怒声と共にコークスクリュブローが横島の顔面にヒット。
スローモーションのように床に倒れる横島
既にギャラリーのほとんどは逃げるように店の外に出ている。
ぐぐぐぐぐっ
床に倒れこんだ横島はがくがくと揺れる右腕を上げて
「いやじゃああああ……あの身体はおれんじゃあ」
息も絶え絶えに沈まされても尚もいいつのる。
どげしっ!
美神はとどめとばかりに後頭部を真紅のハイヒールの踵で踏みつけた。

「ごめんなさい関さん……」
ぐりぐりと横島の後頭部をヒールの踵で踏みつけながらシオらしい声で謝る美神。
「いいよ♪僕も楽しいし……そうかあ君が横島君かあ直に話すのは初めてだね。うん興味深いなあ」
とにこにこと人の良さそうな笑みを浮かべ男こと関
「……ただの煩悩全開男よ」
美神の方はやたらと不機嫌そうだ。
床から横島の抗議の声があがるが無視。
遠巻きに恐る恐ると言った感じで店員が見ているにも関わらず(客は既にいない)ごくごく普通に会話(しかも横島を踏みつけたまま)をしているこの二人(とくに関)只者ではない。
「だけど。彼の事だろう?」
爽やかに笑みを浮かべ関。
だが穏やかな口調の奥には潜んでいるものは……
すうっと美神から表情が消える。
「権利は彼にあると思うけど?」
尚も関
「……………………馬鹿」
うめくように悔しそうに美神はぼそりと呟くとどげしっと全体重を乗せて横島の頭を踏みつけた。
「ってえええええええええ!」
もちろんこの叫び声は横島である。
待つこと数分。
やっとのことで美神から開放された横島は既に形が変わったと思われる後頭部をさすりながらその場に座っている。
というかその間(数分間)誰も止めなかったらしい。
「残念だったねえ」
とさわやかに関。
この場のおどろおどろしい空気にはかなり違和感がある。
「あんだよ」
と横島。
本当ならこいつを問答無用でぶちのめしたいのだが、そーゆうことをしたら美神からどんなどんな恐ろしい目に遭わされるか……考えるのもそら恐ろしい。
ので一応睨むだけにしておく。

ぞわっ
……理屈でもなんでもなく唐突に寒気を感じた。
何の理由も無くその場所から飛びのく。
次の瞬間ばああん
と音をたてて、床がなくなっていた。
「な……なななな」
……とぱくぱくと口を開き横島。
「お見事♪」
と楽しげに関。
気がつくと目の前に関の長い脚があった。
どうやら横島に向かって蹴りを入れたらしい。
だが、何も気付かなかった。
何時蹴りを入れたのか動いたのかまったくわからなかったのだ。
美神ははあとため息をついている。
「な………なんだってめーわっ!!」
とおもいっきし腰が引けている状態で横島。
まあそりゃそうだろう。
「いやちょっとした挨拶をね」
と少し照れたように鼻の頭を掻きながら関
「……挨拶で蹴りをいれんのかいっ」
とちょっと涙目になりつつ横島。
「問答無用で折檻されるよりはいいと思うけどなあ……で。どーだい僕の事務所にこないかい?」
とにこやかなまま関。
話が見えない横島は頭に「?」マークが浮かんでいる。
「給料は月給で一千万以上は保証するし、専用の補佐もつけるよ。」
とにこやかなまま関。
「は?」
と横島。
「だから僕のところにこないかい?」
「……ぜってえ嫌だ」
とその関の言葉を理解した瞬間はっきしきっぱしいう横島
誰がやろーのしかもこんな恐ろしい真似するような奴の所にいくか
「……そうか結構いい条件だと思うけどなあ……うーん困ったなあ」
と腕を組む関。
困ったと言っている割には全然そうゆうそぶりが見えない。
「馬鹿ねえ良い条件なのに」
と呆れたように美神。
だがその声には安堵の感情が混じっている。
「……こんなの冗談かなんかに決まってるじゃないすか」
とそんな美神の様子に、「はああ」とため息をつき横島。
時給制のしかも半人前の自分がなんでそんな好条件で、雇いたいと言われるわけが無い。
それに万が一雇われるとしてもこんなきざやろーといっしょに働くなんぞ死んでもごめんである。
断ったというのにこんな風ににこにこしてるのがいい証拠だ。
よーするにからかっているだけだろう。
……まあ冗談で攻撃するあたりが美神の知人(ということにしておく)らしいといえばらしいが……。
それよりも「いい条件なのに」といった美神の言葉がなぜか痛かった。
(やっぱこの人にとって俺は、取替えの聞く単なる助手なんだろうなあ)
美神の顔がなぜかさっきより上機嫌に見えるのも自分が関というきざやろうの誘いを断ったからではなくて、これから二人でどこぞへといくのが楽しみだからだろう。
まあそれはもちろん邪魔をするが。
いやするといったらする!
あのねーちゃんが自分のものにならないのは仕方が無いとしても他の男のものになるのは絶対に許せん!
血反吐をはきつつもこのねーちゃんの傍にいたのはいつかものにできると思ったからである。そのささやか(?)な希望まで奪われて溜まるかっ!
「じゃあちょっとつきあってくれないかな?横島君」
と頭フル回転させ関と美神を邪魔する方法を考えていたら―
苦笑するような関の声が振ってきた。
「へっ?」
と横島。
「あら、今日のお相手は私じゃないの?」
艶やかに微笑みながら美神。
首をかしげる仕草がいろっぽい。
「すまないね♪僕としても可愛い令子の相手をして上げられないのは残念なんだけど♪」
折角だから横島君と僕は話したいんだ
にこやかにーだがそれ以上の介入を許さないように関。
「…………………こんな美女よりそんながきがいいわけ?」
「ああ今日はね。この埋め合わせはするよ」
と関は穏やかに笑う。
一人話についていけない横島はただそのなりゆきを見ていた。
いや、このなにやら一発触発の空気が恐ろしくて口を挟めないといったほうが正しいだろう
「横島くんっ」
「……え。」
とぼんやりとしていたところにいきなり名前を呼ばれ慌てて立ち上がる。
「関さんとの話が終わったら私の部屋にきなさい。何時でもいいからー」
と珍しく硬い声で美神。
それはらしくもなく少し違和感を感じる
「はい?」
思わず返事が疑問形になる。
「いいからくるのよ」
絶対に。
有無を言わせない強い口調でいうとつかつかつとヒールの音を響かせ美神は消えていった。
「???????」
と横島。
どうもいまいち意味をつかめない
「じゃあいこうか?」
と関。
「あんた美神さんはいいのか?」
と困惑しつつ横島。
美神と関が離れたのは嬉しいがなぜ自分は関と一緒にいないといけないんだろうか?
「ああ。僕の目的は君だからね。やっぱり口説くなら直接当たったほうがいいだろう?」
とわらいつつ関
「・・・・いっとくが俺にそのケはないぞ」
うそ寒いものを感じ横島。
「奇遇だねぼくもないよ。」
とのこやかに関。
「僕にはマイハニーだけさっ」
とその容姿をそぐわない台詞をにこやかにしかし大真面目に関。
「……………………。」
この場合つっこみを入れるべきか無視するべきか……?
思わず悩んでしまう横島。
悩んでいる間関はその店の店長と思われる女性とニ・三言なにやら話している。
どうみても関より十歳以上は年上と思われる女性が関に頭を下げていた。
関はひらひらと右手を振り苦笑しつつそこから離れた。
「なにか食べたいものあるかい?」
と店を出ながら関。
ちなみに今横島と関は店員全員に一列に並ばれ「ありがとうございました」と言われている。
あれだけのことをしてこーゆう風に見送られる事に居心地の悪さを感じながら横島は牛丼とそっけなくこたえた。
ひゅう
と身を切るような冷たい北風が吹き抜ける。
思わず背をちじこませるが隣にいる関はぴんと背筋をのばしたままだ。
「で。何だよ?俺が目的って」
なんでこんなやつと自分はここにいるんだろうと思いつつ口を開く。
「僕のところで働いてほしいんだ」
と吉○家ののれんをくぐりつつ関。
……なにやらかなり違和感を感じる光景である。
「さっき断ったじゃないスか」
何をいってるんだこの男はいった顔つきで横島
と横島はいうが関は話を続ける。
「君は知識も経験も足りないがその特殊な能力と圧倒的な力は貴重なものだ・・僕は能力のある人間はそれに見合った金銭を払われるべきだと思うんだがいまの君の状態はあまり恵まれたものじゃないだろう?僕の所に来れば少なくともその力に見合った報酬を約束するが?」
と関はすわりながらいう。
「……美神さんと間違ってません?」
しばしの沈黙の後横島。
まあはっきしいってあまりちゅうかかなり恵まれて無いですけど
普段の扱いを思い出ししみじみと呟く。
「いや君だよ。横島忠夫くん」
さっきの条件はほんとうだ。君はそれだけの価値があるんだ。
といってあ・特丼つゆだくでーと注文する。
「おれも同じで」
と横島。
「第一きみは僕の攻撃をかわせたじゃないか」
と注文しおわりお茶をのみつつ関。
「……そーいやあんたおれにいきなり攻撃しましたよね。よけきれなかったらどうするんですか」
「その時は適切な応急処置をとって救急車をよぶつもりだったが」
どん
と目の前に牛丼がおかれる。
「……まあくいましょう」
となにかがずれているのをかんじながら二人は牛丼に向かった。


40分後ー。
横島と関の前には空になった丼が15個程並んでいた。
「ふううう食った食った」
と腹のあたりをぽんぽんと叩きながら満足そうに横島。
「まあ一人で十杯も食えば……」
呆れたように呟く関。
「ここんところくに食べてなかったから仕方ないでしょーが……て六杯食べたあんたに言われたくはないぞ」
とずずっとお茶をすすりながら横島。
普段の食事の貧しさを思い起こさせる台詞である……。
「それでさっきの話なんだが…」
「おい。今故意に話変えたろ」
と横島。
「君を僕の事務所に迎えたいと思ってるんだ」
「だから」
「もちろんできる限りの譲歩はする」
「牛丼…」
「なんでもいってくれっ」
「……いいよもう…」
疲れたように横島。
「報酬も折半でいいし、秘書も美人どころをそろえよう。ただ君はこれまでどうりの仕事をしてくれればいい」
とたくわんにはしを伸ばしながら関。
……牛丼食べる姿を見た時も思ったが、関と牛丼屋この上も無く、似合わないというよりも……変である。
例えていうならば、白馬にのった王子(笑)が八百屋で大根買ってるのと同じくらい違和感がある。
まあ本人は露ほども気にしていないようだが……
しかもこの慣れた態度からみると、牛丼屋に何回も通っているであろう。
……いやそんな事はどーでもよいのだが。
それよりも……
「……美人?」
と横島。
どうやら美人の秘書というところに反応したらしい。
「ああ。君の趣味嗜好にあう女性をピックアップするが」
とにこやかに関その言葉には嘘が無さそうだ。
そして、ここに来て本当に自分がスカウトされていることに気づく。
もしいままでのが全部本当なら、ものすごくというか……冗談のような待遇の良さである・・・。
「なんで俺なんですか?」
となにか裏があるとおもいつつ聞く横島。
自分を引き込んでいいことなんぞあるわけないとは思うが。
そう横島が思うのも無理はないだろう……。

「……なんでって」
関は君は本当に自分の価値がわからないなあといって苦笑する
「まあ。僕がきみを欲しい理由は一つ。君が優秀だからだよ」
ずずっとお茶をすすり関。
「……ゆうしゅう……?」
と意味は知っているが生まれてこの方自分を形容する言葉としては使われた事の無い単語を口に出され硬直する横島。
「……ぼくは、力がないんだ」
と関。
その声には何の変化も見られない。
「へ?」
横島は呆けたような顔で聞き返した。
「まあ…霊力はその辺のGSよりもある自信はある。だけど、どうも攻撃のほうばかりに傾きすぎて、自分を守る…というか防御とか第六感といったものがぬけおちてるんだ…これは生まれついてのものらしいけど」
だから信頼できる相棒が欲しいんだ。
と関。その瞳の色は真剣である。
そして右手の一指し指でとんと自分の額を指す。
「これまでは、自分の力と頭脳でなんとかやってきた。だけどまあ信頼できる相棒がそろそろ欲しいと思ってね」
「………おれ馬鹿っすよ」
と横島。
「知識の問題じゃない。君は知っているだろう?力だけじゃどんなに強力なものがあっても駄目だという事をー」
「…………」
「肝心なのはそれを使う頭とそれらを支える強い意志そしてー閃き」
君は知っているはずだよ。その上能力もある。
と言って関はにっこりと笑った。
「……いや買い被りすぎですよ」
とお茶を手にもったまま横島。
……話している内容はいたってまじめなのだがなぜたくわんをかじりつつなのか…
「で、返事はどうだい?」
と関。
ちなみにぼくは攻撃能力だけなら令子より上なんだよ?
それを君は躱したんだと付け足す。
だが横島は……
「すんません」
と一言。
さっきのようにそっけなくではなく……謝罪の気持ちを込めて断りの言葉を口にした。
「そーいってくれたんは嬉しいですけど…やっぱ遠慮します」
じっと湯のみを見つめながら横島。
ぱさり
と少し長めの前髪が落ちてきて横島の表情を隠す。
「本当に?」
と関。
「はい」
と横島。
「本当の本当に?」
と再び関。
「…はい」
と再び横島
「本当の本当の本当に?」
三度関。
「…すんません」
三度横島。
「本当の本当の本当の本当に?」
四度関
「…あの……いい加減に………」
顔を関に向けつかれたように横島。
「いやちょっと信じられなくてね」
とすまんすまんといって笑う。
「そりゃまーそうでしょう」
と俺もなんで断ってんのかわかんないですよ。と言う。
「そうかあ。残念だなあ」
といって関は寂しそうに笑った。
「…すいません………でもホントなんで俺なんですか?優秀とかいってももっと、他にすごいやつ…美神さんとかいるじゃないですか」
と横島が心底不思議そうに聞く。
まあ美神をヘッドハンティングしようという馬鹿などいないだろう。
ある意味この女性は敵に回すのと同じくらい味方につけるのは恐ろしい。
すると関は柔らかく笑い
「優しいからだよ」
と穏やかに言った。
「……優しい?」
自分を指し横島。
「ああ。ほらその証拠にさっき僕が攻撃の方に能力が傾いているってきいてどう思った?」
「…いやすげえなあと」
「自分を守れないのに?」
「だって考えたんでしょ…守らなくても勝てる方法を……それでいままで勝ってるんやし…すげえじゃないですか」
自分を守ることが出来ない
この仕事でそれがどんな意味を持つのか横島は知っていたのだ。
なのにこの男はそれをやってのけてきたのだ。
そして今こうしてここにいる。
その事がどんな事なのか分からない訳が無い
「だから君と仕事がしたかったんだけどなあ」
どうしても駄目かい?
と関がいう。
……?なんで自分と仕事がしたいんだ?
いまの問答でわかる訳もなく横島ははてと首をひねる。
「やっぱり金銭より恋人がいいのか」
だが関は答えを寄越さない横島に落胆したようにお茶のおかわりをしつつ恨めしげに言った。
「はあ?」
と横島。
「ん?横島くん令子の恋人だろ?」
と関。
事実を確認するように関。
「………違いますよ」
とならいいなああああとおもいつつ横島。
「え?違うのかい?」
首をひねる関。
「まーいつかはあの体はものにするって予定ですけどね」
と横島。
「え?横島くんは彼女を好きじゃないのかい?」
と不思議そうに関。
「へ?」
と横島。
「体だけかい?彼女があの性格でもなくてもいいのかい?あの外見なら?あの高飛車で、相手の都合より自分の都合が大事といってなくても」
………関はどうやら美神を正しく把握してるらしい。

つづく


[ 後半へ ][ 煩悩の部屋に戻る ]