戦場の法則(その2)

No.12000/08/04 01:41 中村 守博(task17@mocha.ocn.ne.jp)


第二部  


  私が思うにこれだけのバイオレンスな戦場を描き得る椎名先生は
 スゴイとは思います。
 何においてスゴイかと言うなれば、少年誌でこれほどの戦国の闘いを
 少年誌の絵柄で描き得るって要素ですね。
 
  現在青年誌等をも含めて戦国時代物には、道三を描いたもの
 三国志演義を「とにかくあらゆる観点をグロイ見地から描く事」をウリ
 にした、『蒼天海路』などが上げられます。
 しかし、この二点の作品は全て青年誌以上のレベルで描かれており
 その画風もあくまでも劇画風です。

  少年誌で、自分の今まで創り上げた作風を壊さずに
 劇画風な漫画を描いた先達は、誰あろう、手塚治虫氏を筆頭に
 その内弟子でありトキワ荘の住人、藤子不二雄氏(F氏)です。
 手塚治虫氏については、そのディズニー的な自然との調和と科学の
 推進の夢に溢れた「ジャングル大帝」「鉄腕アトム・アニメ版」が知られていますが、
 虫プロの破産により、世の中の「醜さ」を酷烈に体験した氏が
 「ブラックジャック」「百物語」などの、劇画に流されない工夫を凝らした
 作品を次々にリリースした事を忘れてはいけません。

  この傾向は、状況は大部違うとは言え、藤子不二雄氏にも当てはまります。
 氏が、パーマンやオバQフィーバー(白黒アニメ版)の後、サスケやカムイ等の劇画調の
 激しい画風描写がウケる時代に流れて行くにつれ、藤子氏の丸々とした柔らかい
 画風じゃもう読者は応じない多様化した表現漫画作品の時代に
 氏の編集者が『先生?どうですか、ここは一つ劇画タッチで世情を痛烈に批判した
 作品を描いては?』と持ちかけられ、『いやぁー私の画風は知ってるでしょ?
 もう、子供も子供、お子さまランチな絵なのよ? 劇画見たく女性のハダカや
 筋骨隆々としたキャラは描けないですよ?』と考え込んだものの、
 やはり世の中は「その様な作品を望んでいるのか?」って考え直し
 「じゃあ、一つ私の中で溜まっていたのを解放してみるか・・・・」と
 解放した藤子SF(すこし・ふしぎな世界)作品の第一弾が
 「カンビュセスの籤」「ミノタウロスの皿」です。

  その後、その劇画調な雰囲気を漂わせた場所(作品土台)に
 自分の本来持っている絵柄のキャラを動かすコツを掴んだ氏は
 次々とその一連のシリーズをリリースし、劇画一本の世情に一石を投じました。
 つーか、その作品があまりにもリアル(雰囲気が)なので初めて読んだ
 氏の読者も、「本当に藤子先生の作品か??」と感嘆するほどだったそうです。

  この傾向というか、作品のキャラ的外観(デェディール)はそのままに
 その背景の世界を徹底的にリアルにして描く作風は今も受け継がれています。
 そう、高橋留美子先生ですね。

  氏も「うる星やつら」と言う作品と同時期に、極めて「グロイ・若しくは醜い人情」
 を題材に、『笑う標的』『忘れて眠れ』等、極めて劇画チックな雰囲気を漂わせた作品
 をリリースしました。
 そしてその集大成は『人魚の森』シリーズであるのは皆さん良くご承知の事と
 思います。

  人魚の森シリーズは、「人間の欲望」の右左両極端に主要キャラを配置して
 「死」と言う命題を氏なりのポテンシャルで描いています。
 そして、その後継と言える作品が多分「犬夜叉」では無いかと考えています。
 私は犬夜叉については語りうるポテンシャルが少ないのでその内容については
 割愛しますが、要は、椎名高志先生が「藤子先生に対する手塚先生の存在」と
 同じニュアンスで、私(椎名高志)にとって漫画を志したのが「高橋留美子先生」だった
 と、話されております。

  で、ここから導かれる仮説は、椎名先生も「ジパング」と言う作品の
 性格付けを、ややこの方向にシフトなさったと考えられないでしょうか?
 今回の編でも、次々に人が無惨に死ねる展開を豪快に描かれるところとかは
 圧巻と言えると思います。
 
  今回の編での展開は、実に映画的な演出によって彩られており
 まさに息付く暇もなく次の瞬間を読者に魅せてある意味からすれば
 元々の極楽や百貨店にあった「ほのぼの」な雰囲気を感じさせないでいて
 やはり、この作品は椎名先生の匂いがするって思います。(私は)

  と、何となくジパングの構造を仮定したところで
 今回のキャラ的な動きを俯瞰してみて終わりにしたいと思います。

  まずは「天回様」と称する、謎の人物、多分精神感応を持ち
 前の方々が予測している通り、タイムトラベラーの可能性も否定できません。
 しかし、歴史という大きな物体に修正を加える人って余程の暇人と
 仰られた方もいたかと思います。実は私も同感です。

  それに対して、その修正を試みる(と仮定)人間をあくまでも
 阻止するキャラとしての存在が浮かび上がってきました。
 今回は、白抜きの表情でしか伺い知れませんが、おそらくは
 ヒカゲさんではなかろうかと?

  つーか、何となくこの「戦場の猿たち編」は実に混み合った
 伏線を張っていく感じがします。
 極楽では、プリンスオブドラゴン編でようやく神族に対抗する
 勢力としての魔族の先鋒としてメドーサが登場していますが
 ジパングでは、二十話の前半で始まっていますが、この性急さは
 如何なものかと感じてしまいます。

  言うなれば、歴史を変えるというニュアンスを口に含みつつ
 暗躍する「天回」の対極に「ヒカゲ」と言う、「ヒナタ」と表裏一体
 のキャラを何気ない感じで蜂須賀長屋に居らせている感じですね。

  ただ、この場面においてそこだけを抽出して見ると(強引にですが)
 明らかに「歴史の改竄を首謀する何かが存在し」且つ、その時代に
 その意図は自身では持ち合わせていないヒナタヒカゲが、
 「少なくともこの時空の・・・」と言うセリフを口に含みながら
 何かしら「歴史の復元力」と言う、過去の悪夢を垣間見る側面が
 存在すると思います。

  かつて「TPぼん」のエピソードで、「ドラキュラの館編」が
 ありましたが、この話は隊員の不注意で「意図的に歴史を変えてしまい」
 そのオチとして「奇跡的に歴史の復元力が作用して・・・」と
 物語自体は、その根幹システムを否定する要素で終わってしまい、
 後に続かない状態になってしまいました。

  私が述べているのは、あくまでも「戦場の猿たち」の一部を
 注出して考えた仮定による危惧であり、あまり心配する必要も無いと思います。
 が、歴史を題材にして新しいスタンスの漫画を構築していくジパングは
 何となく性急な気がします。

  とまあ、ヒヨシの父親の事も書きたかったですけども
 今回の「戦場の猿編」は、ただ読むだけならば痛快なバイオレンスドラマであるし
 邪推すれば、何かあれもこれも凝縮してやわくちゃになった感を拭い切れません。
 
  で、結局何が言いたかったと言うと、ジパングのニュアンスが
 掴みきれない、つまりは椎名先生が何を意図して描かれているシリーズなのかって
 ところを提起したいが為に長々と書き上げたわけです。

  と、最後は判断停止した所で来週を期待したいと思います。

  長文申し訳ない。

           近況>マシンが修理から戻りシステム環境が戻った(安堵)

No.22000/08/04 04:29 笹蒲鉾(hayakawa@kamab.net)


〉 何においてスゴイかと言うなれば、少年誌でこれほどの戦国の闘いを
〉 少年誌の絵柄で描き得るって要素ですね。

 うん。確かに衝撃ではありますが、しかしだからと言って少年誌として浮いている訳では
ないと。回を増すごとに楽しみにはなってきますね(いろんな意味で)。
 
〉 劇画風な漫画を描いた先達は、誰あろう、手塚治虫氏を筆頭に
〉 その内弟子でありトキワ荘の住人、藤子不二雄氏(F氏)です。

嗚呼、ダメだここは私の守備範囲ではありません。パス(笑)。
 
〉  今回の編での展開は、実に映画的な演出によって彩られており
〉 まさに息付く暇もなく次の瞬間を読者に魅せてある意味からすれば
〉 元々の極楽や百貨店にあった「ほのぼの」な雰囲気を感じさせないでいて
〉 やはり、この作品は椎名先生の匂いがするって思います。(私は)

 息つく間もなくまるで映画のというのは理解できますが、椎名氏の匂いですか。
天回が、あっという間に退散した場面とかかな?

〉  まずは「天回様」と称する、謎の人物、多分精神感応を持ち
〉 前の方々が予測している通り、タイムトラベラーの可能性も否定できません。
〉 しかし、歴史という大きな物体に修正を加える人って余程の暇人と
〉 仰られた方もいたかと思います。実は私も同感です。

〉  それに対して、その修正を試みる(と仮定)人間をあくまでも
〉 阻止するキャラとしての存在が浮かび上がってきました。
〉 今回は、白抜きの表情でしか伺い知れませんが、おそらくは
〉 ヒカゲさんではなかろうかと?

〉  つーか、何となくこの「戦場の猿たち編」は実に混み合った
〉 伏線を張っていく感じがします。

 そうですね、今後への伏線が多いのは同感です。信長の最大の敵は宗教勢力なことから
今後への最大のライバルとも言えるでしょうし、能力云々を待ち出すことによって謎を
さらに多面的に広め、話を盛り上げていますね。ただ、自由度の高い伏線の乱発によって
作品の骨格を保っていけるのか、キャラを折りたたむことが出来るのか、危惧な面は
いっぱいありはします。後、阻止キャラはなんとも言えませんね。ヒカゲかもしれないですし、
ヒナタ(本人は自覚無し)かもしれません。

〉 ジパングでは、二十話の前半で始まっていますが、この性急さは
〉 如何なものかと感じてしまいます。

 これが実績を積んだ作者の余裕というものでしょうか(笑)。

〉 何かしら「歴史の復元力」と言う、過去の悪夢を垣間見る側面が
〉 存在すると思います。

 悪夢。確かに悪夢でした。ああ、今思い出しただけでも身体の震えが止まらない。
・・・鬱だ、、、氏のう。

〉  とまあ、ヒヨシの父親の事も書きたかったですけども
〉 今回の「戦場の猿編」は、ただ読むだけならば痛快なバイオレンスドラマであるし
〉 邪推すれば、何かあれもこれも凝縮してやわくちゃになった感を拭い切れません。

 日吉の父親は信長の母親サイドと似てますね。今後この共通点を以って二人を絡めて
いくのでしょうかね?このシリーズでは、犬千代の内面⇒恒興の内面⇒日吉の心情(一部)
と推移してますから、シリーズが終了する頃には、良作になるかもしれませんね。
ここに期待。
 
〉  で、結局何が言いたかったと言うと、ジパングのニュアンスが
〉 掴みきれない、つまりは椎名先生が何を意図して描かれているシリーズなのかって
〉 ところを提起したいが為に長々と書き上げたわけです。

 現状のジパングの伏線要素として、織田家の戦国大名としての位置付けと今度の展開、
信長の家族を巡る確執及び家臣団、日吉が信長に対して何処まで本気なのか、
それと最近加わった謎の天回宗と、戦争の功罪ですかね。
コミック発売も近いですし、そろそろ椎名氏がジパングで何をやりたいのか見えてきたらなあ
と思っております。

 ただ、ジパングは純粋にやおい萌えな楽しみ方があるんだよね(笑)。

No.32000/08/07 11:37 fukazawa(fukazawa@st.rim.or.jp)

 なさけむよう(挨拶)

 それでこの前の話ですが、個人的に今回の話で一番印象的だったのが、日吉が前から
口にしていた「オレの安全地帯」という言葉の空虚っぷりでした。
 前回までの展開(信長の側で安心しきってる姿とか、勝三郎が日吉の内心を訝ってい
る描写とか)からして、今度の戦いでは一度日吉がヒドい目に遭うんだろうな、と思っ
てはいましたが、今回の展開は正にソレでしたね。今回のお話の残酷描写は、「安全地
帯」という日吉の覚悟の甘さを徹底的に否定するのが目的だったのではないのだろうか、
とか思った次第です。

 結局、「歴史を変える」という現実離れした崇高な目的を持った天回の狙撃よりも、
戦場での乱戦の方が日吉にとっては脅威である、という訳ですな。
 あとは日吉が戦場で今後どう変化するのか(或いはしないのか)、辺りが今回のエピ
ソードの焦点か?


fukazawa / さいごまでたっていたもののかちだ(専門用語)


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