hey!jack on the stratos


  「おはよう、オキヌちゃん」
  「あ お おはようございます美神さん」
 爽やかな朝に似つかわしく無い顔を合わせる二人。
  「ソッチもあのアホのお陰で眠れなかったみたいね」
  「み 美神さんもですか?」
 横島の月へのウオークライ(咆哮)は夜中じゅう続いていたのだ。夜を費えて屋根の上で鳴いている男がいれば、階下の乙女が眠れる筈も無かっただろう。
 もう一発喰らわして、一思いに止めを刺そうととも思ったが、泣きたい時は思いっきり泣かせたほうが後腐れなくていいとの理由からほっといていたのだが、鳴き止んだ後でも耳鳴りがしておかげで朝方までろくに寝れなかった。


  「ああ。もう昼じゃないの」
 時計はもう直ぐ12時を回ろうとしている。まだ若いとはいえでも寝不足は美容の大敵なので二人して意地でも寝ていた。ちなみに屋根裏で近いはずの二人だが、仲間が吠えたぐらいで寝不足でやってはいけないのだろうか、構わずグッスリ眠れたらしく、今日も元気に散歩に好物のサーチとマッピングにと勤しんでいたようだ。
  「土曜で良かったです」
  「そうよね。朝食・・・・じゃないわね。昼食どうしようか?。隣の喫茶からサンドイッチとコーヒーでも頼もうね。オキヌちゃんはカツサンド?それともハム?それとも野菜にする?」
 二人して低血圧なのでまだ体も頭も眠っていて、今のままのオキヌでは手を切るのがオチだ。オカルトGメンも入っている隣の雑居ビルの地下にある喫茶に二人分のオーダーを入れて、待つ間にとテレビを点けると調度お昼のニュースが始まった。
  『お昼のニュースです・・・・・』
 [王様のブランチ]の檄安情報が見たい美神であったが、オキヌに付き合う事にした。

  『今朝早くにアメリカ軍嘉手納基地から戦略偵察機SRー71がハイジャックされたばかりでしたが・・・・』<注7
  「あ〜?。なにそれ」
 思わず新聞から目を上げる美神。
 昨今テロハイジャックは珍しくは無いが、何故に軍用機で乗員も殆ど乗れない機体を乗っ取ったのか美神で無くとも不審がる。軍人では人質にもならないので、狙うなら民間人の旅客機に限るのが定石なのに・・・・。
  (あんなもの乗っ取ってどうするの?。早い以外に何の取りえも無いのに。飛行機マニアかしら)
 高度3万3千メートルを最高速度マッハ3.3で飛ぶ戦略偵察機ではあるが、低高度スパイ衛星の台頭で今では出番が殆ど無く、盗んでみてもあまり役には立たない金食い虫に過ぎない。何しろ高度三万で一番強度と性能が発揮されるように作ってあるので、気圧の違いから地上に置いているだけでオイルも燃料も駄だ漏れなので滑走路のメンテだけでも非常に高価なのだ。

  『・・・、同一人物によるものと思えるハイジャック事件が再び起こりました』
 アナウンサーは淡々と語っていたが、美神はもう興味を失い新聞に目を移している。
  「今度は何が乗っ取られたっていうの?。マニアらしいから、ライトフライヤーかベルXー1とかかしらね<注8>」
 笑っていたが、次の言葉にビクリとした。
  『乗っ取られたのは先程ケープカナベラルから打ち上げられたスペースシャトル コロンビア号で、上昇途中のシャトルにSR−71から飛びついたようです。何やらSR−71の乗員の話によりますと、持っていた珠のような物が光ると犯人はまるで空を飛ぶようにシャトルに飛びついたということですが、にわかには信じられない話であります。これに対して当局は・・・・・・・』

  シーン
  「・・・・」
  「・・・・」
 事務所の二人に嫌〜な空気が漂った。
  『・・・・それで、これがシャトル機内の映像です』
  ドッターン バッターン
 チラリと見て、二人して最後の決めのハリセンを受けたチャンバラトリオの夢千代のように派手に転けた。
  『よし!このシャトルはこのヨコシマンが徴用する』
 画面には、素顔と殆ど変わらない覆面に、8と刺繍されたランニングに短パン姿の・・・・誰が見ても知人ならばアイツだと分かる奴が乗務員に銃を構えていた。それが証拠にエミの事務所ではエミにタイガーも転げて、教会では唐巣とピートが。昼食にとラーメン屋にいた雪之丞はデート中であったかおりの顔に麺を思いきり噴き出して殴られていた。

  「あああ・・」
 言葉を失って倒れたままのオキヌは立ち上がる気力も欠片も無いようだ。美神は何とか両手で踏ん張り、震える手で何とか立ち上がろうとする。
  「あ〜の〜。あの馬鹿!!」


  『君は誰なんだ!一体シャトルを乗っ取ってどうしようと思っているんだ』
 日本から派遣させられていた、宇宙開発事業団の毛利守さん(仮名)が手を上げ問う。
  『す すいません毛利さん(仮名)。出来ればこんな事は俺もしたくなかったのですが』
 これでもヨコシマン(仮名)も子供の頃宇宙飛行士に憧れていたのですまなさそうに頭を下げる。

  『同じ日本人の君が、(アメリカ)共に頑張っている宇宙開発に水を差すような何故こんなことをしたんだ』
  『え?な 何故俺が日本人だと』
  『先刻から日本語しか喋っていないじゃないか』
 ダーと転けるヨコシマン(仮名)。
  『・・・・・毛利さん(仮名)。それは言わない約束なんですけど』
  『しかし、現に』
  『それは以前の中世のカオス編でも、原作者はギャグで逃げた問題なんですから』
  『しかし、現に君は英語は話せないだろう』
 タジタジとしているヨコシマン(仮名)に捲し立てる他のヤンキーの乗務員。
  『This is a pen.That is a desk』
  『ええい、お前は年下好きの荒井注さん(仮名)か、先刻もいったように言葉の壁は無視して日本語しゃべりやがれ』
 しかし、流石にヤンキーだけあって自国の文化が一番と譲らずに英語で捲し立てる。
  『Fujiyama geisha tenpura sukiyaki』
  『It.s a SONY what new PANASONIC everything super now NIKKA』
 これ幸いとアメリカ人らしく捲くし立てていたが、ヨコシマンも負けてはいない。
  『ええい、やかましい。筆者のボキャブラリー貧困を露呈するような事ばかり喚くんじゃないわい』
 虚勢をはって見たが、それでも傍若侮人なアメ公らしく好き勝手な自己主張を止めない。次々に英語ヒアリング2の彼を追いつめる。

  『うう!しかたあるまい。古今東西において、時代も国も違っても何故か日本語が通じた漫画の矛盾を全て無くしてやるわ』
 ヨコシマン(仮名)は手に持った文殊を使った。するとシャトル内に光り輝く文字列が浮かぶ。

    [Sorry this page japanese only]

  『おんどれイエローモンキー野郎。アメリカなめとったら口に手突っ込んで奥歯ガタガタゆわすぞ。おう、姉ちゃん!茶ぁしばきいへんか』
  『そうだなや。こんな船乗っ取っておめえさ何を考えてるだ。大人しく国さけえれ。ぼおや〜〜良い子だ〜ねんせしな〜〜』
  『???。なんや、おまえらくさ、そげな言葉をなしてしゃべるとや。ええい、しゃからしか。山笠があるけん博多たい』
 今まで流暢な?英語を話していたヤンキー共が、今度は流暢な道頓堀のチンピラ系浪速弁に、マンガ日本昔話系の東北弁、中州に酔って繰り出した長ハッピ系博多弁を喋り初めてしまった。
  『みたか〜。これが英語が出来ない日本のホームページの技だ!これだけ出しておけば、もうこの世界から日本語以外は跡形もなくなったのだ。うははは。俺は長きに渡る言葉の壁をギャグにするベタネタに終止符をうったぞ〜』


  「あ あのね」
 今度こそ立ち直れないまま、思わず汗が噴き出す美神。原作者もクスグリギャグにした、古来から日本にあった言葉の壁をギャグにするネタに、強引な畳み掛けで終止符を打った横島であった。
  (この話大丈夫なの?)




  注7 SR−71。正式名称ロッキード SR−71 通称ブラックバード 高度戦略偵察機U−2の後継機  高高度超高速戦略偵察機 高度三万三千メートルをマッハ3・3 対地速度時速4092キロメーター/時で飛行可能 大気圏内最高速度をロールアウトから30年を経ても譲らない史上最強の飛行機 何しろこれを迎撃出来る対空ミサイルは存在しない ソニックウエーブを積極的に利用したラムエアジェットエンジンを搭載しているただ一機の成功機とされる この機体をベースに戦略戦闘機を作ろうとしたが、コストの問題で頓挫 ゲームでなら乗れるのでお試したい方は「エー○コンバット3」で登場する 沖縄嘉手納空軍基地には二機配備。

  注8 ライトフライヤー 世界初の飛行を成し遂げたライト兄弟の作った物。時間は僅かに十数秒 距離は約2百メートルと記録される。
     ベルXー1 世界初のマッハを記録した機体 詳しく知りたい方は映画ライトスタッフを参照のこと。尚どちらもアメリカ ワシントン州 スミソニアン博物館 飛行機の歴史館に展示されているので興味があればどうぞ 嬉しいことに入館料は無料だ。しかも日本人の誉れゼロ戦の完品まで見れる 


[ 次章:escape from gravity ][ 煩悩の部屋に戻る ]