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ガッカリフラレ戦士祭り開催記念 サンデー14〜15号「メメシス」感想

メメシス

 サンデー14号から連載が始まった「メメシス」。
 既にヤマカムの山田さんが絶賛していらっしゃいますが、実際かなり面白いです。

 「メメシス」は、圧倒的な画力を以って過酷なファンタジー世界を構築し、そしてその圧倒的な画力を以って圧倒的に情けない理由で戦う主人公を描いた、色々な意味で圧倒的な作品だと思います。

 緻密かつ圧倒的な画力を持って純粋な中世ファンタジー的な世界の冒険譚を描く系統の作品としては、サンデーには既に「マリーグレイブ」が存在しています。
 「マリーグレイブ」とは、端的に言うと「最愛の妻を死から蘇らせるために冒険を続ける男が主人公のハートウォーミングな物語」であり、その画力を以って「凶暴なモンスターが跋扈して人間を蹂躙している死と隣り合わせな世界観」を構築した上で、「そんな世界の中でも大切な人への想いを忘れずに戦う主人公を始めとした人々の強さ」を表現している作品だと理解しています。面白いので読もう(宣伝)。

 一方の「メメシス」の場合は、画力を以って「凶暴なモンスターが跋扈して人間を蹂躙している死と隣り合わせな世界観」を構築しているところまでは一緒ですが、そんな過酷な世界で主人公が戦う理由が「『お色気に惑わされて自分達を不当に解雇した勇者に対し、自分達をフッたことを後悔させるため』だけであり、「フられたことによる怒りで強くなって戦い続ける主人公」を表現するためにその画力を全力投入しているところが、とても素晴らしいと思いました。
 生死と隣り合わせな過酷な世界の只中で、人々を救うためにでも、己の野望のためにでもなく、ただひたすら女々しい復讐心のためだけに動く。こういうキャラクターの立て方もあるんだなあと、「メメシス」を読んで感心させられた次第です。マンガってすごい(褒めてます)。

 主人公のアシューとキジラは「とにかく勇者レオンに自分たちを捨てたことを後悔させるためだけに戦っている」「自分達を振ったレオンのことを言われるとめちゃくちゃ強くなり、あらゆる魔物を一撃で撃破できる」という特性があることは第2話までで判ったので、今後はこの特性を如何に活かした面白い物語を作れるのかが、このマンガの見どころになるように思われます。
 第1話に出てきたリンダや、勇者レオンをたぶらかして仲間になった女子2人組など、出てくる女の子も胸がたいそう魅力的でした(無難な表現)ので、そういう方向でも期待できそう。

 あと、おそらくこのマンガを初見で読んだ方の半数くらいは、「主人公の1人であるアシューは女の子なのでは?」と誤解しているのではないかと推測しています。自分もそうでした。
 これは、アシューの格好が「太ももや二の腕が露出している鎖帷子」「ひらひらが付いたワンピースっぽい上着」「金髪ショートカット」と女子っぽさを連想させるものであること、座る時に股を閉じるなど仕草が女子っぽいこと、そしてアシューの一人称が「私」であるところが大きく、これは作者がミスリードを誘っていると解釈するべきでしょう。主人公キャラのデザイン的に、こういう試みは面白いなと思います。

 アシューが女の子だったら良かったのに! と思っている方も多いとは思うのですが、第一話冒頭で水中の魔物を倒すために全裸で剣を振るうアシューの肉体は華奢な体にしっかりした筋肉が付いたたいそうステキなものだったので、個人的には男の子でも全然構いません。今はもうそういう時代ですよ皆さん(感想?)。

週刊少年サンデー 2018年14号(2018年2月28日発売) [雑誌]

電子書籍化のおかげでバックナンバーが簡単に買える。いい時代になりましたねえ


桜庭モテ期到来記念 サンデー13号「BE BLUES!」感想

BE BLUES!

 週刊少年サンデーに吹き荒れる恋の嵐!(挨拶)

 初手から主人公とヒロインが同棲して婚姻届を書くところから始まる「トニカクカワイイ」の連載開始に湧く最近のサンデーですが、今号では他にも

  • 指宿くんと江火野さんの二大ヒロインが揃ってタロウの自宅に押しかけ、まさに恋の正念場を迎えつつある「初恋ゾンビ
  • 古見さんからもらったバレンタインのお返しができずにヘタれる只野くんが見どころの「古見さんは、コミュ症です。
  • アニメ二期と共に猛プッシュを受けるはじめさんが何故かココノツと密室に閉じ込められ、「いいにおいがしました!」と褒められてるのか単にキモいことを言われたのか判断に困る「だがしかし
  • アクトとなりがクリスマスイブにホテルに一緒に宿泊! 熊の寝床の穴蔵だった前回とは違って、今度は熊はいないぞ! もうヤるしかない! な展開必至の「天使とアクト!
  • むっつりスケベなあくましゅうどうしが、姫への愛を切々と訴えた「魔王城でおやすみ
  • 一人暮らし状態のちひろの家に湯神がやって来て成り行きで二人で料理作った挙句、湯神がちひろの耳たぶをごく自然の中で触ってお互いに照れるという、往年の「BOYS BE…」を彷彿とさせるラブラブ展開を披露した「湯神くんには友達がいない
    (それはそうと今回のちひろ、いくら相手が湯神とは言え始終Tシャツと短パン姿というだらしない部屋着のままで過ごしたところが非常に良かったと思いませんか皆さん)
  • 大恋愛を経て結婚→初夜→出産→育児と人生最良の時期を描きつつも、その数年後には太平洋戦争が始まることを我々読者は知っているので今後クロ達がどのような運命を辿るのか非常にやきもきする「妖怪ギガ

 など、かなりラブにひなった作品が多数掲載されており、かつて「ラブコメのサンデー」と呼ばれた栄光の1980年代を取り戻そうとしているのではないか? という勢いを感じます。
 現在のサンデーの人気作「天野めぐみはスキだらけ!」も「保安官エヴァンスの嘘」も、基本はラブコメですしね。「キングオブアイドル」も、今回の話はラブコメに発展しそうですしね。やっぱり少年誌の基本はラブコメだよなーと再認識させられます。

 そんな恋の嵐が吹き荒れるサンデーの中にあって、何故今回「BE BLUES!」を取り上げるのかと言えば、勿論「BE BLUES!」においてもついに桜庭さんにモテ期が到来したからに他なりません。

 これまでは自分のテクニックに絶対の自信を持ち、天上天下唯我独尊状態で周囲をクソ呼ばわりしていた桜庭さんが! ドリブル突破して華麗にゴールをキメたいばっかりに、パスもしなけりゃ守備もしない、「お前がオレ様のところまでボールを持って来い」と言わんばかりの態度を取る桜庭さんが! そんなアレな態度を取り続けた結果、周囲のギャラリーから「真面目にやれ!」「そんな怠慢許せるわけないでしょ!」「何様だ!」と罵声を浴び続けて来た桜庭さんが! ついに! チームのみんなからモテモテになる日がやって来たんですよ! なんという快挙!

 桜庭が己のサッカーの技術に限界を感じ、ミルコに「もっと上手くなりたい」と直談判した結果、ミルコはチーム全体を巻き込んで桜庭に「ゴールの前でディフェンダーをかわしてボールを受け取り、そのままシュートする」という、フォワードにおけるボールを持っていない時の動き(専門用語で言うところの「オフ・ザ・ボール」)の基本中の基本を叩き込む特訓を開始しました。

 ここで重要なのは、ミルコと一対一でではなく、龍やレノン、阿部といったトップチームのメンバーを巻き込む形で桜庭の特訓を行っているところであり、これによってチームのメンバー達は桜庭が本気でサッカーに向かい合っていることを身をもって知ることができる点だと思われます。

 もともと彼らは、この前の聖和台との決勝戦で、体力の限界にまで追い詰められて「オレ様のところまでボールを持って来い」とチームメイトを挑発するかのような態度を取り続けた桜庭に対して、「何様だよおまえは!」と言いながらも彼が要求するプレイを忠実に行った実績があります。つまり彼らは、勝利のためなら桜庭に協力するだけの度量の広さを持ち合わせていたのです。
 ただ、桜庭の態度があまりにアレでコミュニケーションを拒否されていた状態だったので、それ以上に彼らの好意が桜庭に向けられることはありませんでした。

 チームが元々そういう状態だったところに、ここに来て桜庭がサッカーに対して真面目に取り込み始めてコミュニケーションを取る姿勢を見せた訳ですから、そりゃーもうみんな歓迎するに決まってます。
 特に龍なんかはもう非常に嬉しそうで、教室でオフ・ザ・ボールの動きについて桜庭に一方的に話かけてニヤニヤしているところを見ると、ンもう君はどれだけ桜庭のことが好きだったの! みたいな気持ちにならざるを得ません。龍にとっては、やっと桜庭と(ライバルではなく)チームメイトとしてサッカーの話ができることが嬉しくてしょうがないんでしょうね。仕方ないですね。

 そしてレノンも桜庭相手にガチで体を張って一線級のディフェンスを叩き込んでましたが、レノンは面倒見が良いお母さんキャラであることが以前の遠征合宿編で明らかになっていますので、龍に続いて桜庭も彼の母性本能をくすぐる存在になったという解釈で良いのではないかと思います(決めつけ)。

 あと面白かったのが、矢沢が桜庭を廊下でオフ・ザ・ボールの動きでからかってるシーンでした。これもまた、矢沢なりの桜庭への愛情表現ですね(決めつけ)。彼はこういうことするのが本当に似合ってますね。

 何か妙に長くなりましたが、要するに武蒼のみんなは桜庭への好意を臆さずに表現するようになったのね! 良かったわね! ということが言いたかったのです。判っていただけたでしょうか。

BE BLUES!~青になれ~ 30 (少年サンデーコミックス)
田中 モトユキ
小学館 (2018-02-16)
売り上げランキング: 1,006

3年生とのお別れ巻は2/16に刊行


畑健二郎先生が主人公のリアリティーショーの開幕を告げるサンデー12号「トニカクカワイイ」感想

トニカクカワイイ

 「結婚」をテーマにした新連載を開始する直前に声優の浅野真澄さんと結婚したことをTwitterにて発表し、「自身の結婚を新連載の宣伝として使う」という全く新しいプロモーションをぶち込んできた畑先生は、芸人としてのスキルが本気でスゴいなと思いました(本稿の要約)。

 それでこの新連載、第一話は『主人公の少年と謎に包まれた美少女が、命の危機が迫る中で偶然の邂逅を果たす』というドラマチックな展開だったものの、作者の畑先生はバックステージで『このマンガは「かわいい妻との結婚生活」そのものをテーマとしたお話になる』という趣旨のことを仰っているので、おそらく今後は初回のようなドラマチックなことはそうそう起こらず、主人公が「とにかくかわいい妻」と生活する日常の様子を延々と描いていくという、言うなれば「ハヤテ」の日常パートだけで構成された系統のマンガになるのではないか? と個人的には予想しています。

 謎の美少女との日常生活を描いたサンデーのマンガというと、最近では「柊様は自分を探している。」が連想されるとは思うのですが、「柊様」は最初から彼女の謎めいた素性そのものに読者の興味を惹かせる、一種のミステリードラマ的な構成になっていました。
 しかし今度の「トニカクカワイイ」の場合は、作者が「少年と少女が出逢い結婚するという、ただそれだけの話です。」「【恋愛】という過程はありません。これは夫婦の愛情についての話なので。」と明言してしまっている以上、謎の美少女である司の謎を解くとか、司の謎めいた思惑を解くべく主人公が挑むといったミステリー要素は一切なく、主人公と美少女がお互いに好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしらとときめいたりする恋愛要素もない、ただひたすら平和で穏やかな夫婦生活だけを描く作品になりそうな予感がひしひしとします。
 そういった意味でも、仮にも「王族の庭城」を巡る謎がストーリーの中核に存在していた「ハヤテのごとく!」とは方向性がかなり異る作品になるのではないかと思われます。

 また、先生ご自身が新婚ホヤホヤであることをわざわざ公言したことを加味すると、「マンガで描かれた内容は、畑先生ご自身が経験されたことそのものが元ネタなのでは?」というリアリティーショー的な側面を読者が期待するのもある意味当然であり、芸人である畑先生ならそういった期待も作品内にネタとして織り込んでくるに違いないと確信してます(勝手に)。

 何にしろ「トニカクカワイイ」は、畑先生にとって冒険的な作品になることは間違いないと思われます。現在は「結婚の発表と同時に結婚をテーマにした新連載を開始!」「直後に師匠の久米田康治先生にマンガでイジられた!」という話題性のみで語られがちなこのマンガですが、もしかしたら畑先生の人生そのものを我々に垣間見させてくれる一大リアリティー巨編となるやも知れません。ならないかも知れませんが。
 単なる新婚イチャラブコメディーとゆめゆめ侮ることなく、今後も注意深く読んで行きたいマンガだなと思いました。

新しい恥図

 そして久米田康治先生の突発読み切り「新しい恥図」については、「畑健二郎が『新婚』がテーマの新連載を開始という事態をネタに、畑先生の師匠である久米田康治先生が痛快なギャグマンガを描く」という構図そのものが面白いですし、何よりも「こういう場に久米田康治が呼ばれてマンガを作る」とは、どういうことなのか? どんなマンガを作ることが、この局面において望まれているのか? という自身の置かれた状況を把握した上で、その「望まれていること」を完璧な形で仕上げて来た久米田康治先生の底力が、何よりも素晴らしいと思いました。
 「新しい恥図」はホントに心底面白いマンガなので、まだ未読の方はネタが新鮮なうちに読んでいくことを強くオススメします。

 思えば久米田先生も、自分自身の苦境を自虐的にマンガのネタにすることを厭わないリアリティーショー気質の作家と言えますが、畑先生も自身の結婚をネタにしたマンガを初めたところからすると、そんな師匠の作風というか、漫画家としてのを引き継いでいるとも言えるのではないのでしょうか。
 師匠から弟子に受け継がれていく魂の絆! 美しいですね!(おわり)

週刊少年サンデー 2018年12号(2018年2月14日発売) [雑誌]

サンデー12号は掲載作品が軒並み面白いという奇跡の号(贔屓目)


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