とら! 第8節 駆け出しGS


   
 
11月上旬、タイガー除霊事務所の初仕事の日がやってきた。
タイガーと茜は除霊道具をもって、現場に歩いて向かっており、この日の茜は朝から上機嫌だった。
 
「 うっしゃー!! やるぞー!!
タイガー 「 気合はいっとるノー あかねサン!
「 いやーなんかワクワクすんなー! なんたって初仕事だからよ!
  もー事務所でちまちました除霊の勉強はうんざりだったからな!
タイガー 「 ・・・ちゃんと理解してくれとるんカイノー。
「 も ばっちり! でどんな仕事なんだ?
タイガー 「 今日はいきなり2件もあるからノー。
  GS協会からもらったDランクの除霊仕事2つ、5万と20万の仕事がな。
 
それを聞いた瞬間、茜の顔から笑みが消えた・・・
 
「 ・・・なんかみみっちいな。
  もっと報酬多いもんと思ってたけど。 それになんだ? GS協会って?
タイガー 「 ワシみたいに事務所を開いたばかりのトコとか、仕事のない所に仕事をリークしてくれる所ジャ。
  まあ3割ほど斡旋料取られるけどな。
「 3割ってーと、25万でえーと・・・
タイガー 「 7万5000円ジャ。
  そいで税金とかお札とかの諸経費がかかるから、実際の報酬は2・3万ってとこカイノー。
 
がくっ・・・茜は肩を落として―――
 
「 なんだよ〜それじゃほとんど儲けがねえじゃんかよ〜!
タイガー 「 まー最初じゃからの。
  近所で危険のない仕事をわざわざ選んだんジャ。 いきなりビビられたら困るしノー。
「 だ 誰がビビるってー!!
タイガー 「 ははは、ま 除霊に失敗せんようにして名が売れるまでの辛抱ジャ。
  そしたら自然と依頼が増えていくじゃろうて。
「 でも所長 おめえ試験の首席だったんだろ。
  そいつをウリにすれば 依頼なんてじゃんじゃんくるんじゃねーのか?
タイガー 「 ていってもワシ2度も落ちとるし、そういう経歴をウリにするのはあまり好かん。
  それにエミさんとの約束で どのみち難易度の高い依頼は受けられんケンノー。
「 ふーん・・・
 
 
そして2人は、最初の除霊現場にたどりついた。

リポート41 『ファースト・ビジネス!』
金髪の少女こと白石茜は、中学時代に一文字と幾度となくケンカしてきた不良少女であった。
・・・そして高校2年生になった彼女は、エミ以外に唯一タイガーの暴走を押さえる笛、
“獣の笛”を吹くことができることをきっかけに、タイガーの最初の助手になる。
だが除霊に関しては全くのシロウトであり、除霊仕事は今回が初めてとなる・・・
 
■除霊現場1件目 とあるマンション■
 
11月某日、タイガーと茜はマンションの管理人のおじさんに案内され、問題の部屋にやってきた。
管理人のおじさんが言うには、去年病気で亡くなったおじいさんの霊が成仏しそこない、この場所に留まったままだという―――
 
「 ・・・? 誰もいねえな。
タイガー 「 霊が不安定で、姿が見えにくいんジャ。
  それじゃああかねサン 玄関に結界の札を。 ワシは奥の扉にお札を貼るケエ。
「 わ わかった。
 
タイガーは、タタミの敷かれた和室の部屋をまわりこみ、ベランダに通じる扉に結界札を貼った。
 
タイガー 「 じゃああかねサン さっそく笛を吹いてクレ!
「 ああ!
 
茜は獣の笛を取りだし、笛を構え、タイガーを制する呪文を発した。
 
 
< 虎よ! 虎よ!
 
  ぬばたまの夜の森に燦爛と燃えて!!
 
  そも  いかなる不死の手、
 
  はたは眼の造りしか、 汝がゆゆしきー・・・・・・ゆゆしき・・・・・・
 
 
ちらっ・・・茜は呪文の書かれた紙(カンペ)を見た。
 
「 えーと なんだっけ?
タイガー 「 ・・・ちゃんと呪文覚えててツカーサイ。(汗)
 
 
< 汝がゆゆしき均整を・・・
 
  我が命により封印を開き  再び目覚めるがいい!!  虎よ!! 虎よ!!
 
ピルルルルルルルルルルルルルルルルッ
 
ぼんっ
タイガー 「「  グルアッ!!
 
笛の音を聞いたタイガーはトラ男になり、精神感応で弱体の霊を目視できるよう念波を送る。
すると和室の中心に、おじいさんの霊がはっきりと姿を現した!
 
浮遊霊 《 オオオオオオオオオ!! 》
「 あ 見えた!!
タイガー 「 あかねサン吸印の札を!!
「 お おうっ!
 
タイガー 「 吸印!! <シュポンッ>
 
タイガーがお札をかざすと、おじいさんの霊は特に抵抗することなく吸印された。
 
タイガー 「 ヨッシ、あとはこの札を専門の人に成仏するよう処分してもらうだけやノー。
「 ・・・なあ これで終わりなのか?
タイガー 「 そうじゃが?
「 霊体攻撃は!?
タイガー 「 悪霊じゃないし無理に攻撃する必要もないじゃろ。
「 それならわざわざ結界の札を使う必要なかったんじゃねーのか!? あれだって安くねえだろ!?
タイガー 「 あの札はもしもの時のため、逃げられんようにするためのものジャ。
「 でもあの程度だったら笛を吹く必要もなかったんじゃねーのか?
タイガー 「 精神感応は短時間でもすごく疲れるし 常に気を張ってないとだめなんジャ。
  あかねサンの笛のおかげでワシは楽に除霊できた。 ありがとう。
 
にこやかに「ありがとう」と微笑みかけられた茜は―――
 
「 そ、そうか・・・でも今のが5万の仕事か。 赤字だけど最初はこんなもんか。
タイガー 「 いや いまのが20万ジャ。
「 ・・・え? 今のが20万かよ! あれぐらいならあたいにだってできそうだぜ!?
タイガー 「 じゃあ次、やって見るか?
「 え?
 
  ・
  ・
  ・
 
■除霊現場2件目 とある民家■
 
昼食をとった後、2人は次の除霊場所にやってきた。
そこは普通の2階建ての家で、庭には子犬の霊が吠えながら走り回っており、
その子犬の霊は茜にも目視できていた。
 
浮遊霊(犬) 《 ワンワンワンッワン! 》
 
タイガー 「 内容はこの子犬の除霊ジャ。
  さっきのじいさんと同じように成仏しそこなったんジャ。
  今回は吸印札を使う必要もなし、通常の霊体攻撃で成仏可能。
  動物霊を支配する獣の笛なら簡単にやれるじゃろーて。
「 よしわかった!
 
ピュルルルルルルルルルルルッ
 
( 大人しく成仏しな!!
浮遊霊(犬) 《 ワンワンワンッワン! 》
 
茜は笛を吹き、成仏するよう念じたが、子犬の霊は、相変わらず元気よく庭を走り回っている。
タイガーは庭石に座ってその様子を見物していた。
 
タイガー 「 ・・・あんまりきいてないノー。 あかねサーン もっと念をこめてやらんと。
「 ぷはっ! っせえな! わあってるよ!!
カプッ!
「 ! ってえ!
 
子犬の霊は、茜が笛を吹くのを辞めたスキに、茜の手に噛付いた!
カッとなった茜は直接殴りにかかるが、そのコブシはむなしく、煙を殴るかのように無意味に空回りしていた。
 
タイガー 「 あかねサーン 殴るにしても霊気を込めんと霊体には通用せんぞー。
 
「 っせえ! 気が散る!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・
 
 ・
 
 ・
 
 ・・・・・・30分後。
 
 
「 はあっ はあっ はあっ はあっ・・・
浮遊霊(犬) 《 クーン クーン・・・ 》
 
す――――−‐っ
 
子犬の霊は成仏し、消えていった。
するとさっきまで殴り疲れていてた茜が、思わず笑みを浮かべて―――
 
「 なあ! 今あたい除霊したろ!?
タイガー 「 あ ああ・・・
( ・・・ていうより 子犬のほうが遊びつかれて成仏したって感じじゃったが。
  ・・・・・・まあいいか。 喜んどるし。
 
「 明日からもこの調子で どんどん除霊していこうぜ!!
 
 
こうしてタイガーと茜の初仕事が終了した。
その後タイガーは、週に3・4回、Dランクの仕事をこなすようになった。
たいして危険な仕事でもないためタイガー1人でも充分なのだが、除霊経験を積ませるため、簡単な仕事はなるべく茜にさせるようにした。
・・・そして1ヵ月後、茜の最初の給料日。
その金額は、茜の予想を大きく上回っていた。
茜はタイガーに聞くと、除霊のレクチャーを受けた時間分も含まれているとのことであったが・・・
その翌日、デパートで買い物をした茜は、服やCDの入った紙袋を両手に持って歩いていた。
いつもの冷たい表情とは違い、その日は珍しくニコニコしていた。
 
 
ふんふんふーん♪
「 いやーこんなに買い物したの初めてだぜ!
  まともに働いて給料もらうのってこれが初めてなんだよな。
  いっつもバイトはすぐクビになっていたし・・・むいてんのかな、この職業♪
 
茜は更に笑みをこぼすと―――
 
「 よっしゃ! まだ金も余ってるし、ゲーセンにでも行くか!!
 
・・と、紙袋をもったままガッツポーズをする茜の前に、タイガーの姿が見えた。
 
「 ん? あれ所長じゃねーか。 どこいくんだ?
 
気になった茜は、タイガーの後を追った・・・
 
 
■厄珍堂■
 
タイガーの入った店の看板には、【厄珍堂】とかかれていた。
茜は店の中の様子を覗き込むと、そこにはタイガーと厄珍がカウンター越しに話をしていた・・・
 
タイガー 「 だから頼んます! 今月分のお札代 もう少し待ってツカーサイ!!
厄珍 「 う〜ん・・・
 
( あのチビオヤジ 確か事務所祝いのときに来てた・・・
 
厄珍 「 まあー事務所を構えたばかりだから苦しいのはわかっとるアルが、
  たった100万円分のお札代も払えんほど苦しいのアルか?
タイガー 「 ええ まあ・・・・・・
厄珍 「 おまえさんの実力なら 数百万単位の仕事ぐらいこなせるアルよ。
タイガー 「 エミさんには難易度の高い仕事は禁止されとるし、
  開いたばかりですケン そんなにわりのいい仕事なんて入ってこんですジャ。
  車の免許もまだじゃから遠出の仕事はできんし、
  第一あかねサンにもまだ危険な仕事はさせられんし・・・
厄珍 「 まあ出世払いで待ってやってもいいアルが・・・おまえ少し痩せたアルか?
  飯ぐらいちゃんと食っとんのか? 」
タイガー 「 いや あ それは・・・・・・カップめんとパンの耳でなんとか・・・
 
フウーッ・・・ 厄珍はパイプをふかすと―――
 
厄珍 「 助手の女の子は役にたってるアルか?
タイガー 「 そ そりゃもちろん!
厄珍 「 じゃがいくらGSの助手でも ほとんど素人の子に時給2500円は高くないアルか?
  令子ちゃんとこのボウズの10倍アルね。
タイガー 「 あそこは別格じゃろ。(汗)
厄珍 「 おまえだって 私立校の学費とアパート代・光熱費とか、
  生活費を全部自分で払いながらエミちゃんとこの助手やって、それでギリギリの生活しとったろ。
タイガー 「 そりゃまあ・・・じゃけどあかねサンも頑張ってくれとるし・・・
 
フウーッ・・・厄珍は再びパイプをふかすと、お札の置いてる棚へと足を運んだ。
 
厄珍 「 ま いいね。
  おまえなら依頼が入るようになればバンバン稼げるようになるアルから、それまでの辛抱アルね。
  あ お札1枚 おまけしといてやるアルね。
タイガー 「 あんがとーございます!!
 
 
茜は両手に持った買い物袋を握り締めた。 今、自分が手にしてるモノの意味を。
高額の時給。
自分に合わしてくれてた、レベルの低い仕事。
構えたばかりの事務所。
除霊の講習を受けてた時間も含まれていたこと。
全てはタイガーの、自分に対しての期待と感謝・・・
ちょっと考えればわかることなのに、茜はそのことに気づこうとしなかった自分が許せなかった・・・・・・
 
 
 
 
■夜 タイガー除霊事務所■
 
タイガー 「 ふ〜 今日も疲れたノー・・・?
 
事務所に戻ったタイガーが電気をつけて中に入ると、
室内の中心にある来客用のテーブルの上に、4・5人前の寿司が置かれてあった。
すると台所に隠れていた茜が姿を現して―――
 
「 おかえり。
タイガー 「 あかねサンこれは・・・
「 どっかでさー、初めて給料を貰った時には世話になった奴になんかあげないといけないって話を聞いたことがあったからよー、あんたにはモノより食い物がいいかなって思って・・・
タイガー 「 ・・・・・・
「 そ それとバイト代のことだけど、半分にしてくれていいぜ。
  食うもんに困るぐらい苦しいのならもっと先に言え、バカ・・・
 
顔をそむけて照れながら茜が言うと、タイガーの目が潤む。
 
「 あ あのさー、あたいがんばるからよ、ちょっとぐらい危険な仕事ガンガン引き受けてくれよ!
タイガー 「 あかねサン・・・・・・ウッ・・・ウッ・・・
「 お おい泣くなよ!
タイガー 「 やっぱりあかねサンはいい子ジャ・・・
「 あたいはいい子なんかじゃ・・・ああーもういいから食えよ! 寿司が乾いちまうぜ!
 
 
―――その日の夜、久しぶりにまともな料理を味わうことができたタイガーであった。

リポート42 『鷲五郎と茜』
タイガーの除霊事務所の初仕事からはや2ヶ月。
タイガーと茜は除霊仕事に一度も失敗することなく、順調に仕事をこなしていった。
茜も徐々に笛の扱いに慣れ、弱体の霊なら茜でも吸印することができるようになった。
そして年末に車の免許を取ったタイガーは、50万円の中古車を購入したことにより移動範囲も広がり、直接依頼の仕事もちらほら入ってくるようになってきた。
事務所設立時の借金も、半分以上なくなってきた頃・・・
 
■高速道路の橋の下■
 
年が明けた1月13日金曜日の夜、近所の浮遊霊たちが集まっていた。
多くの霊が座ってる中、背広に帽子、メガネをかけた気のよさそうな細目のおじいさんが、司会の口上を述べていた。
 
鷲五郎 《 えー 恒例13日の金曜日 ご近所浮遊霊親睦会、
  今回もたくさんの参加をいただき、これからもますますのご健康を・・・
浮遊霊 《 わしら全員もう死んどるって。
 
この司会の鷲五郎(わしごろう)・・・
・・・実は茜の曾祖父で、数年前まで茜の守護霊をしていたが、愛想がつきて今は浮遊霊となっている。
以前一度だけ茜を幽体離脱させ、おキヌに茜の体を貸した経歴があり、近所の霊の中ではおキヌと一番つきあいが長い浮遊霊である。
その司会の鷲五郎はおキヌを呼んだ。
 
鷲五郎 《 えー 本日の特別ゲスト、おキヌちゃんでーす!!
おキヌ 「 どーもー。
 
ぱちぱちぱちぱち
 
伝次郎 《 待ってました元幽霊!!
  キミのために1曲歌うぜ!! ア、ワン・ツー!! すぅぅてぇたあ おんなぁのあのほぉ〜♪
がんっ☆
石神 《 うっせえよにいちゃん!
 
・・・石神に殴られるジェームス伝次郎であった。
そして幽霊たちの宴が行われた。
幽霊にも人望のあるおキヌの周りには、伝次郎や多くの浮遊霊が集まってきていた・・・
 
ゲン 《 おキヌちゃんもとうとう高校卒業かー。 最初あった頃はこーんなに小さかったのにのう。
おキヌ 「 あはははは、やだーゲンさんったらー!
 
・・・2ヶ月前に横島が事務所を出た後はさすがのおキヌもしばらく落ち込んでいたのだが、
近所の浮遊霊や友人からの励ましもあり、今はもとの明るいおキヌに戻っていた。
今回の浮遊霊親睦会に誘った鷲五郎は、そんな元気になったおキヌを、孫を見るように微笑ましく見守っていた。
 
伝次郎 《 そういやー 浮遊霊の中では白石さんが1番おキヌちゃんとつきあいが長いんですよね。
おキヌ 「 白石さん?
伝次郎 《 鷲五郎じいさんの苗字だよ。
 
『白石』という苗字に心当たりがあったおキヌは―――
 
おキヌ 「 鷲五郎さん!
鷲五郎 《 なんじゃ、おキヌちゃん?
おキヌ 「 鷲五郎さんのひ孫さんの名前 なんていいました!?
鷲五郎 《 ん? “茜”じゃが。
おキヌ ( やっぱり!
鷲五郎 《 そういやあの不良娘にはもう長いこと会っとらんのう。 それだけが心配で 死んでも死にきれんわい。
伝次郎 《 いや、だから俺たちもう死んでるし。(汗)
 
おキヌ 「 鷲五郎さん! ひ孫さんに会いにいきましょう!
 
 
                     ◆
 
 
翌日、おキヌと鷲五郎はタイガー除霊事務所に向かって歩いていた。
 
鷲五郎 《 あの不良娘がGSの助手をねえー。
おキヌ 「 私も名前を聞いただけで、まだタイガーさんの事務所には来たことないんですよ。 あ、ここですね。
 
タイガーの事務所のあるビルの前に来たおキヌたちは、建物の中に入った。
2階の事務所前の扉には外出中と書かれていたが、丁寧にも除霊の行き先まで書かれてある。
 
おキヌ 「 お出かけ中みたいですね。 でも近くみたいですし、行ってみましょうか。
 
 
 
■線路下のトンネル■
 
おキヌたちは除霊の現場に向かうと、トンネル内でちょうど、タイガーと茜が霊を挟むような形で除霊を行っていた。
 
ピルルルルルルルルルルルルルッ
 
猫の霊 ≪≪ ギニャアアアッ!! ≫≫
 
襲い掛かるネコの動物霊を、茜は笛の魔力で近づかせなかった!
動物霊は反転し、タイガーのほうへと向かう!
 
「 ぷはっっ! そっちいったぜ所長!!
タイガー 「 まかしときんシャイ!! 虎の爪!!
 
ズバッ!
タイガーは、右手から放出される5本の霊気の爪で悪霊を切り刻む!
そして茜は吸印札を取りだすと―――
 
タイガー 「 今ジャあかねサン!!
「 わあってるよ!! 霊体・吸印!!
 
バシュ――――――――ッ  スポンッ
 
「 ふうーっ、任務完了ーっと!
 
猫の霊を吸印し、ホッと一息をつく茜。
茜の除霊を途中から見ていた鷲五郎は、久しぶりに会った茜の姿に驚いていた。
おキヌから聞いていたが、まさか本当にまともにGSの助手をしているとは、今まで半信半疑だったのである。
 
タイガー 「 やったノー!
「 へへっ こんくらいチョロイぜ! ・・・ん?
 
茜は、タイガーの後ろにいるおキヌと隣にいる霊らしきものに気づく。
 
おキヌ 「 こんにちはー。
タイガー 「 お おキヌちゃん! どうしたんジャ突然!
おキヌ 「 へへーっ 実は・・・
 
ごしごしっ   じ―――っ
おキヌの隣にいる霊を、茜は目をこすって細目で見ると・・・!
 
「  ああ――――――――っ!!! ジジイ!!!
 
 
 
■タイガー除霊事務所■
 
来客用のテーブルを挟んでタイガーと茜、反対側におキヌと鷲五郎が座っている。
茜は面白くなさそうに横に向いている所に、鷲五郎はタイガーに頭を下げた。
 
鷲五郎 《 いやー本当にありがたいことです!
  こんの不良娘を雇っていただいて なんと御礼をしていいものやら―――!
タイガー 「 い いえー、こちらこそー!
 
頭をさげかえすタイガー。
 
「 ジジイ何しにきたんだよ! とっとと帰れ!!
おキヌ 「 まあまあ。
 
茜をなだめるおキヌ。 鷲五郎はひとつため息をつくと―――
 
鷲五郎 《 ・・・まったく口の悪さは相変わらずじゃのう。
「 っせえ! 
  ジジイが幽体離脱させた頃から、あたいはひどい目ばかりあってきたんだ!
  どうせジジイが呪いかなんかかけたんだろー!
鷲五郎 《 んなことするかいな。 わしはおまえの守護霊を辞めただけじゃ。
「 守護霊だあ?
鷲五郎 《 誰にでも守護霊がおるわけではない。
  おまえさんのような生まれつき不運を呼びやすいものは、
  わしのように血のつながった者が 些細な不幸を防ぐよう守護するんじゃ。
  ところがおまえときたら、授業はサボるわケンカはするわ・・・・・・
  そんなおまえにわしは愛想つかしとったんじゃ。
  一度おまえを幽体離脱させて説教してやった時も、全然わしのゆーこときかんかったろ。
  じゃからわしはお前の守護霊をやめたんじゃ。
 
鷲五郎の信憑性のある発言に、茜はしばし黙り込む。 さらに鷲五郎は―――
 
鷲五郎 《 “因果応報”って知っとるか?
「 知らねえよ!
鷲五郎 《 悪い行いをしたら めぐりめぐって自分に不幸がやってくるということじゃ。
  よっぽどひどい目に合うというのは そりゃおまえさんが悪いことばかりしとるからじゃろ?
「 あんだとー!!
 
茜はテーブルを両手で叩き、立ち上がる。
 
鷲五郎 《 なんならまた守護霊をやってやろうか? 四六時中そばにおって またおまえさんを守ってやろうか?
「 じょ 冗談じゃねえ!! んな気持ち悪いこと死んだって御免だぜ!!
タイガー 「 あかねサン! 落ちついて・・・!
 
茜を抑えようとするタイガー。
 
鷲五郎 《 わしもじゃよ! わしも出来の悪い娘から離れて、今は気ままな浮遊霊生活を楽しんでおるからの!
おキヌ 「 鷲五郎さん・・・!
 
鷲五郎を抑えようとするおキヌ。
 
「 んだとー!! 成仏させてやろうか!!
鷲五郎 《 おまえさん程度の力で、わしを成仏できるものか!
「 クソジジイー!!
鷲五郎 《 こんの不良娘!!
 
タイガー・おキヌ 「「 ・・・・・・・・ハアッ。
 
 
顔を近づけ、互いをにらみ合う茜と鷲五郎。
その2人の会話に入り込めないタイガーとおキヌは、顔を見合して、やれやれという表情をしていた。
 
 
―――その後、鷲五郎はタイガーと2人で話があるとのことで事務所に残り、茜とおキヌは途中まで一緒に帰っていた。
 
「 あんのジジイ 余計なこと言ってねえだろうな?
おキヌ 「 大丈夫ですよ。 きっと鷲五郎さん、茜さんのことよろしくって言ってるんですよ。
「 どーだか。 ・・・そういやおめえ、あんときあたいのからだに入った幽霊だったな。
おキヌ 「 はい、その節はありがとうございました! 今は生き返って美神さんの所で働いています。
「 ・・・ふ〜ん・・・
 
生き返るなんて普通ありえないことなのだが、あまりにおキヌが明るく答えるため、茜はなんとなく納得した。
それより他の事務所のことに気になることがあった茜は―――
 
「 おめえんとこは儲かってんのか?
おキヌ 「 ええ、美神さんですから・・・昨日も美神さんと雪之丞さんの除霊手伝ってましたしー。
「 ふーん、いくらぐらいのやってんだ?
 
おキヌ 「 ええと、昨日のが5000万円でー、一昨日が7000万円
  で先週やったのが1億円でーその前がー・・・・・・ってあれ? どうしました?
 
後ろを振り返るおキヌ。 茜は「5000万」と聞いた時点で足を止めていたのだ。
がっくりと肩を落とした茜は、肩を震わし口元をヒクヒクさせながら―――
 
「 い い 1億・・・!?(汗)
おキヌ 「 はい・・・
 
茜は指折り数える仕草をしながら―――
 
( うそだろ!? さっきの除霊が60万だから・・・いやまて!
  あたいらが今まで除霊してきた総額よりはるかに高いじゃねーか!
 
「 ・・・なあ 一応聞くが、おめえんとこはいつもそのくらいの仕事やってんのか?
おキヌ 「 はい、美神さんの受ける仕事は基本的にAランク以上ですし、
  1000万円以下の仕事はほとんど引き受けませんから。
「 危険じゃねえのか!? 」
おキヌ 「 まあそうなんですけど、美神さんも雪之丞さんも凄腕のGSですから。
  私は後ろで笛を吹いてサポートしてるだけですけどね。
 
( あたいらが数十回除霊しねえと稼げねえ額をたった1回で・・・
  ちょっとぐらいリスクがあったって そっちのほうが断然マシじゃねーか!
 
険しい顔して考え込む茜。
トップレベルの事務所の報酬額に、かなりショックを受けていた・・・
 
 
・・・・それから数日後。
 
 
■タイガー除霊事務所■
 
茜は来客用の椅子に座り、テーブルに足をのせてマンガを読んでいた。
するとそこに和服を着た30代の女性が入ってきた。
 
女将 「 あのー 所長さんいらっしゃいます?
「 あん? 所長なら出かけてるぜ。
女将 「 そう 困りましたわ。
ひょいっ
「 仕事ならあたいが聞いといてやるよ。
 
茜はテーブルから足をおろした。
 
 
女将 「 ・・・実は今日中にAランクの除霊をお願いしたいんです。 3000万円で。

リポート43 『デッド・オア・アライブ』
「 さ 3000万・・・・・・!?
女将 「 はい・・・
 
ある日、タイガー除霊事務所に、和服を着た婦人が仕事の依頼をしにやってきた。
報酬額を聞いた茜は、あわててテーブルの上を片付けて、婦人にお茶をさしだした。
 
かちゃっ・・
「 ど どうぞ。
女将 「 ありがとう。
「 それで仕事の内容は?
女将 「 ええ。 実はわたくし 旅館の女将(おかみ)をやっております。
  その旅館に最近悪霊が棲(す)みついてしまって、お客様にまで被害が及ぶ始末なんです。
  このままでは旅館の名に傷がつきます。
  これ以上被害を出さないため 一刻も早く除霊をお願いしたいんですが、
  GS協会ではいつやって頂けるのかわからないし、
  ほかの事務所もあたっているのですが なかなか今日中に除霊して頂ける方がいなくて・・・
「 それで霊の強さとタイプは!?
 
すっ・・旅館の女将はGS協会の調査用紙を差し出した。 茜は調査用紙に目を通す。
 
女将 「 協会に調査してもらった結果 Aランクで霊の数は1体、
  念による突風攻撃のみの霊なんですが それがかなり強いらしくて・・・
 
ごくっ・・
( 3000万・・・そんだけあれば借金なんか軽く全部払えておつりがくる。
  Aランクなら所長でも除霊可能だろ、なにしろGSのバトルで優勝してるらしいからな。 問題は・・・
 
「 ・・・なあ、この仕事引き受けるのに1つ 条件があるんだ。
 
 
 
 
 
・・・しばらくしてタイガーが帰ってきた。
 
 
タイガー 「 3000万じゃと!?
 
「 そうなんだ 限りなく “B”に近い“Cランク”の仕事なんだ。
  ( エミさんとの約束の Bランク以上の仕事は絶対断るだろうし、
    あとでGS協会のミスってことにすりゃあ大丈夫だろ。
 
タイガー 「 なんか怪しくないかノー。
「 金持ちの女将んとこの旅館だから 気前がいいんだよ!
  向こうの条件は、今日中にやってほしいのと 旅館を傷つけないことなんだ。
  それぐらいなら あたいらがやってもやれねえことはないぜ!
タイガー 「 う〜ん しかしノー・・・・・・
「 Cランクなら前に2回やったことあるけど、簡単に除霊出来てたじゃねーか!
タイガー 「 じゃが・・・
「 なに迷ってんだよ! こんなおいしい仕事 ぐずぐずしてたら他の奴に取られちまうぜ!!
  そんだけありゃ 借金返しておつりが来るしよ!  なあ!! やってみようぜ!!
 
必要以上におしまくる茜。 タイガーはしばらく考えると・・・
 
タイガー 「 ・・・そうじゃの、やってみるか!
「 おっしゃ! んじゃさっそくいこうぜ!!
 
 
 
 
■除霊現場 旅館■
 
2時間後、2人はタイガーの運転する車でその旅館へとやってきた。
 
タイガー 「 あかねサン! 準備はええかいノー!
「 ああ ばっちりだぜ! 事務所で一番高いお札も持ってきてるしな!
タイガー 「 じゃあ始めるカイノー!
 
タイガーと茜は旅館の全ての入り口に結界を張り、中へ進入し除霊を始めた。
 
 
悪霊 ≪≪  ギィイイイィィィィィィッ!!!!!  ≫≫
 
 
宴会場らしき大広間で、ドクロの姿をした上半身のみの悪霊が飛び回っている。
下半身はほとんどかすれているのだが、体長は上半身だけで3メートルはありそうな大きな悪霊に2人は立ち向かう。
茜は笛を吹き、タイガーは幻覚攻撃をしていた・・・
 
ピルルルルルルルルルルルルルルッ
キイイイイイィィィィィィィィィィィィィィン
 
タイガー 「 へ ヘンじゃなー なんか妙に強いような・・・あっ!!
 
カッ・・・悪霊の目が光る!
 
―――――ビュウンッ
悪霊     ≪≪  ギィイッ!!!  ≫≫
 
 
グンッ!
―――――――――――――――――――――――――― <ドゴッ>!!!!!
 
 
タイガー 『『『『『  ぐぁはあああっ!!!!!   』』』』』
 
「 所長!!
 
悪霊が手を振り上げた瞬間、タイガーは吹き飛び壁に激突した!
壁のコンクリートを破壊するほどの強い衝撃で、タイガーは一瞬気を失う!
 
「 おい しっかりしろよ!! 所長!!
 
ビュウンッ
 
再び風を起こす悪霊に、茜は手持ちの中で最も強力な結界札を使用するが・・・
 
「 結界札!!
 
キイイイイン! ピシッ・・・パア――――ンッ!
 
簡易結界が悪霊の一撃で簡単に破られてしまう! するとタイガーは――― 
 
タイガー 「 これはいかん・・・! あかねサン 逃げてツカーサイ!
「 所長!!
タイガー 「 こいつ 並の霊じゃない・・・それにさっきの攻撃でワシ 足の骨が折れたようジャ・・・!
「 そんな・・・!
 
悪霊 ≪≪  ギィイイイィィィィィィッ!!!!!  ≫≫
「「「  うわあああっ!!
 
 
        ―――タイガー君、ひ孫を・・・茜を頼みます―――
 
 
先日、鷲五郎が頭を下げて自分に託したことを思いだした。
所長―――それは所員全てを守る義務がある。
茜は彼にとって、最初の助手でありパートナーである。
彼はこのとき除霊をあきらめ、所員を守ることを優先させた!
 
カッ!
タイガー 「「「  ―――咆哮波!!!!!
 
襲い掛かる悪霊に、タイガーは座ったまま口から霊気の弾丸を放つ!
 
ドゴ―――――――――ン!!!!!
悪霊 ≪≪  ギィイイイイィィィィィィッ!!!!!  ≫≫ 
 
悪霊に直撃し、ダメージを受けたかに見えた・・・しかしタイガーは―――
 
タイガー 「 逃げるんジャあかねサン!! さあ早く!!
 
 
そのあと2人は手持ちの結界札や破魔札を全て使い、旅館の出口を目指した。
最初の一撃で、全身数箇所を骨折をしていたタイガーは、気を失いそうなほどの激痛に耐えながら片足を引きずっている。
そのためまともな攻撃ができるわけもなく、茜を守ることに専念していた。
タイガーの得意の精神攻撃も、並の悪霊なら通じる所が、深手を負ったタイガーの霊力ではこの悪霊には通じなかったのである。
 
・・・そして旅館を出ると、突然悪霊の攻撃は終わった。
この悪霊の力なら結界を破って出ることも可能だったが、この悪霊の場合、
旅館に留まることを目的としていたようで、それ以上タイガー達を襲う気配はなかった。
そしてその直後タイガーは気絶し、小雨の降るなか救急車でそのまま病院へと運ばれていく・・・
 
 
 
 
■白井総合病院■            【 手術中 】
 
ザ――――――ッ
窓の外は雨が降っていた。
茜は長椅子に座り、祈るように手を組んでいる。
 
( 所長・・・・・・
 
一文字 「 あかねー!!
「 魔理・・・
 
一文字、水樹、洋子、仙香、春華が手術室の前にいる茜のもとへやってくる。
茜は病院についた後、タイガーが相当危険な状態だと聞き、エミの事務所に連絡を入れており、
そこでエミの助手をやっている仙香と春華から、六女の女子寮にいる一文字達に連絡が届いていたのである。
 
水樹 「 タイガーさんが重傷ってどういうことなの!?
一文字 「 いったいなにがあったんだよ!
「 だからその・・・悪霊にやられて・・・
 
戸惑いながら言う茜に対し、仙香は首をかしげながら―――
 
仙香 「 変ね。 今まで一度も除霊に失敗してないあなた達が、
  Cランク程度の仕事でいきなりこんな大失敗をするなんて。
「 それは・・・・・・
 
パッ
 
―――!!!!!―――
 
手術中のランプが消え、中から医者が出てくる。 茜が医者に駆け寄る。
 
「 なあ 所長は!
医者 「 まだ予断をゆるされない状況だ。 だが現代医学は決して敗北などしない!
  彼の命がある限り 我々の医学はあ〜 医学はああ〜〜〜っ!!
洋子 「 ・・・で 結局どうなん?
 
洋子が問う。 壊れた顔した医者は、急に真面目な顔になり―――
 
きりっ
医者 「 手術は成功した。 だが面会謝絶の絶対安静。 いまは集中治療室行きだ。
一文字 「 じゃあ命に別状はないんだな!?
医者 「 ああ。 しかし あれだけ頑丈な体をあれほど傷つけるとは、相当な強さの霊と戦ったようだな。
  私も昔は霊などという非科学的なことは信じなかったのだが、
  原因不明の昏睡状態の患者の件や 病魔との死闘やら死神やらなんやらで、
  ちょっとは医者として 非科学的なことを信じてやってもいいかなあ〜と思ったわけで、
  いや だからといって私は決して現代医学を否定しているわけではなく、
  私は1人の医者として 一つの可能性としていろいろとアレした結果、ナニしたわけで・・・・・・
 
洋子 「 ―――で どんな悪霊と戦ったんや?
 
後ろのほうでぶつぶつ言ってる医者を無視して、洋子は茜にたずねた。
 
「 だから 霊が風を起こして所長が壁に飛ばされたんだよ。 そのあと所長が怪我をしてそれで・・・
 
茜がそれだけ話すと、一文字達全員が反応する。 そして春華、仙香が問う。
 
春華 「 おかしいわね。 並の霊が念動力を持っているなんて。
  巨体のトラ男を吹き飛ばすほどの念動力をもつ霊なら、普通Aランクぐらいいってるはず。
仙香 「 ・・・あなたたちまさか、Aランクの除霊をやったの!?
「 それは・・・
 
エミ 「 ―――それは違うワケ。
 
仙香 「 エミおねーさま!!
 
エミの登場に仙香が叫ぶ。 エミは腕を組んだまま、ツカツカと歩いてくると―――
 
 
エミ 「 タイガー達がやった徐霊はAランクなんかじゃないわ。 ・・・Sランクよ。
 
 
     ―――!?―――
 
一文字 「 え S!?
「 そんなばかな!! あたいらがやったのはAランク―――<ハッ!>
 
あわてて口をおさえる茜だったが、時すでに遅く、全員の注目を浴びていた。
 
エミ 「 あなたたちが除霊に失敗した後、旅館の女将から旅館の被害について協会に連絡が入ってね。
  それで再調査した結果、悪霊の霊力レベルからSランクと判定されたのよ。
水樹 「 ランクが変わるなんて事あるんですか!?
エミ 「 ランクはあくまで目安。 協会の調査も完璧じゃないし霊も日々成長するワケ。
  ワンランク程度のズレならこの世界 日常茶飯事だわ・・・・・・茜。
 
エミは横目で彼女を見ながら名前を呼ぶと、茜は―――
 
「 な なんだよ。
エミ 「 女将に聞いたわ。 おたく、協会が提示したランクをAからCに書き換えたそうね。
―――!?―――
水樹 「 なんですって!?
一文字 「 そういうことかよ あかね!!
 
水樹、一文字が怒ると、茜は開き直り・・・
 
「 あんだよ! 困ってる奴から割のいい仕事を引き受けることのどこが悪いんだよ!!
一文字 「 あかね てめえ・・・・・・!!
 
ばっ!
茜に殴りかかろうとする一文字の前に、腕を出して制する洋子。
 
 
そして茜に近づき―――
               < バシィーッ >
                            ―――洋子は茜の頬を手のひらで叩いた。

リポート44 『バッド・ガール!!』
         < バシィーッ >
 
雨の音だけが聞こえる、静かな病院の廊下にその音が鳴り響いた。
 
「 ―――ってえな!! なにすんだよ!!
 
バッ ―――!?―――
 
洋子は茜の胸元の服をつかむと―――
 
洋子 「 あんたエエ加減にしいや! うちはあんたのこと、もうちとマシな奴やと思うとったわ!!
 
長い前髪の隙間から、鋭く茜を睨む洋子。
いままで温和な洋子しか見てこなかった茜は、彼女の変貌振りに驚いていた。
 
洋子 「 あんたなんで今 生きとるんや? 寅吉があんたをかばったからとちゃうんか?
  なのにあんたは嘘をついた上にそれがばれたら今度は開き直りか? ふざけんな!!
  あんたの嘘のせいで寅吉は生死の境をさまよってるんやで!!
  もし死んだらどないしてくれるつもりやったんや!! ゆうてみい茜!!!!!
 
「 ・・・・・・!
 
春華 「 ・・・でた、洋子のマジギレ。(汗)
仙香 「 2年の時、あなたが怒らせた食堂の件(リポート8参照)以来ね。  
 
・・・と、春華と仙香が洋子の姿を見て話していた。
続いて水樹までも感情的になり・・・
 
水樹 「 そ、そうよそうよ!!
  いくらタイガーさんでも 初めから強敵と思って戦うのとそうでないのとじゃあ
  状況が全然違ってくるわ!! お札の準備も戦い方も!! 
  もともとタイガーさんは精神攻撃を主体とした後方支援タイプなのに、
  いきなり強い霊と直接戦って無事で済むわけないじゃない!! それぐらいわかんなかったの!?
 
更に一文字が、怒りを沈めながら静かに言う。
 
一文字 「 あかね、中学んときはおまえも私も不良やってたけどよ、
  不良は不良なりに自分に誇りを持っていたと思っていた・・・だけど違ったようだな。
  むざむざ仲間を危険な目に遭わせたり、タイガーがこんな目にあったにもかかわらず
  おまえは本当のことを隠そうとした。 それも自分の身可愛さに・・・・・・・・・・・・最低だな。
 
「 違ッ あたいは―――!
 
一文字 「 どうせ目先の報酬に目がくらんで タイガーに嘘のランクを教えたんだろ!
  あいつがエミさんとの約束を破るはずないからな!
 
「 なっ・・・・・・!
 
そこでしばらく静観していたエミが言う。
 
エミ 「 茜に責任はないワケ。 責任はすべて所長であるタイガーにあるわ。
一文字 「 エミさん・・・
エミ 「 それだけの高額報酬を、疑いもなしに信じたタイガーに問題があるのよ。
  そしておたくらが除霊に失敗し、旅館を傷つけた被害代金もタイガーが出さないといけない。
  保険があるとはいえ 何割か払わないといけないワケ。
「 そんな!
エミ 「 更にタイガーの入院代・治療費、そして今回使用したお札なんかの経費ももちろん自費。
  そのあたりについてはおたくのほうが詳しいはずよ。
「 ・・・・・・
 
ショックを受ける茜。 更にエミは・・・
 
エミ 「 そしてこれは元上司である私の責任にもつながるワケ。
  仙香 春華、今からその旅館に行って悪霊を退治するわ。 ついて来なさい。
「 あ だったらあたいも―――!
エミ 「 おたくは来なくていいワケ。
  役に立たないコを連れてきても足手まといなだけ、敵がSランクなら尚更ね。
 
エミは茜に背を向けたままそう言った。
すると茜はみるみる高揚(こうよう)し、顔を赤らめた。
 
「 ・・・・・・・・・・・・・( あ、足手まとい・・・!! ) クッ!!
 
ダダダダダッ
 
茜は何もいえないまま走ってその場を離れ、病院から出ていった。
 
 
 
 
 
パシャパシャパシャパシャッ
 
1月中旬の寒い雨の中、茜は傘も差さずに走っている。
 
はあっ はあっ はあっ はあっ・・・
( ・・・・・・違うっ!
  あたいはこれで借金が全部返せると思って・・・事務所の為になると思って・・・
  でも なにも言えなかった! だってあいつらの言ったことは全部本当のこと・・・!
 
ぱしゃっ・・・
茜は走るのをやめ、うつむいた。
 
       ・・・なんであたいはこんなに半端モンなんだよ・・・
 
とそこに、後ろからカサを差した中年の男が現れる。
 
「 どうしましたお嬢さん カサも差さずに・・・おや? キミは・・・
 
茜が振りかえると、そこには知っている顔の男がいた。
 
 
 
「 ・・・・・・・・・・・・オッサン。
 
 
 
 
ザ―――――――――――――ッ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
■唐巣の教会■
 
唐巣 「 ホットミルクでもどうぞ。 体が温まりますよ。
「 あ ありがと・・・。
 
茜はタオルを頭にかけ、教会の中の一番前の席に座っていた。 唐巣神父は隣に座ると―――
 
唐巣 「 どうしました? なにかお悩みでも?
「 ・・・・・・。
 
茜はコップを握り締め、言葉に詰まっていた。
その様子を見た唐巣は、正面にある十字架の形をしたステンドグラスを見上げた。
 
唐巣 「 ・・・ここは神の御前です。 
  全てを告白すれば 神はきっと答えを出してくれるはずですよ。
 
「 ・・・・・・あたいは―――
 
 
 
    ―――茜は唐巣に全てを話した―――
 
 
 
「 あたいはバカなんだ 自分のことしか考えてなかった・・・
 
  魔理たちが怒るのも無理ないよ。
 
  だってGSのあいつらを差し置いて 素人のあたいなんかが助手になっちまったんだ。
 
  ただ笛が吹けるという理由だけで・・・
 
  それなのにやってる仕事は あたいのレベルに合わせた簡単な除霊ばかりで、
 
  身を守るための結界札を使いまくってるから たいした儲けにもなりゃしねえ。
 
  もし魔理たちが助手になってたら 今頃とっくに借金ぐらい返してるのはわかってるさ。
 
  だからあせってたんだ 早く強くなりたいって・・・
 
  あいつらに認めさせてやりたいって・・・・・・・・だからあたい・・・・・・あたい・・・・・・・・・
 
 
ぽんっ・・・唐巣は茜の頭を優しく撫でると―――
 
唐巣 「 あなたは優しい子なのですね。
 
「 違うっ!! あたいは―――!
 
唐巣 「 ほら、キミは自分の行ったことに こんなにも真剣に苦しんでいる。
  他人を思いやる気持ちがなければ 後悔したり悩んだりはしませんよ。
 
「 神父・・・・・・
 
唐巣 「 もう一度、彼女らに会いにいきなさい。 そこであなたの本当の気持ちを伝えるのです。
 
「 でも!
 
唐巣 「 大丈夫。 真正面から向き合えば あなたのことをきっと、受け入れてくれるはずですよ。
 
じわっ
「 ・・・・・・―――――!!
 
 
・・・茜は頭を唐巣神父に寄せ、声を出さずに泣いていた。
そんな茜の背中を、唐巣は優しく叩いてあげていた。
 
―――そしてその様子を目撃した1人の少女がいた。
 
ばさっ・・
聖羅 「 唐巣神父・・・そんな! まさかあんな方と!?
 
教会に通じる扉の前で、手にした聖書を落とし、愕然とする聖羅であった。
 
 
 
 
 
■除霊現場 旅館■
 
エミ、仙香、春華の3人は、Sランクの悪霊と戦っていた。
エミは霊体撃滅波の儀式を行い、一撃で祓えるよう長めに霊力チャージを行っている。
 
ビュウンッ
悪霊 ≪≪  ギィイィィィィッ!!!!!  ≫≫
 
春華 「 仙香! 結界のお札を取って!!
仙香 「 ダメ! 霊体触手で奴の動きを止めるので精一杯なのよ!!
春華 「 私だって キョンシーのコントロールで エミ所長のガードに手一杯なんだから!!
 
「 これでいいのか?
 
―――!!!―――
 
そこには結界札を持った茜がいた。
 
「 あたいのことは気にすんな!!
  自分の身ぐらい自分でなんとかする!! エミさん!! 所長のカタキを!!
 
エミは茜を確認すると、一瞬微笑んだ。 そして悪霊をにらみつけると―――
 
エミ 「 ここはおたくのいるべき場所じゃないわ・・・もちろんこの世でもない。
 
カッ!
 
次の瞬間、エミは両手を広げる!
 
 
 
エミ 「「「「「  あの世に帰れ!!  霊体撃滅波――――――――――ッ!!!!!
 
 
 
 
 
 
■白井総合病院前■
 
夜、面会時間も終わり、一文字・水樹・洋子の3人は寮に帰ろうとしていた。 するとそこに―――
 
たったったったったっ
「 魔理―――!!
一文字 「 あかね!
「 はあっ はあっ はあっ はあっ・・・・・・
 
茜は呼吸を整え、コンクリートの床に正座し、3人に頭を下げた。
 
「 魔理 水樹さん 洋子さん、すまねえ!!  全部あたいのせいだ!!
  あたい力もないくせに 事務所の借金を早くなくしたくて、あせって 嘘をついて、
  所長をこんな目に遭わせちまって・・・・・・・・・ホントにすまねえ!! このとおりだ!!
 
顔を見合し、茜のまさかの行動に戸惑う一文字達。 そんな中、最初に洋子が声をかけた。
 
洋子 「 わかればいいんや。 寅吉の奴 目えさましとるから早く行ってやり。
「 ヨーコさん・・・
一文字 「 まあ 反省してるみたいだし いいんじゃねーか?
水樹 「 茜ちゃんのこと 心配してたわよ。
「 魔理 水樹さん・・・・・・すまねえ!!
 
茜は病院の中に駆け込んだ。
 
看護婦 「 ちょっとあなた、面会時間はすぎているんですよ!!
水樹 「 すぐに終わりますから、少しだけまってあげてください!
 
看護婦を抑える水樹。
一方で一文字はひとつ疑問に思った。
 
一文字 「 ・・・で この期に及んでなんで私だけ『魔理』って呼び捨てなんだ?
にまっ
洋子 「 ええやん。 慕われてる証拠やんか♪
 
 
 
■病室■
 
タイガーは、集中治療室から、個室へと移されていた。
 
がちゃっ
「 所長!!
タイガー 「 あかねサン・・・無事ジャったか。
 
点滴をうけていたタイガーの体は、半分以上を包帯で巻かれている。
 
タイガー 「 全治2ヶ月だそうジャ。 すまんノー しばらくバイトは休みじゃな。
「 所長・・・・・・
 
茜はうつむき、声が震える。 やがて茜の頬に、ひとすじの涙が流れた・・・
 
タイガー 「 どうしたんじゃ? なにも泣かんでも・・・・・・
 
 
茜は自分がランクを書き換えたこと、嘘をついていたことをすべて正直に話した。
タイガーは、茜が反省してくれてることを感じ、彼女を笑って許すのであった。
 
 
―――そしてタイガー除霊事務所はしばらくの間、所長負傷により休業を余儀なくされたのである・・・
 
 
第8節・完

※この作品は、ヴァージニアさんによる C-WWW への投稿作品です。
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