部屋の隅で毛布をかぶり、彼女はがたがたと震えていた。
 先程から誰かが――おそらく彼女の両親だろうが――扉をドンドン叩いているが、それに反応する余裕は、彼女にはない。
 彼女は怖かった。どうしようもなく、恐ろしかった。
 この霊気。この霊圧。この霊力、この霊波。
 怖い。怖い、怖い、怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ!!!
 あまりにも次元の違いすぎる力に、彼女はただ恐怖することしかできなかった。
 彼女の恐れようは、異常とも言えるほどだった。食事中に奇声を発して自分の部屋へと駆け戻り、施錠したドアをさらにバリケードで固め、こうして隅で震えている。彼女の同級生の中でも――彼女ほどに霊的に強くない者でも――それは大げさだと言うだろう。そんなバカなと思う者もいるかもしれない。クラスの代表に選ばれるほどの彼女がこうして震えている姿を見たら。
 だが、それも仕方のない事だ。彼女の異様なまでの恐れようも、致し方ないことなのだ。
 彼女は、原始的な感覚に弱い。それは彼女の能力ゆえだ。
 先程から、周りの犬や猫がやたらと吼えている。あいつらも、恐れているのだろうか、自分と同じように。
 いや、自分よりはマシだろう。雷獣に変化できる彼女の霊的感覚は、犬猫の及ぶ所ではない。
 だからこそ、彼女は恐怖する。
 鋭すぎる感覚は、彼女に耐えきれない恐怖を与えていた。
 怖い。怖い、怖い、怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ!!!
 助けて! 誰か、助けて!!
 その圧倒的な霊力に。
 彼女は一晩、恐怖し、震えていた。


[ 第六章へ ][ あとがき ][ 煩悩の部屋に戻る ]