「泣いてる指宿くんが可愛い」とかもう言っていられないのは判っているのですが サンデー10号「初恋ゾンビ」感想

初恋ゾンビ

サンデー10号における「初恋ゾンビ」の感想を一言で表現すると、「泣いている指宿くんが可愛い」になります(ひどい感想)。

 ですが、指宿くんがあそこであんな風に泣いたのにはそれ相応の理由というかこれまでの様々な積み重ねがあったからこそであり、そこら辺を把握して指宿くんの心情を理解していなければ、真にあそこで泣いている指宿くんを可愛がることはできないと思われます。
 このマンガはちょっと最近指宿・江火野・タロウ(そしてイヴ)を巡る状況が込み入って来ているので、個人的に彼らの状況を整理したいと思い、ここに至るまでの過程を列挙してみようというのが、本稿の趣旨です。

指宿くんについて

  • あそこで指宿くんが泣いてしまったのは、江火野が(自分が誘われていない)タロウの誕生日会に誘われたことを、江火野の口から直接聞いたため。
  • タロウの誕生日がクリスマスイブであることを指宿くんは既に知っており、内心では彼から誘われることを期待していた。それ故に失望も大きい。
  • 今回の涙は、タロウの誕生日がクリスマスイブだと知った時の嬉しさの描写(サンデー8号を参照)と対になっていると思われる。あの時はあんなに嬉しそうだったのにねえー
  • ただし、タロウが誕生日会に指宿くんを誘わなかったのは、指宿くんが「イブは家族と過ごす」という(偽りの)予定を周囲に吹聴して誘いにくい状態にしていたことが遠因になっていることも間違いなく、指宿くん自身もそれを自覚していると思われる。
  • 江火野が指宿に誕生日会に誘われたことを告げたのも、「タロウの誕生日を知らない」と嘘をついたことがきっかけであったのは間違いない。
  • 嘘で生きてるボクでも」という台詞に、今の自分が虚構であることへの自覚と、それに対する後悔の念が伺えるような気がする。
  • タロウは自分ではなく江火野を選んだのだという気持ち、およびそうなったのは自分がこれまで積み重ねてきた嘘のせいだという後悔が、彼をあそこで泣かせたのではないか。個人的にはそう思った。
  • でも泣いてる指宿くんはカワイイ(連呼)。

江火野について

  • 指宿くんが後悔の涙を流した直接の原因は、江火野の「あたしタロウに誕生日会に誘われたの」という台詞だが、何故彼女はあそこで指宿くんにそのような告白をしたのか。
  • 彼女は自分がタロウに恋していることを自覚しており、かつ指宿くんもタロウのことが好きなのではないかと感づいているように思える。
  • 指宿くんとの会話の中で「指宿くんはタロウの誕生日を知らず、タロウの誕生日会へ誘われてもいない」ことを知った(ホントは知ってるんだけど、指宿くんがとっさに嘘をついたため)。その一方で、自分はタロウから直接誕生日会に誘われている。
  • 現段階ではタロウに近いのは自分であると思った彼女は、「恋のライバルへの口撃」として指宿くんに誕生日会のことを話したのではないか? という疑念が起こる。
  • 江火野は、これまで自分の中にあったタロウへの恋心を否定していた過去を反省し、現在は「自分の気持ちに正直になろう」という行動指針で動いている。そのためなら、自分の気持ちを「演じる」ことも厭わなくなっている(サンデー5+6号参照)。
  • なので、あそこで江火野が指宿くんに誕生日会のことを話したのも、ある意味「タロウへの好意を隠さない」が故の正直な気持ちだったのかも知れない。
  • 「自分の気持ちに正直」な江火野と、「自分の気持に嘘をついている」指宿。二人の立場は実に対照的である。

タロウについて

  • タロウは基本的に「新しい恋はせず、今のイヴとの関係を維持したい」と思っている。つまりは現状維持。
  • 誕生日会に江火野を誘ったのも、イヴの存在を江火野に知られずに現状維持をするためだったが、結果的に裏目に出ている。
  • しかし、彼は自分が江火野に惹かれているのも自覚しており、指宿くんへの初恋が忘れられないのも自覚している。
  • 自分が江火野に惹かれるとイヴが眠りにつき、指宿に惹かれると(初恋ゾンビの特性故に)イヴが輝き出すという形で自分の感情が嫌でも可視化されてしまう。どちらも彼がイヴに望んでいる状態ではない。彼はイヴには側で笑っていて欲しいと願っているだけなのだ。
  • 更に悪いことに、タロウは指宿くんと江火野がお互いに好意を持っており、この二人が付き合うのでは? という(読者から見ると心底間抜けな)疑惑を抱いており、江火野と指宿くんが仲良くなると、指宿くんにフラれたという嫉妬からイヴが「失恋ソンビ」化してしまうという、厄介な状態に陥っている。

イヴについて

  • イヴ本人は自覚していないようだが、彼女は席田が描いた(彼が自身の天草への片思いの)絵の中に席田の初恋ゾンビが入って「永遠に幸せ」な状態になっていることに、大きな憧れを持っているように思える。
  • これは、彼女が「タロウの側には永遠にはいられず、いずれ何らかの形で別れることになる。初恋ゾンビにとっての幸せの形は、常に思われ人の側にいることだけではない」と思っているからなのでは? という推測はできる。ただ本心がどうかは不明。

 現状としては、自分の気持に正直になって攻める江火野、偽りの自分の姿が捨てられず素直になれない自分に悩む指宿、自分が江火野と指宿に惹かれていることを自覚はしているがイヴのこともあって決着をつけられないタロウ、という感じになっているのではと思いました。

 タロウの誕生日会についてはどのように決着するのかはまだ不明ではありますが、このまま指宿くんがタロウ達に嘘を続けていると、タロウへのアプローチを厭わない本気の江火野さんには勝てないのではないかという線が個人的には濃厚であり、どうするの指宿くんという感じではあります。あとタロウもそろそろ何とかしろ。

 このややっこしい恋物語は、まだまだ余談を許しません。故にちょう面白いんですけど。

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江火野×指宿って一般的な「百合」と呼べるんだろうか(と言われても)

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