探偵オペラの始まりだ! サンデー1〜2号 「探偵ゼノと7つの殺人密室」感想

探偵ゼノと7つの殺人密室

 先週のサンデーから始まった新連載。「ジーザス」の原作を書いていることで知られるベテラン作家の七月鏡一先生と、これが初連載作品となる杉山鉄兵先生のコンビという、ベテランとルーキーの組み合わせがマニア的には非常に興味深い作品です(やっかいな視点)。

 それでこの作品、ジャンル的にはいわゆる探偵モノに属しているのですが、この作品世界は非常に仰々しいというか、全ての物事が非常に大げさで、劇場的な殺人事件を起こすために世界の全てが作られていると言っても過言ではないと思われます。

 例えば、第一話の殺人事件は「過去にライバルに選手生命を絶たれ、恋人まで奪われた絶望から復讐に燃えた」元野球選手が犯人なのですが、その殺害方法は「ライバルがマウンドに立っている時に、スタジアムの天井から鉄筋を落として串刺しにする」という、極めて劇的なものでした。
 しかも、「そのスタジアムにはマウンド上に鉄筋を落とせる構造が最初から仕組まれており、それを使えば完全犯罪が行えるようになっていた」ことが明らかになり、更にはこの作品世界には「そのような完全犯罪のプランを作成し、それをばら撒いて犯罪が起こるのを眺めて楽しむ」という完全犯罪マニアとも言うべき人物が黒幕に存在しており、その黒幕は「あらかじめ殺人のための仕掛けを施した7つの建造物」を作っていることが次々と明らかになる辺りまで読み進めると、読者は誰もが「やべえ! このマンガはどこかおかしい!」と戦慄を覚えること請け合いです。

 つまりこの作品は、「密室で起こる完全犯罪を見てみたい!」という欲望のためだけに、わざわざ第一話の殺人スタジアムのような仰々しい人殺しギズモを満載した建造物を、7個も作っちゃうおかしい人がいる世界なんですよ。そして、それに立ち向かおうとする若き探偵が、我らが主人公の探偵ゼノなんですよ。探偵と完全犯罪者が最高に活躍できるためだけに作られた世界が、この作品の舞台なんですよ。個人的には、こんな仰々しい舞台設定があるだけで、ンもうゾクゾクして来ます。
 「あらかじめ殺人のための仕掛けを施した7つの建造物」! 個人的には、早くも2018年における声に出して読みたい日本語大賞の最有力候補です!

 そんな舞台設定が激しく魅力的なこのマンガですが、勿論登場する人物もその舞台に違わず魅力的です。
 特に主人公の探偵ゼノ君は「ぼくは記憶がない。だから人間というものがわからない! だから知りたい! 人はなぜ殺人なんて犯す?」と本気で訴える健気で儚げでいたいけな側面を持ちつつ、操作中には「人間がわからない」というところから来る明らかにコミュ症的な挙動の数々を繰り広げるコミカルな一面も持っており、非常に魅力的なキャラクターとなっています。
 そして第一話でゼノに「7つの殺人密室」のことを教えた直後に密室殺人の犠牲者となった曰く有りげな建築家の甲斐七楼、第二話に登場したミステリアスな甲斐の養子の三姉妹、「悪辣な公僕」を絵に描いたような人物である公安の姫宮警部など、出て来る人物がみんな一癖も二癖もあるヤバい人たちばかりであり、そういった意味でも「探偵と犯罪者が活躍するために作られた仰々しい作品世界」を彩るに十分な存在と言えるでしょう。

 なんにしろ、この「探偵ゼノと7つの殺人密室」は、探偵モノとは言えども「名探偵コナン」とは明らかに方向性が違った作品であることは間違いありません。これからの展開が楽しみです。

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七月鏡一先生と言えばやはり「ジーザス」は外せないお年頃(=オッサン)

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