サンデー一覧

高橋留美子先生単行本二億冊突破記念企画 サンデー17号「私の”るーみっくわーるど”」感想

私の”るーみっくわーるど”

 サンデー17号は高橋留美子先生単行本二億冊突破記念と称して、サンデー連載陣の先生方による高橋留美子作品のキャラクターイラストが掲載されていました。

 基本的にお祭り企画なので、我々読者としては素直に「わーすごーい」と思って眺めていればいいんですけど、どの先生もキャラクターの選択や描き方が極めて個性的であり、それぞれの作品に対する各先生方の思い入れの深さをイラストから窺い知ることができるという意味でも、とても興味深いものだったと思いました。
 荒川弘先生が「うる星やつら」の竜之介の親父を描いていたり、大高忍先生がおっぱいがすごい大きい「らんま1/2」の乱馬を描いていたり、田辺イエロウ先生や渡瀬悠宇先生が「人魚の森」を描いていたりするところなんか、こう実に「らしい」です。

 その中でも個人的に一番面白いなと思ったのは、「闇をかけるまなざし」「笑う標的」「忘れて眠れ」という、高橋留美子作品の中でも特にサイコホラー寄りな作品を選んだ藤田和日郎先生です。

 藤田先生が漫画家を志していた頃はこれらの作品に強い影響を受けたとのことで、イラストも「サンデー連載作家が描いた高橋留美子先生のキャラクター」というよりは、むしろ「ファンロード」や「OUT」といった往年のサブカル雑誌の読者投稿欄に掲載された、熱心なファンが描いたハガキといった雰囲気を醸し出していると思いました(四十代以上にしか判らない比喩)。
 藤田先生の漫画家としての原点がむき出しになっている、という意味でもとても素晴らしいイラストです。

 そして椎名先生はラムちゃん一択かと予想していましたが、連載作品の主役キャラが武器を持って勢揃いという構図のサービス精神あふれるイラストだったのは嬉しい誤算でした。
 イラストの中では「めぞん一刻」の響子さんがホウキを持って登場していますが、響子さんのホウキは彼女の怨念がこもったある種の武器であるのは間違いないので問題ないと思います。


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闇をかけるまなざし」「笑う標的」「忘れて眠れ」が掲載された「るーみっくわーるど」の保存版。藤田先生のイラストで興味を持たれましたら是非。
単行本二億冊を記念し、高橋留美子先生のコミックスの全てが電子書籍化されたというニュースも報じられています


「初恋ゾンビ」林間学校編の指宿くんへの一言感想

 サンデー16号において、「初恋ゾンビが見えなくなるようになるためには、初恋ゾンビそのものへの恋心を失わなければならない」という極めて重要な情報が提示された「初恋ゾンビ」。物語がまた一つ大きく動いたような感じがします。

 本当は、今回は「初恋ゾンビ」の夏休み編に入ってからのまとめ的な記事(江火野さんと指宿くんはどちらがアドバンテージを取っているのか。主にエロ方面で)を書くつもりでしたが、諸般の事情で記事を書く時間が取れなくなってしまったので、林間学校編が終わった段階での感想を一行で書きます。

 指宿くんは、自分の体が持つ女としての魅力について、もっと自身を持っていいと思います。
 指宿くんの肉体を間近にしたタロウが、どれだけ劣情を抱いたのか教えてあげたいくらいですよ!

 あと江火野さんについては、家庭環境的に「洒落っ気」という概念を育てる余地がなかったことが『恋愛には興味がない』という彼女の性格(というか、今やタロウへのアプローチを妨げる心理的な制約になってしまった)を形成してしまったのが大変にもったいなく思いましたが、でもそういう家庭環境がなければプール編でのピッチピチ水着も拝めなかった訳であり、大変に難しい問題だなあと思った次第です。

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江火野さんの水着をもう一度拝みたい方はこちら


日本刀を持った制服女子へのこだわりを感じる作品 サンデー14号「RYOKO」感想

今週のベストカット
RYOKO

 コミックス1巻が発売された際、「サンデー非科学研究所」において作者の三ツ橋先生に『食へのこだわり』というテーマのインタビュー記事が掲載されていましたが、先生から出てくる「食へのこだわり」への回答が「作業に集中すると食べるのを忘れてしまい、栄養失調寸前になったことがある」「気合を入れたい時にたくあん一本を丸ごと食べた事がある」などといった感じで、むしろ日常生活での食へのこだわりのなさっぷりが明らかになったところが面白かったです。
 「RYOKO」で描かれる幸せな食卓は、そういったリアルな自分の食事にはない憧れが反映されたものであるとのこと。

 でも、個人的に「RYOKO」に対しては、「食へのこだわり」以上に「日本刀を持った制服女子中学生へのこだわり」を激しく感じている次第なので、もしまた三ツ橋先生にインタビューする機会があったら、ぜひ「日本刀を持った制服女子中学生」へのフェティシズムについても掘り下げて欲しいなと思いました。
 三ツ橋先生、カタナを持って戦う制服女子に対する執拗なこだわりは絶対にあるはずですよ! 絶対!(決めつけ)

 そして本編の方は、銃を武器に戦う元死刑囚のお姉さん・冷々が登場しました。彼女にはどうも最愛の妹を失ったつらい過去があるらしく、常に前向きで自分の命をも救おうとする料子に対して妹の面影を見ているような描写も入れられているので、彼女が料子にメロメロになるのはもはや時間の問題であると言えましょう。

 もし一度メロメロになったら、何かものすごい勢いで料子を可愛がりそうな気がしますよあの人。大人のクールな女性が女子中学生を盛大に可愛がる絵柄とか最高だと思います。楽しみですね(決めつけ)。

 あとは余談になりますが、個人的なこのマンガの楽しみの一つに、食材が出す鳴き声のバリエーションがあります。
 基本的にこのマンガに出て来る食材は、鳴き声が自己紹介的というか自分の名称をもじったものになっているのが特徴で、例えばお米は「ベイベイベイ」と効果音を響かせながら米粒を発射しますし、アサリは「リンリン」と鳴きながら空を飛び、サザエは「サアアアアン」と雄叫びを上げて腕を振り下ろし、アスパラガスは「パアアア」と叫びながら走り回ったりします。
 今回のボス食材はアワビなんですけど、アワビだけにその鳴き声は「あわわわわ」というドジっ子みたいな声に違いありません。あわわわ言いながら盛大にコケて料子を押し潰しにかかるとか、そういったドジっ子特有のアクションを交えた迷惑な攻撃方法に期待したいですね(ウソです)。

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今のところ、高得点を付けているレビュアーは将来への期待値込みという印象


時代が「絶チル」に追いついた!(嫌な形で) サンデー13号「絶対可憐チルドレン」感想

絶対可憐チルドレン

 アメリカ大統領にトランプ氏が就任してからというもの、世のすべての漫画家はトランプ氏の似顔絵を描く練習を始めたに違いないと思われますが、サンデー13号の「絶対可憐チルドレン」には早くもトランプっぽい人物が登場。大統領と銘打たれてはいませんが、首都の大統領府の前で大群衆の前で演説しているところからして、コメリカ合衆国の政治家であることは間違いなさそうです。

 何より素晴らしいと思ったのは、彼が演説しているエスパーを排除する排外的な演説の内容が、現実のトランプ大統領のキャラクターと完璧に一致しているところです。

 元々このマンガには自分がマジョリティーであることに価値を見出してマイノリティーを差別する系統の人々をカリカチュアした「普通の人々」という組織が設定面で用意されていたのですが、今や現実でも国籍や宗教に基づいたマイノリティー差別を行う言動は世界中で普遍的に見られる様になってしまっており、ついに時代が「絶チル」に追いついてしまった感が否めません。
 エスパーとノーマルの融和を訴える政治家が大統領候補として登場した「THE UNLIMITED 兵部京介」からたった4年で、全く逆の主張を行う人物が「絶チル」本編で合衆国大統領として登場することからしても、アニメをやってた頃とは時代の潮流が変わってしまったんだなと感じますね。

 そして本編の方ですが、色々あって兵部の体がダメになってしまった結果、ついに薫が「女王」としてパンドラの王座に座ることになる日が現実的に迫って来ていることが、個人的には「このマンガもついにここまで来たか」という感じでかなりグッと来てます。
 彼女がパンドラの女王となる目的が、連載初期の頃は「ノーマルとエスパーの最終戦争のため」だったのが、今では「ノーマルとエスパーの最終戦争を避けるため」と正反対になっているところも良いです。「薫がエスパー達の女王となる」という事実は一緒でも、そこに至るまでの経路が大きく変わった結果、その目的や結末も大きく異なることとなった──という、時間SFとしての「絶チル」の醍醐味が象徴されているように思えるからです。

 ただ、現時点では皆本が敵の手の内に囚われているのが気がかりではあります。薫にとって皆本の存在はもはや極めて大きなものになっているので、もしギリアムがそれに気が付いたら、まかり間違いなくそこを突いてくることでしょう。
 下手をしたら、一度は回避できたはずの「薫と皆本が対峙して殺し合いをする」あの展開を、再び繰り返すハメになる可能性もあるんじゃないかなと予想しています。というか、もしこのマンガがもうすぐクライマックスを迎えると仮定した場合、「コミックス1巻で提示された衝撃的なシーンを、最終巻でもう一度リフレインする」ってのはンもう盛り上がること間違いない訳であり、自分がギリアムだったら絶対そういう演出を施すと思いました(ひどい)。

 今回の感想としては、粉でできたショタ兵部はいいと思います。

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真木が再登場する局面にも期待


桜庭の中には何が生まれたのか? サンデー12号 「BE BLUES!」感想

BE BLUES!

 みんな桜庭さんが、文字通りの最期の勇姿を見せた回。
 ありがとう桜庭さん! 感動をありがとう!(死んでません)

 いやもう私なんか、桜庭がボールを持った時、思わず脳裏でキャプテン翼の主題歌「燃えてヒーロー」が流れ始めましたね。ちょっとアレ見なエースが通るのアレです。
 実際、桜庭がボールを持ってディフェンダーをぶち抜いた瞬間、これまで散々桜庭のことを「真面目にやれ!」「そんな怠慢許せるわけないでしょ!」「何様だ!」と散々なじってきた優希達が、一斉にものすごい歓声を上げ始めたのが象徴的です。これぞ文字通りのスグレモノぞと街中騒ぐ状態であり、あいつの噂でチャンバも走る状態ですよ。

 桜庭はこの瞬間、ボールを持っただけで観客を湧かすことができる、本当の意味でのヒーローになりました。
 尊大な態度を取り続けた結果、周囲からクソクソなじられ続けたあの桜庭が! みんなの期待を一心に集めるスーパーヒーローに! いや実際桜庭さんは今もクソなんですけどね!(フォロー)

 しかし桜庭は既にこの段階で極限まで疲労していたため、ディフェンダーをかわして稲妻シュートを決めようとした瞬間、膝が折れて地面にへたり込んでしまいます。ここでスーパーヒーロータイムは終了。周囲から「ボール出せ!」と言われながらも、「俺様のボールだぞ!」と意地でボールをキープして自分で何とかしようともがく、いつもの桜庭に戻ってしまいました。
 これまでのこのマンガだったら桜庭がこのままKOされて終わりだったんでしょうけど、しかし今回の彼は違いました。肉体的にも精神的にも極限まで追い詰められた桜庭は、その心理状態が「俺様のボールだぞ!」から「やられてたまるか!」に変化。桜庭からのボールを期待してペナルティーエリアに走り込んできた龍に、クソクソ言いながらも自らパスを出すという行動を取ったのです。あの桜庭が、龍に自分からパスを出したのです。

 本来であれば、パスを出すならもっと早く判断するべきだったのかも知れませんが、桜庭がギリギリまでボールをキープしてディフェンダーの注意を引きつけ続けた結果、龍がペナルティーエリアに走り込む時間を稼いた上で絶妙なタイミングでボールを出すことで決定的なチャンスを作ることに成功した訳であり、客観的に見れば「桜庭の粘りが功を奏した」と評価できる形になったのではないのでしょうか。桜庭はそういう褒められ方は絶対に納得しないでしょうけど、自分の中にはそんな泥臭いプレイをすることができる選択肢があることには気付けたかも知れません。
 桜庭はこれまで、ミルコから命令されてパスを出したことはあっても、自分でボールをキープできないと判断して、ボールを奪われる前に他のプレイヤーにパスを出したことは、これまで滅多になかったと思われます。どんな形であれ桜庭が自分からボールを出したことは、彼にとっては極めて大きな変化なのです。

 ミルコは極限状態でボロボロになった桜庭を見て「やりたい事だけやってきた男だが…今、この時、何が残っているのか、彼に何が生まれるのか、何が、出せるのか、私はそれを見たい!」と言ってましたけど、現時点での結論としては「やりたい事ができなくなった時、己の意地を捨ててチームの勝利のためにチームメイトにボールを渡す」選択肢を持つことができたということになりそうです。
 これは本来なら当たり前のことなんですけど、桜庭がそういうことができるようになったというのは凄いことなんですよ。いやマジで。

 そして彼には、本当なら「勝利のためなら自分を活かすために献身的に動くことを厭わない、信頼できるチームメイトを得ることができた」ことにも気付いて欲しいところなんですが、もし桜庭がそれを自覚したとしても、どれを表には決して出さないで『俺様を尊敬しろ!』と言い続けるでしょうね。それでこそみんなが大好きな桜庭さんです。

 そんな桜庭からボールを受けた龍がシュートを放ったところで今回のお話は終わったのですが、もしこれが普通の少年マンガだったら、まず間違いなくゴールインするでしょう。しかしこのマンガは普通の少年マンガではなく、主人公の龍に(女子からモテモテになる以外は)艱難辛苦を与え続けることで有名な「BE BLUES!」ですので、まだまだ油断はできません。龍がボールを蹴った足が、直前のプレイで小早川に蹴られた右足であるというところも懸案事項です。
 「龍にボールを渡す」という桜庭の伝説のプレイは、果たして実を結べるのかどうか。ボールの行方が気になります。

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おっさんホイホイとして非常に有効な曲」 はい


古見さんには尾根峰さんが友達として必要でした サンデー11号「古見さんは、コミュ症です。」感想

古見さんは、コミュ症です。

 お姉さん属性持ちの尾根峰さん登場回。

 このマンガに出てくる只野くんの同級生共は、基本的に一つの属性を極限まで高めたエクストリームな個性の持ち主ばかりであり、この学園を出たら一般的な市民生活を営むことが可能かどうかすら怪しい人がたくさんいるんですけど、その中にあってこの尾根峰さんは「ちょっとお節介だけど基本的には親切で、他人の恋愛感情を察することもできる、頼りがいがある同級生」という、このマンガでは極めて貴重なマトモな人材だと思われます。
 こんな普通にいい人が、本当にこのマンガに出てきてしまって大丈夫なの? と思ってしまうレベルで普通にいい人です。

 特に、「古見さんが密かに只野くんのことを想っている」ことを察した上で、その恋を応援してくれる同性の人物が登場したことは、古見さんにとっては大きな助けになるのではないのでしょうか。
 古見さんと接触のある他の同級生女子は、なじみはともかくとして後はヤンデレ属性とか下僕属性とか中二病属性とかそんなのばっかりであり、しかもみんな古見さんを「友達」というよりは「信仰の対象」として崇拝している始末なので、もし古見さんが只野くんとの関係について何か悩みを抱えていて相談しようと思ったとしても、彼女たちは相談相手として何の役にも立たないことは必至の有様です。
 そういう意味においても、普通に「同性の頼れる友達」として色々と色恋沙汰を相談できそうな相手を得られたのは、古見さんにとって非常に良いことだと思います。良かったですねえ古見さん。

 それはそうと最近のこのマンガ、ここ最近は特に「只野くんの周りに自然と女の子達が集まってドタバタ劇が繰り広げられる美少女わんさかコメディー」の体をなしつつあるような気がしてならないのですが、その辺はどうなんでしょうか。
 現在の只野くんは、古見さんとは既に事実上の相思相愛状態ですし、その上(色々な意味でおかしい人達ばかりであるということは置いておいて)女の子が常に周囲に寄って来るだなんて、実はものすごい羨ましい立場にいるんじゃないんでしょうか。

 何かちょっと彼が恨めしくなってきたので終わり。

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古見さん2巻は顧客満足度(カスタマーレビュー)の高さにも注目


そばにいられればそれでよかった サンデー10号「舞妓さんちのまかないさん」感想

舞妓さんちのまかないさん

 主人公のキヨが何故舞妓の屋形でまかないさんとして働いているのかという過去を描いた話でした。端的に言えば、彼女は「舞妓に憧れてはいたけど、舞妓になりたかった訳ではなく、舞妓の側にいられればただそれで良かった自分に気が付いた」ということになるんでしょうか。

 今のキヨは舞妓さんの側でまかないさん役に徹しているだけで幸せそうなのでそれでいいとは思いますが、いつまでも彼女がこの場所で料理を作り続けることができるのか、そしてこの場所に留まり続けることが彼女にとってベストなのかどうかは、多分まだ判りません。

 これが並の少年マンガや少女マンガだったら、ここから彼女の運命が大きく変わって再び舞妓への道を歩むとか、本格的に料理人への道を志すようになる的なドラマが起こること必至なんですけど、でも多分これはそういうマンガではないので、しばらくはこのまま特に大きなドラマもなく、彼女は彼女が自分で決めた居場所で、大好きな舞妓さん達のために穏やかに働き続けることになるんじゃないんでしょうか。

 劇的なことが起こらず、ただ日常だけが続いていくマンガが少年誌に載ってるというのは、ホントにすごいことだと思います。「舞妓さんちのまかないさん」は、サンデーが大きく変わったことを象徴するような作品になるのかも知れませんね。

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「ちろり」も一度ちゃんと通して読んでみたいです


やればできる最高神、てらす様。 サンデー10号 「だめてらすさま。」感想

だめてらすさま。

 藤木俊先生お得意のドタバタ学園コメディ展開の回。アマテラス様の学生服姿も可愛かったし、新聞部の天城のトラブルメーカーっぷりも冴えてたし、国津神の百足のおっさん臭いエロさや男子学生共のボンクラっぷりも楽しかったし、そして散々ドタバタしつつもラストはきっちりと爽やかな青春ドラマとして落としてたし、最初から最後までちょう面白かったです。
 藤木先生がサンデーに帰ってくるからには、やっぱりこういう話が読みたかったんだよ! って感覚が具体化したようなエピソードでした。先生ありがとう!

 今回の白眉は、一日だけの学園生活を満喫したアマテラスが「悪くなかったかな!」と笑顔で言うところです。彼女がこんな表情したの、この話が初めてだったんじゃないんでしょうか。彼女もやればできる最高神なんですね。
 やればできる神様なのに、結局は最後に引きこもりに戻って色々と台無しになってるところも含めて、さすがてらす様だと思いました。やっぱりこのマンガ面白いです。

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「だめてらすさま。」1巻は3月発売らしいですよ


魔王様=この世界のゲームマスター説 サンデー9号 「魔王城でおやすみ」感想

魔王城でおやすみ

 このマンガの魔王様は、典型的なRPGの「姫さまをさらった悪い奴らの親玉」というよりは、「人間の勇者がプレイしている『姫さまをさらった魔王を倒す』ゲームを遂行するため、魔王役をやりながらゲーム進行を管理している(TRPGで言うところの)ゲームマスター」の立場に近い描写がなされているように思えます。
 この世界そのものがゲームであり、魔王様がゲームの進行を司るマスターである以上、彼には自分が用意したシナリオの筋書きに沿ってゲームを進行させつつ、勇者であるプレイヤーを楽しませなければならない義務があります。

 彼が姫様をさらったのは、勿論勇者であるプレイヤーを冒険の旅に出させる目的を作るためだったと思うのですが、彼にとって災難だったのはその姫様がただのおとなしい姫様ではなく、よりによって傍若無人な(略)。彼がゲームマスターとして練り上げた崇高なシナリオは、そのシナリオの冒頭でさらって来た姫様の手により、完膚なきまでに破壊されてしまったのです。

 今回の冒頭で『十傑集であるサンドドラゴンが勇者にやられた』との報告を聞いた魔王様が「勇者め…やられるばかりではないということか…面白い!」と魔王らしいことを言いつつ嬉しそうな表情をしているように見えましたが、あれは多分「姫様に邪魔されてシナリオ進行が滞っていたけど、やっと彼らを前に進めることができた」という、運営側の立場からの安堵から来るものであったに違いありません。おつかれさまです

 今回はその「十傑集」メンバーが初登場した他、魔王様がゲームシナリオ進行の気苦労でぶっ倒れた時に「父上」と叫ぶなど、魔界の側の設定に深みを与える描写が見られました。この作品も、いよいよ本格的な長期連載を睨んだ布陣を敷きつつあると考えて差し支えないのではないのでしょうか。
 連載が長期化するということは、スヤリス姫の乱暴狼藉も長期化するということであり、魔王様の気苦労もまた長期化することを意味しています。はたして魔王様は、スヤリス姫という最大の不確定要素を抱えたまま無事ゲームマスターとしての使命を果たし、「魔王」としての大役を演じきることができるのか。魔王として勇者に倒されるのが先か、スヤリス姫が与えるストレスにやられて過労で倒れるのが先か。
 こんな大変そうな魔王が出てくるファンタジーマンガは、珍しいのではないかと思います。

 でも、スヤリス姫に「いいこいいこ」されて照れてしまう魔王様はちょう可愛かったです(感想)。
 魔王様は彼女をお妃様にすればいいんじゃないかな?

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2巻でも既に魔王様の純情な一面が見られます


桜庭よ、小宇宙を燃やせ! サンデー8号 「BE BLUES!」感想

やりたい事だけやってきた男だが…
 今、この時、何が残っているのか、彼に何が生まれるのか、何が、出せるのか、
 私はそれを見たい!

 聖和台の眞鍋が、文字通り「桜庭絶対殺すマン」として徹底したマンマークをした結果、我らが桜庭さんはもはや聖和台の名無しの選手のブロックにすら耐えられずに転がってしまうくらい、ヘロヘロな状態になってしまいました。それが前回までのお話。

 通常であればスタミナ切れと判断されて即選手交代となるような局面なのですが、しかし桜庭の飼い主であるミルコがよりによって「桜庭の!ちょっといいとこ見てみたい!」と体育会系特有の無茶振りを発動、もうワンプレーだけ桜庭にやらせてみるという英断を下します。
 これは「限界を突破したその先にはきっと何かがあるはずだ」というミルコの桜庭に対する期待の表れであると言えますし、逆に「桜庭はまだこんなモンじゃねえ」とミルコが思っているからであるとも言えます。どっちにしろ、常識を超えた無茶を桜庭に強いていることは変わりありません。

 この状態を「聖闘士星矢」で例えるなら、ミルコは桜庭に「小宇宙(コスモ)を燃やせ!」と言っていることに等しいと思われます。ヘロヘロになっている桜庭に更に闘いをけしかける今のミルコは、「聖闘士星矢」のハーデス編においてズタボロになった星矢に対し、「あなたにはまだ生命が残っているではありませんか」と優しく語りかけたアテナと同じくらいの無茶なことをしているものと思われます。
 「聖闘士星矢」の世界は小宇宙を燃やせば大抵のことは何とかなったものなのですが、「BE BLUES!」の世界でも同じことが通用するのでしょうか。桜庭がこの局面でセブンセンシズに目覚めて神聖衣(ゴッドクロス)を纏い、このままこのマンガが冥王ハーデス編に移行してしまうことがあるのでしょうか?

 そして「小宇宙(コスモ)を燃やせ!」とミルコから命じられた当の桜庭ですが、もはやゴール前から動く様子は全く見せず、逆に「お前らがオレのところまでボールを持って来い」と言わんばかりに、「ドラゴンへの道」のブルース・リーばりに指をクイクイしてチームメイトを挑発するようなポーズを取り出します。

 これ、普通だったら「ふざけるな!」とチームメイトが怒り出すような態度だと思うんですけど(実際、ベンチにいる優希や窪塚は大激怒してます)、桜庭のことを知り尽くしている龍やコーメイは、桜庭の意図を汲んだ上で「何様だよおまえは!」と言いながらも実に楽しそうな表情を見せました。
 これは即ち、彼らは桜庭の挑発に乗った上で「貴様がそこまで言うならやってやる!」と、自ら桜庭の手足になってボールを彼まで運ぶ役を担う覚悟を決めたということです。つまり武蒼は今、まさに桜庭のためのチームとなったのです。

 桜庭のような卓越した技術を持つ独善的な性格のエースが活躍するためには、チームそのものがエースに点を取らせるために献身的に働く構成になる必要があるのですが、1点ビハインドで残り時間も少なく、エースの桜庭が小宇宙を燃やさないと戦えないような極限状態になったこのタイミングで、ついに武蒼のチームメイト達は勝利のチャンスを得るために、桜庭のためのチームとなることを決意したのです。
 この状況を「聖闘士星矢」に例えるなら、龍やコーメイの小宇宙が桜庭の小宇宙と共鳴して増幅、セブンセンシズを超えた領域「マクロコスモ」へと到達せんとしている感じなのですよ。小宇宙が燃える時、それはすなわち聖闘士達が己の闘志を爆発させるときなのだ!  なのですよ! 胸が熱くなりますね!

 ただし唯一の問題は、このマンガは残念ながら「聖闘士星矢」ではなく「BE BLUES!」なので、桜庭達がいくらコスモを燃やして根性見せたからと言って得点できるとは限らないところなのですが、まあこのマンガは「女子に応援されると男子は奮起する」みたいなオッサン臭い根性理論が存在している世界でもあるので、案外なんとかなるのかも知れません。
 ならないかも知れませんが(←冷静さを取り戻す)。

 あとマンガの表現的に面白いと思ったのは、桜庭が極限まで疲弊している(けどまだやる気はある)表現として、彼がひたすら「ハァハァ」「フゥフゥ」言って一生懸命息を整えようとしている姿を、何ページにも渡って延々と描写しているところです。実際どのくらい桜庭がハァハァしている姿を描いたページがあるのか数えてみたところ、全18ページ中10ページはハァハァしてました。徹底してます。
 全国高校サッカー選手権大会の埼玉県予選の決勝って実はテレ玉で放送されるんですけど、埼玉のお茶の間に桜庭さんがハァハァ言ってるシーンが延々と放映されているかと思うと、何かこうものすごい尊く思えて来ます。埼玉さいこう!(突然の埼玉賛美)

 次の桜庭のワンプレーは、ゴールするしないに関わらず間違いなく伝説となるに違いありません。我々は中継を見ている埼玉県民と共に、新たな埼玉の伝説が生まれる瞬間を目撃することになるのです。次の武蒼のワンプレーに注目です。

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桜庭のこのムカつく表情(褒め言葉)をまた見てみたい