桜庭の中には何が生まれたのか? サンデー12号 「BE BLUES!」感想

BE BLUES!

 みんな桜庭さんが、文字通りの最期の勇姿を見せた回。
 ありがとう桜庭さん! 感動をありがとう!(死んでません)

 いやもう私なんか、桜庭がボールを持った時、思わず脳裏でキャプテン翼の主題歌「燃えてヒーロー」が流れ始めましたね。ちょっとアレ見なエースが通るのアレです。
 実際、桜庭がボールを持ってディフェンダーをぶち抜いた瞬間、これまで散々桜庭のことを「真面目にやれ!」「そんな怠慢許せるわけないでしょ!」「何様だ!」と散々なじってきた優希達が、一斉にものすごい歓声を上げ始めたのが象徴的です。これぞ文字通りのスグレモノぞと街中騒ぐ状態であり、あいつの噂でチャンバも走る状態ですよ。

 桜庭はこの瞬間、ボールを持っただけで観客を湧かすことができる、本当の意味でのヒーローになりました。
 尊大な態度を取り続けた結果、周囲からクソクソなじられ続けたあの桜庭が! みんなの期待を一心に集めるスーパーヒーローに! いや実際桜庭さんは今もクソなんですけどね!(フォロー)

 しかし桜庭は既にこの段階で極限まで疲労していたため、ディフェンダーをかわして稲妻シュートを決めようとした瞬間、膝が折れて地面にへたり込んでしまいます。ここでスーパーヒーロータイムは終了。周囲から「ボール出せ!」と言われながらも、「俺様のボールだぞ!」と意地でボールをキープして自分で何とかしようともがく、いつもの桜庭に戻ってしまいました。
 これまでのこのマンガだったら桜庭がこのままKOされて終わりだったんでしょうけど、しかし今回の彼は違いました。肉体的にも精神的にも極限まで追い詰められた桜庭は、その心理状態が「俺様のボールだぞ!」から「やられてたまるか!」に変化。桜庭からのボールを期待してペナルティーエリアに走り込んできた龍に、クソクソ言いながらも自らパスを出すという行動を取ったのです。あの桜庭が、龍に自分からパスを出したのです。

 本来であれば、パスを出すならもっと早く判断するべきだったのかも知れませんが、桜庭がギリギリまでボールをキープしてディフェンダーの注意を引きつけ続けた結果、龍がペナルティーエリアに走り込む時間を稼いた上で絶妙なタイミングでボールを出すことで決定的なチャンスを作ることに成功した訳であり、客観的に見れば「桜庭の粘りが功を奏した」と評価できる形になったのではないのでしょうか。桜庭はそういう褒められ方は絶対に納得しないでしょうけど、自分の中にはそんな泥臭いプレイをすることができる選択肢があることには気付けたかも知れません。
 桜庭はこれまで、ミルコから命令されてパスを出したことはあっても、自分でボールをキープできないと判断して、ボールを奪われる前に他のプレイヤーにパスを出したことは、これまで滅多になかったと思われます。どんな形であれ桜庭が自分からボールを出したことは、彼にとっては極めて大きな変化なのです。

 ミルコは極限状態でボロボロになった桜庭を見て「やりたい事だけやってきた男だが…今、この時、何が残っているのか、彼に何が生まれるのか、何が、出せるのか、私はそれを見たい!」と言ってましたけど、現時点での結論としては「やりたい事ができなくなった時、己の意地を捨ててチームの勝利のためにチームメイトにボールを渡す」選択肢を持つことができたということになりそうです。
 これは本来なら当たり前のことなんですけど、桜庭がそういうことができるようになったというのは凄いことなんですよ。いやマジで。

 そして彼には、本当なら「勝利のためなら自分を活かすために献身的に動くことを厭わない、信頼できるチームメイトを得ることができた」ことにも気付いて欲しいところなんですが、もし桜庭がそれを自覚したとしても、どれを表には決して出さないで『俺様を尊敬しろ!』と言い続けるでしょうね。それでこそみんなが大好きな桜庭さんです。

 そんな桜庭からボールを受けた龍がシュートを放ったところで今回のお話は終わったのですが、もしこれが普通の少年マンガだったら、まず間違いなくゴールインするでしょう。しかしこのマンガは普通の少年マンガではなく、主人公の龍に(女子からモテモテになる以外は)艱難辛苦を与え続けることで有名な「BE BLUES!」ですので、まだまだ油断はできません。龍がボールを蹴った足が、直前のプレイで小早川に蹴られた右足であるというところも懸案事項です。
 「龍にボールを渡す」という桜庭の伝説のプレイは、果たして実を結べるのかどうか。ボールの行方が気になります。

燃えてヒーロー
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