今日は驚くべき知らせを聞いた。なんと、あの横島クンが学校で倒れたらしい。
僕は知らせを聞き、ついに年貢の納め時かと喜び勇んで病室へと駆けた。残念ながら彼は小康状態になり、今すぐ命にどうこうというものではないとのこと。ち。
しかしながら原因不明なため、しばらく入院して様子を見ることとなった。
なんと素晴らしいことだろうか。これであのお邪魔虫が令子ちゃんの周りをうろつくことがなくなったのだ。僕も存分にアプローチをかけれるというものだ。彼が入院している間に決着をつけてやろうと決意する。
○月△日 金曜日
彼の病気の原因がわかった。いや、病気というのは正しくはないか。
彼の中に埋めこまれた魔族の霊基片。それが今回の騒動の元となっている。
神・魔族も人間も、妖怪も、実はそう大した違いがあるわけではない。肉体を持っている人間や妖怪、肉体を持たず、精神を具現化して仮初の身体としている神・魔族という違いはあるが、その存在の根幹は霊気だ。ゆえに、人間と魔族の間でも多少の互換性はあるはずだ。だからこそ、あの時横島クンは死なずにすんだわけだし。
しかし、互換性があるといっても、決して同じというわけではない。微妙な齟齬は存在する。それは周期のわずかなズレだったり、波の高さの違いだったり。とにかく、存在する。
そして小さなズレも、放置しておけば大きいものになる。
横島クンの体に悪影響を及ぼすほどに、霊気片の齟齬が大きくなった。
つまりは、そういうことだろう。
よってオカルトGメンは、横島クンを無期限に入院させることを決定した。霊力を封印して。
しかし、これは彼の魂の問題だ。我々がどうにかできるものではない。ヒャクメさまや小竜姫さま、ワルキューレさまが過去の事例をひっくり返して調べているらしいが、神・魔界もこのようなケースは過去に例を見ないため、効果的な治療法は望めないだろう。
下手をしたら、彼は一生を病院で過ごすことになるかもしれない。
少し、憐憫の情を覚えなくもない。
でもこれで、令子ちゃんもきっと僕の魅力に気がつくだろう! そう思うと薄っぺらな同情など吹き飛んでしまうのだ。
安らかに眠れ、横島クン! 令子ちゃんのことは心配せず、僕に任せてくれ!
▲月◎日 日曜日
あれから数ヶ月が経った。
僕は様々なアプローチを令子ちゃんに行なった。
しかし、令子ちゃんは見向きもしてくれない。相変わらず、寂しそうに溜息をつくばかりだ。
横島クンに対する面会が制限され、謝絶されてからはその傾向が加速度的になっている。
それは令子ちゃんに関わらず、この事務所のメンバー全員に言える事なのだが。
なぜ、この僕があんな男にこんな敗北感を感じねばならないのだろうか……
□月▽日 月曜日
令子ちゃんへのあらゆるアプローチが失敗に終わって意気消沈している僕に、さらなる悲報が届いた。
なんと、横島クンの看護に任命した姫坂クンが、彼に惚れてしまったというのだ。
彼女は堅物だった。クールで冷静で、それは悪く言えば冷徹。僕が食事に誘っても、「申し訳ありませんが」の一言で切って捨てられた。その彼女を! 落としたというのか、横島クンは!!
そういえば最近、彼女の表情から険が取れてきたような気がするが、それも横島クンのおかげってか!?
ああ見えても彼女は古風な女性だ。横島クンみたいなセクハラ大魔王とは絶対相容れないものだと思っていたのだが。
だからこそ彼女に任命したのに! 念のために餞別としてワルサーP38も渡したのに! 彼女なら絶対に殺ってくれると思っていたのに!
聞いてみたら、「私がルパンを大好きなことを知って、くれたんじゃないんですか?」
違う! 違うぞ、姫坂クン! あれは「横島クンがルパンダイブをかましてきたら遠慮なく殺ってよし!」というメッセージだったのに!
く。おのれ。こうなったらなんとしてでも令子くんだけは僕の手中に!
☆月■日 水曜日
横島クンが暴走を開始し、我々がそれを鎮めた。以降、横島忠夫の保護権は神・魔界へと譲渡することとなる。
今回の戦いには、反省すべき点が多々あった。
最たるものは装備だ。暴走した彼に対しては、あまりにも脆弱過ぎた。霊剣『ジャスティス』と銀の弾。ただそれだけでは。
あまりにも急な暴走だったので、いつもの装備を用意するのが精一杯だった。それが激しく悔やまれる。
本来の計画はこうだ。
まず、僕の愛刀『ジャスティス』に退魔・封魔の術式を大量にかけ、対魔族戦に特化させた武器とする。精霊石を組みこみ、霊剣としてのポテンシャルを限界まで引き出す。これなら、あの横島クンの霊気の壁もなんとか破れたことだろう。
そして銃。銃身に同様の処置を施し、弾は鉄鋼弾を用意する。これでかなりの戦いができただろうに。
そして横島クンの眉間に一発! あるいは喉元に一撃!
……うむ。想像するだけでなんて甘美なんだ。実行できなかったのが悔しくてならない。
☆月●日 木曜日
令子ちゃんが小竜姫さまに呼び出されて妙神山へと行ってしまった。
なんということだ。横島クンと二人きりになってしまうではないか!
しかしまあ、彼は意識不明が続いていると聞く。進展はあるまい。
考えてみれば、これはかえって好都合かもしれない。令子ちゃんがいない間に、横島クンを抹殺する下準備を進められる。殺せなくても社会的に消し去ることは可能だ。西条グループの御曹司の力ならできる!
そうだ! 僕はまだ負けていない! 勝利は目の前にある!
がんばれ輝彦! 負けるな輝彦! お前があんな軽薄な餓鬼に負けてはならないんだ!
僕は強い! 僕は素晴らしい! 高貴なる者、すなわち貴族! 下級階層がジェントリに逆らう愚かしさを、あの小僧の身に刻みこんでやるのだ!
は〜っはっはははははは!!
「西条クン」
「あ、先生。どうかされましたか?」
「これはなにかしら?」
「あ! それは僕の日記ちょ……!」
「ん?」
「あ、あの、先生?」
「なぁにかぁしらぁ?」
「……み、見ました、中?」
「こんなところに置いとくなんて無用心よねぇ。読んでくれといってるようなものよ。私みたいなおばさんはそういう話題は大好きなんだから」
「あう……(汗)」
「まぁ、人の心の中なんて覗くもんじゃないわ。一皮向ければどんな暗い感情が飛び交ってるかわからないんだもの。うちの旦那もそれで苦労してるんだし」
「あうう……(汗)」
「だからこういうのはしっかりロックして厳重な場所に保管しとかないとねぇ。面白がったオバさんが全ページコピーして広報部に匿名で送りつけたりするかもしれないでしょう?」
「あうあうあうう……(汗)」
「というわけで、西条クン」
「……………な、なんでしょうか、先生」
「お・し・お・き(にっこり)」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ちゃんちゃん♪