gs-mikami gaiden:moon - friend of the earth

著者:西表炬燵山猫


lunatic-night


  夜の町にガオーは鉄人だが、今日の東京の夜の町には別のおたけびがこだましていた。
   ワオーン ワオーン ワオーン ワオーン
 お盆のような満月に向かっての遠吠えが都会にこだましてする。満月の時は月の魔力を存分に地球に浴びせるので狼系の野獣は月に向かって吠えるらしい。

   ワオーン
 美神令子除霊事務所の屋根の上でも、満月に吠える狼のシルエットがうつる。
 賢明な読者ならば、きっとシロだと思うだろうが、そうでは無かった。吠えているのは確かに狼ではあるが、いたであろう。シロ以外にも事務所には狼が一匹。


   ワオー
 一際大きな遠吠えであったが・・・。
   パカーン
 そのシルエットの頭に何かが当たった。当たった乾いた音が派手に響いた。
  「ええい!やかましいわい アホー!!」
 事務所の隣、オカルトGメンの入居している雑居ビルの屋上からコンクリブロックを投げた西条が忌ま忌ましげに叫ぶ。
  「こっちは残業で、デートの断わりをいれる羽目になって気がたっとるんだ。叫ぶならどっかの山で・・・あっ」
 口を押さえるが遅かった。
   ボグッ
 今度はその西条の顔面で、どこからか?誰か?は不明だが、投げられた美神愛用のダンベルと西条の顔面の熱烈なキッスの音が響いた。


  ワオーン ワオワオワオ ワオーン
 西条の投げたブロックなどにめげずに再び吠える・・・・・横島だった。
  「でも、それにしてもうるさいわね。あのアホは、本当に。また変な噂が流れるわね。一思いに薬殺しようかしら」
 事務所で天井を見ながら、その手に筋肉弛緩剤を握る美神である。<注1
  「せんせえも大分狼らしくなってきたでござるな〜。ど〜れ。拙者も一緒に屋根に昇って吠えるでござるか」
 シロが屋根裏から向かおうとしていたので流石にそれは周りが止めた。町内に名だたる横島の評判は今更と諦めてても、まだ年端も行かない女の子が屋根の上で吠えていたなどとは体裁が悪すぎる。事務所の長は意地っ張りなので体裁の悪いことは極端にしたく無かった。「あんたも薬殺するわよ」との脅しか?最後通告か分からぬ言葉に悲しそうに鳴く本物の狼一人であった。

  「だいたい、狼は狼でもあんたとは大分違うわよ」
  「そうですね。シロちゃんのは種族名だけど、横島さんのはどっちかとういうとピンクレディー状態の方ですからね」
 オキヌは「男は狼なのよ(以下略)」と『S・O・S』を美神と二人で振り付けありで唄い出した。ちなみに美神がミーちゃんを踊った。「あたしもミーちゃんで踊りたかったのに」とオキヌが恨めしそうにぼやく。やはり古今東西、力関係で強いほうがミーちゃんをやると云う定説は正しかった。<注2


  「そ それはともかく。やっぱり、不味かったですか」
 その二人のあした順子 ひろしのような掛け合い漫才についていけずに汗を拭うのは妙神山からやってきたヒャクメ。顔は力なく笑っていた。<注3
  「コホン・・・・まあ結果的にはね」
 白い視線はわざとらしい咳払いで誤魔化し、ヒャクメが持ってきた、不味かった原因たる災禍のビデオを手でもて遊ぶ。


 例の事件から活発に行なわれるようになった 人間界 神界 魔界 三界の定時連絡会でヒャクメは東京に来るようになっているが、その連絡会が都庁で終わった後にヒャクメは美神事務所にやって来た。
 別段遊びにくるのは初めてでは無い。が、今回に限ってヒャクメは皆に、主に横島にお土産持参していた。それが今美神が弄んでいるビデオテープ。
 主に横島向けと云われているが、決して以前に神魔の連中が身を潜めていた18禁系統のモノを、あの時のお詫びにと云う理由でも無い。

 中身はヒャクメが今日人間界との連絡を取りにやってきたのの、まあ神界と月神族版とも云える会合の記録用テープ。
 誰かに似ている迦具夜姫や、その側近とが所謂政治折衝を記録した正式文書だ。無論普通ならば美神達には全く関係無い祭事なので、一応秘匿義務もあるのでヒャクメがわざわざ持ってくるような物では無い。問題なのは、正式な通商会談の後の非公式な通話記録にあった。
 内容は月神族の文官長と治安長の二人が、前の月での恩義もあったであろうが、改めて感謝の意を込めたビデオメッセージ。
  「前の戦いの感謝のメッセージね・・・・どこが」

 美神とオキヌも三拍眼で写し出された画面を睨む程に、どこをどうみてもその映像に音声は遠く離れた恋人に呼びかけるビデオレターの様相を呈していた。表に現れる言葉こそ月での戦いや、横島の働きの世辞に重点をおいてはいるようだったが、自分の感情を織りまぜる折は顔といわずに手と云わずに二人して全身真赤になっていた。
  『なるほど。過去は美化されるのね〜。まるで逃した魚は大きくなるのと一緒で、出会った時間や情報料が極端に少なかったり、短かったら、思いでの中でどんどん美化が雪達磨式に大きくなったみたいね〜〜〜〜』<注4
 論理的な推理に裏打ちされた嫌がらせで、バシンと夢を打ち砕いてやろうと思ったが。
  『でへへへ』
 顔を、熱したフライパンに入れたラードのようにデロリと溶かす告白を浮かべた野郎には馬耳東風らしい。背中の女達の事など、今の彼の宇宙の何処にも存在していなかった。プルプルプルと後ろで青筋を浮かべたり、獲物を用意している女達の不穏な害意も心の片隅に無いように・・・・。

 そして最後の朧の言葉に頂点を迎えた。
  『また、お会いしたいです。横島どの(ポッ)』
 最後のカッコ内は無論顔をこれ以上無い程赤らめた彼女の表情。それはまるで卒業していく憧れの先輩に告白する下級生の女の子とでも云えばいいような顔。お約束に、喋った後は多少後悔したように、慌ててカメラの視界から逃げて唐突に画面は黒くなった。
  ガラッ
 開けた窓から頭上に輝く満月を望む。
  『うお〜〜〜〜〜〜〜。朧〜〜〜〜〜〜〜。神撫〜〜〜〜〜〜〜〜』
 夜の町におたけびが・・・。
  ワオーン ワオーン ワオー ウオーン 
 まるで映画「マスク」のように首から上が狼になっていた。<注5

  ドグッ ガッシャーン
 次の瞬間空を望んでいた窓枠ごと、後ろから暴走列車に追突されたように横島の体は宙を舞った。<注6
  『・・・・・(タラ〜)』
 やはり、持ってくるべきでは無かったと汗を拭うヒャクメ。


 夏も近いのでいいかもしれないが、風の通りがとても良くなった、元窓があった所をみて美神がぼそり。
  『オキヌちゃん。明日壁と窓の修理を頼んでおいてくれる』
  コクリ
  『請求書は、今窓の外で転がっている奴に回しておいてね』
  コクリ
 この会話に更に垂れる汗・・・・。




注釈
  注1 筋肉弛緩剤 主にペットの安楽死用に使用。筋肉を動かなくする薬品で、当然多量にしようすれば筋肉の塊である心臓も停止する。数年前の愛犬殺人事件において犯人が使用して有名になった劇薬。

  注2 力関係の強いほうがミーちゃんをやる定説。一般に人気の度合いはミーちゃんの方が高かったので、姉妹などで振り付け覚える時は姉が権力を行使してミーちゃんをやっていた。ミーちゃんをやらせて貰えなかった妹は、学校で自分より力の弱い同級生相手に溜飲を下げていたと伝えられる。

  注3 あした順子 ひろし。浅草の漫才師。ひろしさんの方が師匠で、北野武さん絶賛の漫才師。「たけし○誰でもピカソ」の山藤さんの似顔絵塾で取り上げられて、芸術的とまで絶賛されてから全国区になった。これは枯れ具合が素晴らしいと筆者もお気に入り。

  注4 情報料が少ないと美化される。女性のパンチラ理論ともいう。みえそで見えない物こそ人間は見たくなり、小出しにされたので全体が掴めないならば、知られていない情報の欠落を己の想像で埋めるので時折原形から全く異なった虚像が生まれることも多々ある。アイドルがその典型。
 小出し作品で有名なのはニュータ○プでチョビチョビと連載されている長野某のフア○ブスタース○ーリー。連載開始からのファンが、全く読んだ事が無かった友人に進めて読ませた所あまりの評価の差異に思わず友情にヒビが入ったと筆者は聞いた事がある。
 やはりミニスカートのパンチラは見えやすいが、ロングスカートのパンチラの方が珍しいだけに価値が高いのと同じなのだ。

  注5 映画マスク。主演ジムキャリー。全く関係ないが、彼の前の離婚の原因はアッチが駄目になったからであったらしく、バイアグラのお世話で復縁したらしい。

  注6 どんな光景であったか知りたい方は 映画 大陸横断超特急をご覧ください。中々の傑作だと思う。


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