≪風と共にさりぬ≫

 まあ、マリアの問題は次に廻すとして、取り敢えずは良かった良かったと言っておいて何だが、ただしこれには難題が残っている。浮くことは出来るが、この方法では行き先の指定はほぼ不可能で、漫画内にある戦闘など夢の又夢だ。どこに飛んでいくのかこの方式では全く判らないのだ。手を離した風船の行き先に文句を言っても始まらないであろうから。

 それでも敢えてやるとどうなるか?どんなシーンになるか、メデューサ初登場での小竜姫との空中戦の場面で考えてみよう。

 背中に4bの気球をつけた小竜姫とメデューサが美神らの乗っているボートの上空で睨みあっていた。二人の手には神剣に槍を持って相手を威嚇していた。
  「勝負やメデューサ。今日こそ決着をつけましょう」
 スラリと神剣を抜き正眼に構え、爬虫類特有の縦に開かれた瞳孔が見開かれ、対の角がピクピクと動いてメデューサを威嚇する小竜姫。
  「ふふふ。それはコッチの台詞よ小竜姫ちゃん」
 こちらも同じく槍を正眼に構え、小竜姫の真剣な緊張を笑うように舌なめずりをしながらも、人間を追い詰めたネズミのようにいたぶる様に簡単に行かない事は分かっているので、瞳孔は縦に大きく見開かれる[注釈]。

 上空に浮かび、睨み合う美女と年増。お互い宿敵の顔を睨む二人であったが、眼下にいた横島は別の所を睨んでいた。
  「小竜姫様もう少し下の方で戦わないとまずいっすよ」
 切迫した顔で叫ぶ。それは普段は見せない顔だ。
  「え?何。何故ですか横島さん」
 視線は外さずに横島に訊ねる。
  「ふん。人間の分際で加勢しようってのかい。面白いじゃないか」
 内心幾ら人間でも、小竜姫と自身では剣では互角なのでマズイと思いながらも強がって見せる。
  「そんなに離れてたらどんなパンツ履いてるか判りませんよ〜〜〜〜」
 思わず状況を忘れて上空で スッテーン とこける二人。
   パカーン バキ グシャ
 上空から刀と槍の鞘が顔面に炸裂して、後頭部には神通昆。
  「全くあの人は〜〜〜」
 見えないとは言われたが、思わずスカートを片手で押さえる。やっぱり美神に唆されてハシタナイ、美神のような格好は止めれば良かったと思った。

 小竜姫のその様を見て思わずニヤリとするメデューサ。両手持ちの大剣であるので、スカートを押さえる為に片手ではいかにも不利だと分かっている。これは自分に有利だとこれみよがしにユックリかる大仰に槍をズザッっと振りかぶる。 
  「ほらっ。竜のお嬢ちゃん。見っとも無い格好をアノ坊やに見られたくなかったら、大人しくあたしに殺されな。ほらっ、あんまり剣振りまわすと、あの坊やにアンタお気に入りの熊さんパンツが見られちゃうよ」
   クスクスクスクス
 これでも小竜姫がガキの時はまだ敵対関係に無かったので、風呂で一緒になった事もあったので趣味は知っているメデューサであった。まあ、流石に大人になった今は止めているであろうが、子供の時の恥かしい話は(オネショとか)は結構嫌なものであるので慇懃に挑発する。

  「ええい。おだまりなさいメデューサ」
 メデューサのからかいの視線に檄昂しながらも………………………チョット考える。確かに自分の剣は両手持ちが基本で片手持ちではいかにも分が悪い。しかし………………………………しかし しかし。
 右にメデューサにコテンパン(死語)にヤラレル自分の姿、左に自分のミニスカ下着をデロッと覗く横島の下卑た姿&夜アパートに帰ってからティッシュを片手に自分のあられも無い姿をレンタルビデオ扱いされる風景が乗った天秤が頭の中に浮かぶ。
  「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ」
 散々悩んだ末 カタンっと小さな音で、若干自分がヤラレル方が嫌だという結論になった。どうやら余程横島に妄想の中でチョメチョメな対象に見られるのは嫌らしい。熊さんパンツも見られたく無いし………………………………どうやらまだ趣味は変わっていないらしい。見てみたい筆者であった。
  「エライおもわれようじゃ。俺の視線はばい菌か」「あんたに対しては的確な判断よ。バイキンマン」何故かお約束に小竜姫の魂の天秤は眼下のボートの二人にも伝わったらしい。「じゃあ美神さんはドキンちゃんですね」と言った横島を殴る。

  「今日こそ覚悟しなさいメデューサああああああああああああああ」
 何かを心から吹っ切るように叫び シャザっと剣と槍を振りかぶる…………………………………が。
  「あらららら」
 思わず間抜けな悲鳴を上げる。それは受けて立つわといったメデューサも同じであった。
  「おわわわわ」
 背中に細いロープで吊るされている状態で重たい剣や槍を振りかぶったのでバランスを崩して気球の下で、間抜けなカンカンノウのようにブラブラと揺れる二人。支えを失ってワタワタと手を振りまわした自分の剣で気球からのロープを切ったら一大事だと、ポロッと思わず獲物から手を離した。当然重力に引かれてまっさかさまに落ちて行く二つの獲物は調度、運悪く真下には美神らのボートが止まっていた。
  「ぎゃー。美神さん、アクセル アクセル」
 何が落ちてきているのか直ぐに分かった横島が叫ぶ。
  「判ってるわよ〜〜〜〜〜〜〜」
 と言うが、焦って踏み込んだ為に何故かエンスト。セルを回すも思いきりお約束に キュルキュルと虚しい音と、ひゅーーーーー ぴゅーーーーー と言う音が混じりながら、空から一直線に降ってくる剣と槍。あの刀身と柄からするとどちらも10`を超える重さであろう。落したポイントが100bを超えると、地上に落下した時の時速で140`を超えイナーシャルインパクトは1tを遥かに超えるぞ。叫ぶ横島の願いは届かずに、落とした剣と槍が下で見ていた美神らのボートを直撃。
  ドカーン ドッポーン
 ボートの素材は殆どが軽量のプラスチック素材で、生憎神剣の素材は分からないが焼き入れた鉄の硬度と1tの衝撃の前に自由電子を持たないプラスチックに抗う術は無いので剣と槍がボートを引き裂き、名探偵ホームズ”深海の財宝”の回で自らの魚雷で潜航艇を撃破されたモリアーティ教授のように水飛沫を上げて見事轟沈する二人。

  「ああ、なんて事をするのよメデューサ」
 眼下を見ながら後頭部に汗が垂れる。
  「あんたもでしょうが」
 お互い顔を見回して、思わぬ惨状に罪を擦り付ける。多分醜い争いを繰り広げる事になるんだろうな、どちらも女だし女同士の争いは理由の如何を問わずに争った初めの理由より相手に罪を擦り付ける過程が一番激しいものだから。
 まあ、これで横島にスカートの中を覗かれなくて良かったと内心思う小竜姫ではあった。

 その時に突風がビューっと タイミング良く吹く。
  「ああ。逃げるのメデューサ」
  「それも、あんたもでしょうが」
 お互い風に吹かれて フワフワと流されて行く。例え素手でもと思ってジタバタとするが全く風には抗えずに、お空に消えて行く小竜姫とメデューサ。
  「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 それを川面から顔だけだしながら見ている横島らはズブ濡れなのに、何故か思わず背中に汗が垂れていた。

 あの戦いの時は昼間であったので、日光によって気球が温まって更に浮力を得て上昇し、ジェット気流にでも乗ってアメリカ本土まで行ったら更に目も当てられない。二人ともパスポートもビザも持っていないだろうから出入国管理法違反(密入国)で捕まるし、上空は気圧250hPa(ヘクトパスカル)で気温マイナス50℃。まともに呼吸は出来ないし、寒いから冷えるぞ〜〜〜〜〜〜。冷えは女性には大敵だから、メデューサは兎も角まだ年若い小竜姫には危険だ。子供でも生めなくなったら大変なので、空中戦で戦う時対策にもう少し厚着をして欲しい。

 おまけに新聞に”妙神山管理人小竜姫様 世紀の大悪党魔族メデューサ 米国加州で重度の凍傷で保護される”とかの見だしで出ることになったら立つ瀬が無いのでは?。いや、それなまだしも”戦時中の悪夢再び 日本は風船爆弾に続いて風船魔族で米国を侵略”とかで反日感情を煽られたら外務省から、在米日本人団体からもアメリカでも立場の悪化で小竜姫に苦情が行くのは必至。  団の面目……………………………じゃない!神の面目が丸つぶれに成る前にやめよう。

≪適材適所。餅はモチ屋にまかせよう≫

 それにロープで吊るされていながらの戦いは危ない。前述の通りに見えないロープ(ピアノ線?)だとするとその直径は人間の視覚や35o映画用フィルムでは2o以下だ。単純に吊るすならば800`までなら耐えられるが、これはあくまで引っ張り張力だ。そこいらの100円ショップで売っているカッターナイフでも根性入れれば切れるのに、小竜姫やメデューサはあんな切れそうな剣やらを振りまわしていたぞ。危ないなんてもんじゃない。多分振れただけで切れて転落死だ。

 その危険を回避するためには、どうしても どうしても 何が何でも いかんともし難くも 空中で戦いたければ、やはりロープで吊るされるのでは無くて大人しく熱気球にゴンドラ(普通の熱気球の乗員部)を付けて乗り込んだ方がいい。多くの場合は気球とゴンドラは強強度の繊維素材&多本数であったのでおいそれとは切れないであろう。しかしそうすると気球本体との振り子の距離が短いだけに、近ずこうにも気球本体同士が干渉するので槍はまだしも(それでも最低4bの気球の中心に入れば二者の距離はやはり4b。幾ら長槍でも多分届かないだろうが)小竜姫の剣では投げない限りは届かない。当然そうなれば弓のような飛び道具でなければ役には立たない。昔ならまだしも、現代なら小銃や重火器を使うのが楽だからそうした方がいいであろう。

 しかしまだ不安は残る。
 お互い決めた約束で(気球は狙わないでおきましょう。そうしないと相打ちの危険から危なくてしょうがない)大人しくお互い撃ち合っているならばいいのだが、自分が致命傷を受けて助からないと分かった時に死なば諸共で相手の気球をねらい始めたら相打ちは必死だ(メデューサが横島らの乗るプラネットダイバーでやったように)。その為には気球自体も防弾にしなければいけない。その為には小銃弾だけでも重たいケブラー繊維(防弾チョッキの素材)を複合的に折り込まなくては無くては成らないし、より重火器なら重たい鉄板も付加しなくてはならない。多分浮かないだろうな、そんなに重くちゃ。なら始めから戦闘ヘリに乗りこんだ方が早い。戦闘ヘリは小銃弾ではローター部を狙わない限りは撃墜は大方無理だ。もし貴方の手元に地対空ミサイルが無くて、小銃しか無い状態で戦闘ヘリに襲われたならローターのピッチ部分を狙って欲しい。あんまり無いであろうが。

  パンパンパンパンパン バンバンバンバン
 戦闘ヘリから小銃を撃ち合う小竜姫とメデューサ。
  ……………………………………………………………………チョット待て!!。戦闘ヘリなら20oのバルカン砲やロケット弾やミサイルが装備されているぞ(アパッチ ヒャイコブラ等)。なんで5.56o(223)や7.62o(308)で撃ち合わねばならんのだ。装備された近代兵器でやりあった方がいい。
 しかし近代兵器のレクチャー受けているとは思えない二人よりも陸軍や海兵隊のパイロットにやらせたほうが絶対良いに決まっている。それに述べたように電子機器に疎い二人より訓練を受けたコーパイを乗せた方が勝率も生存率も高くなるので多分小竜姫とメデューサは邪魔だとパイロットに蹴落とされるであろう。
 二人の空中戦に幸せはこない…………………………………。

 しかしここまでは当人の責任においてであるので同情はしない、しかし更に悲惨なのが魔鈴めぐみの・・・だろう。

次回更新時掲載予定≪原動機付き自転車免許を取ろう≫に続く


次回予告

 通行人にとっては迷惑以外の何物では無い魔鈴の出前。業務上過失致死で捕まるのが先か、店の営業停止が先か。あまり世間を嘗めている傍若無人なGS美神のキャラクターを次回は叱る事になる。魔鈴ファンは見ないでね。

そして何故に彼女らは見えないロープを使うという棘の道を行かねばならないか?。その考察の果てにはGS美神に隠された秘密が解き明かされる事に…………………………………ならない(笑)。


※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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