とら! 第9節 2人の夜


   
2月13日 白井総合病院前、タイガー退院の日。
 
松葉杖をつき、右足にギブスをいているタイガーと、
退院祝いに来た一文字・茜・水樹・洋子・ピート・愛子、そして医者がいる。
 
医者 「 ―――というわけで、無茶な除霊はせんように。
  現代医学をもってしても、死んだら治療することは不可能じゃからな。
一文字 「 タイガー退院おめでとう!
 
花束を渡す一文字。
 
タイガー 「 一文字サン、皆サン・・・ありがとう!
一文字 「 んじゃ帰ろうぜ!
水樹 「 タクシーの所に行きましょう!
ひょいひょいっ
洋子 「 あーちょいまち。
 
手招きする洋子に、松葉杖をついて近づくと・・・
 
洋子 「 はいこれ。
 
洋子は手の平ぐらいの、きれいに包装された包みをタイガーに手渡した。
 
 
洋子 「 チョコや。 明日バレンタインやろ。

リポート45 『バレンタインパーティー』
ピシィ―――ッ!
――――――!!!!――――――
 
タイガーはもちろんのこと、驚き固まる一文字達。
 
洋子 「 うちはこれから親戚の法事があって、実家に戻らんといけんのよ。
  そやから1日早いけどそれー渡しとくわ。
タイガー 「 ・・・・・・
ピート 「 タイガー?
 
ピートが振るえるタイガーの顔を覗き込む・・・すると次の瞬間、タイガーは号泣する!
 
うおおおおおおおおっ!!!!!!!
タイガー 「「「 この世に生まれて19年!!
   はぢめて・・・・・・初めておなごからチョコをもらった――――っ!!!!!
うおおおおおおおんっ!!!!!!!
   いっつもいっつもピートサンが紙袋いっぱいにもらっとるのを横目にみながら、
   わっしはわっしは寂しい思いを!
   横島サンでさえおキヌちゃんやら小鳩ちゃんやら何個かもらっとるとゆーのに、
   わっしは・・・・・・わっしは・・・・・・!!
がしっ! 
だばだばだばだばだばっ!  
  洋子サンありがとー!! 義理でもなんでも わっしは嬉しいですジャ〜〜〜!!
 
洋子 「 ・・・喜んでもらえて光栄さね。(汗)
 
洋子の肩をおさえ、涙を流して喜ぶタイガー。 愛子はハンカチで涙をぬぐった。
 
愛子 《 これも青春よねー。(涙)
 
洋子 「 寅吉ー エミさんからはもらったことないの?
タイガー 「 あの人はこういうことに参加する人じゃないケン・・・・・・
ピート 「 え? もらってないんですか?
 
ピートが言うとタイガーは沈黙する。 そして沈黙のカウントダウン。
 
 
 
「 ・・・・・・・・・・・・ 」(5)
 
 
 
「 ・・・・・・・・・・・・ 」(4)
 
 
 
「 ・・・・・・・・・・・・ 」(3)
 
 
 
「 ・・・・・・・・・・・・ 」(2)
 
 
 
「 ・・・・・・・・・・・・ 」(1)
 
 
 
ぐおおおおおおおっ
がしっ ぐらんぐらんっ
タイガー 「「「 なんじゃいまの発言は!!??
   ピートサンあんたまさかエミサンからチョコを!!??
 
ピート 「 あ いや、そのー!!(汗)
 
ピートのからだを揺さぶり、問いつめるタイガー。
 
愛子 《 これはこれで青春よねー。(涙)
 
再びハンカチを目にあて、涙をぬぐう愛子であった。
 
 
             ◆
 
 
その後、一文字と水樹は事務所と自宅のあるビルまでタイガーを送り、一緒に女子寮へと帰っていた。
 
一文字 「 ・・・水樹、おめえは去年タイガーにチョコ渡してねえのか?
水樹 「 あ あのときは修行修行でそれどころじゃなかったし―――!///
一文字 「 渡す気はあったのか?
水樹 「 あ あの頃はまだあげようとかどうとかそういうことじゃなくて義理であげようとかも思ったんだけどそれじゃあ抜け駆けみたいでエミさんや一文字さんに悪いと思ってでも一応お世話になってることだし今年はどうしようかな〜って考えたり―――・・・///
 
一文字 「 あれー 春華と聖羅じゃねーか。
 
真っ赤になってごにょごにょ言ってる水樹をよそに、
一文字は御菓子屋の店の前で、D組の春華と聖羅がチョコレートを吟味しているのをみつけた。
 
一文字 「 よっ、おふたりさん何してんだ?
春華 「 あら 魔理と水樹じゃない。 珍しい組合せね。
一文字 「 まーな。 今日はタイガーの退院の日だったんだ。
春華 「 そっかートラ男退院したんだ。
一文字 「 ああ。
春華 「 あんたはトラ男に買っていかないの?
一文字 「 私? 私はそういうのガラじゃないし・・・
春華 「 でもほらー、あのコ聖羅と一緒にチョコ選んでいるわよ。
一文字 「 え?
 
聖羅 「 こちらのほうがいいと思いません!?
水樹 「 ちょっと派手すぎないかなあ?
 
一文字 「 ・・・・・・(汗)
 
・・・いつのまにか水樹は、聖羅とチョコレートを吟味していた。
 
 
■翌日2月14日 六道女学院 廊下■
 
下級生 「 あのー これ、受けとってください!!
一文字 「 あ ああ・・・(汗)
 
下級生たちにチョコをもらい、引きつった顔をする一文字。
一文字に手渡した女生徒達は、走って逃げていった。 そこにおキヌと弓がやってきて―――
 
おキヌ 「 一文字さんすごいですね! 今日6個目ですよ!
「 まったく 女性には人気あるんですのね。
一文字 「 はあ〜っ 女子高って奴はなんでこう―――
「 でも、もっとうわてがあそこにいるわよ。
 
 
弓が指す窓の外に女生徒に囲まれているA組の小町がいた。
彼女はすでに、手提げ袋からあふれんばかりのチョコを貰っていた。(リポート10・21参照)
 
 
  下級生    「 小町サマー!!
  下級生    「 このチョコ受けとってくださーい!!
  小町    「 お おまえら、バレンタインをなんか勘違いしとらんか!?(汗)
 
 
おキヌ 「 わっ! ピートさん並ですね!
一文字 「 あああっ! 歪んでる・・・歪んでるぞこの学校は!!
 
頭をかきむしりながら苦悩する一文字。
 
「 ところで、あなた達は誰かに上げるアテはあるの?
一文字 「 私はなーし。
おキヌ 「 私は毎年横島さんにあげてたんですけど、
  今年はいないですし、同じ事務所仲間の雪之丞さんにあげようかと・・・
ぴくっ
「 氷室さん! ちょっとお話があります!
おキヌ 「 は、はい・・・
 
こそこそと、小声で話すおキヌと弓。
 
一文字 ( はあ〜あ、昨日は洋子があげてたし水樹もチョコ買ってたしな〜 どーしよーかなあ〜・・・
 
一文字がそんなことを考えてると、突然廊下の奥の方で女生徒達の騒ぎ方の反応が変わった。
騒ぎの方を見ると、そこには茜が。
彼女は自分の学校の制服のまま、この六道女学院へやってきていたのである。
 
「 よお魔理。 ここがおめえの高校か。
一文字 「 あかね!!
「 金かけてんなー うちの高校とえらい違いだ。
 
茜は興味深そうに周りを見渡していた。
 
一文字 「 おまえ目立つようなことすんなよ! つーかよく中に入れたな。
「 まあいいじゃねーか、別に殴りこみにきたわけじゃねーんだからよ。
一文字 「 ・・・で、なにしにきたんだ?
「 朝ガッコにいったら気づいたんだけどよ、今日バレンタインデーだろ。
  そこであたいは考えた。 所長の退院パーティーをやろうかと。
一文字 「 ・・・バレンタインと何の関係があんだよ。(汗)
おキヌ 「 でもいいアイディアですよ! やりましょう!
「 おお 賛成してくれるかキヌっち!
 
一文字 ( ・・・おキヌちゃんもやる気だし。 てゆーかあかね、なんか変わったな。(汗)
 
「 問題はどこでやるかなんだ。 予算もないことだし人数もどんだけ集まるか・・・
おキヌ 「 あ それならいい場所がありますよ!
 
 
 
 
・・・・・・で、
 
 
 
 
■魔法料理 魔鈴 本日貸切■
 
 
令子 「 ―――というわけで、タイガーの退院を祝って、乾杯―――!!
 
 
「「「「「   かんぱ―――――い!!!!!   」」」」」
 
 
がつがつっ
「 こらうまい! こらうまい!
シロ 「 あ、それは拙者の肉でござる!
魔鈴 「 みなさん、どんどん食べてくださいね〜!
黒猫 《 ・・・もう見慣れた光景だニャ〜。
 
貧とシロが魔鈴の料理にがっつく。
そこには毎度おなじみのように、どんちゃん騒ぎするいつものメンバーの姿があった。
 
おキヌ 「 ありがとうございます魔鈴さん。 急に無理なお願いしてしまって。
魔鈴 「 いいんですよ。 今日は魔法チョコの販売だけで、夜は休業するつもりでしたし。
  それにこういうことは何度やっても楽しいですもんね!
 
窓側のテーブルでは、ピートの両隣にエミとアン・ヘルシングが座っていた。
エミはピートの口にチョコを入れようとしていたが―――
 
エミ 「 ピ〜トォ〜! はい、あ〜ん♪
ピート 「 ちょ ちょっとエミさん!///
アン 「 オバサン! ピートおにーさまから離れなさいよ!!
ピクッ
エミ 「 誰がオバサンなワケ〜〜〜!(怒)
ピート 「 エミさん落ちついて・・・!(汗)
エミ 「 ムネもシリもないガキに言われたかないわよ!
ムカッ・・
アン 「 なっ・・・どこ見てるのよ!! ちゃんとあるじゃない!!(怒)
エミ 「 その程度じゃまだまだね♪ ピートも大人の女のほうがいいわよね〜♪
ピート 「 エ、エミさん・・・!(汗)
アン 「 ムカ〜〜〜ッ!! こうなったら“ゴリアテ”を呼んでこのオバサンを・・・!
ピート 「 あ―――待った待ったアンちゃん!!(汗)
 
2人にはさまれ、羨ましい立場なのかどうかわからない状態のピート。
とそこに松葉杖をついたタイガーが近づき―――
 
タイガー 「 エミさん! ワ ワシにはなんかないかノー!
エミ 「 ああ、そうね忘れてたわ。 はいこれ。
 
エミは封筒を、中指と人差し指にはさんでタイガーに渡す。
 
タイガー 「 これは?
エミ 「 こないだの旅館の被害請求代。 ちゃんと払っときなさいよ。
 
がんっ☆
タイガーの頭の上にたらいが落ちる。 イメージ的に。
そしてだばだばと泣くタイガーの所に水樹が近づく。
 
水樹 「 あ あの〜、タイガーさんこれー・・・///
タイガー 「 水樹サン これは・・・
 
彼女は、綺麗にラッピングされた箱をタイガーに差し出した。
水樹はみるみる顔を赤らめ、鼓動が高まっていく。
 
水樹 「 その〜・・・・・・・えと・・・・あ・・・・・・・・・///
タイガー ( ま、まさか・・・!
 
タイガーもつられてときどきする。 沈黙する2人。 そして水樹は―――
 
水樹 「 退院祝いです!!
タイガー 「 あ・・・ありがとう・・・
水樹 「 え、ええ・・・ ( 私のばかー!!(心泣)
 
心の中で泣く水樹だった。 そして―――
 
おキヌ 「 退院おめでとうございます! タイガーさん!
冥子 「 タイガーく〜ん、退院おめでと〜。 これどうぞ〜。
じわっ
タイガー 「 おキヌちゃん、冥子サン・・・ありがとう・・・
 
タイガーに退院祝いの品(チョコレート)を渡すおキヌと冥子。
その様子を見た美神は、おキヌに聞いた。
 
令子 「 おキヌちゃん、あれ雪之丞にあげるっていってなかったっけ?
おキヌ 「 え ええ、まあ・・・
令子 「 そういえば雪之丞いないわね。 かおりちゃんも・・・! ははん、そういうことね♪
おキヌ 「 そういうことなんです・・・
令子 「 まったく横島のバカはどこでなにしてるのやら―――!
 
横島を思いだし、急に不機嫌になる美神であったが、西条が花束を持ってやってくると―――
 
西条 「 やあ令子ちゃん、チョコレートどうもありがとう! お礼に花を買ってきたよ!
令子 「 あら♪
 
おキヌ ( み、美神さん・・・(汗)
 
 
別のテーブルの一角では、一文字と茜、
そして後輩の2人、パーマをかけた赤髪の由布子と、髪を紫に染めている弥生の4人が話していた。
 
 
「 にしても、思った以上に人が集まったなー。
  事務所引越しの時もそうだったけど、ああみえて所長って意外と人望あったりするのか?
一文字 「 そうだな。
 
タマモ ( ・・・てゆうかみんな騒ぎたいだけじゃない?
 
近くに座っていたタマモはそう思った。 とそこに、唐巣神父が来る。
 
唐巣 「 やあ茜君、楽しんでいるかい?
「 あ 神父。 このあいだはどうも・・・
唐巣 「 いえいえ、元気そうでなによりですよ。
 
聖羅 ―――!―――
 
茜は立ち上がり、照れながら頭を下げると、離れた席に座っていた聖羅がその仕草に反応する。
そして茜の後輩の由布子と弥生が唐巣を見て声をかけてきた。
 
由布子 「 せんぱ〜い、なんなんっスかこのオッサン。
弥生 「 あ、数学のセンコーにそっくりっスねー。
「 !!
 
ぽかぽかっ =☆  =☆
 
「 てめえら神父に対してなんて口の聞き方しやがるんだ!! ワビをいれねえかコラ!!
へこへこっ
由布子・弥生 「「 す すんませんでした!
「 どうも、後輩たちが失礼しやした!
唐巣 「 あ いや〜 そんなにかしこまらなくても・・・(汗)
 
後輩の2人に頭を下げさせる茜。
 
がしっ ずいずいっ
聖羅 「 唐巣先生、こっちの席が空いてますわ! 座りましょう!
唐巣 「 ちょっと聖羅君!!
 
聖羅は唐巣の腕を取り、離れた席へ移動しようとした。 すると茜が・・・
 
「 てめえちょっと待て!
聖羅 「 な! ・・・なんですの?
 
聖羅はビクッとして、唐巣の腕をつかんだまま、茜にゆっくり目線を合わせる。
そして2人は唐巣を挟むような形で互いをにらみ合った。
すると、その異様な気配にあてられた唐巣の額から、一筋の汗が流れる。
 
唐巣 ( な、何ですかこのシチュエーションは・・・(汗)
 
現役(何が?)の茜のガン飛ばしに対し、聖羅は霊力で気を保ち、互角に睨み返していた。
そして唐巣は、エミとアンに挟まれてるピートを見て、ようやく彼の気持ちを理解できたとのちに語る。
この弟子にしてこの師匠あり、といった所か。
 
ざわざわざわ・・・
 
そんなにぎやかなパーティーの中、一文字は友人達と話しているタイガーをちらっと見ると、
立ち上がって店の出口に向かった。 するとおキヌが一文字に気づき―――
 
おキヌ 「 どうしたんです一文字さん?
一文字 「 ・・・ヤボ用。
 
そう言うと一文字は、パーティー半ばで魔鈴の店を後にした。
 
 
・・・そして2時間後、楽しい時間もすぎ、パーティーは終了した。
みんながそれぞれ徒歩や車で帰宅していく中、
ギブスをして松葉杖をついたタイガーは、タクシーに乗って帰宅したのである―――

リポート46 『バレンタインの夜』
■タイガーの自宅■
 
松葉杖をつきながら階段を上がり、事務所の上の階にある自宅に入った。
タイガーの自宅は8畳ほどのフローリングの部屋と、3畳の台所、トイレと浴室は分かれている。
広さ的には2階の事務所とそれほど変わらないが、事務所に入りきれない本や除霊用具など自宅に置いているため、幾分狭く感じられた。
それでもある程度整理されているので、適度に散らかっているといった感じである。
 
タイガー 「 う〜〜〜寒いノー
 
時計の針は10時を回っていた。
タイガーは電灯のスイッチとコタツのスイッチを入れると、
ギブスをした足に注意しながら、タイガーは部屋の真ん中にあるコタツに入る。
そしてコタツの上に置いてあるペットボトルや弁当のカラなどを端によせ、退院祝いの品を紙袋から取りだした。
 
どさどさっ
タイガー 「 これは冥子サン、唐巣神父、西条サン、
  これはおキヌちゃん、魔鈴サン水樹サン・・・・・・
 
タイガーは退院祝いの品を開封して確認する。
 
タイガー 「 ・・・・・・え? じょ、女性陣は全員チョコじゃと!?
  退院祝いの日がたまたまバレンタインとはいえこれは・・・!
  義理でもうれし―――生きててよかった―――!!
 
嬉し泣きするタイガー。
だが彼は気づいていない。 中には本命チョコも混じってることを。
 
 
 
ピンポ〜〜〜ン
 
 
 
玄関のチャイムが鳴る。
 
タイガー 「 どうぞー 開いとるケーン。
 
足のケガのため、身動きがとりにくいタイガーは、コタツに入ったまま叫んだ。
彼のいる部屋と、台所の間にある扉は開けたままにしているので、座ってる場所からは玄関の扉が見えていたのだ。
扉が開くと、そこには白い息を吐く一文字の姿が見えた。
 
一文字 「 よお、タイガー。
タイガー 「 一文字サン! どうしたんじゃこんな遅くに!
一文字 「 ちょっとな・・・入っていいか?
タイガー 「 ど どうぞ!
 
突然の訪問に戸惑い、あわててコタツの周りを片付けるタイガー。
2階にある事務所にはよく訪問していたが、自宅に女性が訪問して来ることは滅多になく、
一文字もタイガーの部屋にあがるのは、事務所の片付けの時以来であった。
一文字は部屋に上がり、コタツの上のチョコを見る。
 
一文字 「 ・・・へえ〜、結構もらったんだな。
タイガー 「 あ いや・・・全部義理じゃけんどノ、退院祝いもかねとったし・・・
 
微妙に焦るタイガー。
 
一文字 「 そうか・・・これもいるか?
 
一文字は手さげ袋の中からチョコを差し出した。
 
タイガー 「 い、一文字サン・・・!
( こんな夜遅くにわざわざ渡しに来てくれるとは、これはもう愛の告白と受け取っていいのか!?
  じゃがワシにはエミさんという心に決めた人が・・・・・・・・・じゃが・・・・・・くっ!
  ああああああっ! じゃが嬉しいと思うのは、これは男のサガなのじゃろーか!?
  一文字サンも決して悪くない! いや、むしろ好いとるけど・・・!
  ああ〜っ、ダメジャダメジャ〜〜〜! ワシって意外と優柔不断〜〜〜!
  今のワシにおなごを選ぶ権利なんてないケ〜〜〜ン!!
 
苦悩するタイガーをよそに、一文字は手さげ袋を逆さにして、
ラッピングされた複数の箱を無造作にコタツの上に取りだした。
 
どさどさっ
 
全てチョコだが、その数はタイガーよりも多い。
そして一文字はごく自然に、タイガーと向かい合うように一緒のコタツに入った。
タイガーはチョコの山と一文字の行為両方に驚いたが、とりあえずチョコの方をたずねた。
 
タイガー 「 い 一文字サンこれは?
一文字 「 全部学校でもらったやつだよ。 私甘すぎるのはあんまり好きじゃないし、おめえにやるよ。
タイガー 「 やるって・・・
一文字 「 勘違いすんな。 私はチョコなんか人のために買ったことねーよ。
  ケッ! どいつもこいつも菓子屋のでっちあげ企画にのせられやがって・・・!
 
一文字はコタツにひじをつき、手の平をあごに当てる。
 
タイガー 「 どこかで聞いたセリフジャノー・・・(汗)
  でも学校でもらったって・・・女子高じゃろー?
一文字 「 その女子にもらったんだよ。 まったくなに考えてんだか!
タイガー 「 じゃがワシがもらってもいいのか? チョコを渡してくれた子たちの気持ちを考えると・・・
 
一文字はひとつ、ため息をつくと―――
 
一文字 「 あのなあー 女が女からチョコもらってどうしろっていうんだよ。
  私はこんなに食えねえし処分に困ってたトコなんだ。 いいから食え。
タイガー 「 そういうことなら・・・
  でもわざわざもってきてくれんでも、魔鈴サンとこで渡してくれれば簡単じゃったのに。
一文字 「 ま まあこれはついでだ。 本題はこっち。
 
一瞬焦りをみせた一文字は、B4サイズの封書をタイガーに差し出した。
 
タイガー 「 ・・・開けていいのか?
一文字 「 ああ。
 
タイガーが開封すると、中には一文字の履歴書・GS資格証明書など、入所に必要な書類がそろっていた。
 
タイガー 「 これは・・・
一文字 「 前に言ったろ、卒業後はおめえんとこで働かせてくれって。
  ところがおめえは怪我して入院しちまったから、所員募集どころの話じゃなかったろ。
  洋子や水樹も近いうちに履歴書持ってくるはずだぜ。
  4月からは所員を雇うのはおめえの自由だって、エミさん言ってたしな。
 
タイガー 「 そうかー 一文字サンたちも卒業まであと3週間もないからノー。
一文字 「 ・・・それでさー やっぱ入所試験なんかやるのか?
タイガー 「 いや 全然考えとらん。 でも一文字サンたちなら試験をするまでもない。
  GSの資格も持っとるし、むしろこっちからお願いしたいぐらいじゃし・・・
 
それを聞いた一文字の顔に笑顔がこぼれ、コタツに両手をついてタイガーに詰めよった。
 
一文字 「 じゃあもう正式に決まりってことでいいんだな!?
タイガー 「 あ ああ、ワシのところでよければ喜んで!
 
微笑むタイガーを間近で見て安心する一文字。
 
一文字 「 よかった〜、これで安心して卒業できるな!
 
どさっ・・・一文字はホッとした様子で、下半身はコタツに入ったまま後ろに倒れ、仰向けになって寝転んだ。
 
 
一文字 「 頼むぜ所長。
タイガー 「 あ〜 所長はやめてくれんかノー。 一文字サンに言われるとどうもなんか調子が・・・
一文字 「 ・・・そっかー。
「 ・・・・・・
 
 
―――しばしの沈黙。
 
 
チッ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・ 時計の針の音だけが部屋の中に響く。
一文字はコタツに入って寝転んだまま、タイガーのほうを見ると―――
 
 
一文字 「 ・・・あのさ、タイガー。
 
タイガー 「 なんジャ、一文字サン?
 
一文字 「 だからそのー・・・・・・
 
タイガー 「 ?
 
一文字 「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ〜〜〜やっぱいいや!
 
 
一文字は顔を赤くし、うつ伏せた。
真向かいに座っているタイガーの場所からは、一文字のその表情を見ることができない。
少しの間沈黙が続いた後、今度はタイガーのほうから一文字にたずねた。
 
タイガー 「 一文字サンちょっと聞いていいか?
一文字 「 なにー?
タイガー 「 その〜〜〜 ワシのことどう思う?
一文字 「 は!?
 
一文字は驚いた様子で、寝転んだまま振り返った。
 
タイガー 「 いや、ワシ〜日本に来てもう2・3年になるんじゃが、
  エミさんの期待に応えられるよう、ワシなりに頑張ってきたつもりジャ。
  それなのにエミさん、ピートさんにはチョコあげといてワシには一度もくれたことないし・・・
  まあワシは一度エミさんにフラレとるわけじゃし、未練がましいのもわかっとるんじゃが・・・
 
タイガーが両手を組んで指をもぞもぞさせながら話してると、一文字は少しイラつきながら起き上がり、タイガーと対面した。
 
一文字 「 ・・・おめーなあ。
タイガー 「 え?
一文字 「 そういうことは男友達に相談しろよ。 女の私に相談することじゃねーだろ。
タイガー 「 あ・・・そうじゃの・・・すまんかった。
 
タイガーは、人差し指で顔をかく。
 
タイガー 「 一文字サンなら横島サンやピートサンみたいに話しやすそうじゃからつい・・・
一文字 「 つい? それじゃ私が男っぽいって言いたいのか?
タイガー 「 あ、いや〜そんなことは決して〜〜〜!
 
一文字に睨まれ、顔から大量の汗をかくタイガー。
しばらくして一文字はため息をついた。
 
一文字 「 ハアッ・・・別にいいよ、私も自覚してることだから。
タイガー 「 ・・・すまん。
一文字 「 いいって。 いいから続き話せ。
 
タイガー 「 ・・・エミさんはああ見えてものすごく一途なんジャ。 だってそうじゃろ?
  ピートサンと出会って3年経とうとしとる今でも、ピートサンのことを想うとる。
  更に言えば、バンパイアハーフのピートサンは、この先何百年も生き続けることができるんじゃぞ。  
  たとえ一緒になっても、ピートサンはほとんど変わることはないのに、ワシら人間は老いていく。
  まあそんなことぐらいみんな承知の上のことなんじゃろーが・・・。
 
一文字 「 ・・・・・・
 
タイガー 「 やっぱりエミさんも、好きな男の前で他の男に親しくされとうないじゃろーし、
  特にピートサンの前ではいくらワシであっても、迷惑に思われとるみたいなんジャ。
  ・・・ワシ最近思うんジャ、ピートサンなら諦めてもいいんじゃないかって。
  かっこいい男だけなら他にいくらでもいるはず・・・
  じゃがもちろんピートサンは顔だけじゃない、優しい、本当にいい男ジャ。
  おなごたちが惚れるのもようわかる。 エミさんもそこんとこわかっとるんじゃろーノー・・・
 
一文字は、エミに対して初めて諦めモードに入るタイガーを見ると、コタツの上に積まれてあるチョコ
(タイガーがもらった退院祝いを含むチョコと一文字が下級生にもらったチョコ、合わせて10数個)
の中から一つを取って話しだした。
 
一文字 「 ・・・おキヌちゃんから聞いたんだけど、美神さんは横島にチョコあげたことがないんだってさ。
タイガー 「 え? それはワシもきいたことがあるが・・・それが?
一文字 「 でも美神さんは西条さんにはあげていた。 今回もな。
タイガー 「 ??
一文字 「 ある意味似てるだろ、エミさんと美神さん。
タイガー 「 そうかのー 全然違うと思うがー。
一文字 「 仮にもし美神さんが横島のこと好きだとして、横島にチョコあげると思うか?
タイガー 「 ん〜〜〜ないな。
一文字 「 どうしてそう思う?
タイガー 「 それは・・・う〜んやっぱり年下じゃし 仕事上は弟子と師匠じゃしー・・・
一文字 「 それがそのままエミさんとおめえに当てはまらないか?
タイガー 「 ・・・・・・あ!
一文字 「 まあエミさんがタイガーのことをどう思おうと、
  よっぽどのことがない限りあの人はおめえにチョコなんか渡さないだろーな。
 
それを聞いたタイガーは少し考え込むと―――
 
タイガー 「 どっちにしてもエミさんは、ワシの師匠で恩人ジャ。
  エミさんがピートサンといて幸せなら、それでいいかもしれん・・・
 
肩を落として呟くタイガー。
一文字はタイガーから目線をそらし、頭をかきながら助言した。
 
一文字 「 そう思う前に一度ピートさんに聞いてみたらどうだ? エミさんの事本当はどう思ってるんだって。
タイガー 「 そうじゃノー・・・あ!
一文字 「 どうした?
タイガー 「 ピートサン、今日のパーティーの後ヨーロッパのほうに戻るとか言っとった。
  Gメンの研修やら仕事やらで、日本とあっちを行ったり来たりしとるからノー。
一文字 「 フッ‥タイミング悪いなあ〜おめえも。
「 あ いや、ホントはもっと早くあっちに戻る予定だったようじゃが、
  ワシの退院日まで残っといてくれたらしいんジャ。 このことは西条サンから聞いたんじゃがの。
 
一文字は少し微笑むと―――
 
一文字 「 やっぱいい奴じゃん。
 
タイガーも微笑む。
 
タイガー 「 ・・・ああ。
 
 
 
タイガーは思った。
 
あの人に認めてもらいたい
あの人のお役に立ちたい
あの人を喜ばせてあげたい
そう思うあの人には幸せになってほしい
 
親友の彼ならきっとあの人を幸せにするだろうと。 きっと・・・・・・
 
 
 
一文字 「 あ、雨だ。
 
タイガー 「 え?
 
 
ザ――――――――――――――ッ
 
 
部屋の南側の窓にかかってるカーテンの間から、みぞれに近い雨が強風に流され、窓に降りつけているのがうかがえる。
タイガーは時計のほうに目をやると、もうすぐ11時になろうとしていた。
 
一文字 「 さう・・・どうりで寒いわけだぜ。
 
一文字はコタツの中に両腕を入れなおし、辺りを見回す。
 
一文字 「 この部屋暖房いれてねえのかよ。
タイガー 「 ああ、ワシ寒さには強いからノー。 普段はこれ(コタツ)だけで充分ジャ。
一文字 「 ふ〜ん。
タイガー 「 寒かったら暖房のスイッチ入れよう。
 
ぽちっ・・・リモコンで暖房のスイッチを入れた。
 
「 ・・・それより寮のほうは大丈夫なのか? 時間も遅くなってきとるようじゃが。
 
一文字は目を細め、あごをコタツの上に乗せると―――
 
一文字 「 おめえこの大雨の中 原付で帰れってのかよ。
タイガー 「 そ そういうわけじゃのーて・・・!
一文字 「 門限なんかとっくに過ぎてるよ。 いま帰ったら余計目立って寮長に怒られるぜ。
タイガー 「 そうかー・・・
一文字 「 ま 明日休みだし今晩泊めてくれ。
 
タイガー 「 ああ。 ・・・・・・・!?
 
 
周囲の時間が凍りついたかのように2人は固まる。
その間約6秒。
マンガで言うと2コマぐらい、セリフなしの同じカットが並ぶといった所か。
 
 
タイガー 「 なんじゃと〜〜〜!! <ガンッ☆> はうっ!!(涙)
 
 
タイガーは驚いて思わず立ち上がろうとすると、コタツの角におもいっきりギブスをぶつけてしまい、
骨折した右足にジーンと響いた。
そしてそのままその場に倒れ、右足のギブスを抱えてうずくまる。
 
一文字 「 大丈夫かおい!?
タイガー 「 ぬおおおお! だ 大丈夫ジャ、それより今言ったことは――
一文字 「 冗談だよ、小降りになったら帰るよ。
タイガー 「 な なんジャ、あはは!
一文字 「 わりい、そんなに驚くとは思わなかったんだよ。
  ・・・だけどただ泊まるぐらいでそんなに動揺するなよ。 ・・・なに考えてんだおめえ。
 
一文字は再び目を細めて言うと、
 
タイガー 「 あ、いや、あ〜、その〜〜〜!///
 
真っ赤になって口ごもるタイガー。
すると一文字はテレビのスイッチを入れ、お笑い番組にチャンネルを合わせた。
 
一文字 「 まあいいや、それまでテレビでも見させてもらうぜ。
タイガー 「 あ それじゃあ飲み物でも入れようか、コーヒーでいいカイノー?
 
タイガーはそう言いながらゆっくり立ち上がろうとすると―――
 
一文字 「 いいって私やるから。 冷蔵庫開けるぜ。
タイガー 「 いや それはやめといたほうが・・・!
 
ぱかっ・・・一文字は台所に向かい冷蔵庫の中を覗きこんだ。
 
一文字 「 うわっ ちょっと匂うな!
 
冷蔵庫の中の野菜や生ものなど、半分以上の食材は腐っていた。
冷蔵庫に入っていたとはいえ、これが夏場だったらとんでもないことになっていたであろう。
 
タイガー 「 ワシ1ヶ月も入院しとって昨日ここに戻ったばかりじゃから。
  落ちついたらそのうち処分するつもりだったんじゃが――
一文字 「 んじゃ腐ってそうなヤツは捨てるぞ。
 
一文字は近くにあったゴミ袋の中に生ゴミを入れていく。
 
タイガー 「 そんなことせんでも――
一文字 「 いいって。 それよりタイガー、食材結構多いけど自炊なんかするのか?
タイガー 「 ああ 昔からサバイバルな生活しとるからノー。
  お金もないし食う量も多いし、やっぱ自分で作ったほうが安上がりじゃからノー。
 
一文字 ( そういやこいつ、寮でも食堂で働いていたし・・・私より料理うまいだろうなー。
 
冷蔵庫を片付けながら、ちょっとだけ落ち込む一文字であった。
そのあと彼女は、お湯を沸かしてインスタントコーヒーをつくり、テレビを見ていたタイガーに渡した。
 
一文字 「 ほらよ。
タイガー 「 ありがとう。
ZZZZ・・・
  ・・・? コーヒーの素の量多くないか?
  よく見たら粉が浮いとるし、全部溶けきってないようじゃが・・・
一文字 「 い いいんだよ! これぐらい入れといたほうが!
  そんなに苦けりゃ チョコの甘さで口ん中ごまかしゃいいだろ!///
タイガー 「 いや、そこまですることでもないんじゃがー(汗)
 
心の中では、しまった! 入れすぎた! と後悔する一文字であった・・・
 
 
そのあと2人はテレビを見ながら時間を過ごした。
そして時間はあっという間に過ぎていき、12時を過ぎ、日付が変わっていた。
豪雨は今だ止むことはない・・・
 
 
ザ――――――――――――――ッ
 
 
タイガー 「 ・・・雨、止まんノー。
一文字 「 ああ・・・
 
 
ザ――――――――――――――ッ
 
 
タイガー 「 ・・・一文字サン。
一文字 「 ん?
 
 
 
 
 
 
 
タイガー 「 ・・・・・・・・・・・・泊まっていくか?
 
 
 
 
 
 
 

リポート47 『バレンタインミッドナイト』
深夜一時タイガーの自宅、部屋にはふとん1組と端に寄せられたコタツが並んでいた。
窓には激しいみぞれまじりの雨が打ちつけている。
 
一文字 「 ・・・まさかおめえのほうからそうくるとは思わなかったぜ。
タイガー 「 いやー さすがにこの暴風雨のなかで帰れとは言えんしー、
  それよりワシ、2階の事務所で寝るつもりで言ったんじゃが―――
一文字 「 気い使う必要ねえって。 おめえのこと信じてっからよ。
 
タイガー ( ・・・それはどう解釈すればいいんじゃろーか?
 
そう笑顔で答えた一文字は、コタツの中に入ろうとしていた。
 
タイガー 「 一文字サンちょっと待ってクレ!
一文字 「 ん?
タイガー 「 ワシがコタツで寝るケエ一文字サンは布団で寝てツカーサイ!
一文字 「 いーよ、おめえ退院したばっかなんだし、風邪でもこじらせたら大変だろ。
 
そう言いながら肩までコタツにもぐりこんでしまった。
動く気配のない一文字に対しタイガーは諦め、温風暖房を“強”にする。
そしてあらん限りのジャンバーなどの防寒着を、コタツの周りに敷き詰めていった。
 
一文字 「 タイガー・・・
タイガー 「 これで少しは寒くないかノー。
一文字 「 ああ。
タイガー 「 それじゃあ電気切るぞー。
一文字 「 ああ、おやすみ。
 
 
パチッ
 
あたりは真っ暗になり、タイガーは自分の布団に入り横たわる。
 
―――そしてしばらくの静寂。
 
自分の寝ているすぐ横には、コタツで眠る彼女の頭が見えていた。
 
どきどきどきどき
( はー眠られん!
  おなごを部屋に招いたことすら無きに等しいのに!
  う〜精神感能も使っとらんのにワシの虎が〜〜〜ワシの本能が〜〜〜!! )
 
「 タイガー。 」
「 な、なんジャ一文字サン!? 」
「 私、おめえにどうしても言っときたいことがあるんだ・・・ 」
「 え!? 」
 
彼女のほうを振り向くと、彼女も自分のほうを向いていた。
暗いため彼女が高揚し、赤らめていることはわからなかったが、彼女の口調が幾分興奮しているように感じられた。
 
「 あ・・・さっきワシに言いかけてたことか? 」
「 ああ・・・そのことを話しにここに来たんだ。 わ 私な、その〜・・・・・・ 」
 
彼女は口ごもり、声が小さくなる。
 
どっどっどっどっ
( バレンタインの夜、男と女、一夜を共に・・・これはもしや“告白”なのか!?
  ワシは今ようやくエミさんのことを諦めようと思うとるとこなのに、
  もう別のおなごに心を奪われてもいいのか!?
  いや、じゃが相手は一文字サン! 嫌いじゃない! むしろ、むしろ〜〜〜! )
 
「 実は私、おめえの――― 」  「 だー待ってクレ!! 」
 
「 !? 」
 
上半身を起こし、彼女の言葉を止める。
 
「 おなごの口から先に言わせるわけにはいかん! ワシが先に言う!! 」
 
「 え!? 」
 
「 わっしは、わっしは・・・・・・一文字サンのことが好うっきジャ―――――!!!!!/// 」 
 
彼女は黙って自分の懐に顔をうずめてきた。
 
「 わ、私も・・・あなたが好き。 」
 
「 一文字サン・・・ 」
 
「 タイガー・・・ 」
 
「 好うっきジャ―――!! 」
 
 
 
       =☆
 
 
 
タイガー 「 はっ!
 
 
目を覚ましたタイガー。
周囲はまだ暗い。
壁にかかっている時計を見るとまだ3時。
隣りでは一文字がスースーと寝ていた・・・
 
ひそっ!
タイガー 『 ・・・って、夢オチかいっ!!
 
一文字が寝ているため、小声で自分につっこむタイガー。
 
タイガー 『 夢の中のワシよくあんなこと言えたなー、
  しかも一文字サンにあんなことを・・・・・・・・・はあっ 自己嫌悪ジャ、寝よ。
 
ばたむ・・・
 
一文字 「 ・・・・・・
 
 
 
          ◇
 
 
 
・・・翌朝。
 
がちゃんっ・・・
玄関の扉の音でタイガーが目覚めると、隣のコタツで寝ていたはずの一文字の姿が消えており、
彼女が寝ていたコタツの上には、コンビニで買ったと思われるパンやおにぎり、飲み物が並べられていた。
 
一文字は階段を下りて外に出ると、昨晩の雨もすっかりおさまり、いい天気になっていた。
 
 
一文字 「 ふぁ〜っ、結局ほとんど眠れんかったー。
  タイガーがヘンなこと言うから・・・・・・ったく、寝言全部つつぬけだっつーの。///
 
 
一文字は顔を赤くし、口もとは緩ませながら昨晩のことを思いだしていた。
布団に入り10分で眠りだしたタイガーとは違い、一文字は寝慣れぬ環境のせいか眠れぬ夜を過ごしていた。
1時間ぐらいして一文字は起き上がり、タイガーの顔を見て、
私が隣りで寝てるのによくもあっさりと寝やがったなー≠ニか、
幸せそうに寝てるなー≠ニか、顔に落書きでもしたろかー≠ニかいろいろ考えていた。
そんな時、タイガーは突然寝言を話しだしたのだ。
そして一文字は、顔を真っ赤にしながらタイガーの寝言を聞いていたのである。
夢の中の自分が危険な目に遭っているのを察し、最後には殴り起こしたが。
 
 
 
一文字 「 ・・・でも私結局言えなかったなあ、“魔理”って呼んでくれって。
 
 
 
タイガーと出会って2年2ヶ月の間、ずっと“一文字サン”と呼ばれ続けており、
親しい友人からも苗字で呼ばれていた彼女にとって、最初はそんなこと特に気にしてなかった。
ところが、タイガーが寮に来て知り合った洋子や水樹が名前で呼ばれていくのに対し、
自分だけ今だ苗字で呼ばれ続けることに、少しだけ納得いかないものを感じだした。
そしてその2人がタイガーの事務所に本気で入所することを知り、
このままいけば所員の中で自分だけ苗字でずっと呼ばれることになる・・・
周りの者が特に気にするとは思わないが、自分はきっと気にする・・・
そう思い、入所前にタイガーに話す機会をうかがっていたのである。
 
 
一文字 「 あーもー 私らしくねえ!!
 
 
だだだだっ!
一文字は頭をクシャクシャッとかくと、再びビルの階段を駆け上がった。
そしてタイガーの部屋の前に来ると、玄関のドアを思いっきり開ける。
 
がちゃっ!
 
一文字 「 タイガー!!
タイガー 「 んっ!?
 
タイガーはコタツで、一文字の用意した朝食のパンを食べていた。
 
一文字 「 いいかタイガー!
  次から私を呼ぶときは苗字じゃなくて名前で呼べ!
  じゃなきゃ私は返事をしないからな!! いいな!!
 
ばたん!
 
一文字は思いっきりドアを閉めた。
タイガーはパンを口にくわえたままボーゼンとしている。
 
 
タイガー 「 ・・・もご?????

リポート48 『彼女たちの卒業式』
■3月上旬 六道女学院卒業式■
 
卒業式終了後。
一文字・弓・おキヌの3人は、卒業証書の入った筒などの荷物を持ち、校舎から外に出ようとしていた。
周りでは他の卒業生たちが記念写真を撮ったり、両親や友達と話しをしていたりしている。
 
そんななか一文字は両腕を広げ、思いっきり背伸びをした。
 
一文字 「 あ―――っ! ついに私たちも卒業かー!
「 学園生活もこれで終わりですのね。
おキヌ 「 なんだか泣けてきますね。
 
令子 「 おーい おキヌちゃーん!
おキヌ 「 あ 美神さん!
「 雪之丞も!?
 
校門近くにある六道家式神使之像の前には、手を振る美神とその事務所メンバーのシロ・タマモ、
そして横島の変わりに美神の事務所で働いてる雪之丞がいた。
おキヌと弓は美神たちのところに向かった。
 
タマモ 「 卒業おめでとう!
シロ 「 おめでとうでござる!
おキヌ 「 みんなどうしてここに!?
令子 「 学生生活最後の日ぐらい、みんなでお祝いしてあげないとね!
おキヌ 「 美神さん・・・
 
目を潤ますおキヌ。
 
「 雪之丞、あなたも来てたの?
雪之丞 「 来ちゃ悪りいかよ、かおり。
「 いいえ大助かりだわ。
雪之丞 「 は?
「 それじゃこれ持って。
 
弓は雪之丞に手にしていた荷物を全部雪之丞に渡した。
 
「 じゃ 私の家まで運んでくださる? もちろん車ぐらい用意してくれてますわよね?
雪之丞 「 ・・・俺はアッシーか?(怒)
 
令子 「 御呂地村のご両親にはさっき会ったわ。
  これから事務所でおキヌちゃんの卒業パーティーするわよ!
おキヌ 「 わあ♪
 
一文字 ( ・・・さてと、私は寮に戻って荷物の片付けでもしようかな?
 
少し離れた所で弓やおキヌを見ていた一文字は、校門のほうに歩き出した。
その様子におキヌが気づく。
 
おキヌ 「 あ 一文字さん、よかったら一文字さんも―――
 
おキヌが言いかけたその時――
 
 
 
タイガー      「 お―――い 魔理サ―――ン!!
 
 
 
今日は駐車場と化している校庭のグラウンドのほうから、ギブスの取れたタイガーが若干右足をかばいながら走ってきた。
黒のタキシードに蝶ネクタイ、いつかのクリスマスの時と同じ服装であり、手には花束を持っていた。
 
一文字 「 タイガー!?
タイガー 「 魔理サン卒業おめでとう! これ花束!
一文字 「 あ ありがと・・・
 
巨体で目立ち、寮生活でタイガーのことを知っている卒業生も多いことから、その行為は周囲の注目を集めていた。
さらに、はじめて名前で呼ばれたことにより、一文字は内心かなり動揺していた。
 
タイガー 「 ワシのボロ車で来とるんじゃが、よかったら送っていくがー。
一文字 「 ああ・・・
タイガー 「 それじゃあ荷物ワシが運ぶケエ、貸してツカサイ。
一文字 「 ああ・・・
 
一文字は動揺を隠すため、それ以上は話せなかった。
タイガーが花束以外の荷物を受け取ろうとした時―――
 
ぼそっ
タイガー 「 一文字サ・・・いや 魔理サン、呼び方これでいいカイノー?
一文字 「 ・・・ああ、ばっちりだ!
 
笑顔でこたえる一文字。 そして2人は校庭のほうへと向かった。
その様子を見ていた弓と雪之丞は・・・
 
「 雪之丞も彼の紳士ぶりを見習ってほしいものですわね。
雪之丞 「 ケッ いってろ。
 
 
そして上機嫌の一文字が向かったタイガーの愛車の所には―――
 
洋子・水樹 「 お 来た来た!  「 遅いわよー!
 
―――なんと同じ花束を持った洋子と水樹がいた。
 
一文字 「 お、おめえらなんでー!?
水樹 「 なんでとはなによ。 私達もタイガー除霊事務所の所員予定なのよ。
洋子 「 それとも自分だけだと思うとったんか?
一文字 「 うっ・・・!
 
BUOOOO―――N
 
タイガー 「 それじゃあミナサン寮まで送るケエ乗ってツカーサイ!
 
水樹 「 はーい!
洋子 「 頼むから事故らんといてなー!
 
 
 
 
 
 
サアアアア―――−−‐ッ
 
暖かな風がふき、早咲きの桜の葉が心地よく揺れた。
 
 
 
 
 
 
ぽりぽり・・・
 
「 ま、いっか♪
 
 
 
 
 
 
 
一文字魔理は、仲間の所へと駆け出していった―――
 
 
 
 
 
 
 
 
第9節・完

※この作品は、ヴァージニアさんによる C-WWW への投稿作品です。
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