絶対可憐チルドレン 一覧

「健全なお色気アクションコメディー」を目指す戦いが始まった サンデー39号「絶対可憐チルドレン」感想

絶対可憐チルドレン

 サンデー39号から連載が再開された「絶対可憐チルドレン」。

 「絶チル」は既に高校生編が最終章であることがアナウンスされているため、高校生編後編となる本編が、文字通りの絶チル最終章となります。「絶チル」が読み切りの短編として発表されたのが2003年でしたので、それから実に14年の時を経て、ついに物語が終局へと向かうことに。

 当時、サンデーでの前連載作品である「一番湯のカナタ」が終了してから「絶チル」の連載が始まるまでの間には本当に色々なことがあったので、当時のファン達は「こんどこそ連載が成功して欲しい!」と強く願っていたのですが、結果的に「絶チル」は大ヒットを記録。「少年マンガ誌の主人公が女の子でも全然イケる」ことを証明してそれ以後の作品に大きな影響を与え、文字通り少年マンガの一時代を築いたといっても過言ではないくらいの作品にまで成長しました。
 この14年間、「絶対可憐チルドレン」という作品には、本当に楽しませていただきました。ありがとうございました(まるで連載が終了したかのような口調)。

 それはそれとして今回の「絶チル」なのですが、状況としてはサンデー20号の高校生編前半終了時よりも更に悪化しているように見えます。
 冒頭の東野と千里への嫌がらせに象徴されるように、マイノリティであるエスパーに対する憎悪はもはや隠されることなく顕著になって来ており、ノーマルとエスパーの間の対立は更に深刻化。今のバベルは完全にノーマルと対立するエスパーを捕獲するための組織となってしまっており、高校生編前半最終回で薫が述べていた理想の未来であった「みんながひとつになんかなれなくても、わかりあえなくてもいい。ただ同じ世界で一緒に暮らしていける未来に行きたい」とは程遠い状況です。

 その一方、今回の冒頭に書かれたこのマンガのアオリには「この物語は、物理法則を超えた強大なパワーを持つ少女たち『ザ・チルドレン』と、彼女たちをとりまく人々の愛と成長を描いた、健全なお色気アクションコメディーである!」と、現在の深刻な状況からするとちょっとボケたことが書かれています。健全なお色気アクションコメディー。

 確かにこのマンガ、本来は「ザ・チルドレン」と呼ばれる三人の超能力少女と、彼女たちの指揮官にしてお目付け役でもある皆本が織りなす、ちょっとエッチなお色気アクションコメディーだったはずなのですが、少なくとも現状はその皆本は「黒い幽霊」の首領であるギリアムの元に囚われの身になっている関係上、そもそもちょっとエッチなことを皆本とできる状況ではありません(ギリアム×皆本というシチュエーションがちょっとエッチなのかも知れない可能性は認めますが、そういう話は今していないのでパス)。
 それより何より「健全なお色気アクションコメディー」を繰り広げるためには、作品世界が平和でなければなりません。人種間の対立が深まり、憎悪が支配する世界の中で繰り広げられるお色気アクションコメディーは、健全というよりはもはや退廃的な雰囲気になってしまうこと請け合いなのです(荒廃した世界における退廃的なエロスも素晴らしいことは認めますが、そういう話は今していないので略)。

 ですので、この作品が本当に自分自身を「健全なお色気アクションコメディマンガである!」と宣言するためには、斯様なまでに絶望的に暗い状況から「健全なお色気アクションコメディ」が可能な明るく楽しいマンガに、作品そのもののノリを戻す必要があります。
 つまり高校生編の後半とは、チルドレン達、特にパンドラの「女王」の座に就いた薫が、皆本相手にちょっとエッチで健全なお色気アクションが可能になる世界を取り戻すために戦うことがテーマである──と解釈するべきなのではないかと思いました。人種間憎悪と偏見にまみれたこの世界から、「健全なお色気」展開をすることが可能なノリを取り戻すことは果たしてできるのか。
 この長かった作品の最終章がどんな運命を辿ることになるのか、見届けていきたいと思う所存です。

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今の時代の雰囲気がアレなだけに、未来に希望を持たせる内容になるといいですね(マジで)


最終章準備で休載記念 サンデー20号までの絶チル感想

絶対可憐チルドレン

 もう先々週くらいの話になってしまいますが、サンデー20号において「絶対可憐チルドレン」が『最終章準備のため』という名目で一旦連載が中断する形になりました。
 「絶チル」はここのところ事実上隔週連載の状態が続くなど、コンディション的に優れていない状態になっているような感じがあったので、一旦話に区切りを付けた上で休載期間を挟むのは良い選択だったんじゃないかと思います。

 その「話の区切り」なんですが、サンデー20号までの間に色々あった結果、薫がパンドラの「女王」の座に就任し、人類に対して「人種間の憎悪と戦い、共に暮らせる世界を目指す存在である」ことを宣言するに至りました。

 このマンガを最初から読んでいる読者の方なら御存知の通り、元々このマンガには『特務エスパー「ザ・チルドレン」は天使か悪魔か?』という命題があり、薫がパンドラの『破壊の女王』となるルートは即ち彼女が人類にとっての悪魔となってノーマルとエスパーの最終戦争を引き起こすバッドエンドを意味していました。
 しかし、サンデー20号においてパンドラの女王となった彼女は、バッドエンドルート一直線となる人類にとっての「悪魔」でもなく、また逆に人類を最終戦争の脅威から救って導く「天使」でもない、自らの意志を以ってエスパーとノーマルの共存のために戦う第三の道を選びました。薫は、連載の初期に提示されていた二者択一的な命題を覆し、自分の意志で自分たちの未来を切り開くことができる力を持った存在となったのです。
 これも連載初期の皆本のキメ台詞である「君たちはなんにでもなれるし、何処へでも行ける」を、薫は身をもって体現したとも言えるでしょう。

 そういう意味において、高校生編最終話はとても物語的に美しい締め方だったと思いました。

 連載再開は夏頃を予定しているとのことですけど、「最終章」で個人的に望んでいるというか、ぜひ見てみたいのは、薫と皆本の間の関係の決着ですね。

 薫と皆本といえば、これも連載初期に提示され、このマンガを象徴するシーンともなった「皆本が銃を持って薫と対峙する」未来の予言が思い起こされます。皆本達はこの未来を回避するためにこれまで戦って来て、そして現段階ではこの未来は回避されたということになってはいますが、再びノーマルとエスパーの間で緊張が高まり、形はどうあれ薫が「女王」となる未来が現実になった以上、再びこのシーンが再現される可能性がないとは言えなくなってきているのではないのでしょうか。
 というか、多分キますねこのシーン。物語の冒頭で提示されたテーマが物語の最後で再び形を変えて登場するだなんて、作劇的にはちょうカッコイイので、やらない訳がないと思います(決めつけ)。

 ただ、シーンそのものは一緒でも、そこで交わされる会話や状況は全く違ったものになっているとも思います。連載初期の二人はもはや交戦不可避の状況でしたけど、今では二人の意志は「人種間の憎悪と戦う」ことで共通していますし、仮にこの二人が対峙することがあったとしても、交戦ではなくもっと別のことをするはずです。チューとか。
 薫の皆本への想いはホンモノですし、皆本も薫と年の差が10歳あるとか歪んだ独占欲があるとかセカンド童貞の誓いとかそういうのは吹っ切ってチューくらいするよね? ね?

 連載初期に提示されたエスパーとノーマルが対立する未来を覆し、エスパーとノーマルが共に共存できる新しい未来を手に入れることができるのか否か。個人的には、そうなって欲しいと切に願っています。

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『特務エスパー「ザ・チルドレン」は天使か悪魔か?』が登場するのは2巻から。1巻の頃はまだ短期連載だったんですよ(豆知識)


時代が「絶チル」に追いついた!(嫌な形で) サンデー13号「絶対可憐チルドレン」感想

絶対可憐チルドレン

 アメリカ大統領にトランプ氏が就任してからというもの、世のすべての漫画家はトランプ氏の似顔絵を描く練習を始めたに違いないと思われますが、サンデー13号の「絶対可憐チルドレン」には早くもトランプっぽい人物が登場。大統領と銘打たれてはいませんが、首都の大統領府の前で大群衆の前で演説しているところからして、コメリカ合衆国の政治家であることは間違いなさそうです。

 何より素晴らしいと思ったのは、彼が演説しているエスパーを排除する排外的な演説の内容が、現実のトランプ大統領のキャラクターと完璧に一致しているところです。

 元々このマンガには自分がマジョリティーであることに価値を見出してマイノリティーを差別する系統の人々をカリカチュアした「普通の人々」という組織が設定面で用意されていたのですが、今や現実でも国籍や宗教に基づいたマイノリティー差別を行う言動は世界中で普遍的に見られる様になってしまっており、ついに時代が「絶チル」に追いついてしまった感が否めません。
 エスパーとノーマルの融和を訴える政治家が大統領候補として登場した「THE UNLIMITED 兵部京介」からたった4年で、全く逆の主張を行う人物が「絶チル」本編で合衆国大統領として登場することからしても、アニメをやってた頃とは時代の潮流が変わってしまったんだなと感じますね。

 そして本編の方ですが、色々あって兵部の体がダメになってしまった結果、ついに薫が「女王」としてパンドラの王座に座ることになる日が現実的に迫って来ていることが、個人的には「このマンガもついにここまで来たか」という感じでかなりグッと来てます。
 彼女がパンドラの女王となる目的が、連載初期の頃は「ノーマルとエスパーの最終戦争のため」だったのが、今では「ノーマルとエスパーの最終戦争を避けるため」と正反対になっているところも良いです。「薫がエスパー達の女王となる」という事実は一緒でも、そこに至るまでの経路が大きく変わった結果、その目的や結末も大きく異なることとなった──という、時間SFとしての「絶チル」の醍醐味が象徴されているように思えるからです。

 ただ、現時点では皆本が敵の手の内に囚われているのが気がかりではあります。薫にとって皆本の存在はもはや極めて大きなものになっているので、もしギリアムがそれに気が付いたら、まかり間違いなくそこを突いてくることでしょう。
 下手をしたら、一度は回避できたはずの「薫と皆本が対峙して殺し合いをする」あの展開を、再び繰り返すハメになる可能性もあるんじゃないかなと予想しています。というか、もしこのマンガがもうすぐクライマックスを迎えると仮定した場合、「コミックス1巻で提示された衝撃的なシーンを、最終巻でもう一度リフレインする」ってのはンもう盛り上がること間違いない訳であり、自分がギリアムだったら絶対そういう演出を施すと思いました(ひどい)。

 今回の感想としては、粉でできたショタ兵部はいいと思います。

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真木が再登場する局面にも期待


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