「小竜姫様でも苦戦はするだろうと思ってたけど、まさかここまで鍛え上げてたなんて・・・」

 おもわず、美神美智恵は嘆息交じりに呟き、目の前の結界内で戦いを繰り広げる二人を眼で追った。

 日本GS協会本部、試験会場。この日、免許の更新と昇級試験を受けに来た多くの者が、会場の中央に設けられた円形の試合場で繰り広げられている二人の戦いに眼をむき驚愕していた。・・・人間の彼が神属相手にここまで渡り合うとは!

 ひとりはそう、20代の女性にしかみえないが、竜神の衣装もつきづきしい小竜姫。もう一人は、髪を無造作にオールバックにし、黒を基調とした戦闘用の防護服を纏った男性。意匠からして魔族のような印象をうける。

小竜姫の流れるような斬撃をこれまた流すごとくにいなしてゆく。息つく間もない攻防を繰り返し小龍姫が振り下ろす神剣を、右手に構えた霊波刀でがっしりと受け止める。お互いの息がかかりそうな距離で男が言葉を吐く。

「だー、もうちょうい手加減してくれんと死んでしまうっ!」

「ふふっ!言葉と顔は正反対ですよ?それにわざわざ人間界まで降りてきてテストしてるんです、もう少し修行の成果を見させてください。」

 真剣な面持ちとは逆に、くつろいだような会話を交わす二人。

「さあ、まだまだ時間はあります。見せてくださいね、その力を!横島さん!」

 

其の一

 

 

 今現在、日本のゴーストスイーパー免許保持者はおよそ二千名であり人口の割合からいえば極端に少ない。免許取得は本当に狭き門なのだ。無論、そこは世の習いでモグリのスイーパーや免許取得はしていないが除霊能力のあるものは確かに居る。しかし、免許の取得も出来ない者の実力など高が知れているし、ただでさえ胡散臭い眼で見られがちな職業柄もあり免許のない人間など信用しようとゆう人間はそういなかった。

 ちなみに階級は下から、

 

『I』 見習い期間。但し、特定の師匠がいない場合は協会就き。

『SL1・2』 1が上。独立可。但し、除霊内容報酬内容とも制限有。

『VS1・2』 除霊内容報酬ともに一部制限有。見習いの雇用可。

『VVS1・2』 無制限。税的控除有。

『IF』 協会から贈られる名誉勲章。研究、開発の分野にも適用。

『FL』 最強。実力のみの称号。今は世界で3人のみ。

(・・・なんかダイヤの、等級みたいなような、どっかの戦闘用ダッチワイフのランクのような・・・まあ気のせいだ!)

『FL』は日本で、美神令子のみ。

 まさに実力だけがものをゆう業界なのであり、横島忠夫はその『FL』試験を今受けているのだ。日本での『FL』取得条件は簡単で、妙神山管理者に認めてもらうことのみ。勝敗は関係ない。但し、『VVS1』『IF』取得者に限る。

通常であれば受験者が山まで赴くのが礼儀だが、天龍童子の一件以来これといって娯楽のない妙神山管理人はなにかと理由をつけて下界に降りてきていた。今回の試験もしかり。

 少し間合いをあけて対峙する二人。かれこれ15分近く戦っているが、お互い決め手に欠いているようだ。小竜姫の方が終始押し気味に攻めてはいるように見えるものの、すこし疲労していた。くらべて横島の方は辟易している口調だが、まだまだ霊力に余裕があるのが戦っていると、わかる。小竜姫は内心横島の成長に舌をまいていた、あのアシュタロスとの一件からはや6年、まさかここまでの成長をとげるとは思ってもみなかったのだ。

 

 6年前、横島は戦いの中で最愛の者を失うとゆう衝撃を味わった。しばらくは普段以上に明るく振舞っていたのだが、半年もすると徐々にふさぎ込む日が多くなった。時間がたてばたつほど、その者に対する思いが大きくなり押しつぶされそうになる。そんなとき事務所の美神やおキヌらはかける言葉もなく、ただ腫れ物にでもさわるように見守るしかなかった。

しかし、それから半年もするとなにかふっきれたように、修行に励むようになり、時給制のパートタイマー(時給300円これでもアップした)の立場をおおいに利用し何ヶ月単位の休暇をもらい、天界の修行場を尋ね歩きそれにも飽き足らず魔界の軍にも鍛えに出かけた(今回の戦闘服はそのときにもらったもの)。もちろん、天界、魔界共にパイプラインをもっている彼であり、そのガイドはいつもの顔ぶれであった。

今どき時給を300円に設定しているオーナーがまともである訳などなく、通常ならこの様な不謹慎な従業員は鉄拳制裁の餌食であった。

 しかし、何故かこの件に関してだけオーナーは寛大であった!休暇届けを出すのに制裁と文殊の治療、下手をすれば解雇通告を覚悟していた横島はオーナーの寛大な態度とがんばりなさいよの一言に、いつぞやピートから聞いたイタリアンマフィアの話を思い出し、自分の葬式を覚悟した。そんな思惑が顔に出て結局はフルパワーの制裁をうけたのだが・・・。

 

 


※この作品は、矢塚さんによる C-WWW への投稿作品です。
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